⑤ジャンル変更の危機
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⑤ジャンル変更の危機
染み取りを終えてピノはドレス姿に戻った。
「はぁー3人ともありがとー! 」
ピノは3人をハグしようとするが、コイフはフィオナに阻まれ女従者もさっと避けた。
「あれー? 」
「お召し物も戻りましたし、殿下がお待ちです」
女従者に促されてピノたちはメイクルームから出た。
40分くらい経っただろうに王子クロードは控室で待っていた。
「ああ、ピノさんドレスがすっかり綺麗になりましたね、本当に良かった」
「クロードサマありがとうございますぅ~」
ピノはワインの染みが付いていた箇所を蠱惑的に指でなぞってほほ笑んだ。
クロード王子は新しい服を着ていた。従者経由で返された上着はどこかに持ち去られてしまった。
「あの、クロード王子、先ほどの女性が言っていたのは王子の本名ではございませんか……? 」
コイフが淑女の礼をしてからクロードに話しかけた。
「コイフちゃんがねー苦労してシミとってくれてたの~自分も濡れちゃうのに」
ピノが笑って言う。
恩は返す女のようだ。コイフとクロード王子の縁を繋いでくれた。
「ああ、コイフ王女、聞かなかったことに……といっても無理だろうね、そうだよ、私の本来の名前はクラウディウス、気軽に明かして良い名では無いのだが……」
クロード王子は困ったように言う。
「失礼ながら彼女は王子のお知合いですか? 」
「ああ、婚約者のミリー・ドロップス公爵令嬢だ、そしてクラスメイトでもある」
「なんであんなに怒っていたんですか? 」
フィオナが聞く。
道すがら4人は話ながら講堂に戻る。
「わたしぃが気に入らなかったみたぁい」
そりゃそうだろうな、とフィオナは思う。
「ピノ嬢がクラスメイトとして挨拶に来てくれてね、ミリーはそれが気に入らなかったようだ」
クロード王子は『クラスメイトとして』の部分を強調して言った。
「ちぇ~王子つれない~」
当事者のピノはケラケラ笑っている。
「そうだったのですね、ピノ、ミリー嬢に謝った方が良いかも知れないのよ」
「う~ん、コイフちゃんが言うなら謝ろっかなぁ~」
一切反省していない口ぶりでピノが言う。
真相としてはこうだろう。
ピノがクロード王子を誘惑しようと声をかけ、クロード王子が対応をして、それをミリー公爵令嬢が見て浮気だと思った。
コイフとフィオナは目くばせした。
それはピノが悪い。
でも激高してジュースをかけ走り去るなんていうのは公爵令嬢のやる事ではない。
これはミリー公爵令嬢が悪い。
ミリー公爵令嬢の方はクロード王子に叱ってもらうとして、ピノも頭の悪い女ではない。ただちょっと性に奔放なだけである。
「ピノはクロード王子にちょっかい出しちゃだめなのよ」
コイフがコソッとピノに言う。
「ええ~1回王子サマにオアイテしてほしかったなぁ~」
早くもピノの奔放さが炸裂している。
「メっなのよ! 」
「は~ぁ~い」
ピノは聞いていない様な口ぶりで了承した。
講堂に着く、ドアをクロード王子の御付きが開く。
「どうぞ」と言われてコイフは急いで順番をセッティングする。
『身分の低い者は早く、身分が高い者ほど遅く』が社交界のルールであるとコイフは習っていた。
「まずピノがいいのよ! さっき騒がせたこともあるし! 次は次席だったフィオナね、その次にわたし、最後にクロード王子なのよ! 」
「はぁーい」
「わかったよコイフ」
順に再入場する。
「ではクロード王子今宵はこれで失礼致します、また教室でお会い致しましょう」
「ああコイフ王女、また」
コイフはクロード王子に礼をすると、スカートを持ち上げて淑女の礼をしてから再入場する。
クロード王子が再入場して扉が閉められた。
たちまちクロード王子は人垣に飲み込まれてしまった。
楽団が奏でる音楽が変わった。
中央のスペースの空いた場所で教師陣が踊り出した。
つられて踊りの経験があるものは近くの異性に声をかけて踊り出す。
王都の人間は比較的こういう場に慣れているようだ。
「フィーたん踊りましょうなのよ! 」
「うん! 」
フィオナと手をつないでリズムを取る。
