33 告白
「私の侍従は、我が屋敷の山を管理している木こりの息子でした。とても優しい子で、小さいときからよく遊んでいました」
青葉の君が、ゆっくり話しはじめた。
「うん、うん」
「今では、父親と一緒に木こりとなって働いているはずです」
「そう、会っていないの?」
「……身分が違うので……大きくなって、これを知ったときにはショックだった…」
「そう」蓬野はうっすら笑う。「会ってみたいと思う?」
「会ってみたいです。……でも、身分が違うので……」
「ふーん。そう」淡々と蓬野。「じゃあ、身分の高い沖の中将となら結婚したいと思うの?」
「……」急に黙り込む。顔色が悪い。
「いいのよ。本当のことを言っても。私は口が堅いし、わかばの力になりたいの。そのために来たのだから」
「………」青葉の君は迷った表情。
蓬野はにっこり笑う。
「言いたくなかったら、言わなくてもいいの」
「………蓬野姫様………!」青葉の君は、切羽詰まったような表情。
「うん」
「実は………」
「うん」青葉の君のペースで話すことを待つ蓬野。
「………沖の中将様のことは、少しも好きではないのです」
「……そう」
「身分とか、お金とか、結婚とか……違うんです」
「うん」
「私……本当は、北山と結婚したいのです……!!」
「うん」
青葉の君は、顔を真っ赤にして、呼吸が荒い。
蓬野も顔が赤く、満面の笑顔。
「そうだと思ったよ!」蓬野は、青葉の君をぎゅう、と抱きしめた。
「昔から、そうだもの!!わかばは、北山が大好きだったよね!!!」
青葉の君は、また泣いた。
「身分とか、お金とか、家とか……難しくて……」
「うん。私にまかせて」
「……え」青葉の君は、蓬野の顔をじっと見る。
「私を信じて。本当のことを言ってほしいの。いい?」
「はい……」青葉の君は、何を聞かれるのだろう、と不安そうな表情。
「あなた、誰かにおかしな薬を飲まされたわね?覚えてる?」
「……変な薬?」青葉の君は、心当たりがない様子。
「じゃあ、質問を変えるね。あなたの意思ではない、変なことが起きなかった?」
青葉の君は、考えた。
「……そういえば、変な夢を見るようになりました」
「うん。どんな夢?」
「夜に都大路を歩いていたり。見たこともない、沖の中将様の屋敷の夢とか。そんな夢を見たあとは、すごく体がしんどくて。起きられなくなりました……」
「うん、うん」
「……考えてみれば、それからかもしれない……私がここまで弱るのは……一体、どうして……」
「うん、うん」
「蓬野姫様、薬とおっしゃいましたね?」
「うん」
「侍女が、薬を持ってきてくれました。侍女が持っているものだから、たいしたことないだろう、と思って、軽い気持ちで飲みました」
「うん、うん。どのくらい飲んだの?」
「しばらく、毎日……そのうちに、具合が悪くなり、先生の薬もいただくようになり、いったい、何を飲んだのか、わかりません」
「うん、うん。よくわかったわ。これからは、薬師がくれた薬だけ、飲むようになさい」
「わかりました。すみませんでした」
「ふふ、あやまることは何もないわ。もう、休んでちょうだい。貴重なお話、ありがとう」
蓬野は、沖の中将に伝えた。
沖の中将は複雑な表情をしていた。
「僕のこと、少しも好きじゃなかったのか」
「よかったじゃない」
「その通りだ……だが、ちょっと寂しいな」
「その八方美人が、自分の首を絞めるのよ」
「……そうだな」沖の中将は苦笑い。
「蓬野姫、薬を渡したという侍女は?」
「鍬形に調査させたら、名前もわからない侍女らしいわ。しかも、もう青葉の君の屋敷を退職しているみたい」
「もう逃げたのか。……どうして青葉の君を狙ったのだろう」
「わからないわね。調査を続けるわ」
「僕も、調べるよ……。僕の方でも、収穫はあったんだよ」
「あら、どんなこと?」
「木こりの息子をつかまえることができた。顔の広い春道に頼んだんだ。知り合いに、木こりがいてさ。情報をもらって、今、木こりの息子は春道の屋敷にいる」
「すごいじゃない!名前は?」
「北山」
「うん、間違いないわ!……彼は、青葉の君のこと、覚えているの?」
「覚えていたよ。春道に聞かせたら、今でも青葉の君のことは気になっているらしい。でも、身分が違うから、あきらめている」
「そう。じゃあ、あきらめないように、教育したらどうなるかしらね?」
「……?」
「青葉の君に釣り合うような男になる教育よ。木こりは木こりで立派な仕事。いいけど、貴族らしい、知識と経験も積めばいいんじゃないの?」
「……さすが、蓬野姫。型破りもはなはだしい」
そういう沖の中将の目もキラキラ光っている。
「すばらしい教育者は、僕の知り合いにいるから、まかせて」




