31 門の番人
都の中心には、天皇のお住まいである寝殿があり、それを取り巻くように上級貴族の屋敷が並ぶ。その周りに中級貴族の屋敷が、さらにその周りに下級貴族の屋敷が広がる。
一番外側には、平民たちが住む小屋が無数に立ち並び、その一番外側に都の門が建っている。
いつもは門を通過する者など、数えることができるほどしかいなかった。
鈴蘭の登用が世間に広がった今では、どこから来たのかわからないような者までもが門をくぐってくるようになった。
本気で宮仕えにあこがれる者もいれば、それに便乗して悪さを行う者もいた。
いつも門の近くで遊んでいる平民の子どもたちは、いつも通る商人たちとは顔なじみになっている。
「また来たのかよ」子どもたちは笑顔で話しかける。
「おう、また来たぜ」商人はなつかしそうに子どもたちの顔を見る。商人が都の外から来るのは半年単位だ。
「おじちゃん、帰りに都で売ってる飴を買ってほしいんだ」
「ははは、いつも言ってるだろう、金を持ってこい」人のよさそうな笑顔の商人。
「金はないけど、豆はある」
「じゃあ、帰りまでに準備しときな」
「あい」
こんな光景は日常だ。
そんななか、子どもたちが見たことない商人風の男がやってくる。
「やあ、どこから来たの?」
子どもは目ざとく話しかけにいく。
「近江から来たんだよ。ほら、貝をもってきたんだ」
群がってくる子どもたちに背中の包みを見せる男。
「誰に持って行くの?」
「誰でもいいだろう。ほら、どいた、どいた」
商人は子どもたちを追い払うような手の動きをしながら門を通り抜けようとする。
「誰の荷物だ?」
老人が子どもたちの向こうからやってきた。
「なんだ?うるさい奴らだな」商人が荒い声を出す。
「最近、ぶっそうな者が都に入りたがっているそうだ。おれたちは、それを見張っているんだよ」老人はすごむ。
「なんだ、なんだ。本当にうるさいな。松葉様の屋敷だよ」商人は答える。
「松葉様の屋敷か。じゃあ、おれが案内してやるよ」
子どもたちが、商人と一緒に屋敷までついていく。
商人はうるさがるが、平民たちはこうして真偽を確かめていた。
門を通る者は、まだいい。
門を通らず、道ではないところを敢えて通っていく者もいた。小山になっている木々が立ち並んでいるところを通る者がいた。
「どこに行くの?」
子どもたちはあらゆる場所で遊んでいる。子どもの目をすり抜けるのは難しい。
やましい心を持っている者は、その場から逃げようと走り出す。
「変なヤツが、逃げた!」
「都に変なヤツが入った!」
子どもたちが騒ぎ始める。近くで働いていた者たちがすぐに追跡し、取り捕まえる。
たいてい、すぐに捕まり、都に侵入する理由を追求される。
「貴族様に用があるんだ!」侵入者が叫ぶ。
「どんな用だ」
「おまえたちに関係ない」
「おう、都の砦のおれたちに関係ないなら、さっさと帰ってもらおう」
こうして、平民たちに追い返されるのだった。
日々、こうした不審者が現れるようになっていた。
都の一番端に屋敷を持っている下級貴族たちは、安心して暮らせなかった。悪漢が都の外から入ってきたら、まず自分たちが襲われるからだ。
下級貴族たちは、家人に命じて、平民たちに都を守るよう伝えてまわっていた。
家人たちは平民にうまく言って、都を守る大儀を伝えていたのだった。
すなおな平民たちは、力を合わせて都を守ろうとする。
「やあ、どこから来たの?」子どもたちは、見慣れない者が門を通れば声をかける。
「熊野だよ」男たちは答える。
「どこへ行くの?おれが案内してやるよ」
「昔は都のそばで働いていたから、都のことはよく知っているんだよ」
体格のよい男たちがにこやかに子どもに答える。
「遠慮するなよ」
子どもたちは、見知らぬ男の頭の先から足の先までじろじろ見つめる。不審なところがあれば、すぐに大きな声を出す準備はできている。
「僕の屋敷だよ」
子どもたちは声の主を見て、腰を抜かすほど驚いた。
立派な馬にまたがった、一目で高級だとわかる着物を着た殿君がいた。
「じゃあ、行こう」殿君が馬を進める。
「はい、春道様」
体格のよい男たちが馬の後ろから、都に入った。
平民たちは、大勢でそれを見送っていた。




