27 女の武器は面倒くさい
「な、なななな…」
シャロンの前でピットリ張り付くようにして立つ、へコイルトの王女。
ごめんなさいごめんなさい謝るので取り敢えず胸から手を離してください胸当てを巻いてんですから硬い筈でしょうなんでそんな嬉しそうなの!
「うふふ…最高ですわ…!…やはりわたくしの見たては間違っておりませんでした…はぁ…これで合法これで合法…!」
こっ壊れた!王女さま壊れたぁああ!
予想だにしなかった事態にシャロンの脳はショート寸前である。カチンと固まった体に対して、空回りばかりする脳内。
ーーーなんでバレたいつバレたどこにバレる要素あった⁉︎
あわわわと奇声を上げていると、意外なところから助けが舞い降りた。
「…カルレーナ様。シャロンとかいう子、困ってますですの」
「だな。説明してやったほうがいいんじゃないか?そいつにも、あたしらにもな」
呆れたように聞こえてくる声。王女さまに対してなのに随分と気安い話し方だなと余計な感想が浮かぶ。
「はっ!そ、そうでしたわね…失礼、取り乱しました」
…ヨダレが垂れてるのなんか見間違いだよね。
誤魔化す仕草で口元を拭った王女はふう、と息をはいたあと満足そうに近くの箱の上へ座った。ちなみにシャロンは固まったままである。あと数十分は動けそうにない。
「んー、どこからお話すればよろしいかしら」
こてりと首を傾げる王女。
「えぇと、わたくし初めて訓練所でシャロン様をお見かけした時は、男だと思っておりましたの」
「そこだ。あたしらにはそこが分からねえ。こいつ、男じゃないのか?」
「ですの」
うぐぅっ。
ビシッと指をさしてシャロンへ訝しげな目を向けるご令嬢姉妹。その目を合わせないように逸らした。
「ええ、わたくしも始めは男だと信じて疑っておりませんでしたわ。ですが後から思い出しますと、なーんか、こう…わたくしのエネルギーに換算されないと申しますか…シャロン様と男が絡み合ってても、嬉しいのですが、違和感が付いてまわると申しますか…」
わ、私が男と絡み合う?…そんな場面あったか?
「カルレーナ様、だだ漏れですの」
「ちょっと押さえような。話が進まねえからな」
窘める公爵令嬢姉妹。
…うん。なんか段々この三人の役割が分かってきた。二人だけだとトンチンカンな方向に走る令嬢姉妹だけど、王女さまが加わると二人は王女さまのストッパーになると。常に三人一緒にしときゃ周りに害無さそうだなあ。良いこと知った。
「あら、失礼致しました。つまりその…勘?みたいなものですわ」
「勘?」
私が男だと思った理由が!?
勘!?
「うん、あたしらは大体その勘の意味が分かるけど、やめろよ、そこまでは説明してやんな。さすがに可哀想だ」
「ですの!絶っ対ブチまけないようにするですの」
「ええもちろんですわ。わたくしだって、その辺の分別はついております」
蚊帳の外で進む話。シャロンは動揺を隠せない。
勘!勘でバレたか私の男装!嬉しいような、嬉しくないような、すっごく複雑。髪と服装だけじゃダメだったか。今後もバレるようなことがあっては困る。兜を被ることを視野に入れた方がいいかなあ。
「それで、えぇと…わたくしの影に調べさせたのです。シャロン様の出自を」
「!」
「お、怒らないで下さいまし!結局何も分からなかったのですから!」
叱られた子供のような反応を示す王女。シャロンはなんとか、眉に寄った皺を意識して緩ませる。
「その…資料を漁ってみてもシャロン様の経歴が出てこなかったとかで。ならどうやってヒグレリア騎士部隊に入隊しましたの何か書類くらいあるはずですわ、と影に探させたのですが。結局見つからなかったようなので出自を知ることは諦めましたの」
…さっきから出てくる『影』ってあれだよね。隠密的な。
ふう、と王女はため息をつくが、勿論出てくるわけもない。シャロンは強制入隊を果たしてから契約書の一文字も記入していないのだ。勝手に作られてはーーーーいるのだが、アリデライが簡単に開示できる場所に保管している訳もない。
「ですから、わたくしの勘を立証するにはシャロン様が男か女かが分かればいい話だと思いましたの。それで影に、シャロン様が男か女か調べてきてほしいとお願いしますと」
「しますと?」
「うふふ、胸当てを使用しているようだ、との報告を貰いましたのですわ。これはもう、女である可能性がぐんと上がったと確信しましたわ」
「まっ、そこストップです!どっ、どうやってそんなこと調べたんですか!」
事と次第によっては影とやらを始末したい!
