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⑥アミュレット

⑥アミュレット


身体測定を終えたコイフ達のクラスは、魔法学校の一日の流れを担任ディートリヒ教員から説明されている。


まず午前授業。

これが新入生必須の『基礎魔法学』の時間だ。

全員が、魔法の発現から魔力操作、そして火、水、土、風、雷、そして光や闇などと言った魔法属性を学び、習得するそうだ。

更にその特性や魔法の原理なども履修するらしい。


次に午後授業。

こちらは履修を希望した授業を学びに行く時間だ。

フィオナは『魔法医学』と『生活魔法』と『薬学魔法』。

コイフは『魔法医学』と『薬学魔法』だ。

どれも無事定員に入る事が出来たのでふたりはスケジュールを組んでいく。


『魔法医学』と『薬学魔法』は別の授業だがセットで受講しなければならないのでこれで週の半分は持って行かれてしまう。

他にも複数受講する生徒もいれば、ほぼ受講しない生徒もいる。

フィオナは『生活魔法』を受講するが、コイフは週の半分はアルバイトに費やす予定だ。

「授業で時間きっつきつだー! これは忙しいぞ、調子こいた……」

フィオナは予定が一杯になったスケジュール表を見て青ざめた。

「わかるのよ……」

王女である手前、学校でコイフはアルバイトの愚痴は言えなかったが、2人とも前期が忙しくなることが確定したのだった……。



昼食は学校内にある食堂で摂るのが一般的だそうだ。

「わぁ、学校内に食堂あるんだって! 」

「私は実家からもう食堂のチケットが届いているのよ、もったいないからお昼はこの食堂で取るのよ」

「そうなんだ、じゃあ私も一緒に食堂で食べる! 」

フィオナは楽しみでわくわくした。

自炊の弁当を持ってくる者もいるそうだがコイフもフィオナも食堂を利用することにした。

コイフに至っては、もう母国から『食券代』が割り振られている。(尚、食券などと俗な呼び方はせず、『食堂チケット』と呼ばれるのが一般的だ)


放課後や休日は、希望する者は部活動やサークル活動に励むのだそうだ。

今日の午後に指定された教室にいけば部活とサークルの体験入学が出来るそうだ。


そして最後に顔をしかめた担任ディートリヒ教員は、オリエンテーションをこう締めくくった。

「急遽、在校生及び職員は全員『精神魔法』対策のアミュレットを持つ事に決まった、きちんと公認のアミュレットを買うんだぞ、請求書を提出すれば学校が費用を出すから速やかに用意するように」




ディートリヒ教員が出て行ったあとの教室は俄かに騒がしくなる。

「フィーたん、『精神魔法』って、人の思考を読んだり、念話したりする魔法なのよ? もしかしてあの黒い靄は精神魔法を使うのかしら? 」

「うーん『精神魔法』はわかるけど、アミュレットってなんぞ? 」

「魔道具の一種で御守りの効果があるもの……って習ったのよ、実物は見たこと無いのよ……そうだわ! ミリー嬢やクロード王子なら持っているかもしれないなのよ! 」

「は? なんでそのふたり? 」

「王族は考えを読まれたら不味いでしょう? 」

「御守りなんかなくったって魔法でどうにでもなるのに……それに、精神魔法はよっぽど魔法に卓越した人じゃないと使えないって聞いたよ、あちこちに防犯魔法もかけられてるんだから心配無い筈なのに……」

