第6話:元ブラック企業、秒で崩壊する
「えーと、本日の配信はこれくらいで終了にしたいと思います。皆さん、本当にありがとうございました。それでは、失礼します……」
画面上で荒れ狂っていたコメントの奔流と、虹色に輝き続けるスーパーチャットの嵐。俺は震える指で強引に配信終了のボタンをタップし、ようやく生放送の回線を切断した。
プツン、と画面が暗転する。狂乱の宴が幕を閉じると、実家の裏山には再び、初夏の穏やかな静寂が戻ってきた。ただひとつ、日常とは決定的に異なるものがあるとすれば、俺の目の前に横たわる、全長五十メートルを超える漆黒の竜『エンシェント・ブラックドラゴン』の骸だろう。
先ほどまで空を暗雲で覆い尽くし、世界を滅亡の恐怖に陥れていた神話級の怪物は、頭蓋を無惨に陥没させたまま、ぴくりとも動かない。圧倒的な質量の死がそこにあるというのに、不思議と恐怖は感じなかった。むしろ、その巨大な亡骸から立ち上る微かな魔力の余波が、周囲の空気を澄み切ったものに変えている気すらする。
「……疲れた。草刈りより、スマホの画面見てる方があきらかに疲れたぞ」
ドクドクと高鳴る心臓を押さえながら、俺は冷たい土の上にへたり込んだ。最終的な同時接続者数は、三百五十万人を優に超えていた。日本の人口の数パーセントが、ただのジャージ姿の無職が実家の裏山で庭いじり(と称した害獣駆除)をする動画を、固唾を呑んで見守っていたのだ。そんな馬鹿な話があるだろうか。
俺は恐る恐る、ストリーム・チューブのクリエイター管理画面を開き、本日の『推定収益』の欄を確認した。
「……は? いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」
声に出して桁を数え、何度も指で画面をなぞる。しかし、液晶パネルに表示された無機質な数字の羅列は、何度見直しても変わらない。
そこには、俺がブラック企業で一生死に物狂いで働き、血反吐を吐きながら生きたとしても絶対に届かない──いや、宝くじの1等を何度当てれば届くのかも分からない、天文学的な金額が燦然と輝いていた。
億。
それも一桁ではない。たった一回の、数時間の草刈り配信で投げ込まれたスーパーチャットの総額は、確実に複数億の大台に乗っていた。
「な、何かの間違いだろ……? これ、後から『システムエラーでした、お詫びに五百円分のポイントを付与します』って没収されるパターンのやつじゃないのか……?」
額からじっとりと冷や汗が滲む。大金を手にした歓喜よりも先に、自分の理解を完全に超えた事象に対する本能的な恐怖が勝っていた。スーパーの特売日で十円安い卵を求めて自転車を走らせていた身からすれば、あまりにも現実味がなさすぎる。
「ウォンッ!」
キャパシティを超えかけた俺の脳裏を、朗らかな鳴き声が現実に引き戻した。足元に、フワフワとした銀色の毛並みがすり寄ってくる。
先ほどテイム(?)したばかりの野犬のポチ──もとい、S級神獣フェンリルだ。ちぎれんばかりに尻尾を振り、長い舌を出してハッハッと息を荒げながら、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。その姿は、どこからどう見ても飼い主に甘える忠犬そのものだった。
「あ、ポチ。お前は可愛いなぁ。……よしよし、もしこのお金が本物だったら、お前には最高級の和牛ステーキ肉を毎日食わせてやるからな」
俺がポチの銀色の頭を撫でてやると、神獣は嬉しそうに目を細めて喉を鳴らした。
すると、その背後から「ハッ!」という、短い息を呑む音が聞こえた。
「……なんと、なんと深遠な光景だ。世界を滅ぼす神獣を、あのように完全に慈愛の心のみで支配されるとは。やはり、我が師は本物の『神』に違いない……!」
