27 美人
歌合せは三日後に開かれる。
自分の屋敷に戻っていた姫たちは、都のあちこちから集まり、後宮の自分の部屋で待機する。
蓬野姫、鍬形が変装している鈴蘭が広い部屋でくつろいでいた。蓬野姫は、寝転んでいる黄金のお腹にもたれて座っている。
「姫様」
侍女の山吹が部屋に帰ってきた。
蓬野姫は、きらり、目を輝かせる。
「検非違使にたずねたところ、春の風殿下の使いなる男の死体には、以前、都の門外で見つかった死体と同じ症状が出ているとのこと。春の風殿下は、そんな男は知らない、と言っておられます」
山吹の報告に蓬野は大きくうなずいた。
「そうでしょうね。春の風様は、しばらく嵐にお会いになることでしょう……。おかわいそうだけど、あの方なら、ご自身で潔白を証明なさるでしょう」
蓬野はくっく、と笑う。
「前回と今回の死体、同じ症状が出たということは、両者を殺した者が同じ者だって可能性が高いわよね……」
「やはり、毒殺でしょうか」鈴蘭が鍬形の声で話す。
「そうかもね。一体、どんな毒を使ったのかしら。興味深いわ」
「都の中で、毒を使う者というと、医師か薬師。関係者を探ってみます」
「そうね。お願いね。……誰か来たみたいよ」
蓬野の言葉で、男性のようにピンと背筋を伸ばして座っていた鈴蘭が、女性らしい柔らかな座り方に変えた。大きな扇で姫らしく顔を隠す。
山吹が出迎えに行く。
「姫様、沖の中将様がおいでになられました」山吹が帰ってきた。
「どうぞ、通して」
沖の中将が山吹につれられて部屋に入ってきた。
蓬野姫は黄金にもたれたまま座り、鈴蘭は姫らしく大きな扇で顔を隠して座っている。
「蓬野姫、大丈夫でしたか。今回は大変な目にお会いになられましたね。心配しておりました」
沖の中将の言葉に、蓬野姫はにやっと笑った。
「ありがとう、沖の中将様。本当は心配なんかしていなかったでしょう」
蓬野姫の言葉に、すなおに沖の中将もにやっと笑う。
「……とはいえ、さすが蓬野姫の親戚の姫、とてもお美しい方ですね。お名前をお聞かせいただけませんか」
蓬野姫は怪しい笑みを浮かべて、鈴蘭に目で合図した。
「お初におめにかかります、鈴蘭と申します。どうぞ、よろしくお願い致します」
鈴蘭は、大きな扇で顔を隠しながら挨拶した。ほとんど目しか見えていない状態でも、沖の中将の顔が赤くなる。
「美しいでしょう?」
蓬野姫の言葉に、沖の中将は恥ずかしそうにもぞもぞする。
「鈴蘭、沖の中将様にはいつもお世話になっています。よく顔を覚えていただきなさい」
蓬野姫の言葉を聞いて、沖の中将が慌てる。
「姫、さすがに若い姫のご尊顔をお見せいただくのはいけません」
「ね?沖の中将様はとてもお優しい方。自己紹介なさい」
鈴蘭は、美しい声で歌うように自己紹介しはじめた。
「私は蓬野姫様の遠い親戚です。このたび蓬野姫様に私の歌を褒めていただき、このようなすばらしいご縁をいただきました。恐れ多くも、天皇様の御前で歌を詠み、字を書くことに感謝しているとともに、緊張しております。……ここへ来る途中で悪漢に会いました。が、少しも恐ろしくありませんでした」
沖の中将は、うなずきながら鈴蘭の話しを聞いていたが、最後の言葉に笑顔のまま首をかしげる。
「なぜなら私、鍬形ですから」鈴蘭は、女性の声から男性の声に替えた。ふわりと大きな扇を顔からはずした。
沖の中将は笑顔のまま、固まった。
「??????」
「沖の中将、聞いてる?」悪い笑顔で蓬野がたずねる。
数秒、沈黙。
「ええええええ!!!!!!」沖の中将は、驚きのあまり立ち上がる。
「声が大きい」蓬野が沖の中将に言うが、自身も大笑いしている。
「………鍬形………????」
「はい」鈴蘭が鍬形の声で返事する。美しすぎる姫の笑顔で。
「………なんだって……!!……こんなことが、あっていいのか……」
沖の中将は、我を忘れて鈴蘭の顔をガン見する。
蓬野姫は大笑いしながら、「沖の中将、姫の顔をそんな風に見ちゃいけないでしょ」と息を切らしながら言う。
「おお……!」沖の中将は、我に返り、鈴蘭から距離をおく。
山吹でさえ、下を向いて笑いが止まらない。
「これは、かぐや姫もしのぐほどの美しさ。……正体は鍬形だとは、閻魔様でも見抜けないぞ……」
「お褒めのお言葉、ありがたく存じます」鈴蘭が女性の声で言う。
「うーむ……。これは、すごい」
「ね?せっかくだから、沖の中将様にもお手伝い願います」
蓬野姫は、にっこり笑った。
「う、うむ」
沖の中将は、赤い顔のまま、大きくうなずいた。




