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22 潜入

 「今回はやられたわ」


 蓬野姫よもぎのひめ黄金こがねのお腹にもたれて座っている。黄金の傷は、蓬野姫が術ですぐに治療した。


 「あの感じ……青葉の君は、ただの人間よね、黄金」


 黄金はぱたん、と太い尻尾で床を叩く。そう、と言っているよう。


 「人間がもののけに?今までも強い霊能力をもつ者は時々現れましたが」山吹やまぶきが首をかしげる。


 「いたわ。せいぜい、けものに身を落とすくらいのもの。今回の鬼姫の使う術の強さが桁違い。沖の中将も飲み込まれてしまったし」


 「沖の中将様が……!早く助けなければ……!!」可武斗かぶとが驚き、焦る。


 「慌てなくてもいいと思うの……食べられたと言っても、けものに食べられたというよりも、霊能力の袋に入れられた、っていう方が正しい感じがするの」


 「霊能力の袋?」山吹。


 「そう……鬼姫に実体が感じられないの」


 「どういうことでしょうか」可武斗も首をかしげる。


 「鍬形くわがた、青葉の君の屋敷に潜入してきてくれる?青葉の君に、何が起こっているのか調べてきて」


 「わかりました」鍬形は、す、と姿を消した。


 


 鍬形は、きれいな顔をした少年だ。もともと霊能力は持っているが、蓬野姫の霊能力が強すぎてお守りすることが難しかったので、可武斗と一緒に四谷師匠よつやししょうに学んで霊能力を上げている。


 鍬形は成長するにつれ、女性よりも女性らしい美しさが目立つようになってきた。


 蓬野はその才能を見逃さなかった。


 「人って、美しさに弱いものなのよ」蓬野姫はそう言って、にやにや笑っていた。


 鍬形は、可武斗とともに戦いに参加することと、その強い身体能力と霊能力を持ったスパイとしての能力を開花させていた。


 鍬形は慣れた様子で顔に薄化粧をする。その上に泥を塗って汚す。


 これで、かわいそうな少女は完成。


 鍬形は青葉の君の屋敷を訪れた。


 物陰から青葉の君の屋敷に出入りしている侍従、侍女を観察する。


 どこの屋敷でもそうだが、侍従、侍女たちは顔を汚しながら一生懸命働いている。


 だが、ここの屋敷の侍従、侍女たちはみな表情が明るい。


 誰もが助け合いながら働いている。


 いい屋敷じゃないか。


 鍬形は感心した。


 屋敷の一番外側で働いている者たちの表情を見れば、その屋敷の奥の様子までもが見渡せる。


 一生懸命、辛そうな表情で働いている者が多い屋敷では、屋敷の奥の人間が人をモノのように扱っていることが多い。


 いきいきと働いている者が多い屋敷では、屋敷の奥の人間が人を人として扱っていることが多い。


 屋敷のまわりの道に水をまいている老侍従に声をかけた。


 「すみません、ここで働きたいのです」


 「おや、じょうちゃん、どうしてここで働きたいの?」


 「お母ちゃんに薬を飲ませてあげたいの」


 「そりゃ、大変だね……。名前は?」


 「野菊のぎくです」


 「野菊ちゃんだね、ちょっと奥の人に聞いてくるから、ここで待ってなさい」


 老侍従が奥へ入っていった。


 しばらく待っていると、老侍従が老侍女を連れて戻ってきた。


 「あんた、何ができるの?」老侍女がたずねた。


 「掃除、洗濯、食事の準備です」


 「あら、食事の準備もできるの?そりゃ、助かるわ」


 老侍女は大げさに驚いてみせた。


 「ついて来な」老侍女は屋敷の通用門から中へ野菊を導いた。


 屋敷は広い。母屋にたどり着くまでに、たくさんの小屋が建ててあり、そこでたくさんの侍従たちが掃除したり、洗濯したり、忙しそうに働いている。


 背中が曲がった老人もいれば、鍬形よりも年少の子どもたちまで働いている。


 向こうから、カゴに洗濯物を山と積んで歩いて来る子どもがいた。顔の前さえ、洗濯物の山で埋もれて、よろよろと歩いている。


 「おい、積みすぎだ」


 「前に気をつけろ」


 周囲の大人たちが洗濯小僧に声をかける。


 「はーい!」小僧はよろよろしながら前進し、鍬形の予想どおり石につまずいて洗濯物を全部地面にぶちまけた。


 「おい、おい、……」


 周りの大人たちがブツブツ言いながら、洗濯を拾ってやる。鍬形も拾った。


 「どこまで持って行くの?」鍬形は野菊の声で小僧にたずねる。


 「あそこだよ」小僧は大勢の侍女たちが地面にかがんで洗濯をしている場所を指さした。


 「すみません、すぐに戻りますので……」野菊は老侍女に声をかけ、小僧が落とした洗濯物を全てカゴごと抱えると、あっと言う間に洗濯場まで届け、また老侍女の待っている場所まで戻ってきた。


 「……お前、速いねえ」老侍女が目を丸くしている。


 「恐れ入ります」野菊は恥ずかしそうに笑って見せる。


 老侍女は、にんまり笑い、野菊を台所まで連れて行った。


 台所でも、たくさんの侍従や侍女が忙しそうに働いている。


 「この子、新しい子。なんでも言いつけてやりな」


 老侍女は、中年侍女に言うと向こうへ行ってしまった。


 「名前は?」中年侍女がたずねた。


 「野菊です」


 「じゃあ、これを磨いて」


 中年侍女が指したものを見て、内心野菊は驚き、笑いが込み上げてくる。表情には出さない。


 まじかよ……。

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