↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった元社畜、実家のS級ダンジョンを草刈り機で攻略して世界最強の配信者になる  作者: 綾瀬 灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/55

第47話「冬の猛妻と砂漠化魔神の勘違い ~湿度0%の世界をほぐしたら、極上ポカポカ砂風呂になった」

初冬からいよいよ本格的な真冬へと季節が移り変わり、ユウト農園の周囲には、肌を刺すような冷たいからっ風が容赦なく吹き荒れるようになっていた。


収穫を終えた畑の一部は早朝の深い霜に覆われ、朝日を受けて白銀色にキラキラと輝いている。見上げる空はどこまでも高く澄み渡っているが、口から吐き出す息は瞬時に真っ白く染まり、外の気温は氷点下に届こうかという寒さだった。


だが、ユウト農園の母屋の中だけは、外の厳寒が嘘のような極上の温もりと穏やかな空気に満ちあふれていた。


先日、俺の「ちょっとしたフィルター掃除」によって農園の専属BGM係となった静寂魔獣が、縁側の座布団の上で丸くなり、パチパチとはぜる微かな焚き火の音と、サラサラと流れる冬風の音色を絶妙な1/fゆらぎで奏で続けている。薪ストーブの柔らかな熱気と、脳波を直接リラックスさせる究極の環境音がブレンドされた室内は、まさに地上の楽園だった。


「ユウト様、お外はすっごく寒くてピューピュー風が吹いてるのに、お部屋の中はぽかぽかだね! スピーカーさんの音、なんだか本物の焚き火にあたってるみたいであったかいの!」


厚手のニットポンチョに身を包み、もこもこのルームソックスを履いたヤクちゃんが、両手で温かい甘酒の入った湯呑みを包み込みながら、幸福そうに目を細めて微笑んだ。


「そうだね。寒さが一段と厳しくなるこれからの季節だからこそ、こういう空間の温もりや潤いって本当にありがたく感じるよ。ヤクちゃん、甘酒の温度はちょうどいい? 今日のおやつは、さつまいもで作った干し芋を薪ストーブの上で焼いているから、後でみんなで食べよう」


「わぁい! ユウト様がストーブで焼いてくれる干し芋、お外はちょっと香ばしくて中はもっちりしてて、大好きなの!」


俺はヤクちゃんの小さな頭を撫でながら、自分も温かいほうじ茶をすすり、窓の外の冬枯れの景色を静かに眺めていた。


「うむ! 天界の冬はただただ荘厳で凍てつくばかりじゃったが、こうして地上の小さな家で身を寄せ合い、温もりを分かち合うのもまた、最高神たるわしの心を深く満たしてくれるわい!」


ゼウスが、あでやかな半纏を羽織りながら立派な髭を撫で、火鉢で焼いたみかんを美味しそうに頬張っている。彼の周囲には、ほんのりとみかんの皮が焦げる香ばしい甘い香りが漂っていた。


「ええ……。死の世界の底冷えするような孤独な寒さとは違う……命の熱を感じる優しい温もり……。冬眠するクマのように、このまま春まで毛布にくるまっていたいです……生きてるって素晴らしい……」


タナトスもすっぽりと厚手の毛布にくるまり、コタツの魔力に完全に屈服してとろけそうな表情を浮かべていた。死を司る神がコタツから抜け出せなくなっているのだから平和なものだ。


「ユウト社長、冬越しの根菜類の生育データ、および本日の大寒波に備えた特殊保温ハウス内の湿度・温度のモニタリングが完了しました。この調子で管理を徹底すれば、来月には極寒期ならではの甘みを蓄えた最高の冬野菜──霜降り白菜や、糖度が果物並みに跳ね上がった越冬大根が収穫できる見込みです。今夜の夕食は、それらをふんだんに使った熱々の鍋料理などいかがでしょうか」


