32 回復
「優先順位一番は、青葉の君を治すこと」蓬野。
蓬野姫の屋敷。
沖の中将、山吹、可武斗、鍬形がそろっている。黄金もいる。
みんなが持って帰ってきた情報をつなぎあわせると、こうだった。
恋煩いで寝込んでいるとばかり思われている青葉の君は、侍女を名乗る何者かが提供した霊能力の効いた薬を飲んで死にそうな状態であること。
「青葉の君の本心を聞いてみたいわ」
古い人形などの思い出。
沖の中将に対する思い。
どうして霊能力のある薬を飲むようになってしまったのか。
わからないことばかり。
「鍬形、本当はじっくり治療したいとは思うけど、霊能力を使ったとしても早く青葉の君を治してちょうだい」
「御意」
鍬形は青葉の君の屋敷に戻る。少女の野菊に変装する。術を使って薬師をあやつり、霊能力入りの薬を作らせた。
薬師から萌黄に治療のしかたを細かく指示する。青葉の君に栄養のある食事を少量ずつ徐々に提供する。
青葉の君の部屋には、萌黄と薬師、そして野菊しか入室できないように術をかけた。萌黄だけで足りない人手は、式神を何人もおいて補充する。
おかげで、青葉の君は徐々に目を覚ます時間も長くなってきた。
式神に姫の体を拭かせ、清潔に保つことで膿のようなにおいもしなくなった。
二週間も経つと、青葉の君は骸骨のような顔から、人間らしい顔に戻りつつあった。
四週間目には、寝床の上に起き上がれるようになった。
青葉の君が支えなしで座ってしゃべれるようになると、蓬野姫が青葉の君の屋敷を訪れた。
「蓬野姫様、このような場所にようこそおいでくださいました」
青葉の君は、寝床から起きて出てきた。着物をきちんと着ている。
「あら、もう部屋の外に出れるようになったの?」
蓬野が言うと、青葉の君は顔を真っ赤にしてひれ伏した。
「はい、蓬野姫様にご心配していただけるとは、もったいのうございます」
中級貴族の青葉の君である。上級貴族の蓬野姫とは全く交流はない。
「ふふ、どうして私が姫の見舞いなんかに来たのかしら、と不思議なのでしょうね」
青葉の君は、ひれ伏したまま、何も言えない様子。
「申し訳ない気持ちはよくわかりました。青葉の君、そう思っているなら、私に本当のことを教えてほしいの。だからこうして来たのよ。顔を上げなさい」
青葉の君は、恐る恐る、顔を上げる。居心地悪そうな表情。
「楽にしてちょうだい。いくつか質問するわよ。人払いしたいなら、しなさい」
「はい」
萌黄のみ残し、ほかの者は全員退室した。
「沖の中将のことはどう思っているの?世間では恋煩いをしているとのことだけど」
「………」青葉の君は、答えられず、顔を真っ赤にしている。
萌黄は、ハラハラした表情。
「うん。わかった。体調不良になったきっかけは?」蓬野は淡々と進める。
「………」やはり、答えられない様子。
「うん。わかった。これは?」
青葉の君のまくらもとにあった古い人形と扇を持ってきていた。
「あ……」赤い顔で、青葉の君はやっと声を出した。
「うん」蓬野は先を促す。
「……人形は、私が子どものとき、母様がくださったものです。扇は、子どものとき、一緒に遊んだ大切な友人がくれたものです」
「そう。大切な思い出なのね。友人の名前は覚えてる?」
「もちちゃんです」
「そう。懐かしいわね」
「はい………?」青葉の君は、赤い顔のまま、首を少しかしげた。
「もちちゃんと、もう一人いたでしょ。もちちゃんと一緒にいた子ども。覚えてる?」
「……はい。男の子です」
「名前は」
「ちからちゃん」「ちからちゃん」青葉の君と蓬野姫が声を合わせて言う。
青葉の君は、明らかに驚きの表情。恥ずかしがっている赤い顔は驚きで白い顔になっている。
萌黄も気絶しそうな表情。
「蓬野姫様……どうしてご存じなのですか」
初めて、青葉の君が質問する。
「ふふ、……どうしてでしょうね。泣き虫わかば」
青葉の君は、唇をわなわな震わせた。目を大きく見開く。
「まさか……まさか……」
「私がもちちゃんです」
青葉の君は、ぼろぼろと涙を流した。
「やっぱり、泣き虫ね、わかば」
蓬野は、青葉の君の肩をそっと抱きしめた。青葉の君は声を出して泣いた。
青葉の君が落ち着くと、蓬野が話し始めた。
「私、沖の中将とは友人なの。だから、あなたのことは時々聞いていたの」
「……ごめんなさい!!私のせいで、大変なご迷惑をおかけしました……」
「わかば、話は最後まで聞くものよ。そして、泣かない」
青葉の君は、涙を拭き、泣くのをこらえようと顔を赤くする。
それを見て、蓬野は大笑いする。
「いいわ、わかば。泣きながら聞きなさい」
「はい」鼻水をすすりながら青葉の君。
「高貴な姫が外で遊んでいるなんて、はしたない。だから、名前を変えて遊んでいたのよ。わたしは、もち。兄という名目で、侍従は、ちから。二人あわせて、ちからもち」
「はい」
「わかばは?どうして外で遊んでいたの?」
「私は、あんまり泣き虫なため、母様が外で遊んで強くなりなさい、と。私も侍従をつけられて、……外で遊ぶのは、男の子しかいなくて。そこに、もちちゃんがいたから、とてもうれしかった」
「うふふ」
萌黄は顔を赤くしたり、青くしたりしながら、部屋の中でもぞもぞしている。
「萌黄、あなたも落ち着きなさい」蓬野は優しい笑顔を見せた。
萌黄は、ひれ伏した。




