茶葉外交
「それにしても本当にお土産が沢山あるのね……もちろん交渉材料もでしょうけど」
「あぁ、月の内側が満タンになるくらい持ってきてるからな」
アトラス級の船はそのくらいの容量がある。
ついでに未来技術による圧縮で、衣類なんかはカードパックサイズまで収縮可能だ。
家具でも余程繊細な物でもない限り手のひらサイズに収める事ができる。
なお、重量は変わらないので基本的に取っ手付きの物になる事が多い。
冷蔵庫とか片手で持ち上げろと言われても普通の人には無理だからな。
宇宙でナノマシン強化されてても大半の人は地球人と変わらない筋力だ。
一部居住惑星の重力が強い場合や、巨大惑星周辺で衛星しているコロニーなんかだと多少の強化は入るんだけどな。
俺達が持ってきたナノマシンは一般流通品が基本だ。
そこから少しグレードアップしていって、反比例して数が減っていくように用意した。
ナノマシン培養装置なんかもあるから要望があれば増やせるし、そもそもの装置を譲渡する事もできるんだが……多分地球側は望まないな。
凄い悪い言い方になるが宇宙は究極的なディストピアなんだ。
コロニー住民ことコロニストなんかは一生をそのコロニーで終える事が一般的だし、惑星住民にしたって長距離旅行は惑星内、宇宙に出る人は少ない。
例外的に俺達傭兵みたいな超自由人もいるけど、一般的にはオンラインで大体の話が終わってしまうから直に合う必要性が無いんだよな。
物資の運搬だって無機物なら圧縮できるから配達も問題ないし。
それこそ大手企業の人間が培養したなにかとか、特殊な生物のサンプルを運ぶのに超長距離出張するくらいじゃないかな。
あとは軍人と宇宙海賊。
頑張っても一般人にできるのは惑星一周ツアーという名の、まさに惑星を外から眺めて満足してもらうような小旅行が限界だ。
これも結婚記念の金婚式とかでやるようなレベルだけど。
ようするに宇宙船の技術とか発達したところで居住区の外に出るのは何かと面倒くさいし、金もかかるってことだ。
それに加えてナノマシンによる個体識別、やろうと思えば政府がその識別に対して適当に罰則つけたり徴兵したりも可能な仕組みになっているらしい。
当然複数人の政治家と大統領とか総理大臣とか皇室の許可が必要になってくるらしいけど、そもそもそのレベルの人間がポップするのは数百年に一度レベルだからな。
具体的に言えば異世界転生したチート保有者レベルで宇宙船と相性いい奴とか。
そういう管理をされるのを地球人は嫌がるだろうし、宗教論争なんかになったら最悪の場合「うるせーアトラス級ぶつけるぞ!」となりかねない。
根底から倫理観とか宗教観とか、そういうのが全部違うという意味ではまさに宇宙人なんだよな、俺達。
「人工加工の装飾品でも持ってくか? 地球の技術じゃ高純度高品質ってところまでしかわからないと思うぞ。硬度だって採掘品と同じにする事できるし」
「それやったら日本の経済がぶっ壊れるわ」
「いいんだぞ1000カラットのダイヤモンドとか」
「地球の経済壊しにかかってる?」
「あるいは工業用品やガソリンを空気から作れるマシンとか、通常の100倍の速度で成長して1本で地球の二酸化炭素問題解決できる植物も渡せるぞ。セットでお得だ」
「経済圏吹っ飛ぶからやめて、マジで」
「じゃあ……安い所でレアメタル採掘に必要な技術関係か? 海底資源の採掘や、日本にもある油田とかのコスパがカスだったから放置されてたところの改善策とか」
「……正直喉から手が出るほど欲しいけど、私の一存じゃ無理ね」
「じゃあ徳川埋蔵金の場所。宇宙からのスキャンでも見えた」