振り返ると、そこにはピカピカのフルアーマーを着込んだ金髪の青年──国内トップギルド『紅蓮の剣』のリーダーであるレオンが、いまだに地面に両膝をついたまま、熱烈な視線をこちらに送っていた。彼の後ろに控える数十人のギルドメンバーたちも、誰一人として立ち上がろうとはしない。全員が、まるで巡礼の果てに約束の地へとたどり着いた狂信者のような、恍惚とした瞳で俺を見つめている。
「あの……レオンさん、でしたっけ? さっきも言いましたけど、弟子とか下僕とか、本当に勘違いですから。立ち上がってください。高級そうな鎧が泥だらけになっちゃいますよ」
俺が困惑しながら声をかけると、レオンは弾かれたように顔を上げ、胸に拳を当てて大真面目な顔で熱弁を振るい始めた。
「いいえ! 師匠! 我々は誓ったのです! あの神話級の竜を、ごくありふれた農具の一振りで屠ったあなた様の圧倒的な御姿を見た瞬間、我々の魂は永遠にあなた様へと捧げられました!」
「いや、捧げないでください。重いです」
「これほどの御方が、このような片田舎で隠遁生活を送られていること自体、世界の均衡を保つための大いなる天意! 我々『紅蓮の剣』は、今日からこの聖地実家の門番として、不届きな羽虫どもを排除する絶対の盾となりましょう!」
「ただの実家だから。門番とかいらないから。っていうか、不法侵入してるのは君たちの方だからね?」
俺の至極真っ当なツッコミは、完全に神格化のフィルターがかかった彼らの耳には一切届いていないようだった。副リーダーらしき魔法使いの少女にいたっては、うっとりとした表情で分厚い羊皮紙のノートに何かを猛烈な勢いで書き留めている。
『師の御言葉:聖地を語る者は、常に謙虚であれ。自らの力を誇示せず、ただ平穏を愛し、侵入者罪人をも諭す慈悲を持て……素晴らしい。教典の第一章に書き加えておきます!』
ダメだ、こいつら完全に話が通じない。一流のプロ探索者というのは、どこか頭のネジが外れていないとやっていけない職業なのだろうか。俺が頭を抱えて深いため息をついた、まさにその時だった。
ジリリリリリリリリリリリリリンッ!!!
静まり返った裏山に、けたたましい電子音が鳴り響いた。俺のジャージのポケットの中で、スマホが激しくバイブレーションしている。画面を取り出して見てみると、そこに表示されていたのは、見覚えのある忌々しい電話番号と登録名だった。
──『株式会社ブラック・アドバンス 大河原部長』
その文字を見た瞬間、俺の心臓が嫌な音を立てて跳ね上がった。退職届を叩きつけてから、まだ数日しか経っていないというのに。なぜ、あのクソ上司から電話がかかってくるんだ?あの会社の名前を見ただけで、深夜三時に鳴り響くチャットの通知音、終わりの見えないサービス残業、そして理不尽に怒鳴り散らされた灰色の記憶がフラッシュバックし、胃のあたりがキリキリと痛み出す。
指先が微かに震えた。一瞬、居留守を使おうと指を『拒否』のアイコンに滑らせかけたが、横でじっと控えていたレオンが、その気配に気づいて鋭く目を細めた。
「師匠、その不快な音を鳴らす魔道具は……? もしや、あなた様の平穏を脅かす不届き者からの通信ですか?」
「あ、いや……前に勤めてた会社の、上司だった人で……」
「前の会社……? 確か、配信の冒頭で『ブラック企業をクビになった無能な元社畜』とご自身を卑下しておられましたね」
レオンの目が、一瞬にして冷酷な本物の探索者のそれに変わった。その全身から、プロとしての圧倒的なプレッシャー覇気が、チリチリと空気を焦がすように漏れ出す。周囲の草木が、彼の放つ殺気に当てられて微かに揺れた。
「我が師を無能と罵り、その尊い時間を搾取していた有象無象が存在するということですか……。師匠、よろしければその通信を、我々にも聞こえるようにしていただけないでしょうか」
「え? ああ、別にいいけど……」
レオンのただならぬ迫力に押され、俺はついつい画面の通話ボタンを押し、スピーカーフォンに切り替えてしまった。
その瞬間。スマホの小さなスピーカーから、鼓膜を突き破らんばかりの、傲慢で酒臭そうなダミ声が響き渡った。
