28 物置部屋の恋愛話
「ドレス…⁉︎」
非常に危険な単語が聞こえ、頬をひきつらせるシャロン。その様子は全く目に入っていない王女は挙手をしたまま笑顔で喋る。
「ええ!わたくし、この国に来てから一度も外へ出ていませんの。そろそろ耐えられませんわ」
いや待って貴女王族ぅと出かける言葉を、姉妹が代弁した。
「おいおい、そのことについては話し合ったろ。欲しいもんがあんなら使いを送るって言ったはずだ。あたしらが動いちゃ陛下に迷惑かけるからってな」
しかめっ面をして待ったをかけるルナリー。
うん、その通りです。
「分かっておりますわ。ですが使いを送ったのでは意味がなくて」
「それも聞きましたですの。でも王女さまが街を徘徊などして万が一のことがあったら目も当てられませんですの」
すかさず追撃をかけるメアリー。
うんうん。
「くっ…ですが…!」
「そもそも何でそんなに街に出ようとするんですか?」
再び女の武器を取り出そうとしたので、すかさず話題転換を試みる。王女はサッと体を揺らして、よくぞ聞いて下さいましたとばかりに話し始めた。
「わたくし、リヴァイ様にアレを差し上げたいの。ほら、ヒグレリアの王都で今流行ってますでしょ…!」
「あぁ、大好きな王子にプレゼントか。流行ってるアレってなんだよ」
「ヒグレリアで流行ってるーーーママハチョコ専門店の新作、カラメルスコーンですの?それともレナレ服飾店の限定青薔薇アクセサリー?サリアハ雑貨店の男爵成り上がり本?」
最後のなんだ。
「ああ、どれも違いますわね。わたくしがリヴァイ様に差し上げたいのは…指輪なのです」
「指輪?」
訝しげに眉を潜めるルナリー。それとは正反対に、ああ!と嬉しそうに声を上げたメアリー。
「あれですのね!恋人達の間で流行ってる愛のリング!やだロマンチックじゃないですの…」
「「は?」」
あっ空気に徹してたのについ口を挟んじゃった。だって予想外に馬鹿らしい物が出てたんだもん。
シャロンは発言がモロ被りしたルナリーのほうを見た。あちらもシャロンを凝視していた。ふっと目元を和らげられたのでシャロンも微笑みを返す。
うん、確実に今思いが通じ合ってますね私達。
「お姉さまもシャロンも知らないんですの?シャロンは仕方ないとしても、お姉さまは淑女なんですから知っておくべきですの」
淑女となんの関係が?真顔で聞き返すルナリー。
いいね!嫌いじゃないよそういうの!
「うふふ。王都にある小さな工房で、気難しい主人が奥様と二人でやっているお店があるみたいですわ。そこの指輪を購入して恋人に渡すと、その恋人達は結婚してもすえ永く夫婦円満でいられるそうなのです…」
うっとり、と浸っている王女。ほんとロマンチックですわ、と呟くメアリー。口をへの字に曲げるその他二名。
うん、王女さまが指輪が欲しいのは分かった。リヴァイ第四王子様と結婚してずっとイチャイチャしていたいのね。
まあそもそも結婚できるかどうかわかんないけど。貴方のお父様のご意向で我が国の第二王子か第三王子と政略結婚させられるかもしんないけど。
…なんて裏事情はひとまず置いておく。
「それでしたら先ほどの通り、使いを送って購入するのでいいのでは」
なんで王女さま自身が出向く必要があるの?だよなーと同意をくれたルナリー様。それにカッと目を見開いて憤慨するメアリーと王女。
「何をいってるんですの!?どう考えても使用人に買わせた指輪の効力なんて、たかが知れてるですの!自分で試練を乗り越えてこそ真実の愛は続くものでしょう!」
指輪買いに行くだけで試練て。
「勿論、それもあるのですけれど…指輪が売ってあるお店の主人は先ほども申しました通り、かなり気難しい性格でして。貴族には物を売らない主義だというお噂です」
へえ、貴族相手に商売で喧嘩売るって、中々気骨のある主人だなあ。
「汚い使用人に買わせればバレないんじゃねえか?身なりで判断してんだろ?」
うん確かに名案。
「いいえ。身なりで判断しているわけではないみたいですわ。どんな使用人が行っても貴族の使いだと分かってしまうそうで…なんでも売り子の男の子が一目で判断できるそうなのですけど」
とんでもないスキルじゃねえか。
「というわけで、わたくしが直接購入しに行きたいのですわ。変装して、町娘の身なりになって。もしバレて売らないと言われても、貴族ではなく王族だと言ってしまえばこっちのものですわ」
キラキラと目を輝かせる王女に、いいですわねと頷くメアリー。
シャロンとルナリーは肩を寄せ合ってため息をついていた。屁理屈こねる王族ってどうなんだ。
「そこでシャロン様です!わたくしの護衛かねて、一緒に街に出て欲しいのですわ」
専属護衛騎士になってくださるんですわよね?にっこりと惜しげも無くスマイル大放出な王女。
「周りが許さないんじゃないですか?王女さまが護衛一人しか着けずに出掛けるなんて」
「そこは手を打ってありますわ」
無茶振りするつもりか。目が笑っていない。
「ですから当日はシャロン様のワンピースも用意して待っておりますわね」
よく考えたらドレスではバレてしまいますものね、ワンピースくらいが町娘らしいのでは?と王女が物思いに耽っている姿を眺め、シャロンは絶望した。確定事項らしい。
「なんで男装解くんだ?」
「勿論わたくしがシャロン様の女の子姿を見たいからにです」
「ンッ?」
「あぁそれは賛同しますですの。悔しいですけど、シャロンがきちんと女の格好をしたら映えること間違いなしですの」
「確かに、綺麗な顏してるよなあ」
ちょっと待ってなんでルナリー様までそちら側に。
「うふふ。楽しみですわ…!」
惚れ惚れするくらい綺麗な笑顔の王女。
これどうやったら回避できるんだろう…。
シャロンがうずくまって頭を捻らせていたその時。
「カルレーナ王女!カルレーナ王女!どこにおられますか!」
扉の奥からの大きな声が、耳に入ってきた。