「個人的にはそれも含めて邪馬台国の場所とかも知りたいけど、あとが怖いから聞かないでおく」
「土産貰う側なのに選り好みするなぁ……個人的にどうにでもできる範囲の物が欲しいって事でいいか?」
「そうね、装飾品にしても小数点のカラットで十分だわ」
「わかった、とりあえずその辺は用意しておく。マリア、いくつか頼むわ」
「かしこまりました」
マリアが一礼してから部屋を出る。
装飾品を用意しに行ったのだろう。
といっても素材ぶち込んで混ぜて固めて完成だから味気ないもんだけどな。
そんなに時間もかからないし。
「あぁ、この辺の茶葉とかもいいかもしれんな」
ふと思って手に取ったカップを掲げる。
人工重力区画だから普通にカップでお茶が飲めるのだ。
通路なんかはオンオフ切り替えできて、客室や応接室は基本オンで固定されている。
コックピットはその時の状況に合わせて都度変更されるようになっている。
「茶葉? なにかあるの?」
「ん? いや、単純に品種改良を重ねた代物でな。宇宙でも高級品の部類なんだが今回は数千kg持ってきてる。それも土産じゃなくて個人的な嗜好品として」
水は宇宙だと意外と採掘できるんだよ。
氷でできた小惑星とかあるから。
それをろ過したり、あるいは船内で循環させた水を使って緊急時でも数年は飲み水に困らない生活ができる。
食糧生産は流石にホワイトロマノフだと俺とメリナの分で精一杯だが、並の宇宙船ならクルー全員が飢えない程度に用意できるし、酸素も合成されるから問題ない。
宇宙で遭難した時は難破船を捜せと言われるくらいだ。
「効能としては冷え性肩こり腰痛などの改善、まぁ血流の改善からくる結果なんだが、カフェイン入りとカフェイン抜きがある。あと利尿作用も調節できて、肌艶にいい成分が多いな」
「ぜひくれないかしら!」
「待て待て、話は最後まで聞け。副作用があってな、いや副作用というべきかわからんが……具体的に言うと生理痛が軽くなるのと、妊娠しやすくなる効果がある。男なら精子が元気になって数を増やす。この辺は亜鉛とか補充してくれるからだ。個人的に船に乗せてるのも食料が切れても出涸らし茶葉10回使っても効力落とさず栄養摂取できるからだな。そのまま食ってもいい。あとは遺伝子強化。具体的に言うと劣性遺伝子でも子供に遺伝しやすくする効果がある。茶葉だけでこの性能で、木は土壌改善の効果が高い。放射線や塩害も問題なく育つし、砂漠でも普通に成長する」
「……すごく魅力的だけど、育ち過ぎが怖いわね」
「そこら辺はコントロールできるから大丈夫だ。主になる幹をカットすれば成長範囲を止められる。枝もそれに合わせて伸びる範囲を決める。そして何より茶葉は年中とれる」
「苗と茶葉を譲ってもらえるかしら?」
「よろこんで、大使殿」
「やめてよ、私はただの公安員。大使は他に用意するつもりよ?」
「残念だがあんた以外と今更交渉する気にはなれないなぁ。どうよ、こっちの要望であんたを窓口にしたいってのは。土産物の見返りじゃないけどさ」
「まぁ……そうね、医療関係とさっき言ってた採掘関係があれば十分すぎるでしょうね。それに下手な外交官立てたら欲の皮が張り裂けそうだし」
まぁ、札束どころか金塊でプレスできるからな。
「というわけで改めてよろしく、伊皿木大使殿」
「しょうがないわね……よろしく、アナさん」
よし、交渉成立だ。
ちなみにこの後地球では産出されない、作れない金属などで土台を作ったアクセサリーの数々を、これまた地球では加工できない透明な金属で作ったジュエリーボックスに入れてプレゼントした。
価値がわかる範囲で……まぁ日本とアメリカの年間予算くらいにはなるんじゃないかな。