「おい、 結城! お前、今どこで何してやがる!!」
大河原部長の声だった。相変わらず挨拶も要件もなしに、ただ感情のままに怒鳴りつけてくる。
「お前のせいで、今うちの部署がどれだけ回らなくて大変なことになってるか分かってんのか! 今日中にオフィスに戻ってきて、溜まってる書類の整理とクライアントへの謝罪をしろ!」
あまりの理不尽さと身勝手さに、俺は一瞬言葉を失った。隣にいるレオンたちの顔が、一瞬で般若のように引きつったのが分かった。ポチ(フェンリル)にいたっては、ウゥーと低く唸り声を上げ、今にもスマホを噛み砕かんばかりの明確な殺気を見せている。
「……あの、大河原部長。俺は数日前に部長から直接『明日から来なくていい、お前はクビだ』って言われて、退職届も受理されたはずですが」
俺ができるだけ感情を殺して冷静に返すと、電話の向こうの部長は、ガハハと下品な笑い声を上げた。
「バカを言うな! あれは期待の裏返し、ただの冗談に決まっているだろうが! お前みたいな無能を雇ってやってる我が社の慈悲深さを、少しは理解しろ! 戻ってこられるだけありがたいと思え!」
冗談……毎月二百時間のサービス残業を強要し、休日の深夜に呼び出し、人格否定を繰り返し、最終的にゴミのように放り出したあの非道な行為を、こいつは冗談の一言で片付けやがった。俺の胸の奥で、静かに、しかし確実に怒りの炎が燃え上がる。しかし、大河原部長の言葉は、俺の想像を絶するほどにエスカレートしていった。
「まあいい、本題だ。お前が裏山でやってるあの悪ふざけみたいな動画配信、あれは何だ? 同接数百万人だか何だか知らんが、ずいぶんと稼いでいるらしいじゃないか」
……やっぱり、そこが目的か。ネット上の大バズりを見て、俺の配信収益に目をつけたのだろう。
「お前が配信で使っている機材や、あのアクションのノウハウは、我が社での過酷な業務を通じて培われたリソースの賜物とみなす! したがって、あのチャンネルの所有権と収益の全額は我が社にある! 今すぐ会社に戻って契約書を書き直せ! 戻ってきたら、特別に月給を五万円アップして、主任のポストを用意してやってもいいぞ!」
あまりの強欲さと、恥知らずな物言いに、俺は怒りを通り越して完全に呆れ果ててしまった。実家の裏山の草刈り機と、お爺ちゃんのクワが、なぜ東京のブラック企業の成果物になるんだ。論理が破綻しすぎている。狂人の戯言だ。
「おい、聞いてんのか結城! それと、後ろに映ってるあのデカいトカゲの死体な! あれも我が社の名義で売却するから、今すぐ大型トラックを手配して東京まで運んでこい! いいな!」
大河原部長がそう叫んだ瞬間、電話の奥から別の声が聞こえた。さらに偉そうな、あの会社の禿げ頭の社長の声だ。
「結城君! 特別に役員待遇で迎えてあげよう! 配信の利益を我が社と折半し、あのドラゴンの素材をすべて会社に上納すれば、君の未来は我がブラック・アドバンスが永遠に保証してあげるよ! さあ、早く戻ってきなさい!」
彼らは完全に、俺の背後にある『数千億円の価値がある神話級素材』と『莫大な配信利益』に目がくらみ、理性を失っているようだった。俺は静かに息を吸い込み、スマホに向かって、これまでの人生で最も冷たい声ではっきりと告げた。
「……お断りします。俺はもう、あんたたちとは何の関係もありません。実家の草刈りと、新しいトマトの苗の世話で忙しいので、二度と電話してこないでください」
「何だとお前ッ! 誰に向かって口を利いて──」
ブチッ。
俺は部長の醜悪な怒声を遮るように、容赦なく通話終了ボタンを押した。そして、そのまま大河原部長の番号と、会社の代表番号をすべて着信拒否に設定する。
「ふぅ……。すいません、お見苦しいところを」
俺がスマホをジャージのポケットにしまいながらレオンたちに向き直ると、そこに広がっていたのは、まさに『この世の終わり』を体現したかのような、圧倒的な絶望の空間だった。
