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④入学式

④入学式


王都『メニード』にも桜はある。

けれど東兎人国ひがしうさひとくにのように並木にはしないようだった。

魔法学園の庭園に一本植えられている立派な桜には、オオグイケムシが1匹も付いていなかった。

それでも草木は萌え、花開く季節である。


気持ちのいい青空と目が覚めるような若葉の下、コイフとフィオナは『入学式』の為に講堂に向かっていた。


コイフはダークグレーのローブと三角帽子を被っている、下は成人式の日に着た黒のインナードレスとピンクのドレスだ。

フィオナはダークグレーの外套にブレザーと短パン、白のブラウスに赤紫のリボンタイ。二―ハイソックスと皮のショートブーツを履いている。


「そういえば入試、一文字書き間違えちゃったのよ、あれは引っ掛けだわ! じゃなきゃ満点だったのよ…」

「私は実技満点だったよ、コイフのおかげかな」

「なにがなのよ? 」

「魔法使う時に声かけた」

「それなのよーーきっとそれで満点だったのよー、フィーたん、わたし鼻が高いのよ」

「そうよーコイフのおかげなのよー」

フィオナは褒めながらコイフの鼻の頭をこちょこちょくすぐった。

「ふむん、なのよ……」

コイフは気持ちよさそうに目を細めた。

フィオナは(毛並みさらさら! )とコイフの毛並みに感動した。




コイフとフィオナは組み木のタイルの渡り廊下を渡って、講堂に着いた。


中は既に新入生が漫然と群れていた。

あらゆる人種がいるが、王都だからか人族の人数が多い様だ。

「ペンギンさんの群れみたいなのよ」

「私達はこの辺に居ようか」

フィオナとコイフはスペースの空いている後ろの方に移動する。

「背が低いから見えないのよ」

コイフは浮遊魔法ですこし浮かんだ。



そうしていると突然、眼前のペンギン、基、新入生の群れが前に動いた。

「わぁ! 見やすくなったのよ」

「どうしたのかな? 」

コイフとフィオナも続いて前方に行き目を凝らす。


壇上に男性がふたり上がっている。

校長先生らしき魔法使いと一緒に出てきたのは、金髪に青い目でスタイルの良い、王子様みたいにかっこいい男の子だった。


「わぁ! 絵本の中の王子様みたいなのよ! 」

制服のダークグレーのマントを翻す姿も様になっている。


「新入生諸君、この度は入学おめでとう、儂が校長のバートン・ジックマーである」

と校長先生らしき魔法使いは挨拶した。

「狭き門を潜り抜けて、我らが名門、王都魔法学校によくぞ参られた、いずれは国を背負って立つ大魔法使いになってほしい、諸君らの成長に期待しておる」

では、とバートン校長先生は一歩下がった。

「主席代表挨拶! メニード王国、クロード王子」


金髪の少年が前にでると生徒の群れから「わぁ! 」と歓声が上がり更に前の方に詰めていく。


「本当に王子様だったのよ」

「あのゲームのキャラに似てない? 」

「え、どれなのよ? 」

「和風ブラウザゲーの……」

「あぁ! 思い出したのよ、めちゃくちゃ似てるのよ! 」

新入生が盛り上がるのと同時に、コイフとフィオナは全く別の事で盛り上がっていた。

勿論風魔法で完全に防音したおしゃべりだ。



「首席代表として挨拶させて頂くことになったクロード・メニードだ、今日の良き日に新入生として名門王都魔法学校に入学出来た事を誇りに思う、そして新入生諸君らにも誇りに思って欲しい」

