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18 沖の中将と春道、逃げる

 鬼姫の大きなこぶしは振り下ろされなかった。


 沖の中将がそっと目を上げると、鬼姫の大きなこぶしの下に入りこんで剣をふるっている人物がいた。術を使って止めていたのは可武斗かぶとだった。


 「可武斗!よく来てくれた」


 沖の中将が叫ぶが、可武斗は振り向きもせず鬼姫に刀を振った。刀の先から火を吹きだしている。


 鬼姫は可武斗の刀を軽くよける。大きな手のひらで可武斗の刀を叩き落そうとする。可武斗はひらりとよける。


 鬼姫の持っていた大きな扇を強く振る。可武斗は紙一重でよけるが、扇のふちに当たった袖が鋭利な刃物で切り裂かれたように切れた。


 可武斗は引きつづき刀の先から炎を出して鬼姫にぶつける。


 鬼姫は、嫌がるような様子でよけていく。


 可武斗は、小さく術をつぶやいた。刀を振ると、今までで一番大きな炎の柱が立った。


 鬼姫は大きな扇で炎をあおぐ。まっすぐ鬼姫に向かって噴射された炎がぐんにゃり曲がる。


 可武斗は刀を振り、曲がった炎をそのままもっと曲げる。炎の柱が大蛇のようにうねる。うねって、鬼姫の体の周りにぐるぐる巻きつくように伸びていく。


 鬼姫は扇をあやつり、己の体に巻きついてくる炎の大蛇を頭の上に巻きあげていく。


 炎は大空に上っていき、ぐるぐる竜巻のようになって消えていった。


 すかさず可武斗は鬼姫に接近し、鬼姫の肩から下へ胴を切り離そうとする。


 鬼姫は扇を刀のように振り、可武斗の刀を退ける。


 鬼姫と可武斗は一進一退の激しい攻防を繰り広げた。


 「わわわ……」


 春道は沖の中将をかばって戦いから離れ、部屋に逃げ込んだ。


 薄暗く広い部屋に逃げ込む。家人たちは逃げたのか、誰もいない。


 屋敷の奥まで逃げ込んだ沖の中将と春道は、ふう、と大きなため息をつく。やっと生きた心地になった。酔いもさめてきた。


 突然、女性の声がした。


 「なんて、情けない姿なの」


 沖の中将と春道は、飛び上がる。


 座敷に蓬野姫よもぎのひめ黄金こがねが座っていた。


 蓬野は、二人の殿方を軽蔑のまなざしで見ている。


 「……鬼が来たんだ」沖の中将は言い訳をした。


 「可武斗をひとりおいてきたのね?」蓬野は冷たく言う。


 「う……」沖の中将と春道は返せない。


 「ふん。……黄金、行くわよ」


 蓬野は、黄金の背にまたがった。黄金はつい、といなくなった。


 部屋に残された沖の中将と春道は顔を見合わせた。


 「……今、とても格好悪くないか?」


 「格好悪すぎて、恥ずかしい」


 「行くぞ、春道」


 「行こう、中将」


 二人は再び庭に向かった。


 蓬野姫は、縁に立って庭に向かって両手を広げて術を使っている。


 鬼姫が見えない巨大な何かに押しつぶされたように地面に押し付けられてもがいている。


 可武斗が鬼姫に飛びつき、刀を振り下ろす。


 鬼姫は吠えた。刀がはじかれる。鬼姫はぎらり、と可武斗をにらみつけると鬼姫の姿はすう、と消えた。


 可武斗は一瞬悔しそうな表情をして、刀をおさめた。


 「逃げたわね。また来るでしょ」


 蓬野はなんでもないことのように言った。

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