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クビになった元社畜、実家のS級ダンジョンを草刈り機で攻略して世界最強の配信者になる  作者: 綾瀬 灯


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第49話「全宇宙を極寒の氷河期に閉ざす『絶対零度の氷結神』が襲来したんだが、限界オーラでエアコンとヒーターの風向をのんびり微調整したら、極上の巨大温泉テーマパークになって農園の雪見露天風呂が完成した」

真冬を迎えたユウト農園は、数日前に時間加速の悪魔がもたらしてくれた「無限コタツ空間(体感時間3倍スロー)」のおかげで、外の厳しい寒さをすっかり忘れさせるような、ぬくぬくとした平和で怠惰な時間に包まれていた。


「ふぁぁ〜……。コタツの中で食べる、熟成みかんと干し芋の組み合わせ、最高にだらけられちゃって幸せすぎます……むにゃむにゃ……」


巨大なコタツのど真ん中で、ヤクちゃんがとろけきった表情ですっかりお餅のようになりながら丸くなっている。


縁側では静寂魔獣が心地よい冬風の音色を奏で、その近くでは時間加速の悪魔がちょこんと正座しながら「もっとゆっくり時間を進めましょうか?」と献身的にタイマーをいじっている。まさにユウト農園の冬の完全勝利だった。


「いやあ、こうしてコタツで温かいお茶を飲んでいると、冬も悪くないものだな」


俺が湯呑みに口をつけようとした、まさにその時だった。


ピキキキキキッ……!!


部屋の空気が、一瞬にして凍りついた。


コタツの熱源が、ほんのコンマ数秒で完全に凍結し、オレンジ色の温かい光がかき消される。


「なっ……!? コタツの電源が……! 内部の配線ごと絶対零度の冷気にシャットアウトされましたぞ!?」


ゼウスが、どてらを着込んだままガチガチと歯を鳴らして飛び起きた。


「たまらん……! 死の世界の冷気よりも冷たい……! 私の毛布の温もりが一瞬で消え去りました……! 凍死する……!」


タナトスが白目を剥いてコタツのなかで硬直し始める。


「ユウト社長! 外部センサー異常! 農園周辺の気温が、秒速でマイナス100度、マイナス200度へと急降下しています! このままではハウスの作物どころか、農園全体の分子運動が完全に停止します!」


アルカがタブレットを死守しながら、青ざめた顔で叫んだ。


窓の外を見ると、数日前まで穏やかだった純白の雪景色は一変し、すべてが青白い氷の彫刻のように凍りついていた。地面の水分も大気も、一切の熱を奪われてカチカチの永久凍土へと変わっていく。


ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


凍てつく吹雪の向こう側から、透き通った氷の翼を広げ、全身が絶対零度のオーラを纏った荘厳かつ冷酷な巨大神『グレイシャル・マスター(絶対零度の氷結神)』が舞い降りた。


「愚カナ……温室のヌクモリニ浸ル者ドモヨ。我ハ、全宇宙ノ熱量ヲ奪イ尽クシ、全テヲ永遠ノ沈黙ト氷河期ニ閉ザス者ナリ……! 凍リテ眠れ!」


氷結神が青白い両手を掲げた瞬間、農園全体を覆い尽くすほどの絶対零度の冷気波が放たれた。それは物質の熱エネルギーを完全に奪い、あらゆる生命活動を停止させる宇宙最悪の寒波だった。


神々すらも凍りつき、もはやこれまでかと思われた絶望的な状況の中、俺はコタツからモソモソと立ち上がると、片手でぬるくなったほうじ茶の湯呑みを持ったまま、どこか呆れたような顔でその氷の神を見上げていた。


(んー……、なんだか急に部屋が冷え込んできたな。エアコンが効かないどころの寒さじゃないぞ……。このままだと作物のハウスどころか、給湯器の配管が凍りついて破裂しちゃうじゃないか)