「コイフ、踊りなれてるすごー! 」
フィオナは目をキラキラさせて感動した。
「やめるのよ、ほら初めのステップを覚えるのよ! 」
「あ、早い早い、待って」
フィオナは速攻で教えてもらったステップを覚えて、ふたりホールの隅で踊った。
「ねぇ見てフィーたん、王子と踊ってるの、さっきの子なのよ」
「あ、ほんとだ、確かミリー様だっけ」
ストロベリーブロンドの美少女はコイフとフィオナのクラスメイトだ。
確かクロード王子の隣の席に座っていた筈だ。
「ねぇフィーたん」
「なーにコイフ? 」
「フィーたん王都で公爵令嬢だったんでしょ」
「赤ちゃんの時だけね」
「……じゃあクロード王子もあのミリー公爵令嬢も、親戚なんじゃないなの? 」
「あっ……そうかも! えっと私の叔母さんにあたる人が世代交代して、その息子が今の王様だから、その息子のクロード王子は……甥っ子じゃん‼‼‼ 」
フィオナが乏しい世間の情勢を必死に思い出しながら答える。
「ふむ、クロード王子の親戚にあたる公爵家なのだから、ミリー嬢はフィーたんの姪になるのかしらなの」
「わぁ、親戚かー全然気付かなかった」
フィオナは自分を生粋の一般ピーポーという感覚でいた。
「絶対にバレないようにしないとなのよ……」
「そうだね、すっかり忘れてたよ、ありがと」
コイフとフィオナは踊りの輪からすすっと抜けた。
「うふふ、こんな大きなところでドレス着て踊るなんて、前世じゃできない体験だったよ、楽しかったね! 」
フィオナがくすくす嬉しそうに笑った。
「フィーたんと踊れて楽しかったのよ、ああ、お腹減ったのよ……」
コイフのお腹が悲し気に鳴いている。
瞬時にフィオナは(コイフのお腹の音尊い! 可愛い! )と思った。
「そっか! 食べてないのか! ご飯取ってきてあげるね」
コイフには皿に大盛りに盛ってくるフィオナの未来が見えてクスっと笑った。
「いいなのよ、一緒に食べに行きましょう、夕飯は一緒に食べたいなのよ」
コイフとフィオナは連れ立って食事を取りに向かった。
料理は右から順に、お皿とグラスは左手で、一皿には『少量』を『二種類』まで、料理の温度でお皿は分ける、一度使った皿は使わない。
そして何より『パーティーでは交流しなければならない』。
一人でいたらダメなのだ。
コイフはフィオナに立食のマナーを教えた。
「せっかくのご馳走に集中したくならん? 」
「それでも人のいる立食テーブルに行って交流するのがマナーなのよ」
「鋼の心をもたなければいけないね……」
フィオナは2種類しか料理が乗っていない自分の皿を寂しそうに見た。
ともあれコイフはフィオナと一緒に、立食用のテーブルで一緒になった人に積極的に挨拶をした。
先輩や教諭、招待客、疲れはしたが広く顔を繋ぐことに成功した。
ここで人見知り疲れを発揮するフィオナである。
「なんか……目ぇ回って来たかも……」
へたり、と壁際に用意された椅子に座り込んでしまう。
山奥から一人出てきて初めての社交の『授業』がこれだ、疲れてしまうのも無理ない。
会場には同様に一般入学の生徒がへたり込んでいる姿が見てとれた。
「なんだか歪だわ」
コイフが言う。
「魔力を持つ貴族が入る学校だからって貴族に合わせすぎてるのよ、なんだか貴族社会に慣れさせようとしているみたいで歪なのよ」
コイフがフィオナを介抱しながら悲しそうな顔をして言う。
「なんでも魔法で回ってる世界だし、ここの学生は将来を最前線で担う可能性高い人ばかりだからじゃない? 」
フィオナの言葉にコイフは納得した。
「フィーたん冴えてるなのよ」
きゃあああ――――‼‼
突然悲鳴が講堂に木霊した。
「またぁ? なに? 」
「なんなのよ⁉ 」
悲鳴の先、ホールの中央。
そこには黒い靄の様な何かが居た。
それは近くにいた男子学生にすぅっと吸い込まれていく。
すると狼狽していた学生の様子がおかしくなり、びくっびくっと痙攣してよだれを垂らした。
「うう……あぐっ」
学生は体を掻きむしり、涙を流す。
転げるように立食テーブルにかけていく。
「なんか様子変じゃない? 」
フィオナが追っていく。
テーブルに着くと学生は調理ナイフを手に取り体に突き刺した!
