23 夕焼けの憂鬱
一、王宮で行われ、確実に親子が出席するであろう春の夜会の近衛を申し出る。そこで親子には一番効くであろう恥をかかせて、今春いっぱいは屋敷に引きこもりたくなるように仕向ける。
二、義母がこそこそと密会(濃ゆい方)を繰り広げているセント男爵(そこそこ美形ただし性格壊滅的)に妻と子を連れさせて出掛けさせる。あらかじめセント男爵の妻には浮気のことを知らせ、義母の容姿も教えておく。セント男爵とその妻子が出掛けた先に、義母とついでに義妹も行くように仕向けて、鉢合わせさせる。あとは放置で修羅場を待つ。
三、義妹がとてつもなく惚れてるライル侯爵子息(ライル侯爵家長男・かなり美形・性格は不明)にとてつもなく平凡な恋人を作らせる。速攻であの義妹はライル公爵の恋人をイジメ倒すだろうから、そこにライル公爵子息を投入。あとは放置で修羅場を待つ。
四、もう面倒くさいから、さくっと暗殺者を雇う。
…んー。どっれも普通でつまんないなあ。
一はもう決定事項だから、中身は後で考えるとするでしょ。
二はもっと捻ったほうがいいかな。鉢合わせるだけじゃ面白みがないから、その前にたくさんの伏線を張って最高のタイミングではっちゃけさせよう。
三は…そもそもライル公爵子息の情報が少ないんだよね。多分婚約者とかいるだろうし、もしかしたら恋人も既にいるかもしれない。今の時期だと領地経営(勉学含む)より夜会やパーティに出席して人脈作りに忙しいだろうから、これに関してはもう少し情報収集を図ってそっから考えよう。
四は却下。最終手段だ。
シャロンが現在、腕を組んで歩いている場所は王宮の廊下。
少し前にいたデュノセント碧騎士隊隊長の部屋を出て、向かっているのは食堂である。廊下に接する庭から漏れる夕日が美しく入るよう設計がされているため、随分と長い間、隊長の部屋にいたことがうかがい知れる。
食堂に行っても誰もいないかもしれない。けれどそこ以外に行く当てがないので、ひとまず料理長にショドウェイの居場所を聞けば、シャロンは行く当てができると考えた。
知らなかったらどうしよう。紅の宿舎の場所を教えてもらってそこで待機?うん、そしたらいつかは会えるよね。
そうして考え事をしながら歩いていたが故に、シャロンはその異物に気付けなかった。
グリッ
カクンッ
「うぁわっ!」
なにかを踏んで豪快に転んだ。
…い、痛い。恐ろしく痛い。打った肘も、地味に捻った足も痛い。
なんだこれ。
転ばされたものに目を向け、拾い上げる。シャラリと音を響かせ手のひらに収まるサイズの。
「………ネックレス?」
それは、赤紫色の宝石がついてあるネックレスだった。
嫌なほど、見覚えのある、ネックレス。
「…………………うっわぁ」
それを握りしめたままキョロキョロと辺りを見渡す。誰も通りかかる気配のない廊下はシンとした静けさに包まれている。それに反芻して手元のネックレスはシャランと再び音を鳴らす。
「…まじかあ」
一度見てしまえば脳内に焼き付いて離れない輝き。人伝に噂されるほどの異様な美しさ。
うん、やっぱ私の記憶違いでなければ、これは多分あれだ。ヘコイルト国の妖精王女様のネックレスだったはずだ。
さて、どうするか。
良心的にいくなら届けるべきである。なぜ落ちてるのかは分からぬが、持ち主に返してあげるのが正しいことだろう。
…だろう、が、世の中正しいことだけで成り立っている訳もないからなあ。これを届けたら完璧に面倒事が待ってる気がするんだよね。私の嫌な予感レーダーにビシバシくるんだよね。だってさ。普通落とすか?他国で秘宝落とすか?内緒のデートで内緒に取り出して付けてたであろう姫君のネックレスはさ、多分デスマッチが終わってから回収されたと思うんだよね。侍女か誰かにこってり絞られてから、絶対回収されたと思うんだよ。それを普通落とせるか?
ってことで。うん。
「私は何も見なかったー(棒読み」
スッ
ゆっくりと傷をつけないようにゆっくりと元にあった場所へ捨てる。あ、一回踏んだからもう既に傷ついてるんじゃ、とか疑問が頭をよぎったけどそんな記憶も即座に捨てる。しゃがみこんで、そっと地面へ降ろそうとした。
その時。
「あぁああーーーーーッ!」
「えええっ!?」
どこからか聞こえてくる絶叫。瞬間、かつてないほど引き攣る私の顔。
「なっ、なんで、──────ううんっ、やっぱり!」
「そっそうです!やっぱりです!やっぱり盗まれてたです!」
平行線上にある廊下の先で意味不明なことを叫ぶ少女×2。いや本気で意味不明。
「そっそこを動くなよ泥棒!」
「そうです!そうなのです!動くなです泥棒!」
うわわっ、これ、つまりあれだよね逃げろってことだよね?鬼気迫る顔で逃げるな言われて逃げない泥棒いないもんね?わたし泥棒違うけど!でもこのままじゃ濡れ衣着せられる予感しかしないんだよねー!だからこれは非常時の魔法使用ってことでー!
パチンッ
軽くパニックになりながら発動させた転移の魔法。
バチィンッ
すぐに阻害され、吸収される音がする。
っとああ!そうだそうだそうじゃん!王宮全体はロイドお爺の結界があるんだった──────ってあれ?『吸収』?結界が?いや、まさかあり得ない。たしかあれはネツラリオンの吸収反応ってやつのはず…でもここにあの石は…どこかにあるのか?近くの部屋の物が反応した?いやいや、ここは一階の廊下、もとい連絡通路。重役の部屋なんてあるはずがない。
なら、ならば、吸収反応がされる範囲のネツラリオン、は──────。
「早くそれを離せ泥棒!」
バシッ
手をはらいのけられ無理矢理奪われるネックレス。────嘘、いや、だけど、あの色!
「ねっ姉さま!それ大丈夫ですか!?傷は!?」
「…ああ!良かった!問題ない!」
ああ!でしょうね!だって、それは、絶対的に傷が付かない物。付けれることなんてあり得ない物。
そして、ネックレスの装飾品なんかに使われていることも、加工されていることも、あり得ないはずのもの…!
「おい泥棒!貴様、一緒に来てもらうぞ!」
「そうです!連行です!黙って従うです!」
…いつの間に、ネツラリオンはカットのできる代物になったんだろう。
それも、一国のお姫様が人前で付けるネックレスに使われるような、装飾品に。
…そして何故、私は泥棒疑惑が確定しているのだろうか。
シャロンを除いてた紅会議で出てきたネツラリオンの問題が、シャロンもばっちり関わって来ました。やりました。やっとここまできました。本当は四話もデュノセント隊長の出番はなかったたんです。勝手に隊長が色気を振りまくから、ここまでくるのに思いのほか話数を使ってしまいました。泣
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長々と失礼しました…