「え?えぇと確か、碧騎士隊隊長…でしたかしら?その方のお部屋から出てきた際に、濡れていらっしゃるご様子でしたので目視いたしましたところ胸当てを使用している旨が見られた、と」
「なっなんっですと…!?」
濡れてて服にピッチリ張り付いてたってこと⁉︎
うっわそこまで気ぃまわんないって、と呟きシャロンは頭を抱えた。
「そこでわたくし、思い切ってシャロン様にお会いしたくなりましたの」
何が「そこで」なの。なんでそこでお会いしたくなるの…!放っておいてあげようよ…!
シャロンが頭を抱えて唸っていると、何やら暗い雰囲気漂う怒鳴り声が流れてきた。
「おい…!まさか、だからあたしらにああ言ったのか」
「…嘘。あり得ませんですの…いくら何でも酷い冗談ですの!」
姉妹激おこである。
「えぇ、その件に関しては…本当に申し訳ないことをしたと思っているわ。ごめんなさい、ルナリー、メアリー。それに、シャロン様も」
「まじかよ…信じらんねえ…」
「…ですの」
姉妹がなにに対して怒っているのか、またシャロンは何故王族から謝罪を入れられたのか理解できなく困惑した。
だが、状況を理解できず黙っているシャロンを見て王女は何を思ったか目に涙を溜める。今にも溢れ出しそうだった。慌てて声をかける。
「いや!よく分かんないですけど、大丈夫です!」
王族泣かせたら不敬にあたる、とか、貴族ってこんな喜怒哀楽はっきり表していいもんだっけ?とか。場違いな心配が脳内を掠めた。
「おい、あたしらからも謝る。悪かったな、泥棒と勘違いして」
「ですの…濡れ衣にも程がありましたですの…悪かったですの」
何故か姉妹もしおらしくなっていた。
シャロンの慌てた様子に理解ができていないと悟ったのか、姉妹の姉、ルナリーが弁解を始めた。
「つまりその、なんだ。あたしら二人は何も知らされずに、ただネックレスが何者かに盗まれたとだけ言われてな、探しに出てたんだ。だからその、あんたを泥棒と思っちまって…」
「ですの。まだ侍女には知られていないから内密に私たちだけで探しましょうとカルレーナ様に言われて、そうしたんですの。そこで貴方がネックレスを持っていたから犯人だと思ったですの。泥棒を見つけたらわたくしのところへ連れてきてとカルレーナ様に言われてましたですの。だから反抗する貴方を泥棒だと思い込んで無理矢理連れて行こうとしましたですの」
「すまん!本当に悪かった!今回のはいつものカルレーナ様の暴走に気付けなかったあたしらが悪いんだ。あたしらが止めなくちゃいけなかったのに」
「あの眼鏡が言った通りですの…ごめんなさいですの…」
うぅぐすっと泣き出した姉妹の妹の方。ちなみに王女さま大粒の涙を零した。
え、えー。えー。
ちょっと…なんっていうか。
「面倒くさい…」
つい零れ出た言葉に肩を震わす王女と姉妹。
シャロンは慌てて、弁解を述べた。
「だ、だって…王女様も何でそんな無茶なやり方を選んだんですか。普通に『今すぐ来い』って言われたら一介の騎士は会わざるを得ないものです。それに、何故ルナリー様とメアリー様がそんなに責任を負う必要が?カルレーナ王女は立派に成人してる王族ですし、自分の管理くらい自分でできるでしょう。できなくてもそれはカルレーナ王女の責です。出来れば始めに私の言い分聞いてくれてたらなあと思わなくもないですけど、得てして貴族というのはそういう生き物だと承知しておりますし」
あれはちょっとかちんときました、という言葉は押しとどめ、できる限り笑顔で話す。
これーーー不敬に当たらないよな?大丈夫だよな?