フィオナは養父レギアスの教えを思い出した。

そしてそのアミュレットを全員強制で所持しなければならない状況は、ただ事ではない気がしてフィオナは不安になった。

「チートのフィーたんとは違うのよ、それにこれは話しかける口実なのよ! 」

「あ、待ってよコイフ」


コイフはぴょんと椅子を降りてミリー公爵令嬢の方に行く。

ミリー公爵令嬢はクロード王子の近くに座っているので必然的に二人の近くに寄る事になる。


「ごきげんようミリー嬢」

コイフが恐れ多くも気さくに話しかける。

ミリー公爵令嬢は困惑した表情だが、一応コイフに答えてくれた。

「どうなさいましたの? コイフ王女」

「わたし達アミュレットを買いに行かないといけないのだけど、ミリー嬢はどこでアミュレットを購入していらっしゃるの? 」

その言葉でミリー公爵令嬢はコイフが東兎人国ひがしうさひとくにの王女だという事に思い至った様だった。


家の格、というものがある、コイフは王女として最低でもミリー公爵令嬢と同レベルのアミュレットを持たねばならないのだ。


「……私のアミュレットはこれですわ」

ミリー公爵令嬢は頭部の左側で髪を纏めている、赤い髪飾りをそっと撫でた。

「私の婚約が決まった際に、特注で作った物なのだけれど……、よかったらお店を案内しましょうか? 」

「よろしいの? うれしいわ! 放課後にクラスメイトと一緒にお買い物なんてきっと楽しいのよ! 」

コイフは素直に喜ぶ、それを聞いていたクロード王子もほほ笑んで言う。

「良い事だと思うよミリー」

クロード王子に背中を押されたミリー公爵令嬢は、戸惑いの表情から一転、胸を張って笑顔で言った。

「では、一緒に参りましょうコイフ王女、私も店は初めて行くのよ、楽しみだわ」

「フィーも一緒に行っていいかしら? 」

「フィオナさん? ええ、構いません、予定が決まり次第お知らせするわ」

「ありがとうミリー嬢! 」

コイフはふわふわのほっぺたをもにょりと持ち上げて満面の笑みを浮かべた。

「まぁ、うふふ」

コイフの可愛らしさにミリー公爵令嬢はほっこり笑顔になった。

「ありがとうございます、お世話になります」

フィオナは丁寧に頭を下げた。




オリエンテーションが終わり夕方、コイフとフィオナは食材を買いに学生向けの売店へ来ていた。

「あれ? 何かさわがしくない? 」

売店の前で新聞を読む学生達がいる。


新聞に「魔法学校で古代魔王の呪い⁉ 悲劇の男子学生」と見出しが出ている。


男子学生は命に別状はないが、意識混濁の状態、数週間後には回復のみこみ。

原因は学校地下の古代遺跡に封印されていた魔王の結界にほころびであり、再封印を行った。と書いてある。



「よかった、あの男子学生は無事なのよ」

コイフはほっと胸をなでおろす。


「太古の魔王⁉ 学校地下の古代遺跡⁉ 」

とたんにフィオナが目をらんらんと輝かせる。

「あ、あー駄目だ! 土日しか時間ないよ! あ、でも夕飯お弁当にすれば授業後に……」

「いかないのよ! 」

あっあっしているフィオナにコイフが突っ込みを入れる。

フィオナは顎に手を当てながらうんうん頷く。

「わかってるよ、やっぱり夜更かしは良くない、次の日も授業に出るならしっかり風呂入って寝ないとだし、なら土日しかないんだけど、用事ないのに学校に入り浸る理由がいるかな? 」

「そうじゃないのよ! 地下の古代遺跡なんて老朽化が心配なの! それに新聞で事件になってるんだからきっと危ないなの! 」

コイフが毛を逆立ててふっくら膨らんでいる。

それにフィオナはうんうん頷ずいて、「詳しい人に聞いてみればいいじゃない! 」と瞳孔をかっぴらきながら言った。


「私の話聞いてるなの⁉ 」

「痛ったぁ‼‼‼‼ いったぁ!」

コイフはフィオナの足を強く踏んづけた。

コイフはふんふん鼻息を荒くしている。

「心配してるなの! 」


「めっちゃ痛かった……」

眼に涙を滲ませながら、フィオナはぷるぷるする踏まれた足を労わる。

兎人に本気で足ダンされたら、フィオナの足は折れてしまっている、コイフなりに手加減をしていた。

「聞いてるよ、だから事件の危険性とか、遺跡の老朽化とか、学校関係者に聞けば誰か詳しい人いるでしょ? 聞いてみて問題なければ行けるじゃん⁉ 」

「……まぁ確かにそのくらいなら良いなのよ」

コイフはジト目でフィオナを見ている。

(でも多分行けないなのよ、気軽に入れる遺跡なら学校内に張り紙なりなんなりあると思うの、それが無いって事は公開されてないなの)