「諸君らとは今日から共に学び舎で過ごす、バートン校長並びに教授方には世話になる、よろしくご指導頼む」


コイフもフィオナも呆けてその挨拶をきいていた。

「ほえーなにあれ」

「殿上人なのよ」

ふたりは気付いていなかったが、王子クロードとは首席を争った仲であった。

コイフが書き間違えた文字を王子も書き間違えていたし、王子も魔法実技で満点をとっていたのだった。



「ねぇコイフなんだか受験の時よりも人が多くない? 」

フィオナの問いかけにコイフは「ふーヤレヤレそんなことも知らないのね」という顔をしてドヤって答えた。

「王都の貴族の魔力持ちは全員強制的に入学させられるのよ、だから貴族に入試は必要ないなのよ、でも王族だけは毎年首席を取る為だけに試験を受けるなのよ、王宮でだけど」

コイフはエッヘンと胸を張って、フィオナは「えー、なんだそれ、ずるくね? 」とぷりぷり文句をたれた。


王子が壇上から下りると王子を近くで見ようと人だかりが出来て入学式は終了した。




その後、講堂の壁に大きく貼られた教室分け表を確認して、コイフとフィオナ含む新入生達は自分の教室に移動していった。


コイフとフィオナの教室は同じだった。

嬉しい偶然だ。とふたりは思った。


「これで毎日一緒にいられるね♪ コイフー」

フィオナがコイフにすり寄った。

「フィーたん外では気軽に触らないでなのよ、体裁というものがあるなのよ、王女たるもの他の人に舐められないようにしないとなのよ」

コイフが困ったようにフィオナの行動をいさめた。

「あ、確かに! 了解だよ」

フィオナがぴしっと敬礼した。

しかし顔はにまにまして嬉しさがこらえきれないようだ。

「でもわたしも授業が始まるのは楽しみなのよ」

にこにことコイフは笑った。




ふたりは初めての校内を他の同級生と共に移動する。

校内には、石造りの壁やレンガの壁、厚板の壁と、増設の跡なのか場所ごとに造りが違っている。

場所によっては生前見たケンブリッジ大学の様な美しい建築の部分もあるし。

ディス〇―ランドやU〇Jのようなカラフルな建築も見られる。

廊下は組み木の上に年季の入ったカーペットが敷かれていて、大階段には歴代の優秀な卒業生の写真や、古い物では肖像画が壁にかけられていた。

(雰囲気ばっちり! 魔法学校だー! )なのよー! )とコイフとフィオナは思った。




着いた教室は広く、日当たりが良かった。

石組みのアーチに木製ドアが取り付けられた入り口から入れば、正面の窓側はコンクリートで作られた新しい壁に引き違い窓が並んでいて、ガラスが嵌っている。壁は濃い色の木の壁で、コルクボードの様な物がいくつもぶら下がっている。

黒板の様に見えるのは魔法の掛かった石板だ。


室内にはテーブル付きの椅子がいくつも設置されていて、既にクラスメイトの学生は50人くらいが好きな席に椅子を運んで座っていた。

椅子は映画館の椅子のようにひじ置きにそって折りたためるようになっている。

ひじ置きにテーブルが付いており、少し重いが持ち運びも出来る。


床はテーブル付きの椅子を動かしても傷付かない石の造りで、模様のように組まれている。


コイフとフィオナは教壇に近い前方に、隣あって椅子を近づけ座った。

何故なら背が低いからだ。

フィオナはコイフの心配をして、警戒して他の生徒から1m以上は席を離すように気を付けた。


教壇がある方の壁沿いに大きな木箱が4個。封印のテープが張られて置かれている。

「あれはなにかしら?」とコイフは木箱の方に興味深々だ。


フィオナの方は教室を見渡した。

(彼らが同じクラスメイトの子達なんだなぁ)とフィオナは周りの人達を観察する。

結構美形ぞろいだ。

種族はヒト族が多い。

年齢は18歳前後が多いだろうか、フィオナはヒト族以外の人種の年齢と性別をあまり見分けれられない。

少なくともフィオナとコイフがぶっちぎりで幼い。

同じくらいの年齢の生徒はいないようだった。



あの廊下でぶつかったリンツ・ショコラという美少年もいた。

向こうもフィオナに気づいたらしく目が合えば、フィオナはにこりと会釈しておいた。




ざわざわと人の騒がしい声がして教室の外の方を向くと、なんと先ほど演説していた首席のクロード王子とそれに追随する人だかりが教室に入ってきた。


(あ、この王子同じクラスなんだ)というクラスメイト達の視線にひるまず首席王子は堂々と開いている席の一つについた。


王子と同行している者の中にブレザーとドレス姿の美しい少女もいた。

ストロベリーブロンドで勝気そうな印象を受ける。

彼女は王子の隣の席に座った。

王子たちの周りを従者らしき者達が椅子を用意し座る。

ちょっと高圧的だ。


フィオナは入試の時に書いた自己責任書を思い出した。

『自己責任書

本学校に入学するのは本人の意思であり、授業等でいかなる危険があろうとも、教員、職員、家族は責任を負わない』

(身分の高い人ほどがっつり護衛がつくのは当然か)