「きゃああああ‼ 」
「キャあああやだぁ‼ 」
悲鳴と共に血しぶきが飛ぶ。
状況を見た学生達が驚き、悲鳴をあげたのだ。
様子のおかしい男子学生はなおも自分の体をナイフでひっかいていく。
「君、やめなさい‼‼ 」
いかつい白髪ひげもじゃの男性が魔法を発動し、何かを学生に放った。
それにぶつかった狂乱の学生はがくん、と膝から倒れ落ちて地に突っ伏した。
そして静寂が訪れた。
狂乱の学生は動く様子はなく、彼にかけよった教師陣が彼を取り押さえ介抱を始める。
魔法でカーテンを現場に張って目隠しをした。
「懇親会は終了です! 学生一同はお帰り下さい! 」
教師が壇上で説明し学生を順に誘導して会場から返し始める。
こうしてドレスパーティーは終わったのだった。
「ただいまです」
フィオナがオリーブ館に帰ると、入り口でマキ寮長が待っていた。
「ああ、フィオナさんおかえりなさい! 怪我はなかったですか⁉ 」
マキはフィオナにかけより身辺を確認する。
「大丈夫です、無傷ですよ」
「ああ、良かったです、なんてこと……」
マキ寮長はほっとしてフィオナを抱きしめた。
「早馬で知らせがありまして、寮生が無事に全員帰って来るのを待っているんです、今日は部屋をしっかり戸締りをして、もう外出はしない様お願いします」
「ああ……はい、わかりました」
先程の事件の事だろうなとフィオナは察した。
「何かあればすぐ知らせてくださいね1階にいますから」
そうしてフィオナはマキ寮長と別れ2階に向かう。
セカイくんは社会霊になるため数日前から出かけている。
物置には可愛いドールハウスに、厚手の紙で庭が増設されていた。
寮スタッフの中には小物作りが得意の物がいるらしくセカイくんハウスは少し豪華になっていた。
誰もいない2階の自室にフィオナは帰った。
翌日、この日は本来なら学校でオリエンテーションが行われる筈だったが、急遽休日となった。
オリーブ館に学校査定官なる者が来て、ドレスパーティー(懇親会)で何をみたのか質問をしてきた。
フィオナも人除けをされた応接室に呼ばれ査定官に聞き込みを受けたので、見た通り正直に話した。
コイフも寮で聞き込みを受けているはずで、フィオナは一日オリーブ館に縛られることになった。
(あの黒い靄……あれが元凶だと思うんだけど、なんなんだろ)
フィオナは昨日の出来事を考えていた。
学校が危険なら授業は続けられないだろう。
コイフの無事を祈った。
(せめて同じ寮なら今もすぐそばにいれたのにな……)
いつもの習慣でフィオナは自分宛てのポストを確認する。
中には荷物が届いていた。
あて名はロード夫妻からだった。
フィオナは自室に戻り荷物の封を解く。
中には入学祝の手紙と可愛らしい服数着、小箱が入っていた。
手紙の内容を読む。
入学おめでとうの文句、塾の間フィオナの服が酷かったので可愛らしい外出着を送った旨、そしてミアから魔道具が届いた事が記されていた。
「……どこかで見てたのかな? まぁ服をコーデしてもらえるのは楽だし凄い助かる、で、あと魔道具……? 」
残された木箱を開ける。中には丸く磨かれた水晶と、それをのせた魔道具らしき台座が入っていた。
フィオナは台座の魔道具でよく見る起動スイッチを作動させた。
水晶から光が溢れ、壁に光が当たる。
壁から反射して光の中に立体的な映像を映し出した。
1年ぶりのミアの姿だった。
ミアは何か口を動かし手を振っている。
この魔道具は音までは記録してくれないようだ。
ミアの全身が映し出され、ぐるりと後ろを向き、また前に戻った。
そうして映像は終了して光は消えた。
「ミア、サンキュー……」
一年ぶりで少し成長したミアの姿を何度も見てフィオアは自身にかけた変装魔法を張り直す。
フィオナも少し身長が伸びたりして、最近はミアとオリジナルのフィオナの姿を部分部分張り合わせて使用していたのだ。
たまに知らない人に声をかけられる頻度が上がって来ていたのでギリギリだった。
「ひきしめて変装していくぞ! 」
「ううーーーバイト行きたいのよーーー! 」
一方パイン館ではコイフがうだうだしていた。
初めての社交界は突然のスプラッタで中止。
まだ挨拶出来てない人もいたのに。
しかも寮から出られないからフィオナにお弁当を届ける事も出来ずに暇を持て余していた。
新品の教科書を開いていても気もそぞろになってしまう。
「あの黒い靄……なんだったのかしら……」
パイン館にも当然、学校査定官が来た。
彼らは学内警備隊である。治安維持はもちろん犯罪が起こった時に素早く学校のもめ事を解決してくれる。