とコイフは考えたが、フィオナの頭が冷めるまで黙っておいた。


新聞を読んでいる他の学生達にはフィオナと同じ理由で浮足立っている者もいた。

それと学校で起きた事件に動揺している者も。


「新聞一部ください! 」



フィオナが年相応にウキウキしながら新聞を買ってきた。

「なになに……」

新聞を読みふけるフィオナと一緒にコイフも横で読ませてもらう。

記事は大見出しではないが、中見出し程の大きさで記されていた。

(ニッチな新聞社かと思ったけど、都心のメジャーな地方紙なの……意外と適当な記事でもないのかしら? )

コイフはふむ、と首を傾けた。



『魔法学校で古代魔王の呪い⁉ 悲劇の男子学生

パーティーで男子学生意識不明、古代魔王の復活か⁉ 


事は有名な魔法学校の懇親会で起こった(懇親会とは……中略)

談笑していた男子学生が急に発作を起こし、自傷を始めたのだ。

その場にいた教師陣に取り押さえられ学生は某病院へ搬送された。

事件直後、学生は錯乱状態であったが次第に落ち着いて行った。

医師によると男子学生は命に別状はないが、健忘症状や判別不能な意識混濁の状態になる事が続いている。

しかし、症状は安定してきており、数週間後には回復のみこみだそうだ。


学校内で事件の調査と不正を防ぐ為透明性を担っている学内監査官はすぐ事件の調査を始めた。

被害にあった学生には精神魔法の影響があった為、魔法発生元を追っていくと、学校地下に眠る古代遺跡内からだと分かった。

この遺跡は過去の大戦で使われた元軍事施設であり、現在は歴史資料として保管されている。

王国はかつて何度も大戦を行っており、その度にこの軍事基地を再利用していた為、地下へいくほど古い年代の物であるとわかるのだが、今回魔法が発生されたのは魔界王国大戦時代の当時敵国であった現魔族国の王の玄室からである事がわかった。


この玄室のはあらゆる魔法がかけられているのだが、それらを覆う結界に綻びが出てそこから今回の男子学生へ影響を及ぼした事がわかったそうだ。

判明しすぐに王都で高名な結界師達により再封印を施され、事態は収束したと学校側は公表している。


しかし度々遺跡管理者が封印の管理をしているのに何故今回綻びがでたのか? という疑問が残る。

元々この玄室内に眠る当時魔王の遺体は、彼の子孫である魔族国が引き取る話が度々出ていた。

監査官によると魔族の者は今回の事件と無関係であると発表している。

とうの昔の終わった戦争の遺物である魔王の遺体など、こんな事件が起こるくらいなら子孫のあるべき場所へ戻してしまえば元魔王の彼にとっても誰にとっても良いのでは?と筆者は思うのであった。』



「ふーん魔族国ねぇ……」

「大昔の戦争なのに、今も影響が出るなんて……」

魔族国とは人国領外から遠くにある知的生物の治める国で、クロードの祖先である王族は度々ここの国と戦争していた事を歴史の授業でフィオナとコイフは習っていた。

新聞を読み終わったフィオナとコイフは物思いにふけりながら下校したのだった。




オリーブ館で夕飯を終えてコイフと別れ、フィオナは住み込みで寮の管理をしてくれているスタッフの方に地下遺跡について聞いてみた。


「いやーオリーブ館も古いけど、僕は地下遺跡は詳しくないなぁ、魔法研究所の棟が遺跡をそのまま利用している所だよ、でも歴史資料物だから許可が無いと入れなかった筈だから、資料館の受付で聞いてみてよ」

「資料館ってどこにあるんですか? 」

「何言ってるの、外みればいつも立ってる図書館の事だよ」

「えっ! あ、あそこ!? 」

「あそこは『王都歴史資料館』が正式名称で、地面から生えてる四角い建物と上に伸びてる塔の一部が魔法研究所だよ、棟の地下は遺跡と一緒に地下に伸びて続いてる歴史ある建物なんだ」