フィオナは自分とコイフの周りに強めの防御魔法をかけておいた。


「フィーたんは何故そんなに警戒しているなの? 」

「何かあるかもしれないじゃん」

「何もないと思うけれど……」



カランカランカランカラン


しばらくすると時計塔から高らかに授業開始の鐘が鳴り、男性教師が木製の小箱を抱えて教室に入って来た。



「諸君はじめまして、入学おめでとう、諸君らの教室を担当するディートリヒ・デツェン侯爵だ、爵位や苗字はここではいらん、好きに呼び給え」


20代後半から30代前半のヒト族の男性だった。これまた美形だ。

毛量の多い黒髪を三つ編みにしたり装飾を付けたりしたのを後ろで結んでいる。強気な態度も相まってワイルド系俺様イケメンに見える。しかし口調は偉そうながらも丁寧で女性からの票が取れそうだ、とフィオナは冷静に分析した。


ディートリヒ教員は教師の身分証明となる手帳をみせてくれた。


「私の担当授業は魔法生物学だ、受講する生徒はよろしく、それから知っているだろうが教室の部屋分けは成績順だ、重ねておめでとう、」

つまりクロード王子がいるこのクラスは成績最上位者クラスということだ。


「注意事項として、この学園では授業以外での争いや他者を攻撃することは禁止されている、発見次第厳罰が下るのでそのつもりで、それでは点呼を開始する、呼ばれた者は返事をしろ、クロード・メニード! 」

「はい」

クロード王子が返事を返すと、ディートリヒ教員が持ってきた木箱から小さい革製の物が浮かんでクロード王子の元へ届く。


「生徒手帳だ、当分の身分証になる、大事な物だから在学中は絶対無くさないように」

ディートリヒ教員は念を押した。

「次! フィオナ! 」

「はい! 」

「コイフ・東兎人国ひがしうさひとくに! 」

「はい」

ふたりの元にも生徒手帳が届く。


フィオナとコイフは改めて学内の一人になった気がした。

手帳には持ち主の顔写真と名前、教室、校則等が記されていた。



点呼が終わると担任のディートリヒ教員は、教室に置かれていた木箱の封印を解き、クラスメイト達全員に魔法で配る。

入学案内や年間スケジュール、専攻教科の詳細など書類の束と基礎魔法学の教科書が数冊、封をされていた木箱から勝手に浮いて出て、生徒一人ひとりの元へどんどん届いていく。


「最初の一年間は全員、『基礎魔法学』を習ってもらう、例外なくだ」

専攻強化詳細の1ページ目に『基礎魔法学』と書いてある、コイフが教え処で習っていた内容より突っ込んだ勉強が出来るようだった。

コイフはプリントのざっくりした授業概要を読んでいく。

(各属性の魔術的考察と実技、なんだか面白そうなのよ)とコイフはワクワクした。


「それとは別で授業を専攻する事も出来る、ただし基礎魔法学と専攻両方の単位を納めなければならないし、授業の日時は被らない様に申請するように」


専攻は『魔法武術』や『魔法医学』『魔法錬金術』などといろいろある。


フィオナは考えた。

(ここで勉強して儲かる仕事に就きたい、儲かる仕事……前世の常識? でいくなら食いっぱぐれなさそうな『魔法医学』にするか! そうすると『薬学魔法』も強制で一緒に受けなきゃなのか、あ、この『生活魔法』てなにこれ面白そう、授業数も少ないし受けてみよ! )

フィオナは『基礎魔法学』と『魔法医学』、『生活魔法』、『薬学魔法』のスケジュールを組んでいった。


コイフの方は迷わず『魔法医学』の申請項目を書いていた。

以前から決めていた通り、ポーション作りを学ぶのだ。



そうして学生たちは書いた申請書を担任ディートリヒ教員に渡す。


「既定の日時までに全員申請書を出すように、なお定員割れした場合も再度申請書を出すことになるからな、それでは今日はこれで終了だ」

紙束をまた魔法で箱に移し、封をする。



「ああ、それから夕暮れから懇親会がある、古くからの行事で強制参加ではないが、参加すればいい経験になるだろう、普段は顔を出さない高名な魔導士の方たちも参加するからな」