部屋の隅で、アルカがタブレットを片手にいつもの的確で淀みない業務報告を上げていたまさにその時だった。


「……ケホッ、ケホッ、ンンッ……」


ヤクちゃんが、急に喉元を押さえて小さく乾いた咳き込みをした。


「どうしたの、ヤクちゃん? 部屋が少し乾燥してるかな。風邪かい?」


「ううん違うの。なんだか急に、お口の中が砂を噛んだみたいにパサパサして……お目々も、しょぼしょぼして痛いの……」


ヤクちゃんが不安そうに目をこすり、甘酒を一口飲もうとした瞬間、俺の肌にも異様なまでの突っ張りが走った。唇の水分が一瞬にして奪われ、ピキッとひび割れるような、鋭く痛いほどの激しい乾燥感覚。瞬きをするたびに、眼球の表面がヤスリで削られるような異物感を覚えた。


ただの冬の乾燥ではない。まるで空間そのものが『水分』という概念を強制的に排除しようとしているかのようだ。


「な……なんですか、この異常な空気の乾きは!?」


アルカが悲鳴のような声を上げた。彼の手にあるタブレットの画面に、けたたましい警告のエラー表示が真っ赤にポップアップする。


「ユウト社長! 農園周辺の大気中の水分量が、物理法則を無視した凄まじいスピードで消失しています! 湿度30%……10%……0%を突破しました! 大気中から水分子そのものが根こそぎ消滅しています! 現在、計測不能です!」


「湿度0%!?」


俺が慌てて立ち上がり窓の外を見ると、農園の景色は地獄のような様相を呈し始めていた。


つい先ほどまで、特殊保温ハウスの中で青々と元気に育っていた冬越しの作物たちが、一瞬にして全細胞の水分を奪われて茶色く干からび、冬のからっ風が吹いた途端に、サラサラの砂のように崩れ落ちていく。


さらに恐ろしいことに、豊かな栄養と適度な水分を含んでいたふかふかの畑の土壌までもが、見る間に真っ白にひび割れ、生命力を一切持たないサラサラの『死の砂漠』へと変貌し始めたのだ。


「ヒィィッ! わしの、わしの自慢の豊かな髭が、乾燥しすぎて一瞬でパサパサのタワシのようになってしまったぞぃ! これでは威厳が保てん! 触っただけで粉々に砕けそうじゃあ!」


ゼウスが自分の立派な髭を慌てて両手で覆い、絶望的な声を上げる。


「いけません、社長! この異常な乾燥化の波が土壌の深部まで浸透し、農園全体を完全に飲み込もうとしていますぞ!」


外で見回りをしていたテラノスが大剣を抜こうとしたが、鞘の内部まで極限乾燥したせいで摩擦係数が完全に狂い、剣が全く抜けなくなっていた。


「私の研究室の培養液も全て瞬時に蒸発してしまいました! あり得ない! どのような熱量を用いればこれほど一瞬で気化させられるというのですか!」


白衣姿のマッドシードも、干からびたフラスコを手に驚愕の声を上げている。


ズゴォォォォォォォンッ!!!


農園の西側、見渡す限りの砂漠へと変わり果てた森の奥から、天まで届くような凄まじい砂嵐が巻き起こった。


その砂嵐の中心から、全身がザラザラとした流砂と乾いた岩石で構成された、見上げるほど巨大な魔神が姿を現した。魔神が大地をドスンドスンと踏みしめて歩くたびに、周囲の環境からプシュゥゥッという乾いた音と共に残された僅かな水分が蒸発し、魔神の体へと容赦なく吸い込まれていく。


『カッカッカ……、我ハ、デザート・デシケーター(砂漠化魔神)。全テノ潤イヲ奪イ、生命ヲ干カラビサセ、コノ星ヲ永遠ニ死ノ砂漠ト変エル者ナリ!』


魔神から放たれる圧倒的な『超・乾燥波動』。それは熱や冷気による物理攻撃よりもある意味で数段厄介で残酷だった。生物の細胞から直接水分を根こそぎ奪い取るため、ただ呼吸をするだけで喉の粘膜が焼け焦げるように痛み、血液中の水分すらも蒸発しかける。


