船へご招待
「さて、伊皿木女史。ようこそ俺の船、ホワイトロマノフへ」
「……思っていたより素敵ね。ホテルの通路みたい」
「床も壁も金属むき出しだぞ」
「そうだけど、護衛艦とか潜水艦の中に比べたら十分だわ」
まぁ、そういう軍用艦に比べたら広い通路があって開放感もあるだろうけどさ。
船に入った第一声がそれか。
確かに未来らしさはないけど。
「それで、何が見たい? 映画もあるし、衣類の用意も食事の用意もできる。エステ代わりに医療用ポッドの体験とかもありだな。あとはなんだ、風呂とかはこっちとそんなに変りないけど」
「どれも面白そうね。けどこういうのは順序があるのよ。そうね……お茶とお茶菓子をお願いしたいわ。どこかでゆっくりとお話ししたいの」
「いいぞ。マリア、用意してくれ」
「かしこまりました」
端末を通してマリアに頼む。
返事は一言、いつもお世話になってるよ。
余計なことを言わず、着々と任務をこなす姿はまさにエージェントだな。
「マリアさんっていうのは、乗組員?」
「そうだな、アンドロイドだが自我のある相手だ。人間と遜色ないな」
「へぇ……失礼かもしれないけれどメリナさんとの違いは?」
一応伊皿木女史にはメリナの肉体について話してある。
皮下骨格に、強化骨格、それから人工臓器等々で構成された99%人造人間と。
「メリナはベースが人間だ。テセウスの船の話を持ち出すまでもなく変わってないパーツもある。一方でマリアはベースからして機械だ。どちらも肉体の大半が作り物というのは変わらないが生まれからして違うし、宇宙における法案に置いてメリナは明確に人間として人権があるのに対して、マリアは人権の無い国家もある」
「人権がない……」
「そこまで重く考える事じゃないぞ。単純に俺の所有物であるとみなされるか、個人としてみなされるかの違いだ」
「その、不平とかそういうのは無いの?」
「郷に入っては郷に従えというからな。思う所がないわけじゃないが、そういうルールなら仕方ないだろ」
俺が騒ぎ立てたところで変わるものでもあるまいて。
それにアンドロイドは俺達が思っているより強かだ。
誰かの所有物であるという点を利用して、法に触れない範疇で好き放題やっていることもある。
人権があればアウト判定を喰らうであろうラインも普通に飛び越える。
逆に人権が認められている所じゃ大人しくしている。
今回地球ではその辺の情勢があやふやなので、法律ラインなんて無いも同然にノイマン共々ファイアウォール火の輪潜りを楽しんでいるよ。
昼間はホワイトハウスの情報抜きだしたって言ってたな。
「他に乗組員は?」
「EFっていう存在でな、詳しい説明は省くが電子の妖精が乗ってる。見た目は文字通り妖精なんだが、電子機器に潜り込んでハッキングもクラッキングもできる。なんならアメリカ大陸全土を停電させてみようか」
「……いたずらでやるには規模が大きすぎるわ」
「冗談だ。ちなみにこいつも人権の有無は国家によって変わるが、ぶっちゃけ人権与えてルールで縛っておいた方がいいタイプだ。知的好奇心を前にすると容易くぶっ飛ぶ」
「……今、何やってるか聞いても?」
「えーと……ミスカトニック大学からデータ吸い出してるな。並列して日本の配信プラットフォームからあらゆる動画情報を仕入れてる。神映画とか神アニメ、一方で糞動画とかも」
「節操なし……」
「あるわけねえじゃん。腹ペコの猛獣の前に生肉置くようなもんだ」
ノイマンもマリアもその辺遠慮は無いからな。
「あと乗組員じゃないが、ホワイトロマノフの母艦であるルディ。生きてる船だ」
「生きてる、船?」
「要するに船の形をしたエイリアンだ。たこ足じゃなくて想像とは違っただろうけど、金属装甲や砲身を衣類の代わりにしている宇宙人」
なおその存在は宇宙でも秘匿されている。
そこまで語る必要はないけどな。
「随分と……そうそうたる顔ぶれね」
「ぶっちゃけた話、一番個性が無いの私だと思ってます……」
そっと手を上げたメリナ。
お前はお前で経歴からして異端なんだよなぁ……。
ハッキング技術もあるし。
「と、謙遜しているこいつはサブパイロット兼オペレーターだ。正直に言うと痒い所に手が届く存在。いなきゃ困るな、割とマジで」
「褒めても何も出ませんよ?」
「そして公的には俺の監視役で、夜の間柄だ」
「赤裸々にしたとしてどつくことしかできませんよ?」
当たるわけねえだろ、お前の攻撃が。
当たったら死ぬんだから。
「裏では?」
「……悪友にして戦友、あと恋人でいいのかな」
「聞かないでください、恥ずかしい」
どうやらそういう事でいいみたいだ。
しかし恋人ねぇ……睦言は散々してきたが、その一言で片づけられるほど容易い相手でもねえんだよなぁ。