そういって担任ディートリヒ教員は教室から立ち去って行った。



学生達も書類や教科書を自前の鞄につめてぞろぞろと帰っていく。

「ねぇ、コイフ! この後の懇親会ってダンスパーティーの事だよね! 一緒に参加しようよ! 」

うきうきしながらフィオナはコイフに話しかける。

「一緒に踊るのなの! 」

コイフがパァッと目をキラキラさせる。

「う、私ダンスはわからない……」

「おしえてあげるなのよ~」

「ほんとー? じゃあ頑張って覚えるね! 」


きゃっきゃと女子トークに花を咲かせながらコイフとフィオナは並んで帰る。

他のクラスメイトたちはドレスなど慣れ親しんだ貴族がほとんどなのでフィオナのテンションは浮いていた。



「うふふ~かわいぃ~、わたしぃもドレス楽しみよぉ~」

そんなコイフとフィオナに話しかけてくる人物がいる。

肩までのショートボブにゆるく着くずしたダークグレーのカーディガンとストラップドレスのミニスカート、ストッキング姿の少女だ。


「あ、わたしぃクラスメイトのピノ、よろしくねぇ」

うふふと少女は萌え袖の右手を口に当てて笑った。

「あ、どうも、フィオナです」

フィオナはコイフ以外には基本不愛想だ。

「初めましてなのピノ、私はコイフ! よろしくなのよ」

可愛らしく人懐っこい笑顔でコイフはもふもふ挨拶をした。



ピノはからは香水とも体臭とも違う、不思議な良い匂いがした。

スタイルがよく、かといって近寄り辛さもない、魅力的な少女だろう。


「わたしぃ貴族サマの多いクラスになっちゃってびっくりしちゃった、ベンキョーがんばったもんねぇ」

「懇親会に出られるのは成績上位者だけなのよ、ピノは着ていくドレス決まってるなの? 」

「ウン、受かってすぐにもらったプリントにかいてあったモン、可愛いドレス奮発しちゃったぜ~! 」

ぶい! とピノはポーズを決めた。

「ピノかわいいなの! ドレス楽しみなのよ~」

コイフも真似してぶい!とした。


「あはは、コイフちゃんかわいーさわってもいーい? 」

「お顔とお手々は良いなのよ」

「ではお言葉にあまえてーおお~! すごい肌触りきもちいー! 」

「ふむむん……」

コイフはいつもの調子でピノと打ち解けてしまった。


そんな様子を見てフィオナは思った。

(コイフに気軽に触って良いのは私だけだぞ! 気に食わん……こいつは同性に嫌われて異性に好かれるタイプだな)