コイフも、フィオナと同じく見た物をそのまま話した。
夜会に参加していなかった者は何があったのか聞きたがり、参加していた者は不安になって引きこもったり、自慢げに話したりしている。
コイフは黒い靄に乗り移られた様になった生徒が心配で仕方なかった。
人間なら助かるはずの怪我だろう。
でも兎人なら死んでしまうかもしれないような怪我だった。
「ポーションが作れるようになりたいのよ……」
あんな時にバケツ一杯のポーションをぶっかけてやれたらどんなに安心できるだろう。
今日行われる筈のオリエンテーション内で、自分の魔法の得意属性を調べてもらえるはずだった。
コイフは治癒などの『癒し』の光属性ではないだろう。何故なら最初に発現した魔法が浮遊だったからだ。
大気を操る『奔放』の風属性か、重力や位置等の操作に優れた『支配』の闇属性のどちらかだろう。
聖女アユリや聖女エレノアの様に光属性が得意な者は珍しいのだ。
「わたしに癒しの手があれば……」
あの生徒だって癒せたかもしれないのに。
コイフは大きく頭を振った。
「なら……! 益々勉強なのよ! また同じことが起きた時にポーションぶん投げられるようになっておくのよ! 」
コイフは教科書に、向かい合う。
『薬学魔法』をきっちり3年学べば中級ポーションが作れるようになり、資格ももらえる、と配られたプリントには書いてあった。
「むしろ目標が出来たのよ! 異世界転生らしく転生無双でポーション作れるようになっちゃおう作戦なのよ! 」
コイフは「おー! 」とこぶしを掲げて、まずは地道に予習に励んだ。
夕暮れが近づいてきた頃、コイフは勉強を終えて夕飯にする事にした。
「集中して予習に励むことが出来たのよ」
コイフは両手をテーブルにのせて「んーっ! 」と足を後ろに伸ばして背筋をほぐした。
ふと机横の窓を覗けば、学校査定官と共に学校に向かっている見知った人物を見つけた。
「リンツ・ショコラ殿なのよ」
廊下でぶつかった美少年だ、供を連れて歩いて行く。
なぜリンツが?
コイフは窓を開け身を乗り出した。
ふいにリンツが振り向いた。
コイフとリンツの目が合った。
リンツは『内緒だよ』のポーズをしてそのまま去ってしまった。
「リンツ・ショコラ……謎系美少年……攻略対象っぽいのよ~~」
コイフはむふーと鼻から息を吐いて、ぴょこんと椅子に戻った。
謎が増えてしまった。
配布資料の事を『プリント』と呼ぶピノ。
兎人族の事を『うさぎさん』と呼ぶアユリ。
突然現れたイケメン達……。
「怪しいのよ~! 」
コイフは早くこの事をフィオナと話し合いたかった。
自分達の他にも転生者がいるのではないかと。
「んん? もしかしてあの靄って……エネミー??? 」
コイフはがばっと机に食らいつく。
藁半紙を引っ張り出して頭の中の物をアウトプットしていく。
パーティーで話題になった人物。
ピノ、ミリー公爵令嬢、聖女アユリ、聖女エレノア。
突然現れたイケメン。
リンツ、クロード王子、アユリにくっついてきた緑髪の男子生徒、エレノアにくっついてきた赤髪の男子生徒、それからもしかしてディートリヒ教員。
エネミー???
他人にとり憑く黒い靄……。
そして光の聖女がふたり……。
「ここが乙女ゲームの中だなんてあのうさんくさい白ハゲ神には言われてないけど、もしかしてもしかしてこれは……! 」
恋愛イベントでは⁉
「あーーーーーー! 今すぐにでも話したいのよーーーフィーたーーーん! 」
恋愛ゲームの中に転生していたとしたらわたしはどうしたらいいの? この世界に終わりはあるの? ゲームが苦手だったコイフにはわからない。
ううう~~~と唸ってコイフは溜息ひとつ。
「……勉強するのよ」
ここがゲームの中だとしても、コイフは当面誰とも恋愛する気はない。
フィオナと一緒に居られたらそれでいいのだ。
その為にとりあえずは勉強だ。
コイフは意図せずガリ勉の道をひた走っていくのであった……。
パーティーから数日経ち、学校は落ち着きを取り戻してようやく校舎が解放された。
寮の掲示板に張り出された紙に、本日からまた学校に通える旨が書いてあった。
寮からの外出も許可された。
「フィーたん! 来たのよ! 」
コイフは朝イチでフィオナの部屋に窓からやってきた。
「コイフー! 」
フィオナもコイフに気付くや窓を開けコイフを抱きしめた。
「久しぶりなのよ、多めにお弁当作ったから食べて欲しいのよ! 」
「食べる食べる! 」
コイフは部屋にあるミニテーブルにお弁当を広げていく。
いろんな食材がつまったクラブハウスサンドだ!
