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42 山中の怪人

 掛け軸の天女は、おしゃべりだった。


 万福寺まんぷくじの和尚が毎日おしゃべりに来てくれていたときには、ほとんど和尚が話していたので、天女は自分がこんなにおしゃべりなことに気づいていなかった。


 蓬野姫よもぎのひめが様子をうかがいに鈴蘭の部屋を訪れた。


 『蓬野姫、万福寺では朝早くにお坊さんたちが托鉢たくはつに行くの』


 「托鉢?」


 『蓬野姫は、見たことありませんか?お坊さんが声を出しながら町を歩くと、あちこちの家から人々が出てきてお賽銭さいせんをくれたり、お坊さんにお経を読んでもらったりするの』


 「へー。私はずっと都の中にしかいなかったから」


 山には遊びに行っていたけどね。そんなのは見なかったなあ。


 『夏の暑い日も、冬の雪が降る日も行くの。雪が降って、のきに積もったのが太陽に照らされて、溶けて落ちてくるの。子どもたちが、危ない、危ない、と騒ぐのだけど、托鉢僧は自分のことだと思ってなかったのね。托鉢僧の上に軒の雪が落ちてきて、托鉢僧が埋もれちゃって……雪だるまみたいになったの……』


 掛け軸の天女が大笑いしている。


 『それでね、仲間のお坊さんたちが、いつまでも帰ってこないから探しにいくと、助けて~って』


 掛け軸の天女は大笑い。


 「それ、天女が見たの?天女は壁にかかっていたでしょ?」


 蓬野姫は、自然な質問。


 『和尚が話してくれたの。とっても面白かった』


 蓬野姫は、ある程度聞いていたが、だんだんだるくなってきた。


 「へえ。うん、うん」と生返事なまへんじをしながら違うことを考えていた。


 『それでね、黄金こがねが、山の中で人を見たのは初めてだって言ってたの』


 いつの間にか、話しは黄金になっていた。


 『夜の真っ暗な中でね、人間が座り込んでいたんだって。黄金はなんだろう、と思って見ていたら、ごそごそ動いてどこかへ歩いていったそうよ。何をしていたのだろう、って人間が座り込んでいたあたりを黄金が見に行くと、人間の目を持ったキツネの腹を裂いて何かしていたみたい。気持ち悪いよねー、黄金はなんとも思わなかったんだって!』


 掛け軸の天女は楽しそう。


 ん?


 今の話しは楽しかった?………、ものすごく変な話しをしていない……?


 蓬野はやっと、掛け軸の天女をまともに見つめた。


 「ねえ、天女、今の話よくわからなかったから、もう一度初めからしてくれる?」


 蓬野が頼むと、掛け軸の天女は機嫌よく話してくれた。


 夜、真っ暗な山の中で、人間が霊能力を持ったけものの内臓を取りだしていたのだ。


 「黄金!」


 蓬野姫は、屋敷に戻るとすぐに黄金を呼んだ。寝床で横になる。


 黄金は、あ!という表情をすると、うれしそうにやってきて蓬野姫の額に自分の額を引っ付けた。


 蓬野姫の意識は、黄金の中に入る。




 黄金は、蓬野と遊びたかった。でも、蓬野は勉強が忙しく、相手にしてくれない。お腹もぎゅるる、と鳴っている。


 黄金は山に出かけることにした。


 黄金の足なら、山の二つや三つ、軽く駆けていく。


 鹿、猪、ウサギなど、いろんな獲物を捕らえて食べた。


 ついでに鶴のところへ遊びに行った。鶴はようこそ、と言いながら黄金に術を使って襲ってくる。


 黄金は、体も成長し、いろんな経験を積んで以前より鶴の攻撃をかわすことができるようになっていた。


 鶴に褒められ、いい気持ちになっていると、夜が更けていることに気づいた。


 『もう、帰るね』


 黄金は夜の山を駆けた。


 途中の山で血のにおいがした。気になり、行ってみた。


 近くに行くと、血は霊能力を含んだにおいがした。


 霊能力を持ったけものは、時に霊能力を持ちたいと願う別のけものに食べられることがある。


 黄金は、それかと思った。


 血のにおいがするけものの死体の上に、覆いかぶさっている者がいる。


 その者は、立ち上がった。人間だ。


 着物を着た者は、真っ暗の山をさっと降りていく。


 黄金はしばらくジッとしていた。


 ……どんなけものが食べられたのだろう。


 普通のけものなら興味ないが、霊能力の血をもっているけものだ。


 黄金は興味深く、血のにおいのする方向へ進む。


 汚い食べ方だな、と思った。


 もっときれいに骨だけ残るように食べたらいいのに、それは腹だけもがれていた。


 顔は残っていたので、キツネだとわかる。


 しかも、人間の目を持ったキツネだ。


 人間が、けものに落ちたヤツだ……。


 死んでから食われたのか、食われたから死んだのか、わからない。


 食ったのは人間だったよな……?


 変な人間がいるもんだな。


 黄金は、そこを離れ、家路を急いだ。




 「黄金」


 元に戻った蓬野姫が黄金をにらむ。


 「これほど変なものを見たのなら、私に教えてちょうだい」


 『わかった。変だったの?』


 「変でした。うーん、黄金にはそのあたりがわからないのね……」


 蓬野は頭を抱えた。


 「私を見て。私があんなものを食べてるのは見たことないでしょ?」


 『うん』


 「そうね……私がやらないようなことをしている人間がいたら、私に教えてくれる?」


 『いいよ。わかった』


 黄金は無邪気に答えた。うれしそうだ。

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