実際ピノのカーディガンの下は、大きく背中の空いた襟付きのストラップドレスで、ミニスカートはプリーツで少女らしさもしっかり残している。

着崩して見えたうなじや、スカートとストッキングの間の肌に、クラスメイト男子は目を奪われながら帰宅して行っている。何人か前方にぶつかった。



「ピノはモテモテなのよ~」

コイフがムフフと悪戯っ子の様に笑った。

「えへへ~そ~でしょ~~あたしぃ、ぜったいこの魔法学校で千人切りしてみせるぜぃ」

「はわわ! ちょっとオトナすぎるのよ~! ミッドナイトなのよ~」

フィオナは断然不機嫌になった、もうコイフの手を引っ張って行ってしまおうかと思った瞬間にピノがふたりの元を離れた。

「じゃ、もういくね~、フィーちゃん、コイフちゃんまたね~」

ピノは引き際をわきまえている女であった。




コイフとフィオナは帰り道で今日の感想を言い合って盛り上がる。

「クロード王子の次にフィーたん呼ばれてたのよ! きっと次席なのよ! 」

「それを言ったらコイフだってその可能性あるよ~」

いつかあった過去の通学路の様に笑い合う。

「そうだ、専攻はなににしたの? 」

コイフに聞かれてフィオナは指を折った。

「えーっと、『基礎魔法学』と『魔法医学』と『生活魔法』と『薬学魔法』! 」

「わぁ! 『生活魔法』以外一緒なのよ! 」

「ほんとだ! 医者になったら食いっぱぐれなさそうだし、高給とりになれそうだなーと思ったんだ」

「理由が下卑てるの! でも概ねその認識でいいと思うのよ、故郷にはお医者様なんて全然いなかったのよ、お医者様は手足を生やせるって本当なのかしら? 」

「えーすごいなー! 生やせるようになりたい! 」

他愛ない会話をして二人は学生寮門の前で別れた。

「待ち合わせは貴族寮門ねー! 」

「なのよー! 」




夕方になり、約束通り貴族寮門前でコイフとフィオナは再び集合した。


「フィーたん! お待ちどうさまなのー! 」

「コイフ! そのドレス初めてみた! いつもと雰囲気が違って、凄く可愛いね! 」

東兎人国ひがしうさひとくにの民族衣装なのよ、正式な場で着るのよ」

今日コイフが着ているのは布を贅沢に使ったドレスで、兎人うさひとの伝統的な織物をなんと5枚も重ねていて、ドレススタイルの十二単のように見えた。


コイフは自室の三面ガラス姿見でバッチリ身だしなみを整えたそうで、いつもよりドレスアップに気合がはいっている。

「毛並みの艶出しに使った化粧水も、特別な時に使う高い物なのよー! 」

コイフは淑女然とスカートを持ち上げてみせた。

フィオナはコイフに鼻を近づけてくんくんした。

「ホントだいつもと違う良い匂い」

「やめるのよ~! フィーたんも髪型可愛いのよ、似合ってるのよ」

「えへへ、ありがとう! プロに任せた! 」

フィオナは例によってコイフにコーデされたそのままの水色ドレス姿だ。

ただし髪型は髪結い屋に任せた。

長い髪を3つ編みにしてそれを高く上げて丸くまとめ髪にしてある。

ところどころにアクセントの髪飾りと、耳の上に季節のお花を挿してもらった。

フィオナの髪は足首まで長さがあるので髪のセットだけで1時間以上かかった。

仕上がりが気に入ったのでまた利用しようと思っている。


他の紳士淑女も同じだけ、もしくはそれ以上に手間をかけて自身を磨き上げたのであろう、貴族寮から美しくドレスアップした学生達が馬車に乗り会場へ向かっていく。


「コイフ、ごめん馬車予約しておけば良かったね、大丈夫? 」

「問題無いのよ、会場までこうやって、少し浮いていけば良いなの」

コイフは地面から20㎝ほど浮いている。

「なるほど、それじゃわたしも真似していこっか」

「なのよ」


コイフとフィオナはお上品に浮きながら懇親会が行われる講堂へ向かった。




コイフ達は朝入学式をした講堂に戻ってきた。

既に早めに来た学生達がいる。

駐車場には沢山の馬車が止まっている。

中で貴族が待機しているのであろう。



開催時刻が近づくと入り口が開かれた。


警備員が数人扉の前に立ち、「おまたせいたしました、招待状をお持ちの方はどうぞお越しください」と声をあげた。


招待状はコイフもフィオナも郵送されてきたので所持している。

教師、教授、入試で成績上位を収めた新入生、成績上位の在学生、優秀な研究生に招待状が送られているそうだ。

フィオナ的に言うと「お高くとまってる会」である。




講堂は朝よりいっそう飾り付けがされていた。

少し薄暗くしてあり、装飾も照明も雰囲気ばっちりだ。


講堂の柱にそっておかれた人の丈ほどある装飾の彫られた花瓶に、豪華に咲き誇った薔薇が活けられている。凄い上げ底だ。

壇上では楽団が準備している。

前世地球でも見た事あるような弦楽器から、よくわからない形の楽器、ロード夫妻が演奏していた(ムークの町にあった様な)物の巨大版な四角い楽器もあった。

ホールの一角には椅子が沢山並べられ教師陣と思われる老若男女がドレスアップして席についていた。

講堂の中央はスペースを作られている。


空中に赤や青などの魔法の照明が浮かび手を伸ばしてもすり抜けて触れる事が出来なかった。

(綺麗……ファンタジー……)