「はー、ただのおおきなランドマークだと思ってました」

「あはは、いろんな資料を保管する為の場所だから、いろいろ置いてあって面白いよ、一般公開されてる区画なら自由に見に行けるよ」

「1階の本が展示されてる所だけ行きました、いろんな本があって面白かったです」

「3階には剥製とかも展示されてるし、魔道具とかもあるからそのうち授業で使うはずだよ」

「ありがとうございます、覚えておきます」

フィオナは今度の休みに図書館に行くことにした。




翌日、ミリー公爵令嬢からコイフとフィオナは声をかけられた。

担当してくれたアミュレット店の者と予定がついたのだそうだ。

急遽ミリー公爵令嬢との約束でその日放課後、貴族寮の前で待ち合せをする事になった。


「今日はちゃんとした可愛い格好しといて良かったよ」

とフィオナが言う。今日もロード夫妻から届いたオシャレ着だ。

コイフも制服のローブと三角帽を脱いで、お気に入りのカジュアルドレスにポシェットを下げてレース編みの帽子コイフを被っている。

「お買い物楽しみなのよ~! 」

コイフも笑顔で言う。


金貨を持っているニコニコ現金払い派のフィオナと違ってコイフは小切手を持ってきている。

アミュレットの代金は実家(国)に出してもらう予定だ。

つまり寂しいお財布や、『東兎人満月堂』のお給料の残りを気にしなくてもいい買い物だ、気が楽である。



「お待たせしましたわ」

颯爽と現われたミリー公爵令嬢はカジュアルなドレスに着替えていた。

いつもハイヒールのミリーは今は編み上げブーツを恰好よく履きこなしている。

「まぁ! そのドレスも素敵だわ、とっても似合ってますのよ! 」

とコイフは手放しで褒めた。

ミリー公爵令嬢は嬉しそうに頬を緩ませ礼をのべた。

ミリー公爵令嬢のドレスは、レースの付いた立ち襟にジャボを巻いて、楽なウエストコルセットに中はフリルが三重のスカートになっているドレスだった。

「馬車を用意しましたの、行きましょう」

楽しい女三人ショッピングの始まりだ。




アミュレット店の入り口は混雑していたが、別の入り口からミリー公爵令嬢一行は店内に案内され、応接室へ通された。

ミリー公爵令嬢、コイフ、フィオナはふかふかのソファに座り、目の前にお茶が出されてた。


(わぁ、VIP待遇~コイフ、これ狙ってたの? )

フィオナが隣のコイフに耳打ちする。

(狙ってないけどお店に行くとこうなっちゃうのよ、王女としての宿命なのよ……でも今日はミリーが居るから気が楽なのよ)



しばらくすると男が室内に入って来て丁重に挨拶をし、この店の社長だと名乗る。

(店長、すっとばし、社長……)

フィオナはふぁ~と息を吐いた。


「ミリー様からお伝えいただいた通り、ご希望の品をご用意いたしました」

社長と共にケースを持ってきた店員がテーブルに貴金属を置くようにアミュレットを並べていく。

実際、アミュレットは一見高級アクセサリーと変わりない。

魔法がかけられた宝石は美しく、普段身に付けられるよう考えられてデザインされている。


「どうぞ、お好きな物をお試しください」

社長が試着を進める。

どれもしっかり頭部に付けられるようになっている。

(確かに御守りなら、うっかり外れないようにしないとだもんね)

フィオナは女性スタッフにアミュレットを着けてもらっているコイフを見ながらぼんやり思った。


アミュレットはおでこの前に垂らすタイプや耳元に付けるタイプなど様々だ。

付けている事が目立たないよう髪の中に隠すタイプもある。

社長から商品の説明を受けてこのアミュレットも魔道具の一種である事にフィオナは気付いた。

どれも防御効果は一年で切れてしまうそうだ。

デザインが気にいったのならあらためて防御魔法をかけ直してもらえば続けて同じアミュレットを使えるという。


フィオナは一番シンプルで安そうな物を試してみる事にした。

「……むぅ? 」

試着するアミュレットから反発を感じる。

(……あ、私、これつけれないわ……)