俺の脳裏には、宇宙の脅威に対する恐怖や気負いなど一切なく、「あーあ、冬場の水回りトラブルは修理が大変なんだよな」という、ごく日常的な困惑だけだった。


昔からそうだ。オフィスや現場でエアコンの効きが悪かったり、寒風が吹き込んできたりすると、誰に頼まれるでもなく「風向きをちょっと調整してみるか」と、手持ちの道具で手際よく環境を整えてしまう癖があった。


「やれやれ……。君、ちょっと冷やしすぎだよ」


俺は作業着の袖をまくると、物置から農業用のジェットヒーター(温風送風機)と、いつもビニールハウスの換気調整に使っている風向ルーバーの部品を持ち出し、氷結神の方へトコトコと歩いていった。


「フッ、愚カ者ガ! 我ガ絶対零度ノ冷気の前ニ、人間ノ温風ナド一瞬デ……ハ? ナンダコノ人間は……? 何故平然ト歩イテクル……!?」


氷結神が嘲笑っていた表情を凍りつかせ、間抜けな声を上げた。


なぜなら、絶対零度の冷気波の中にいるはずの俺が、身を縮めることもなく、ごく自然なマイペースさで足元まで歩み寄ってきたからだ。


俺にとっては「ちょっと寒波がひどいな」程度にしか感じておらず、頭の中は「いかにこの冷気を上手く循環させて給湯管の凍結を防ぐか」ということでいっぱいだったため、そのマイペースさが冷気のダメージをすっかりスルーしていたのだ。


「あのさ、そんなに冷気を外にばら撒いたら勿体ないだろ。君のそれ、見たところ冷房能力はすごいんだから、排気の向きをちゃんと考えて対流させないとダメだよ」


「ハ……? 徘徊……対流……? 我ハ全宇宙ヲ凍ラセル氷結神ダゾ……!」


「ほら、冷気は下に溜まりやすいんだから、下から温風を当てて持ち上げてやらないと、部屋全体が均一に暖まらないじゃないか」


俺は「よいしょ」と呟きながら、氷結神の足元──冷気が一番激しく吹き出している結晶の関節部分に、ジェットヒーターの吹き出し口をポスッとセットした。


「ガ、ギャァァァァッ!? ナ、ナニヲシテイル!? 貴様、ナゼ我ノ絶対零度ノ核ニ、勝手にヒーターのノズルを突っ込んでいるんだ……!?」


「突っ込んでないよ、位置を調整してるの。ほら、ここから出る冷気と、ヒーターから出る温風をこうやって斜め45度でぶつけると、ちょうどいい具合に打ち消し合いが起きるだろ? ついでに、このルーバーをスイングさせて……よし!」


俺は、昔オフィスのエアコンの直風対策でやっていた「風向きを適当にいじって快適な空気の流れを作る」という手作業のノリで、氷結神の冷気ノズルをガチャガチャと調整し始めた。


ゴォォォォォォォッ!!!!!


ヒーターの温風と、氷結神の冷気が絶妙な角度で衝突し、打ち消し合う。俺自身は単に「これで足元の底冷えがマシになるかな」くらいの軽い気持ちでやっていたのだが、俺の適当かつ完璧な風向調整によって、絶対零度の冷気は見る見るうちに「心地よい温風」へと相殺・変換されていってしまった。


「ガ……ッ!? ギィィィィッ!? な、ナンダコレハ!? 我ノ絶対零度ノ冷気ガ、勝手ニちょうどいい温度ノポカポカの温風ニ書き換えられていく……!? なんだこの快適すぎる空気の流れは……!」


氷結神は絶叫した。自分が誇る絶望の冷気が、この人間の「ちょっとした風向調整」によって、完璧な暖房効率へと無自覚に書き換えられていくのだ。


「ア……アァァッ!? ヤ、ヤメロォォ! ソンナに完璧ニ室温ガ安定シタラ……我ハもう「宇宙を凍らせる氷結神」デハナク、タダノ「高性能な冷暖房エアコン」ニナッテシマウゥゥッ!!」