とコイフとフィオナは思った。

他の生徒も各々が感動していた。



しばらくして開宴の時間になった。

壇上の指揮者が開催の挨拶をした後タクトを振ると、楽団の荘厳な演奏が始まり、同時にテーブルが、クロスが、食事が出てきて、魔法のシャンデリアが輝き出す。

扉が開いて給仕が入って来て、赤い色のシャンパンの様な物を学生に配り始めた。

フィオナはそれの匂いを嗅ぎ少し舐める。

「お酒じゃないけど美味しい炭酸入り葡萄ジュースだ! 」

毎年ロード夫妻がくれるジュースには及ばないが美味しい。

フィオナはご機嫌に飲んでいる。


食事は立食ブッフェ形式で、壁際に並べられた食事から好きな物を取り分けて良いようだ。

飲み物もデザートも置いてある。



「じゃあ、フィーたん、行ってくるのよ、わたし、社交界、はじめて、なのよ、デビュー戦、なのよ、見守ってて」

コイフは初めての社交界にガチガチだ。

「おー! 行ってらっしゃーい」

貴族は大変だなと思いながらフィオナはコイフを見送る。

フィオナも付き添いたいが淑女力が足りないのでかえってコイフの恥になってしまうだろう。

王女モードの顔をしたコイフを遠くから見つめながら、少し寂しく思う。

「お飲み物はいかがですか? 」

給仕に渡された白色のドリンクをグっと飲み干す。

炭酸のリンゴ水だった。美味しい。


「後で絶対コイフにダンス教えてもらうんだ! 」

とフィオナは言って、豪華な食事とドリンクに向かっていった。

「異世界豪華ディナー食らうべし! 」




一方のコイフ。

「はじめまして、わたくしは東兎人国ひがしうさひとくに王女・コイフと申します」

コイフの胃はキリキリしていた。

社交のために今日はメルトお兄様に渡された行李の中に入っていた一番格式の高いドレスで来ている。

いわば、今日はもう社交で終わりなのだ。

コイフとしては早く帰って薬局にアルバイトに行きたいがそうもいかない。

王女という立場だからこそ今この場に居られるのだ。ならば国の為に働かねばならない。社交は必須だ。


「まぁ! 王女様ですの? 」

「小さくってお可愛らしい」

「年下ですのにお酒を飲まれるの? 」

「えぇ、兎人うさひとは10歳で成人ですの」

容姿いじり、種族いじりが容赦ない。

流石はヒト族貴族の金持ちの皆さんだ、未だ16~20歳程度のはずなのに百戦錬磨を醸し出している。

「わたくし、みなさんと仲良くなりたくって挨拶して回っていますの、よろしくね」

コイフはシャンパンをクイと飲み干すと、次のテーブルに向かった。

(思った以上にメンタルヘルスがハードワークなのよ……! )

酒でも飲んでいないとやっていられない。それがコイフの正直な感想だった。



「聖女様だ! 」

「聖女様がいらしたわ! 」

俄かに仮設社交界が騒がしくなる。


「聖女サマぁ……? 」

『聖女』と聞いてドレッシングがかかった唐揚げをつまむフィオナが思い起こすのは、前世読み漁った聖女物小説だ。

概ね社交界シーンで聖女様の出番はイケメン恋愛対象と一緒に入場してきたシーンくらいだとぼんやり思う。

(この世界には聖女様がいるんだ、すっごく興味ある)

フィオナはナフキンで口をふき食器を下げてもらった。


フィオナは浮遊し人垣からひょいと顔を出して目的の人物を探す。

コイフに習ってスカートの中に暗黒を入れているので見える心配はない。

見えたとしても普段着のスパッツを下に履いているのは内緒だ。


「え? ふたり? 」

どう見ても人垣の中心にはふたりの少女がいるように見える。

しかも2人ともフィオナには見覚えがあった、なぜなら午前中クラスメイトとして教室に居たからだ!


「きみ、知らないの? 今代の聖女様はふたりも出生なされたんだよ! 」

フィオナに説明しながら平民の男性はキラキラした目でふたりの聖女様を見つめている。

(あれかな、聖女召還でなぜか複数人召喚されて、主人公が本物の聖女様ってパターンのやつ、でもそうすると聖女同士で男を取り合い血で血を洗う醜い戦いが始まっちゃうよ)