ギルドリーダーのレオンは、全身から青白い闘気を立ち上らせ、その手は腰の魔剣の柄に深くかけられていた。彼の瞳は完全にハイライトを失い、冷酷極まりない、氷のような笑みを浮かべている。
魔法使いの少女は、杖の先端からパチパチと黒い暗黒魔法の火花を散らしながら、ブツブツと呪詛を唱え始めている。他の大男たちも、今すぐにでも首都を一つ消し去りそうなほどの、ドロドロとした濃密な殺気を放っていた。
「……なるほど。株式会社ブラック・アドバンス、ですか」
レオンの声は地を這うように低く、そして絶対零度のように冷たかった。
「我が神聖なる師を無能と侮辱し、その尊い汗の結晶配信利益を強奪しようと企み、あろうことか神の所有物ドラゴンの素材を己の欲のために奪い取ろうとする、文字通りの害虫ども……。師匠、あの不敬極まりない有象無象どもの処理、我々『紅蓮の剣』に一任していただけないでしょうか?」
「え? いや、着信拒否したからもう大丈夫だよ? 放っておけばそのうち諦めるでしょ」
俺が苦笑いしながら宥めようとするが、狂信者たちの怒りはそんな常識的なレベルでは収まらなかった。
「いいえ、師匠。神の平穏を乱す不届き者は、その存在そのものを根絶やしにするのが信徒たる我々の務め。……おいアル、すぐにギルドの情報網を使って、あの会社のすべてを洗い出せ」
レオンが背後の情報担当のメンバーに、氷の刃のような指示を飛ばす。
「労働基準法違反、脱税、不正受給、パワハラ、モラハラ、反社との繋がり……埃が出ないはずがない。あの豚どもの過去の悪行を、裏帳簿から何からすべて白日の下に晒せ。一時間以内にだ」
「一時間? リーダー、俺を舐めないでくれ。五分で終わらせてやるよ」
アルと呼ばれた情報担当の青年が、不敵な笑みを浮かべながら超高性能のタブレット(※ダンジョン深層の演算処理にも耐えうる軍事用魔導端末)を猛烈な勢いで操作し始めた。
トップギルド『紅蓮の剣』は、ただモンスターを狩るだけの戦闘集団ではない。彼らは国や経済界、さらには警察やダンジョン管理省のトップとも太いパイプを持ち、独自の情報機関を有する、国家予算規模の巨大組織なのだ。そんな彼らが本気で牙を剥いた瞬間、一零細ブラック企業など、象に踏みつぶされるアリも同然だった。
「……出たよ、リーダー。出るわ出るわ、真っ黒だね。毎月二百時間以上のサビ残や給与未払いは序の口。下請け企業への不当な圧力に、架空発注による組織的な脱税、さらには社長個人の裏金工作と横領の証拠まで、全部ハッキング……ゲフン、合法的な独自調査で入手した。データはすでにパッケージ化してある」
「素晴らしい」
レオンは冷酷に頷くと、懐からスマートな特別仕様の端末を取り出し、どこかへ電話をかけた。
「私だ、紅蓮の剣のレオンだ。……ああ、内閣官房長官、夜分遅くに恐縮だが、少々急ぎの頼みがある。株式会社ブラック・アドバンスという犯罪組織が、我が国、いや世界にとって最重要人物である御方を直接脅迫している。……そうだ。今すぐ警察庁の特捜部と国税庁、それから労働基準監督署を総動員して、一斉強制捜査を行ってくれ。証拠データは今送った。猶予は五分だ。もし遅れれば、我々が直接『物理的』に更地にする」
電話の向こうで、国の最高権力者の一人がガタガタと震えながら「た、ただちに手配する! 物理的介入だけは勘弁してくれ!」と叫んでいるのが、漏れ聞こえてきた。
俺は、ただただ呆然とレオンの電話のやり取りを見ていた。
……え? なにこれ? 内閣官房長官?なんでただのニート元社畜の個人的な愚痴から、国家権力の最高峰が発動してんの?あまりのスケールの大きさと展開の速さに、俺の脳の理解が完全に追いつかない。
「師匠、お待たせいたしました。不快な害虫の駆除は、まもなく完了いたします」
レオンは電話を切ると、何事もなかったかのように爽やかな笑顔で俺に深く一礼した。
それから、わずか十分後のことである。