フィオナが現在自ら貼っている精神魔法の防御魔法と拮抗しているのだ。

このアミュレットは持ち主にかかる精神魔法関連を全て弾くよう作られているようだ。

フィオナは昔、一つのPCに2種類のアンチウィルスソフトを入れた時の事を思い出した。

(〇ートン先生とウィルス〇スターさんは仲良くできなかったなぁ……)


ともかく高そうなアミュレットを壊してしまいそうなので、フィオナはアシスタントの店員さんにアミュレットを返した。


「あの、私は学力向上の魔法使うので、併用できる奴ありますか? 」

フィオナが訊ねる。

もちろん学力向上の魔法は嘘である。

「ああ、そうなりますと、耐性向上のバフ魔法になってしまいます、精神防御魔法と比べると効果が弱まってしまいますが……」

「かまいません、それでお願いします」


少ししてアシスタントがフィオナ用に商品を持ってくる。

「私これがいいです」

フィオナは小さな宝石が付いたイヤーカフを選んだ。

もともとロード夫妻からもらったイヤーカフを付けているので一つ増えた所で手間は変わらないと判断した結果だ。

こうしてフィオナは両耳カフユーザーとなった。


「わたしはどれにしようかしら……」

コイフがあれこれ試着して悩む。

ヒト族用に造られた商品が多い中で、コイフはあれでもないこれでもないと悩んでしまった。

そもそもコイフには括る為の髪が無いのだ、コイフはうーんと悩んでから、帽子に刺すブローチ型のアミュレットを選んだ。

「これは胸に刺しても効果があるかしら? 」

コイフは授業中、三角帽子を脱いでいる。

胸のリボンタイ留めにブローチを使おうと考えたのだった。

「若干効果は薄まってしまいます」

「あら…、ならやっぱり学校にも帽子コイフを被って行かないといけないわね」

店員の言葉にコイフは帽子コイフをそっと撫でた。

コイフが選んだのはうさぎを模した黒曜魔石のブローチだ。


フィオナとコイフはその場でアミュレットを付けて、フィオナは金貨で、コイフは小切手で支払った。



「ねぇミリー嬢、お店を紹介してくれたお礼がしたいの、一緒にカフェに行きましょう? 」

「えっ! 」

ミリー公爵令嬢はコイフの誘いに一瞬戸惑いの表情を浮かべてから、はにかんで頷いた。

「ええ、是非ご一緒したいですわ……! 」

「社長さん、近くに素敵なカフェはあるかしら? 」

「ええ、もちろん! わが社が運営しているカフェがございます」

コイフの言葉に、社長は飛び上がらんばかりに喜んだ。

未来の上客候補が三人も実店舗に足を運んでくれるなんて、更にカフェ利用もしてくれるのだからもみ手をしたいほどに大歓迎だ。

「御者に場所を伝えます、プロムナード1番街に開いたばかりのサロンで、二階がカフェになっております、ご令嬢の皆様には喜んでいただける内装かと! 」

「まぁ! 」

「楽しみだわ、良いでしょフィー? 」

「うんいいよ、サロンなんて初めてだから緊張しちゃうな」

フィオナは可愛い服を送ってくれたロード夫妻に心から感謝した。

(私もちゃんとした格好をしないと、コイフと一緒に居られないこともあるのか……今度ドレス買いに行こう……)とフィオナは己の服装を思った。




アミュレット店を出てコイフ達は馬車に揺られる。

ほんの数分で馬車は止まって、扉が開かれた。

(同じ1番街にあるんならそりゃあ近いよねー)とフィオナは思う。


『サロン・アンジュ』の入り口は新造で、品の良い白いレンガでアーチを描いていた。扉も白く、ノッカーは黒だ。

ミリー公爵令嬢の従者がノックをして、出てきたドアマンに先ほどのアミュレット店社長の紹介である事を告げると、少ししてから「店長です」という男性が出てきて案内をしてくれた。