「うわあ、美味しそー! 」
フィオナの目が喜びで煌めいた。
「急いでお茶入れまーす! 」
フィオナは水道の水を耐熱容器に入れ、魔法で容器を加熱する。
すぐにぽこぽこ水が沸騰し始めた。
「魔法で水を創り出す事も出来るけど、それは何か嫌なんだよね、飲食物は自然から取れたものが良いよ」
フィオナが手際よく紅茶を淹れながら言った。
「わかるのよ、教科書にも物質を創り出す魔法は人によって違うと書かれていたわ、空気中の水分を抜き出したり、自分の体の水分を抜き出したり、魔力を変換して水そのものを精製したり、出所は術者にもよくわかっていない事も多いのよ」
「そうそう、同意してくれて嬉しい~」
食事の準備が整い、ふたりは朝食を食べ始めた。
「早く学校が落ち着いて良かったのよ、2人分の食材が無駄になるところだったのよ」
「ほんとにね、痛む前に牛乳も飲み切らないと! 水筒にロイヤルミルクティーとロイヤル珈琲持ってこうね」
「それはカフェオレっていうのよ、言いたい事はわかるのよ」
コイフは小さい手でコップを持ち優雅に紅茶を飲んだ。
「しぐさが綺麗ー」
「お姫様だからなのよー」
「真似しますわ」
フィオナもコイフを見真似て紅茶を飲んでみた。
「そういえばフィーたん、目と髪の色変わったなの、他にも何か違うなのよ」
「お、気付いてくれたか! モデルにしてるミアから映像届いたから、変装魔法を更新したんだ」
フィオナが成長するように、ミアも身長が少し伸びて、顔も少しだけ大人っぽくなっていた。
そのままミアの柔らかい亜麻色の髪と透き通るような空色の瞳、そして成長した全身を真似させてもらっている。
「私はフィーたんをすっかりミアさんの姿で覚えちゃっているのよ、可愛い人だと思うのよ」
「ありがと、いつか一緒に会いに行こうよ」
「あら、紹介してくれるなんて光栄なのよ」
コイフとフィオナはクスクス笑い合った。
食事をしながらコイフは現状がさながら乙女ゲームの世界のようだという話をした、フィオナもサンドイッチを頬張りながら概ね同意してくれた。
「ゲームの中に転生するなんて聞いてないなのよ」
「白ハゲは『星』って言ってた気がする」
言われてみれば確かにコイフもそう聞いた覚えがある。
転生先は『異世界』で『どこかの惑星』なのだろうとぼんやり思った事をコイフは思い出した。
「とにかく誰が転生者で何が目的なのか突き止めたいのよ」
「転生者ですか~? とか聞きずらいしな」
フィオナは自分も無双しに来た転生者なのを棚に上げて考える。
「どうすれば自然に聞けるかな? 」
フィオナの問いかけにコイフは胸を張る。
「一晩中考えて思いついた作戦なのよ! ズバリ! 仲良くなっちゃえばいいなのよー! 」
とコイフは胸を張ってドヤった。
「仲良くか……面倒だなぁ」
「もう、フィーたんは相変わらず腰が重いのよ、クラスメイトなんだから普通に仲良くなればいいのよ」
「そういうの得意じゃないって知ってるくせに」
コイフは最後のサンドイッチを手に取ってクスクス笑った。
「社交はわたしにお任せ! なのよー」
「まかせた」
フィオナも手の中の一切れを大きく口を開けて頬張った。
自分達の知らないなにかが起きている気はする、しかし、それ以上の情報も無いので結論は現状維持となった。
食後フィオナは身支度をして、制服に着替える。
「あらフィーたんその服どうしたの、可愛いなの! 」
コイフはいつもと趣が違うフィオナの服に目がとまる。
「両親から服届いたんだ、私がこうだから外用の服見繕ってくれたの」
「凄く可愛いなの! 今どきの子が着てるちゃんとした服なの! 」
本日フィオナが着ているのは流行にのったデコルテが開いていて後ろに布を絞り、リボンとウェーブ状に布を流したドレスだ。
よく王都で少女が着ているやつだ。
その上に学校指定のブレザーを羽織って、下はドロワーズとニーソックスを履いた。
「このレースの管理が面倒なんだけど、せっかくだから今日はこれで行こう! 」
あとなんかフリルの付いた帽子とか、全身合わせて用意してもらったのでそれらも付ける。