ファンタジーあるあるに行き合ったフィオナはワクワクした。


人垣の中心でほほ笑んでいるふたりの少女。

一方は長い銀髪に緑の目の神秘的な雰囲気を纏う美しい少女。

月の神の数珠を首から下げて慈悲深く微笑んで握手に答えている。

首も腕も細く華奢で折れてしまいそうだ。

制服の下も白いブラウスに白い前掛けに黒い袖なしのワンピースで楚々としている。


もう一方は茶色い黒髪に黒い目の少女である。

フリル付きスリーピースのお仕着せを着せられ、戸惑っている。

可愛らしいが普通の顔だ。

一方に比べたらひどく地味に感じる。


そんな二人を守るように立つ男子生徒がふたり。

銀髪の聖女の横には緑の髪を刈り上げて残った長髪を黒いリボンで結った長身の男子。

茶髪の聖女の横には赤い髪を赤い結紐で結った、体格の良い男子。

彼らを注視する人垣の様子から男子2人の方もそれなりに知られている人物らしい。


フィオナから見た印象としては、緑髪のひょろい方は服装の総合計金額を見るに、いかにも商家の息子風で、狐顔だがイケメンだ。

赤髪の体格がいい男は戦士科だろうか、武人然としているし、手がゴツい。加えてやはり顔が良い。


(攻略対象っぽいキャラが出て来たけど、ここってゲームの世界だっけ? )フィオナはそんな話は聞いていないぞと思う。

同時に何か嫌な予感がした。



と、聖女の輪の中心にコイフが投げ出されるのが見えた。

人込みに押され軽くて吹っ飛ばされたようだ。

フィオナは素早く人垣から飛び出しコイフをキャッチする。


「わぁ! かわいいうさぎさん! 」

とコイフを見た茶髪の方の聖女が言って、「しまった! 」という顔をすると口を手で塞いだ。


会場の空気が凍り付く。

人種差別発言だ。



フィオナはコイフを優雅に床に下ろして背後で品よく控えた。

コイフから教わった上品な立ち姿、片手を胸の前に、足はクロスさせて立つ!