「なに言ってるの、お陰で部屋中が暖かくなって助かったよ。ほら、冷えすぎてガチガチになってた神様たちも、これで生き返るだろ」


俺が仕上げに、ヒーターの風向を「上下自動スイング」にセットしてトントンと叩くと、氷結神の巨大な体は完全にその場に崩れ落ち、シュルシュルと心地よい温度を放つ巨大な温水装置へと変化した。


スーッ……。


氷結神が温水装置へと変化した瞬間、農園を覆っていた絶対零度の冷気が嘘のように消え去り、かわりに春の陽気のような柔らかい暖気が農園全体を優しく包み込んだ。


「あ……! コタツの電源が勝手に復旧しました! いや、それどころか、床下の配管全体に極上の温水が循環し始めています!」


アルカがタブレットを見て目を丸くする。


「なんと……あの凍てつく冷気が、ユウト殿の『ちょっとしたヒーター設置』で一瞬にして完璧な全館床暖房の熱源に……! 流石ですぞ!」


ゼウスがガチガチだった体をほぐしながら、感動のあまり涙を流している。


「みんな、大丈夫だったかい? 寒かったろ」


俺がヒーターを置いて振り返ると、ヤクちゃんがトテテッと走ってきて、俺の袖をギュッと掴んだ。


「ユウト様、すごーい! お部屋の中がぽかぽか通り越して、なんだかすっごくいい匂いがするよ!」


ヤクちゃんの言う通り、変化した氷結神のエネルギーは、ただの温水ではなく、微かに硫黄と森林の香りが混ざった極上の温泉成分を含んでいた。


「……待てよ。この大量の温水と、いい香りの温泉成分、そして先日作った砂風呂のシステムを組み合わせたら……」


数時間後。俺たちは農園の空き地に、ついに完成させていた。


雪が降り積もる真冬の銀世界の中、もうもうと湯気を上げる、絶景の露天風呂付き・巨大温泉テーマパークを!


木枠で綺麗に整備された広大な露天風呂には、先ほどの氷結神(現在は専属の温泉ボイラー係)が生み出す極上の温泉水がこんこんと湧き出ている。その周囲には、砂風呂や、静寂魔獣のBGM、時間加速の悪魔が調整する最高のスロータイム空間が完璧に完結していた。


「ふぁぁぁ〜……極楽だぁ……。雪景色を見ながら入る温泉、最高に気持ちいいよぉ、ユウト様ぁ……!」


ヤクちゃんが、タオルを頭に乗せながら、露天風呂の中でうっとりと頬を赤らめている。


「おおお……! 冷え切った体にこの温泉の温もりが染み入るわい! しかも肌がツルツルになる最高の泉質じゃ!」


ゼウスもタナトスも、極上の温泉に肩まで浸かってすっかり骨抜きになっていた。


ちなみに、極上の温泉ボイラー係として農園に定着した『絶対零度の氷結神』の意識も、みんなが「温かい!」「最高の湯加減だ!」と温泉を堪能している姿を見て、


(オ、オレの体が……星を凍えさせるんじゃなくて、こんなに喜ばれる極上の温泉を作る熱交換システムになるなんて……。宇宙を凍らせて嫌われるより、農園の専属ボイラー係になって、この優しいお兄さんに時々風向きを調整してもらう方が、100万倍気持ちいいし幸せだぞ……!)


と、感動の湯気をもうもうと上げながら、自ら進んで最高の湯加減を保ち続けるのだった。


冬の寒さに怯え、仕事の合間に寒風に晒されていたあの頃。


それに比べれば、今はどうだ。ちょっとしたマイペースさと暮らしの知恵で、どんな絶望の寒波がやってきても「極上の露天風呂」に変えて、大切な仲間たちと一緒に心から温まることができる。


俺は、ヤクちゃんが温泉の湯しぶきをパシャパシャと楽しそうにはしゃぐ姿を見つめながら、ぽかぽかに温まった露天風呂の中で、静かに極上の冬のひとときを満喫するのだった。

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