空を飛んでも外れないようにコイフにヘアピンでとめてもらった。
いつものように飛んで学校に向かうと、今日は他者も空を使用していた。
鳥獣人の男子学生だ。小柄な体にヒトの背丈より大きな翼が生えている。
白い頭に黄色くて鋭い嘴、キリリとした金色の瞳にこげ茶の全身羽毛だ。
「おはようございます」
フィオナがはなしかけた。
「おはようございますなのよ」
コイフもつられて挨拶をした。
「え、あ、おはようございます⁉ 」
男子学生は驚きながらも挨拶を返してくれた。
「すいません、王都では車以外で空飛んでる人あまりみないので声かけちゃいました」
「あー、そうでしたか、確かに少ないですね僕も空飛ぶ獣人以外で人が飛んでるの見た事なかったです」
彼は金色の大きな鳥目を瞬かせて、長い首を伸ばして、羽毛が艶めいている。
魔法学校のブレザーを着ていた。
空気の流れに乗って飛び、バサッと音を立てて翼が空気を叩いた。
「はー見事な羽ですねぇ」
フィオナが関心する。
「どうも……ありがとうございます」
男子学生は照れたのか軽く挨拶をして速度を上げ学校に飛んで行った。
「翼カッコいいねぇ、うらやましいな、私も羽生やしたい」
「フィーたんは変なとこコミュ強なのよ」
そうしてコイフとフィオナも学校に着いた。
直接自分の教室に向かったが、窓の鍵は魔法で内側からしか開けられないようになっている。
「前世のクレスト錠なら魔法でちゃちゃっと開けれちゃうのになぁ」
「フィーたん品がないのよ、諦めて玄関から入りましょう」
地上に下りると学校に植えられている春の花が香った。
「あー良い匂い」
「学校の庭は見事なの、そこかしこに庭師さんが居て気を使ってるのがわかるのよ」
整備された道以外はどこにでも花や何かしらの植物が生えている。
100年以上かけて作ってきた庭だ。
「一部は一般開放されてるから、学校は儲かっちゃうね」
フィオナは今日も金の話をした。
「コイフちゃん、フィーちゃんおはよぉ~」
フィオナは後ろから抱き着かれた。
声と嗅いだ事のある香水でわかる、ピノだ。
「ピノおはようなの」
コイフは淑女の礼をした。風で耳が揺れて可愛らしい。
「おはよう~」
萌え袖のピノが手を振った。
「おはようございます、ピノさん急に抱き着くのやめてください」
フィオナが睨む。
「お~ごめんごめん、フィーちゃん可愛いからついつい」
ピノはクスクス笑った。
「フィーたんは小っちゃい女の子なの、可愛いのよ」
コイフがうんうん頷く。
「いやいや、コイフちゃんも小っちゃくて可愛いじゃん」
ピノが突っ込んだ。
クスクス笑っていると「おはよう、気持ちのいい朝だね」と話しかけてくる男子生徒がいた。
「あら、クロード王子、御機嫌よう」
「おはようございます」
「王子サマ、おはよぉ~」
コイフとフィオナとピノが挨拶する。
クロード王子の傍らにはピンクブロンドの美女がいた。
(あ……、これは……)
(なのよ……)
フィオナとコイフは目くばせした。
「紹介するね、私の婚約者のミリーだよ、ミリー、彼女達は東兎人
国のコイフ王女、それからフィオナと、ピノだよ」
「改めて初めまして、ミリーとお呼びくださいませ」
クロード王子の婚約者は完璧な淑女の礼をした。
「ミリー公爵令嬢、わたくしはコイフ・東兎人国と申します」
「フィオナです」
ふたりの自己紹介にミリー公爵令嬢は軽くうなずいて応える。
公爵令嬢としての『品格』は完璧だ。
「そこのアナタ、先日は失礼いたしました、お詫び申し上げます」
ミリー公爵令嬢は頭を下げた。
「わ、えっと、こちらこそごめんね? なかよくしよー」
ピノが答えた。
ミリー公爵令嬢は顔を上げて完璧にほほ笑んだ。
「ええ、クラスメイトとしてよろしくお願いしますわ」
(空気が怖いけど、これで一件落着カナ? )
フィオナが息をはいた。
ミリー公爵令嬢もまた、美しい女性だった。
少しウェーブがかったピンクブロンドの長髪は甘く魅力的で、横の髪が短く整えられている洋風姫カットだ。
顔立ちは整っていて、つり目が勝気そうな印象を受ける。
体は令嬢としては珍しく健康的な筋肉に、整ったボディラインでいろいろ恵まれていた。
