45 潜伏現場
黄金は、逃げるイタチを追った。尻尾に噛みつく。
イタチは岩に開いた穴に鶴とともに飛び込んだ。
穴は小さく、黄金の片手しか入らなかった。
しかも、岩に開いた穴は、まるで、そこに穴などなかったかのようにすっと消えた。
黄金は岩を何度も叩いた。岩にひびが入る。
しかし、穴は現れなかった。
『鶴!!』黄金は吠えた。
『落ち着きなさい、黄金』鶴の声が聞こえた。
『鶴!!』黄金は声の聞こえる方向を探す。が、わからない。
『どこ!どこにいるの!!』
黄金はあちこち走り回って探す。
『黄金、さっきの岩の前に戻りなさい』鶴の声。
黄金は岩の前に戻る。岩はひび割れている。その前に長細い物が落ちている。
『黄金、それはイタチの尻尾です。蓬野姫に持って帰りなさい』
『鶴は?どこにいるの?』必死にきょろきょろ探す黄金。
『残念ですが、私はもう行かなければなりません。黄金、最後の教えです。都で戦うには、優しいだけではいけません。時には心を鬼にしなければなりません……あなたの幸せを、ずっと願っていますよ』
『鶴!……鶴!!』
もう、鶴の声はしなかった。
黄金は、じっと耳を澄ませた。
ぽこぽこ、泉がわく音。山の木々が風に揺れている音。
目の前には、黒っぽい長細い物。
『イタチの尻尾……。蓬野姫に持っていくようにって……』
黄金は、イタチの尻尾を咥えると、空を駆けた。
蓬野姫の屋敷。
蓬野姫は、山吹と一緒に勉強に励んでいた。
そこへ、血相を変えた黄金が帰ってきた。
「!!!どうしたの、黄金!!!」
勉強中で山吹もいたが、蓬野姫は黄金の額に自分の額をくっつけた。
黄金が見た光景を、映像として頭の中で見る。
「鶴が殺されたのね。それは、イタチの尻尾」
蓬野姫が黄金の口からイタチの尻尾を取ろうとするが、強く噛んでいて取れない。
「黄金、これを私にちょうだい。鶴を探しに行くわよ」
黄金はすぐに咥えていた尻尾を放した。
蓬野姫は、イタチの尻尾に手をかざす。
イタチの記憶が映像となって頭の中に流れ込んでくる。
「イタチのアジトがわかったわ」
蓬野は動きやすい着物に替えた。黄金の背に乗る。
黄金が屋敷を飛び出し、空を駆ける。
行先は、蓬野姫が黄金の頭を後ろから押して方向を伝えた。
黄金はあっという間に廃屋の屋敷に到着した。
「いつ倒壊してもおかしくないわね」
屋根はぐんにゃり家屋に向かって垂れ下がり、壁は剥げ落ちて中が見える。
庭は草がぼうぼうに伸びている。
「イタチは庭の草の中にいてもおかしくないけど、屋敷の中にいるわね」
蓬野姫は、黄金にまたがったまま屋敷に入る。
屋敷の中に入ると、もっとすさまじかった。
雨漏りのせいで、屋外と同じくらい傷みがひどく、床の上に立っただけで床に穴が開くのではないかと思われた。
黄金は軽い足取りで粗悪な足もとでも歩いていく。
屋敷の奥に、イタチの寝床のような物を見つけた。
屋敷のふすまなどの紙を破って集めたのだろう。こんもり柔らかそうな素材の物が盛り上げられていた。
「ここにいたのは間違いなさそうね。でも、今はもうすでに逃げた後のようね」
急に、黄金がピクッと動いた。
「何か見つけたの?」
『鶴』
黄金はにおいのする方へ進む。
屋敷のもっと奥に、大広間があった。
ここも、朽ちて床に板がない場所もある。
かろうじて床に板がある場所の上に、見慣れた長い首、長い足が見えた。
胴体は汚くえぐられている。
『!!!!!』
黄金は、涙を流し、鶴の頭に自分の額を引っ付けた。
もう、鶴は何も言わなかった。
『鶴、鶴……もっと早く行けばよかった……』
黄金が後悔して泣く。
『もっと早く行けば……』
黄金は泣きながら吠えた。
蓬野姫は、冷静に鶴の遺体を見ていた。
「光っている……」
蓬野姫は、鶴の腹がえぐられた中身をのぞきこんでいる。
内臓はほとんどなくなっている。が、その周辺の肉がまだわずかに光っていた。
「霊能力を持つけものの内臓は、光る……?」
蓬野姫は、鶴の全身をくまなく見つめた。
「鶴の遺体を持って帰りましょう」
蓬野姫は、黄金の背に乗った。
鶴の遺体は、黄金が優しく咥えて空を駆けた。
鶴の遺体は、蓬野姫、可武斗、鍬形で調査した。
それがすむと、鶴を丁寧に埋葬した。
その間、黄金はあちこちを駆けまわり、イタチを探した。
「イタチの居場所はわかるわ」
蓬野姫は、イタチの尻尾を指して言った。
しかし、黄金はいてもたってもいられなかった。
とにかく、駆け回った。
じっとはしていられなかった。
周囲の山々にいるけものたちは、黄金の勢いに気おされた。
自然と、イタチの居場所がけものたちの間にもうわさされ、やがて黄金の耳にも届くようになった。
『姫、イタチを見つけた』
「すごいじゃない、黄金!では、行きましょうか」
こうして、蓬野姫と黄金はイタチのもとへ出発した。




