41 格上げ
術を唱える声が、重なった。
低く、高く、清らかに術が唱えられていく。
鬼姫の動きが止まる。鬼姫の顔が険しくゆがむ。
黄金は鬼姫に噛みついて離れない。
可武斗と鍬形が揃って術を展開している。
「人間の分際で……!」
鬼姫の姿は、だんだん透明になっていく。
「やった、退治したぞ……!」
侍従が声を上げた。
噛みついていた黄金は集中力が高かった。全く油断していない。鬼姫の姿をよく見ていた。
大きな鬼姫の姿が薄くなって消えていく……が、鬼姫の体の中心から一匹の蛇が現れた。
蛇は、ぬるり、と体をくねらせ逃げようとする。
すかさず、黄金が太い足で蛇を地面に押し付ける。蛇は体をくねらせ、黄金の足に噛みついた。
鍬形が強い術を使う。蛇の体から力が抜け、縄のように地面にくしゃくしゃと伸びる。
すかさず可武斗が蛇をつかみ、縄でぐるぐる巻く。そして手をかざすと、蛇は人間の目で睨み、ゆっくり目を閉じた。
「みなさん、もののけは退治しました」
可武斗が蛇の死骸をかかげる。
侍従や遠くから見ていた人々から拍手喝さいが起きた。
後宮。
萌黄は泣いていた。
「萌黄。行かなくちゃ」
青葉の君が萌黄をせかす。
「ひ、姫様……。私は……私は……」
「また置いて行くわよ」青葉の君。
「いいえ!!二度と姫だけで行かせません……!」
あのとき。
牛車のすだれが鬼のせいで飛んでなくなってしまい、北山が戦っている姿がよく見えた。
北山の姿を見ただけで、血の気の失せた青葉の君の顔が紅に染まる。
がんばれ、北山……!
しっかり袖で口を押さえ、心の中で青葉の君は北山を応援していた。もはや、百鬼夜行など恐ろしくなかった。
萌黄はビショビショの顔を大急ぎで化粧し直す。自分だけでは手が足りないので侍女に手伝わせる。
「……一体、誰が姫かわからなくなるわ」
青葉の君は、あきれて笑う。
「……申し訳、ありません……!!」萌黄は泣くのと化粧で忙しい。
後宮の大広間では、大勢の貴族が集まっていた。
その一段高い所に椅子が置いてある。椅子には誰も座っていない。
青葉の君が大広間に入ると、姫たちが「急いで」「こっちよ」などと、ささやいてくれた。
青葉の君が中級貴族の席に着くと、上級貴族たちが大広間に入ってきた。
姫たちは、たくさんの侍女に手伝ってもらい、入場するだけで大賑わい。
それが一段落すると雅な音楽が流れてきた。
美しい少女たちが舞を舞う。
貴族たちは大喝采で少女たちをたたえた。
再び雅な音楽が流れる。
天皇一族が大広間に入ってこられた。貴族たちは全員敬礼する。
天皇一族が椅子に座ると、貴族たちも毛氈の上に座る。
天皇一族が座っている椅子のすぐ下に座っている大臣が、声高らかに開会を宣言した。
「これより、身分改定およびすばらしい戦いで勝利を収めた者を表彰する。名前を呼ばれた者はすみやかに御前に参じるように」
大広間は期待と緊張に包まれる。
「わかっていても、緊張するわね」
「早くご尊顔を拝見したいわ」
「どんな殿方なのでしょう」
姫たちはワクワクしながら登場を待つ。
「北山」大臣が名前を呼んだ。
北山は、高級の着物を着て堂々とした足取りで登場する。背が高く、筋肉質な北山に大広間から吐息や感嘆の声がもれる。
「想像以上に格好いい…!」
「あの方が平民だったなんて……。格上げされて当然ね」
貴族たちはうっとりする。
北山は天皇一族が座っている御前に到着すると、座って深くお辞儀をした。
「北山」天皇が尊い声で宣った。
「はい」頭を深くたれ、北山が返事する。緊張しているのだろう、動きが硬い。
「汝は命を懸けて、百鬼夜行の恐れから多くの人々を救った。すばらしい戦いを収めた汝をここに表彰する」
「ありがたき、しあわせ」北山は平伏している。
「同時に、汝の身分格上げを求める者からの要求を認め、平民から中級貴族として格上げすることを認める」
「はい!」
北山は平伏から身を起こし、天皇が差し出している巻物を受け取るため、天皇の御前に進む。
「よくやった」
天皇がにこやかに微笑みながら、巻物を北山に手渡した。
北山は、巻物を平伏して受け取る。
大広間は割れんばかりの大喝采に包まれた。
青葉の君は、目に涙をためて喜んでいる。
萌黄は泣き崩れていた。
まわりの姫たちから、たくさんの暖かい言葉が青葉の君にかけられた。
雅な音楽が始まり、美しい舞が舞われた。
「あー、大仕事が終わったわね」
蓬野姫が黄金のお腹にもたれて座っている。
「これで、北山様は青葉の君様に結婚を申し込むことができますね」
可武斗はうれしそう。
「うん、二人にはしあわせになってほしいわ!幼馴染がしあわせになると、私もしあわせだもの」
蓬野姫は、ほおを紅潮させている。