王族特有の美しい碧眼はクロード王子とおそろいだ。
細かいレースにつつまれた繊細なブラウスには髪の色に合わせてピンク色の宝石が散りばめられている。
ドレスの上にはダークグレーのジャケットをかっちり着ている。
スカートは下に骨が入っていて膨らんで端に大胆なレースが縫われていた。
(クロード王子もこうやって落ち着いてみるのは初めてだなぁ)
フィオナはミリーを見上げていたが、隣の王子にも視線を移した。
因みに目線はフィオナよりコイフの方が低い。
クロード王子は典型的な美しい王子の外見だ。
金髪碧眼、丸くカットした髪、前髪は少し横に流している。
手足が長いくせに頭は小さく繊細な顔立ちで、瞳は大きくまつ毛は長く、顎は意味わからんほど小さい。
彼は王子なんですって紹介すれば誰もが『わかる』と答えそうな見た目だ。
服装は上下学校指定の学ランをしっかり来ていた。
入学式で着ていたマントはどこにいったのか。
学ランの下は良いインナーを着ている様で袖から見えるブラウスはボタンも象牙風の高そうなヤツだ。仕立ての良さをコイフとフィオナは見逃さなかった。
適当な会話をしながらコイフ一行は玄関を通り教室に向かう。
通路やあちらこちらに学校の警備員(こちらは査定官とは別部署だ)が立っていた。
コイフは否応なく先日の出来事を思い出す。あの学生は無事だろうか。
(まさか自分が王子のとりまきになる日が来るとはな……それよりコイフはやっぱり仕草が優雅! 可愛さもあいまって最高! )
とフィオナは感慨深く思った。
教室に着くとまだ生徒はそんなに来ていなかった。
「ショコラ殿、おはようございます、早いのね」
既に教室についていたリンツ・ショコラにコイフは挨拶をした。
「ああ、コイフさんおはようございます」
リンツが振り返ると艶のある黒髪がさらりと揺れた。
「はー美少年! コイフちゃん紹介してよー」
ピノが食いついてくる。
(やめろコイフに迷惑をかけるな)
と思いながらフィオナはピノを羽交い絞めにしてコイフから遠い席に座らせた。
「はわわわわフィーちゃん凄ーい」
けらけらピノが笑う。
「姦淫するならコイフを巻き込まない適当な奴でお願いします! それなら止めませんから! 」
フィオナが小声でピノに叱る。
「うーわかったよ、後で自分からショコラ君に話しかけるよぉ」
ピノは残念そうに指で唇をめくった。
(リンツは15歳前後に見受けられるけど、まぁ従者がいるから大丈夫でしょ)
因みにこの世界で同意のない性行為はあちこちに貼られた防犯魔法で出来ない様になっていて、お互いの合意の元行われ、神の祝福のもと子を授かると言われている。
これを知った時フィオナは(優しい世界やったー! )とガッツポーズをした。
今日は流れでリンツ近くの席にコイフとフィオナは座った。
ピノは遠くで別の貴族男子を口説いているので放っておく。
しばらく待って、学生が集まり出し、時計塔の鐘が鳴った。
教室に担当のディートリヒ・デツェン侯爵がやってきた。
「おはよう諸君、しばらく休校となっていたが再会できて喜ばしく思う、知っている者もいるだろうが、先日の懇親会でトラブルが起こった、が、問題ないと学校は判断した、妙な事はしばらく起こるかも知れないが、落ち着いて近くの警備員か査定官に伝えるように」
そう言って担任のディートリヒ教員は今日のオリエンテーションの説明を始める。
「まず身体検査、学校案内、そして部活やサークルの紹介だ、時間になったら順に医務室へ呼ぶから、それまで全員ここで待機だ」
またも木箱から魔法で印刷物が学生達に配られる。
書類には身体検査の合意サイン、学校内の地図、部活とサークルの一覧と紹介文が記されていた。
次にディートリヒ教員は貴族の男子学生の名前をあげ医務室に連れて行った。
といっても呼ばれない貴族男子生徒もいる。
ディートリヒ教員が言うには既に主治医によって身体検査を済ませ学校に検査結果を提出しているのだそうだ。
クロード王子やリンツ・ショコラ等がそれである。
「これコイフが先に呼ばれるパターンだよね? 」