1階のサロンでは着飾った男女が絵を見ながら談笑している。

絵画展をやっているらしい。

白を基調にした室内はアクセントカラーに黒や銀色を使っていてスマートな印象を受ける。

ちらりと見たが好みの絵柄ではなかったコイフは、ミリー公爵令嬢に続いて螺旋式の階段を2階に上がり、フィオナとミリーの従者も続いた。


「まぁ」

「素敵なのよ」

「ほぉー」

三者三様の反応をする。


床のタイルは白にアクセントカラーでダイヤ型の黒が敷かれ、同じく白い漆喰の壁には金色のささやかな装飾、同じく白い丸テーブルに、かわいらしいピンク色のクッションの椅子が並び、椅子の足は黒だ。

天井までの棚も白で、棚には紅茶の缶がみっちりと詰まっている。



「男性の仰る女性向けはなかなか信用なりませんけど、さすがアミュレット店の経営ですね、センスが良いですわ」

「えぇ、とっても可愛らしいし、窓も広くって素敵ですわ、この色使いで子供部屋のようにならないのは本当にデザインがお上手ですのね」

ミリー公爵令嬢とコイフが褒める、店長は畏まって恐縮している。

フィオナは(あれ、これ私も『ですわ』って言わなきゃだめなやつ? )と思ったが言葉がみつからず口を開けなかった。

とりあえず必死に頷いた。



三人掛けの席に通されたフィオナ達は、椅子を引いてもらって座る。

ミリー公爵令嬢が「お任せしますわ」と言えば、ウエイターはすぐに紅茶と菓子を持ってきた。

「先日開発いたしました魔法茶です」

紫の紅茶にレモンを入れればあら不思議、青に変わる、という前世ではさほど珍しくもないものだった。

「まぁ……素敵ですね」

とミリー公爵令嬢は言ったが、あまり感動していないようだ。

コイフとフィオナも見た事あるものなので目新しさを感じず適当に合づちを打つ。


コイフとミリー公爵令嬢は身分も近しいので話しやすいようだ。

フィオナの方は会話のボキャブラリーが無いのでコイフがパスした会話に素直に返事をしている。


「魔法学校はどこもかしこもお花がきれいですわね」

とコイフがふんわり笑うとミリー公爵令嬢もほほ笑んで、魔法学校の歴史を話してくれる。

「魔法学校は広く校内を一般に開放していて、初夏の花の見ごろには、観光客がお花見にくる定番スポットなんですわ」

「納得だわ、だってあんなにきれいなんですもの、みんなに見せてあげたいと思ってしまいますもの! 」

「ってことは初夏が学校にとっての稼ぎ時ってことか」

フィオナはまた金の話をした。

「稼ぎ時、ふふそうね、野外販売のお店も増えるんですのよ」

ミリー公爵令嬢はフィオナのあけっぴろげな発言に楽しそうに相槌を打った。

「楽しそうだわ! フィー、是非食べてみましょう、わたし人国の露店に興味がありますもの」

「そうだねコイフ、夏が楽しみになってきたよ」

美味しいお茶に美味しいお菓子。

三人はだいぶ打ち解けて、学校の授業や魔法属性の話なんかで盛り上がる。



「そういえばミリー嬢、『テフレナ』は読みまして? わたし大好きで全巻持っていたのよ」



コイフのその発言に、ミリー公爵令嬢はピタリ、と優雅だったすべての動きを止め固まってしまう。

同じくフィオナも固まった。


「わたし主人公のエカテリーナ様が大好きなんですの」

コイフは無邪気な笑顔でそう続けた。


『テフレナ』とは『異世界転生したら死亡フラグしかない悪役令嬢になってしまったんだが⁉ 』という作品の『転生、フラグ、令嬢、なって』の四文字を略したファン呼称である。

もちろんこの世界の小説ではなく、前世のライトノベルの話だ。



(え? へ? まじで『テフレナ』の事言ってる? ちょっとコイフーーー‼‼‼ ミリー嬢固まっちゃってるじゃん‼‼‼ てゆーかなんでその話今したのーーー⁉ )

