25 つかまらない女
比都という娘は、なかなかの用心深い人物のようだ。
鍬形が薬師にたずねても、薬師が部屋にいるときには来ないらしく、比都の情報は得られない。
侍従、侍女たちにたずねても、比都に接触する者はほとんどいなかった。
鍬形が調査を進めていくと、比都がこの屋敷で働き始めたころ一緒に働いていた侍女を捕まえることができた。話しを聞く。
「ああ、比都?田舎からやってきたっていうからさ、始めはかわいいな、って思ってたよ。字が読めるとわかったら、すぐに私なんかと離れてさ。今では姫の側で働いているって?冗談じゃないよ。あんなやつ、〇〇して、〇〇してやるわ」
侍女は相当立腹しているようだ。鍬形は丁重にお礼を言った。
別の侍従にたずねた。
「比都か。あんな奴に関わらない方がいいぞ。面倒だから」
どう面倒なのかたずねると、侍従は眉をゆがませた。
「関わりたかったら、関わればいい」唾を吐いて、行ってしまった。
なんだ?今の反応は……?
鍬形はワクワクしながら調査を進めていく。どんどん話しを聞き進めていくと、だんだん変な方向に話しが進んでいった。
「比都……?あのね、ここだけの話しなんだけど」侍女は声を殺して話す。顔は悪い笑顔。
「私の友人の侍女なんだけどさ。結婚をしようとしている侍従がいたの。その彼氏を比都が寝とったらしくて。彼氏もバカよねー、友人の方が誠実でいいヤツなのに」
どうなったのか、ワクワクしながら鍬形はたずねる。もちろん、顔は心配そうな顔で。
「お前などと、一緒になれるか!!って、私の友人を貶めたの。友人が悲しむ前に、比都が彼氏の前から消えたの。もっと、有能な家人を新しい彼氏にしてたのよ!!友人は彼がまぬけだってことを結婚する前にわかってよかったわ、って……」
比都という女は、色気もあるらしい。
鍬形は、どんどん情報を探すが、たいした情報を得ることができなかった。
鍬形はしかたなく薬師に術をかけた。薬師が勘違いして青葉の君のところへ行くように仕向けた。
「野菊、私は今から姫様の問診に行く。お前も一緒に来るように」
「はい」
薬師と野菊は、青葉の君の部屋へ行く。部屋の前で正座して挨拶する。
「姫の問診に参りました」
「は?今日、先生がお見えになる日でしたか?」
部屋の中から、青葉の君の乳母、萌黄が不審そうな声。
「はい、ちょうどこちらへ参る便もございましたので」
薬師は流暢にウソを言う。すべて鍬形の術だ。
「……まあ、よいわ。入るがいい」
萌黄は部屋に入れてくれた。広い部屋の真ん中に寝床があり、青葉の君が寝ていた。
青葉の君は、向こうを向いて寝ている。長い黒髪は侍女がとかしているのだろう。美しく箱に収められて枕もとに置かれている。
薬師と野菊がそっと近づく。
「姫様、お加減はいかがですか」
薬師が厳かにたずねる。
青葉の君は、ゆっくりゆっくり、こちらを向いた。
いろんなことに慣れている鍬形でさえ、ハッと目を見張った。
青葉の君は、骸骨のように痩せこけている。目はうつろ、皮膚は水分を失ってカサカサ。
恋煩いで、こうなるのか?
鍬形の知識はノー、と答えた。
鍬形は、薬師の後ろから、じっくり青葉の君を観察した。
顔色は、土気色。筋が出た喉は呼吸するたびにペコペコ引っ込んでいる。
部屋中に溜まっている膿のようなにおい。
病気……、あるいは毒……???
恋煩いの可能性だけは、ゼロだ。
薬師が、姫の腕を取り、脈を診た。枯れ枝のような腕。
それが引き金になったのか、姫はう、う、と吐きそうになった。
萌黄が急いで器を持ってきた。
姫は、器に吐き戻した。
少量の黄色の液体。胃液か?
鍬形が見ていると、胃液だけではない、異臭が汚物から漂ってきた。
これは……。
蓬野姫に報告せねば。