「だと思うのよ、まーた貴族と一般人を分けてるのよ、多分着替えの時間込みなのよ」
「部活とサークルって何が違うんだ? 」
印刷物を読みながらフィオナが訊ねる。
「ここに説明が書いてあるのよ、部活が学校公認、サークルが学生が自発的に活動している集まりなのよ」
そんなおしゃべりしてるとディートリヒ教員と貴族男子生徒が戻って来た。
予想通り今度は貴族女生徒を連れて行った。
「フィーたん行ってくるのよ」
コイフは小さな手を上げて席を立った。
フィオナは寂しそうに見送った。
医務室は警備員に入り口を守られていた。
ドアを開け貴族女生徒達とコイフは室内に入った。
医務室の医者は絶世のイケメンだった。
丸眼鏡が似合うナイスミドルだ。
相棒の右京さんタイプとでも例えようか、それにファンタジー人物特有のカラフルさ、艶が足されている感じである。
それと女性看護師が2人挨拶をした。
広い医務室には個室へ続く扉がある。
名前を呼ばれ、順に個室内で身体検査をするようだ。
従者のいる者は主人と一緒に入っていった。
医務室に置かれた待機用の柔らかい椅子に座りコイフは他貴族女生徒と待っている。
「東兎人国コイフ王女、こちらへ」
看護師によばれた。
コイフは「はい」と答え個室へ入っていく。
入ってすぐに更衣室がある。
「お着換えお手伝いします」
と看護師がスムーズにコイフのドレスを脱がして衣類かけに丁寧にかけてくれた。
服や靴も脱いで検査着に着替える。
ドレスをかける頑丈なトルソーや大きな着物を掛ける衣類かけがあった。
貴金属は金庫に入れておきますと言われたのでコイフはネックレスを預けた。
検査着は大きめの布に紐が付いているざっくりとした物だ。
コイフの胴体には布が余ったが看護師が紐で上手い事つめてくれた。
着替えが済むとコイフは看護師と更衣室から出て医者の前に座り問診を受ける。
「はい口開けて下さい」
「ぷぁー」
コイフは髭を全部外に向けて頑張って口を大きく開けた。
途中鼻がプスプス鳴ってしまう。
「噛み合わせどうですか? 少し伸び気味かなぁ、硬い食べ物頑張って食べて下さいね」
「わかりました」
確かに、最近は王都のヒト族向けの食事ばかり摂っていたなぁとコイフは反省する。
しかし、国で主食で食べていた硬い干し草などはどこに売っているのだろう、とコイフは思う。
「兎人の主食を扱っているお店ご存じありませんか? 」
「すみません、そういったことは存じ上げませんで」
「そうですか……」
コイフは今度、大使館のヴィタお兄様を訪ねようと決めた。
その後は一通り一般的な検診を受ける。
内臓を見るときは聴診器を使わず医者がコイフの胴体に魔法を放ち、異常が無いかスキャンしていた。
人種によって骨格が違うので、種族毎に身長の測り方が違う。
兎人族の背骨はデフォルト人間より少しカーブしている。
強くスプリング出来る足は普段は真っ直ぐ伸びていない。
コイフは上半身をメジャーで測って貰った後、椅子に座らされ、伸びをするように足を限界までのばした状態で足の長さを測ってもらった。
コイフは自分の身長等の数値を見るのが好きだ。
自分の数値をチェックする。
(ふむ……前より身長が伸びたのよ)
因みにコイフは普通に立った状態で地面から耳の長さを足して1メートルである。
フィオナは現在140センチほどだ。
最後に血液を少し抜いて検査は終了した。
コイフはきちんと着替え、その後は全員が終わるまで医務室で待機していた。
全員終わると担任ディートリヒ教員につれられ教室に戻った。
いつの間にか黒板に学内地図が書かれている。
待っている間ディートリヒ教員が書いたようだ。
学生通行禁止区域や、時間外進入禁止の場所が記されていた。
コイフと交代でフィオナ達一般女性徒が連れられて行く。
コイフはもらった学内地図の印刷物に黒板の情報を書き足した。
一方フィオナは変装魔法を解いて医者、看護師一同の度肝を抜いたのだった。
その後は一般男子生徒が連れて行かれ身体検査はおわった。
(これで魔力属性がわかるのかしら、わくわくだわ!)とコイフは思ったのだった。
次回は5月9日の投稿です