フィオナは内心大パニックである。

「あーその、えーと、」

と場を繕おうと声を出すが話題が出てこない。

ミリー公爵令嬢の方は固まったままコイフを凝視している。


「ミリー嬢のドレスはどれも作中でエカテリーナ様の着ていたドレスとそっくりですね、髪型も似せているのかしら、似合っていて可愛らしいと思いますの、もちろんそのアミュレットもそっくりですわね」

コイフは微笑むと一口お茶を飲んだ。


(えっ??? そうだっけ? てかエカテリーナの服装なんてアニメ版の話じゃん! 覚えてないよそんなのー! )

フィオナは絶賛混乱中だ。



無言を貫いていたミリー公爵令嬢は持っていた扇子の合図で従者を下がらせると、沈黙していた口を開いた。


「……知っているのですね? 」

「ええ、わたしたちも同じところから来たのよ」


ミリー公爵令嬢は破顔した。

「わぁー! 驚きましたー! 転生者ーー⁉ ゆーか『テフレナ』知ってるんですね! 私生前『テフレナ』大好きでコスもしてて! コスイベの帰り道で事故って転生することになったからエカテリーナ様みたいになりたいって願って~! ドレスもアニメドレスそっくりに作ってもらったんです!!! 」

ミリー公爵令嬢は熱く語り出した。

口調は日本語の若者言葉そのものだ。


「はへぇ??? 」

フィオナは驚いて間抜けな声が出てしまった。


「やっぱり? そうじゃないかと思ってたのよ~! エカテリーナ様のドレスはデザインが独特で、もしかしてって思ってたのよ~! 」

コイフも被っていた猫を脱ぎ捨てて喋る。

「あ~~~そこ! 気付いてもらえてうれし~~! 肩の所独特ですよね~! 」

きゃっきゃとコイフとミリー公爵令嬢はオタトークに話を弾ませる。

聞こえない距離にいる従者が目を丸くしているのが見えた。

「え、え、ってことは、え? ミリー嬢も転生者なの⁉ あの白ハゲに会ったって事? 」

フィオナの問いかけにミリー公爵令嬢は頷く。

「あのクソ白ハゲヤロウですよね? な~にが『間違って殺しちゃったメ~ンゴ☆』だ、あのハゲ神‼ 」

ミリー嬢がカップを持って紅茶を飲み干した。


コイフとフィオナは顔を見合わせる。

「コイフ、気付いてたの? 」

「ミリー嬢はほぼ確定だと思ってたのよ、ピノやアユリ嬢はまだわからないけど……」

ピノの名前を聞いたミリー公爵令嬢は楽しそうな笑顔から反転、シュンとしてしまった。


「あのね、私……パーティでピノさんに失礼を働いてしまって……」

「葡萄ジュースぶっかけたことでしょ? かっこよかった! 」

フィオナがサムズアップをした。


「わ、私……あの神様に、王子様とロマンスな恋をして結婚したいって事も願ったんです、エカテリーナ様みたいに……でも『他人の思考は洗脳できないから身分高いトコ生まれとこっか、あとはファイト! 』って言われちゃいましたけど……」

急にミリー公爵令嬢は顔をふせ恥ずかしそうにもじもじ語り出す。


「クロード殿下のことが好きなんです……運よく親同士が決めた婚約なんだけど、それでも私は婚約者になるんだって努力してきて、婚約者に選ばれて子爵から公爵家に養子に入って、王妃教育始まってからは勉強本当にえぐくて必死に頑張ってるんだけど、相応しい振る舞いが出来ているか、間違えてないかいつも不安で……」

