34 鈴蘭の悪口
蓬野姫は妖しい笑みを浮かべている。
可武斗は眉をひそめている。
山吹は怒っている。
鍬形は複雑な表情をしている。
沖の中将が蓬野姫の屋敷を訪れていた。
「………というわけだ」沖の中将。
「わかったわ」蓬野姫は笑う。
「姫!!」山吹が怒って口をはさむ。
「そのとおり。山吹が怒るのが正しい」蓬野姫は山吹に微笑む。「だから、おもしろいの」
一同、腑に落ちない表情。
「見方を変えてごらんなさい。ポッと出の鈴蘭よ。みんなに興味を持ってもらえなくて当然。その鈴蘭が書いた書が。美文字が。嘘だってうわさなんでしょ。すごいことよ」
一同、口をへの字にしている。蓬野は笑う。
「うわさになっている。後宮のみなさんが鈴蘭に興味を持っているってことの証明がされたのよ。わかっている?鍬形。あなたが変装した鈴蘭の影響力」
「はい」鍬形は硬い表情。
「よくやったわ、鍬形。さ、これからがゲームの始まりよ」蓬野姫はうれしそう。
「誰がうわさを流したのでしょう?」山吹。
「……さあね。鈴蘭に興味がある人でしょう」蓬野。
「鈴蘭は美文字を天皇様の御前で書いている。それを証明するには?」可武斗。
「………証明するより、おもしろい方法ない?」蓬野。
「あの」鍬形が発言した。
「うん」蓬野は興味深そうに笑う。
「歌合せの会では、貴族の子息様たちが発表されていました。彼らに美文字を教えに行くとか。そうすると、お子様の成長を期待する親御様たちからの信頼を得ることができるかと」
「各屋敷に訪問するの?時間がかかるわね」
鍬形は、失敗の発言をしたのかと首を引っ込める。
「バレない範囲で、何人もの鈴蘭の式神を作り、大量に教えては」可武斗。
蓬野はくすくす笑う。
「やっぱり、鍬形と可武斗はおもしろい」蓬野は機嫌がいい。
「では、僕が宣伝をしますよ。参内するたびに話しをしましょう」沖の中将。
「ありがとう、お願いね」蓬野は満面の笑み。
宮中。
貴族たちがしゃべっている。
「鈴蘭様は、めったにお部屋から出てこられないとか」
「それほど身分もお高いわけではないのに、なんだかもったいぶっておられるな」
「美文字も本当かどうか、わからないそうだ」
「あらかじめ、誰かに書いてもらっていたものを提出したとか」
「そんなこと……天皇様にウソを……?」
「まさか……大罪ですぞ」
「そのとおり。鈴蘭様が大罪を犯すとは思えない」困った表情の沖の中将。
「あ、沖の中将様……」
一同、まずい、といった表情。沖の中将はそれに気づかない様子で話す。
「鈴蘭様、宮中に参内なさってからお知り合いもいらっしゃらず、寂しく部屋に閉じこもっているとのこと。そこで、ご自身の得意である美文字を幼いご子息様にお教えしたいとお考えのご様子………」
沖の中将は、声を殺してささやくように言う。
「なんですと!!!」
幼い子息を持っている親御様、御祖父母様はいっせいに沖の中将に注目する。
「どうすれば、教えていただけるのでしょうか」
一人がたずねると、みんな集中して耳をたてる。
「そうですね、僕が姫にお話ししてみましょうか」
「ぜひ!!!!」
一人の貴族が、沖の中将にすがりつかんばかりに懇願する。
そうなると、歯止めがきかなくなる。みんながいっせいに沖の中将に懇願しはじめる。
「わかりました……私の屋敷にお申込みにおいでください。準備をしてお待ちしておりますので」
沖の中将は、その場を笑顔で去る。
その夜から、沖の中将の屋敷に行列ができるとは、沖の中将も思っていなかった。
「大盛況ね」蓬野は笑いが止まらない。「がっぽり、稼ぎなさい」
「僕はそんなことは思っていなかった……」沖の中将。
「いいのよ。美文字の証明なんて、この調子だとすぐにできるわ。本題はここから。せっかく、鈴蘭の美文字なんて嘘なんですよってウワサを流したのに、役に立たなかった。……ウワサを流した人は、どう考えると思う?」
「……さぞかし、悔しいことでしょう。どこか、鈴蘭の弱点を探す。………美文字教室を狙うでしょう。つまり、子どもを鈴蘭に投入して親として鈴蘭に接触する……?」
「おもしろい!」
「そもそも、どうして鈴蘭にこだわるのでしょうか」可武斗。
「それよ、わからないのは」蓬野。
「以前、門外で殺されていた人は、どういった方だったのでしょうか」鍬形。
「貴族かどうか……」可武斗。
「襲われた青葉の君様の場合は、れっきとした貴族です」山吹。
「それよ。貴族を狙うの?平民も?そもそも、どうして殺人を企てるの?めんどくさいじゃない、ねえ?」
「姫!言い方……!」山吹。
「………まさか、殺したいだけでしょうか?」可武斗。
「わからないわねえ」蓬野。
「……それほど心がすさんでいるのでしょうか……」鍬形。
「さあねえ」蓬野。