フィオナに下ろされたコイフはすかさず堂々と発言した。


「可愛いなんて、当代の聖女様に仰られるのは身に余る光栄ですわ、わたくしは東兎人国王女・コイフと申します、ご拝顔出来て光栄ですわ」

コイフが可愛らしくくるりと回ってから淑女の礼をした。


つまり「わたしはなんにも聞いてません」というポーズを取ったのだ。

加えてコイフの『王女』という肩書に、他の人族は溜飲を下げる。



「えっと、本当に可愛らしいです、良かったらお友達になりたいくらいです」

茶髪の聖女がコイフに歩み寄った。

「あたし、アユリ・カスタネアです、回復魔法が得意で、神官科で資格を取る為に今年から入学しました、よろしくお願いします」

アユリの言葉からは失言を謝罪したい気持ちが感じられた。

黒に近い茶髪で、瞳も黒。

あっさりとした顔立ちで、よくよくみると日本人に見えなくもない。


フィオナは風魔法でコイフにしか聞こえない様に「アユリともう一人の聖女はクラスメイト」だと伝えた。

「ええ、是非お友達になりましょう、カスタネア嬢」

コイフがお日様みたいに微笑み、その言葉にアユリはほっとして、それからつられてほほ笑んだ。


「あ、あの、カスタネアさん、私にも紹介してください……」

事態を見守っていたもう一人の聖女が近寄ってきた。

彼女の声はか細くも美しかった。


「私はエレノア・ツゥグーと申します……私も人を癒す魔法と光魔法が得意で資格を取る為に入学しました……」

よろしくお願いしますと華奢な体で礼をした。

体を傾けると折れそうで心配になる。


2人の少女は緊張した面持ちでコイフとフィオナをじっと見つめている。

「ええ、こちらこそよろしくお願いしますわ、ツゥグー嬢」

コイフはにっこりと笑って人国式の礼をした。

「クラスメイトとして、これから仲良くしましょうね、さっそくお友達が出来るなんて感激ですわ」

コイフの言葉にアユリとエレノアはハッとする。クラスメイトだと気付いてなかったようだ。

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「よろしくお願いします……」

アユリとエレノアは交互に答えた。



こうしてコイフは当代の聖女様二人に顔を売り、無事初社交界を乗り越えて人だかりを離れた。

ほとんどクラスメイトだったが王子とか人気処は混んでいて未だに挨拶できていない。



「ふぁあ~! つかれたのよ~‼ フィーたんありがとなのよ~! 」

「おつかれコイフ、びっくりしたよ、突然聖女様の方に飛び込んでくるんだもん」

「突然押し出されたのよ、びっくりしたのよ」

「災難だったねぇ」

フィオナはコイフが人にぶつからない様自分が壁になろうと誓った。


「びっくりしたと言えば聖女様よ、兎人うさひとの事をうさぎさんなんて、呼び間違えた時点で大問題なのよ」

「あー兎呼び捨てだと、小動物のうさぎを指すから失礼なんだっけ、コイフは気にするの? 」

「気にするに決まってるのよ、フィーたんだってメス呼ばわりされてみなさいなのよ」

「メス……ううむ、わかったよ、私は前世の感覚に足を引っ張られてるから獣人族と関わる時本当気を付けないとなぁ」

いまだフィオナは獣人族に動物的可愛さを感じてしまう。

きちんと人間として接しなければ怒られ場合によっては侮辱罪だ。


「あとなんか、突然顔の良い男の子がたくさん出てきたじゃん? 」

「王子と、聖女付き添いの緑色と赤髪、あとリンツもなのね」

「よくある異世界物の恋愛イベントが始まったかと思ったよー」


フィオナは喋ったあとふと言葉が零れた。

「もしかして……転生者? 」

「わたしも思ったのよ、聖女様は転生者か転移者なんじゃないかって」



ふたりが囁き合っていると、突然パリンと大きな音がした。

「クロード! クラウディウス! どういうつもりかしら⁉ 」


フィオナがコイフをお嬢様抱っこして浮かびながら声の向こうを見る。

と、人込みが勢いよくわかれて中からストロベリーブロンドの美少女とその従者が走り出てきた。


残されたのはクロード王子、そして少し傍に葡萄ジュースをかけられドレスが汚れたピノの姿があった。

薄ピンクのタイトシルエットの美しいドレスが、ワインの濃紫色に染まっていく。

そしてピノの足元に割れたグラスが落ちている。


状況から察するにストロベリーブロンドの美少女がピノにグラスごとジュースをぶっかけたという所か。

その所業はまるで悪役令嬢のそれだった。


「わぁお」

フィオナが声を出した。


「あ、コイフちゃんにフィーちゃん~」

ふたりに気付いたピノが声をかけてきた。

こちらが声をかけて良いのかわからない状況で向こうが声をかけてきたのだ。


コイフの目くばせにフィオナはコイフを地面に下ろした。

「……えっと、ピノ何があったなの? 」

「すまない、その前にこれを羽織って控え室に行こう」

傍にいたクロード王子が自身の上着を脱いでピノにかけた。

「ありがと~クロードさまぁ」

ピノはニコっと笑ってクロード王子の上着を受け入れた。

そしてクロード王子とその従者達、ピノ、コイフ、フィオナは控室に向かった。




控室にはメイクルームも備えついており、王子付きの女性の従者とピノ、コイフ、フィオナだけメイクルームに入った。


「あ~買ったばかりのドレスびちゃびちゃだー」

ピノがドレスを脱ぐ。下に来ていたコルセットとペチコートにもジュースが染みていた。

「もう全部脱いじゃいなさい、魔法で綺麗にしてあげるなの」

「え、マジ⁉ コイフちゃんありがとぉ! 」

ピノはぱぱっと全裸になる。

フィオナはコイフに命じられ会場のお手拭きを取りに出て行った。



コイフは葡萄の染みでびしゃびしゃになったドレスをお水につけて、タオルで叩いていく。

叩く叩く、とにかく叩く。


ピノは女従者からブランケットをもらいコイフの様子を眺めている。


「お手拭きとってきたよー? 」

フィオナが戻って来た。

「ありがとなの、ピノ、ジュースがついてべたべたしてるとこお手拭きで拭くと良いのよ」

「あ、ありがとう! 感謝ー」

ピノはフィオナからお手拭きを受け取って体を吹き始めた。

フィオナは洗濯など魔法でやっちゃえば良いのでは? と思っているがコイフのお世話焼きが発動している。


一通りタオルで水分を取った後メイク用のブラシで更に叩きながらタオルドライしていく。

「だいぶ落ちたけどやっぱり葡萄の染みは曲者なのよ……染み抜き洗剤が……欲しいのよ……」

コイフがぐぬぬとぼやく。

「魔法じゃ駄目なの? ジュース取れろーって」

フィオナが手をかざすと染みどころか湿気ごとドレスから抜けて言った。取れた汚れは近くにあったグラスに入れておいた。


「「「……」」」

フィオナはピノ、コイフ、女従者に無言で見つめられた。

「え、え、駄目だった⁉ 」

慌てるフィオナ。

コイフは溜息をついた。


「単純に魔法で水分だけ落とすと葡萄の染みが残りかねないから心配だったのですが、フィオナ様は凄いですね」

と女従者が言った。

「凄いしありがたいけど、フィーちゃんなんか……」

ピノは言葉を濁した。

「チートなのよ」

コイフはジト目で言った。


「え、えー」

フィオナは困惑した。

次回は5月2日の投稿です。

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