「ですから、ほら…どうか泣き止んで下さい。私には勿体ない涙です」
優しく優しく言ったつもりなのに状況は変わらない。
うぅぅっ、お願いだから泣き止んで。この現場誰かに見られたら私の首飛んじゃう。ぶっちゃけあの親子に比べれば死ぬほど可愛い出来事だったし。義妹に似てるねその性格なんて少し思ったけど、泣きながら謝るとか絶対あの子しない。全く似てないことは分かった。
「お、お願いですから、王には言わないでほしいですの…っ」
嗚咽を上げて泣くメアリーに首を傾げるシャロン。その様子に、拒否と取られたと思ったのか。
「ふぅっ…ふぇえええっ」
一層泣き声が大きくなった。
「ああ!ごめんなさいすみません!勿論王には報告しないです!」
そんな権限ねえしな!
シャロンの言葉を聞いた令嬢口角がにんまりと上がった。
「でも後でショドウェイ先輩に一言あると嬉しいです。凄く迷惑かけちゃってましたから」
「なぜ私がそんなこ…い、いえ!勿論ですの!」
ケロッと涙を引っ込めた令嬢が生意気な事を言おうとしたのでぼそっと「やっぱ言おうかな」と呟いてみました。
「わ、私も参りますわ」
「あぁ、だと嬉しいです。ありがとうございます」
きっと王族に謝罪なんてされた日にはショドウェイ先輩、胃に穴空いちゃうんだろなあ。ぷぷぷ。
「ーーーああ、それから二、三お聞きしたいことがあるんですけど大丈夫でしょうか」
「ええ、なんでもどうぞ」
赤い目元を抑えた王女が優雅にシャロンに向き直る。
「私、明日から王女さまの専属護衛騎士になるんですけど、そのことはご存知ですか?」
「「「…………………………え?」」」
うん、知らなかったんですね。
ーーー分かってたけど。やっぱりかこの野郎!
頭を抱えてため息をつき、言葉を続ける。
「本日正式に命じられまして。滞在中は私シャロンが、御身をお守りさせて頂きます」
輝かしい笑顔を浮かべて、シャロンは宣言した。引きつった顔で姉妹が叫ぶ。
「なっ、そんなら!なんであたしらはーーー!」
「全くの無駄骨どころか行き違いも甚だしいですの!」
「だっだって!知りませんでしたわそのような事!」
だよね。知ってたら私を「泥棒」として脅そうとなんかしないよね。宰相さまと同じ手段なのはなんか繋がってんのかと思いました。
「その話、本当ですか…?」
「ええ。明日の朝からだそうです」
打ちひしがれる姉妹。お疲れ様です。合掌。
「そっそれなら!それならぜひともお願いしたいことがございますのよ!」
本当は最初から、これが望みだったのですわと元気よく挙手をする王女。
喉元過ぎれば、とは言うが過ぎるのが早すぎないかなあとシャロンは思う。王女は笑顔で続けた。
「ドレスを着てわたくしと一緒に街に出ましょう!」
見た目男(中身は乙女)×男=合法
的な計算式です。基本王女さまの頭は発酵されてます。次回、王女さまの暴走編です。
シャロンの男装危うし…!?




