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28 歌の会

 暗い空には星がきらめいている。


 だが、後宮は、すでに人々の興奮で熱い。本日、歌合せの会が開かれる。


 歌合せの会は、年に何回か開催される常会だ。通常は三カ月に一度の目安で開催されるが、ときにすばらしい歌人が出たときなど、不定期に予定が組まれる。


 今回は、不定期の開催だ。蓬野姫よもぎのひめの親戚の姫君見たさに貴族たちが開催を希望したのだ。


 日の出とともに、みやびな音楽が宮中に流れる。


 音楽は、日が昇っていくにつれ、静かな演奏から華やかな演奏へと変わり、人々の熱狂を現している。


 日が高く昇り、周囲がよく見えるようになると、広い庭で音楽に合わせて舞が始まる。


 着飾った貴族たちが、音楽に誘われるように続々と集まってくる。


 広い庭には、たくさんの台座が準備され、毛氈もうせんが敷かれている。


 高貴な貴族たちはそこに座る。貴族たちに直射日光が当たらないよう、侍従たちが大きな傘を持っている。


 中級貴族たちは、そこから離れた位置に牛車を止め、牛車の中から舞を楽しむ。


 下級貴族たちは、中級貴族の牛車の後ろに牛車を位置づけ、牛車と牛車の間からのぞきこむ形で、なんとか舞を見ようと努力する。


 天皇様一族は、一番高い台座に椅子が置かれている。一族は本番が始まる頃に到着する。


 音楽と舞が終了すると、貴族たちから大きな喝さいが起こる。


 盛り上がったところへ、緊張の面持ちの幼い子どもたちが現れる。


 すべて貴族の子どもたちだ。師匠について学んだ歌を披露する。


 「かわいい」


 「お上手ね」


 などと、あたたかい笑みが貴族たちからこぼれる。子どもたちの親たちは、手に汗を握り、我が子の出来を喜び、家人たちと喝さいしている。


 子どもたちの披露が終了すると、いよいよ歌合せが始まる。


 天皇一族が続々と登場する。


 貴族たちは、立ち上がり、敬礼する。


 牛車に乗っている貴族たちは、牛車の中でひれ伏する。


 天皇一族が椅子に座り終えると、おごそかに歌の会を開始する。


 今回の優秀者が順に歌を発表し、それを筆でしたためたものを見物人たちに披露して天皇に献上する。


 優秀者に選ばれた貴族がひとりひとり、毛氈もうせんの上に登場し、歌を詠んでいく。


 殿君は、優雅に登場し、歌を詠む。


 姫君が登場すると、大勢の侍女たちが姫の十二単の裾を持つ者、姫の顔がさらされないよう扇で隠す者の登場となる。それだけで大舞台のようだ。


 殿君、姫君たちは、天皇一族の御前で、緊張のあまり声が震えたり、自分の作った歌を読み間違えたりする者もいる。


 中には堂々と心こめて詠みあげ、貴族たちの涙を誘う者もいた。


 歌の会は、みやびにゆっくり進んでいく。


 すべての優秀者が歌を詠み終えた。


 再び、雅な音楽が演奏される。


 演奏とともに、鈴蘭すずらんが登場する。貴族たちが前のめりになって鈴蘭を見ようとしている。


 鈴蘭は、ほかの姫にたがわず、大勢の侍女とともに登場する。


 当然、顔は侍女の持つ扇が隠してくれているが、貴族の中から大きな感嘆の声がもれる。


 「なんて美しい姫だ」


 「歩く姿も、すばらしい」


 鈴蘭の準備が整う。貴族たちの期待する空気が庭に張り詰める。


 鈴蘭は、青空に溶け込むような美しい声で歌を詠みあげた。恋の歌だ。


 拍手喝さいが起きる。


 鈴蘭が詠んだ歌を書いたものを披露すると、貴族たちからもっと大きな喝さいとどよめきが起きる。


 「すばらしい文字だ」


 「見たことない美文字だ」


 「美しい姫が書く文字は、天に差し上げてもよいほど美しい」


 寝殿が震えるほどの大喝采をあびながら、鈴蘭は退場した。


 会は進んでいく。


 司会者の貴族が「最優秀者」と呼んだ。


 歌の最優秀者が選ばれる。殿君で、せつない恋の歌をもういちど詠みあげた。


 貴族たちから涙がこぼれる。


 司会者の貴族が「特別賞」と呼んだ。


 貴族たちから興奮の声があがる。


 「鈴蘭様」


 司会者の貴族が名前を呼ぶと、寝殿の太い柱さえ震えるほどの大喝采が起こった。


 鈴蘭は、歌、美文字が表彰された。


 鈴蘭は大勢の侍女たちとともに、天皇の御前に立ち、敬礼した。


 そのとき、鈴蘭が立っている毛氈もうせんの上を走る者が現れた。


 鈴蘭に表彰の品を渡す者かと一瞬、誰もが思った。が、次の瞬間、悲鳴が起きる。


 毛氈の上を走る男は、刀を振り上げていた。まっすぐ鈴蘭に向かって走る。


 鈴蘭を取り囲んでいる侍女たちは、何が起きているのかわからない様子で動かない。


 鈴蘭は、十二単の袖の中で指を動かし、術を使った。


 男は、刀を近くにいる侍女に振り下ろすところだ。刀が侍女の頭頂部に当たる少し手前でぴたり、と動きを止める。


 侍女も動かなくなった。下手に動くと刀に触れてしまう。


 会場から悲鳴が起こった。


 「待て、みなのもの、慌てるな」


 どこかの貴族が叫んだ。


 「本当だ、みなのもの、よく見ろ」


 どこかの大臣おとどが叫ぶ。みなはそれに従う。会場は静かになった。


 静かになると、鈴蘭が歌っているのが聞こえてきた。


 鈴蘭は歌いながら、ゆっくり舞を舞い始めた。


 透明な歌声、天女のような舞。


 刀を持った男も、刀をきらめかせ優雅に舞を舞い始めた。これも鈴蘭の術だ。


 会場は、大喝采に包まれた。

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