「それで普段は怖い顔しているのね」

コイフも最後の一滴を飲み干して言った。

「エカテリーナ様も悪役顔って設定だもんね」

フィオナは最後のお菓子に手を付け始めた。フィオナは食べるのが遅い。


「よーし! 決めたのよ、ミリー嬢の恋応援しちゃうのよ! 」

「ええ、本当ですか? いいの? 」

ミリー公爵令嬢は目を見開く。

「私達にお任せなのよ! ね、フィーたん! 」

「ええー私はめんどくさ……」

「ところでこの世界は乙女ゲームの世界とかってオチはないなのよ? 」

コイフの問いにミリー公爵令嬢が考える。

フィオナもそのことはとても気になっていたから真剣な顔で話に耳を傾ける。


「私、乙女ゲームもけっこうやって来たけど、そういうのではないと思います、そもそもライバル女性キャラが出てくる乙女ゲームってすっごく少ないし、『テフレナ』の世界かなとも思ったんですけど、王様や国の名前が違うから……」

「なるほどなるほどなのよ」

ミリー公爵令嬢の言葉に、今度はコイフが頷く。


「なら、おおっぴらに二人の恋を応援できるなのよ! ミリー嬢健気なのよ~! 」

「ええ~そうかな~ほんと、私にもエカテリーナ様みたいな度胸があればよかったんだけど……ゆーか、ピノさんと聖女アユリ様が転生者って本当⁉ 」

「それはこれから要検証なのよ~秘密の秘密なのよ~」

「わかったわ、私も内緒にするからわかったら教えて、あ、紅茶頼もっか、ゆーか二人の話も聞かせてくださいよー」


ミリー公爵令嬢は一旦従者を呼び寄せて、お茶のセットを頼ませた。

そのころには始めよりも3人はぐっと仲良くなれていた。




夕暮れを合図に楽しいお茶会はお開きとなった。

「ミリー嬢は通いなのよ? 」

「ええ、家が近いの」

「そっか、じゃあまた明日、学校で」

フィオナのその言葉を聞いてミリー公爵令嬢はへらりと破顔する。

「わー前世で学校を卒業してから、またその言葉を聞くなんて思ってなかったです」

一筋の涙がミリー公爵令嬢の頬を伝った。

「ミリー嬢……」

張り詰めた生活をしていたのだろう、ミリー公爵令嬢はハンカチでスッと涙をぬぐい取ってしまう。


ミリー公爵令嬢が馬車に乗り込む。

振り向いて、すこしモジモジとしながら、不安そうに言った。

「私達友達よね……? 」

コイフはぴょんと跳ねて、その言葉を肯定する。

「あったりまえなのよ、仲良しなのよ! 」

フィオナも頷く。


「あ、ピノのことなんだけど、悪い子じゃないのよ、ただ性に奔放なだけで…」

「なんとなく、話を聞いてわかったわ」

とミリー公爵令嬢は苦笑いして「みなさんごきげんよう、また明日学校でお会いしましょう」と礼をして馬車で去っていった。



ミリー公爵令嬢はクロード関係でかっとなりやすいだけで、一生懸命な恋する乙女だった。


「わたしたちも帰るのよ」

「うん、そうしよう」

フィオナが夕飯はパスタがいいなんてわがままを言うから、ふたりは帰り道で夕飯の材料を買うのだった。




翌日から、コイフ、フィオナ、時々ピノのパーティにミリー公爵令嬢が加わるようになった。

「おはようございますコイフさん、フィオナさん、……ピノさん」

「おはようございますミリー嬢」

「おはようございます、ミリー様」

「ミリーでいいわ」

フィオナの言葉にミリーが苦笑して言う。

「いやさすがに、3人の時だけそう呼びます、ありがとうございますミリー様」

フィオナが礼を言った。


「ミリーサマおはよぉございまーす、あたしぃもピノでいーよぉ」

「よろしくピノ」

ミリー公爵令嬢はにっこりとほほ笑んで呼び捨てにした。

「あっは! 秒で呼び捨て! 」とピノ本人は爆笑しながら手を叩いてうれしそうにしている。

ピノは挨拶もそこそこに教室の男子生徒に粉をかけに行った。


「学校でも仲良くしてくださると嬉しいですわ」

ミリー公爵令嬢は昨日のように穏やかにほほ笑んだ。


「おや、いつのまにかずいぶん仲良くなっていたんだね」

隣であいさつを済ませて一連のやりとりをみていたクロード王子はほほ笑ましそうに言うのだった。

次回投稿は5月16日です。

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