俺が実家の古びた居間で、ポチを隣に侍らせながら麦茶を飲み、何気なくテレビをつけると、夜の報道番組が番組の途中にもかかわらず、突如として臨時ニュースのテロップを打ち出していた。
『──番組の途中ですが、速報をお伝えします。本日夜、東京・品川区のIT関連企業「株式会社ブラック・アドバンス」の本社ビルに、警視庁特捜部、国税庁、および労働基準監督署による、極めて異例の合同強制捜査が入りました』
画面には、無数のパトカーの赤い警告灯が夜のオフィス街を照らし出す中、大勢の捜査員たちが、あの見覚えのある自社ビルへと雪崩れ込んでいく映像が映し出されていた。上空には報道ヘリまで飛んでいる。
『同社は、長年にわたる深刻な労働基準法違反や、数十億円規模の組織的な脱税、さらには社長による業務上横領の疑いが持たれており、極めて悪質な手口から、証拠隠滅の恐れがあるとして電撃的な強制捜査に踏み切った模様です──あ、今、容疑者と思われる人物が出てきました!』
カメラがズームされると、大勢の捜査員に両脇を抱えられ、フラッシュの嵐の中で顔を隠しながら連行されていく豚のような男の姿が捉えられた。
大河原部長だ。そのすぐ後ろでは、禿げ頭の社長が「何かの間違いだ! 私は被害者だ! 誰の差し金だ!」と見苦しく叫びながら、無理やりパトカーに押し込まれていた。
現行犯逮捕。容疑が多岐にわたりすぎている上に、国の中枢からの絶対的な指示による一斉摘発だ。保釈の余地すら一切ない、完全なる一発アウトの社会的抹殺だった。会社は明日にも倒産の手続きに入り、彼らは莫大な追徴課税と賠償金を背負ったまま、一生を塀の中で過ごすことになるだろう。
「……うわぁ」
俺はテレビの画面を見ながら、麦茶の入ったコップを持ったまま、ポカンと口を開けた。さっきまで俺を怒鳴りつけ、高圧的に支配しようとしていた奴らが、本当に『秒で』崩壊してしまった。労働基準法違反でいつか痛い目を見ればいいとは思っていたが、まさかここまで徹底的に、かつ国家レベルの迅速さで破滅させられるなんて。
横でテレビを見ていたレオンが、フフん、と満足げに鼻を鳴らした。
「当然の報いです、師匠。我が神聖なる師を不当に扱い、その御心を乱した代償は、彼らの安っぽい人生すべてを以てしても、到底償えるものではありませんから」
「あ、ありがとう……レオンさん。なんか、手際が良すぎて逆に怖いんだけど……」
「滅相もない! 我々はただ、師匠の庭先に湧いた小さなゴミを掃き清めたに過ぎません! 神の御手を煩わせるまでもありません!」
レオンは再び感極まったように土下座の姿勢に入ろうとしたので、俺は慌ててそれを止めた。
何はともあれ。これで俺を縛り付けていたブラック企業との因縁は、文字通り完全に断ち切られたわけだ。自業自得、因果応報。彼らが己の欲深さゆえに犯した罪が、俺を神と崇める狂信者トップギルドの逆鱗に触れて、あっという間に業火で焼き尽くされたのだ。胸の奥につかえていた黒い靄が、嘘のように晴れ渡っていくのを感じる。
「よし……! 嫌な過去も消え去ったことだし、明日はスパチャで稼いだお金で、新しいトマトの苗と、最高級のふかふかな培養土でも買いに行くとするか!」
俺は真新しいジャージの袖をまくり上げ、明日からの自由で希望に満ちた生活に胸を膨らませた。
隣ではポチが、ワン!と元気よく吠え、レオンたちが「おお、新たなる神の菜園計画……! 我々も全力で警護と運搬をお手伝いいたします!」と勝手に盛り上がっている。
クビになった元底辺社畜の無自覚にして最強すぎるスローライフは、こうして世界を巻き込みながら、さらに規格外の方向へと加速していくのだった。
次回、第7話「国際問題? 庭のゴミ(素材)が国家予算級だった件」
ユウトが裏山に放置していた「刈った雑草(A級素材)」や「デカトカゲの死体(神話級素材)」。それを買い取るため、ギルドや政府の偉い人が、国家予算レベルの札束を抱えて実家にやってくる!さらには海外の組織まで動き出して……!? どうぞお楽しみに!