「ダ、ダメです……! このままでは、農園の作物が全て砂に還るどころか、私たちの体の水分も全て奪われて、生きたままミイラになってしまいます!」


アルカがカラカラに乾ききった声で叫び、その場に膝をついた。強靭な人工皮膚を持つ彼でさえ、関節部の潤滑液が蒸発し、まともに動けなくなっている。


「私……死の神なのに……干物になって終わるのは……嫌ですぅ……! 神話の歴史に残る恥辱ですぅぅ……」


タナトスすらも、あまりの乾燥の苦しみに涙を流そうとしたが、その涙すら眼球から分泌される前に一瞬で蒸発してしまうという地獄のような有様だ。


農園が、いやこの星全体が乾ききった死の砂漠へと変貌しようとする絶体絶命のピンチ。強大な神々ですら干からびて身動きが取れなくなる中、俺は腕を組んで、目の前に広がる真っ白な砂漠と巨大な砂の怪物を見つめていた。


(うーん……困ったな。冬場は湿度が下がりやすいとは言え、ここまで土の水分が飛んで粒子が壊れちゃうと、作物の根が全滅しちゃうよ。それにあの大きな土塊……保水性がゼロで、粒子と粒子の間の空気の抱え込み方がムラだらけだ)


そう、俺にとって目の前の惨状は「世界を滅ぼす魔神の襲来」ではなく、単に「ものすごく状態の悪い、乾燥しきった最悪の土壌トラブル」にしか見えていなかったのだ。


昔、ブラック企業のオフィスで働いていた頃、真冬になると暖房が30度設定でガンガン炊かれ、湿度は連日10%以下。気管支が弱くて異常に神経質な上司から「おいユウト! オフィスの湿度が54%に下がってるぞ! 55%以下になったら喉が枯れてプレゼンに響くだろ! 殺す気か!」と毎日怒鳴られていた。


俺は毎日、20台以上の加湿器の水を台車で汲み直し、オフィスの観葉植物の土が乾かないように手作りの薄め液やスプレーで絶妙な手入れをほどこし、空気の流れを計算しながら濡れタオルを配置し続けていた。


あの頃に培ったのは、魔法でも必殺技でも何でもない。ただの「土や大気がどれくらい乾いているか」「どうすれば水分が一番効率よく土の粒子に定着するか」という、長年の手作業と農作業で身体に染みついた無意識の観察眼と手先の器用さだった。


「よし、ちょっと土の手入れ(土壌改良)をしよう」


俺は腕まくりをすると、物置から農業用の大きな加圧式ポンプスプレー(霧吹き)と、普段から堆肥作りに使っている微量の有機栄養分を混ぜた水の入ったボトルを取り出した。


「ユ、ユウト社長!? ダメです、それ以上近づいたらあなたの体の水分まで一瞬で……!」


アルカの悲痛な制止の声を背に、俺はトコトコと軽い足取りで砂漠化魔神に向かって歩いていった。


『カッカッカ、愚カナ人間メ! ソノ水鉄砲ノヨウナチケチケシタ玩具デ、我ノ超乾燥波動ニ対抗スルトデモ言ウノカ! 触レル前ニ、貴様自身ガ干カラビテ塵トナルワ!』


魔神が豪快に笑い、俺に向けて強烈な乾燥の風を吹き付けてくる。だが、俺は「うーん、やっぱりすごい乾燥風だなあ。洗濯物はすぐ乾きそうだけど」くらいにしか思っていなかった。ブラック企業の密室オフィスで暖房の直風を一日中浴びながら作業していた日々に比べれば、風通しが良いぶん、こちらのほうがまだマシな気さえする。


俺は魔神の足元──というか、巨大な砂の塊の最下部に到着すると、そのまま腰を落として、ザクッと両手を砂の中に突っ込んだ。


『ナ、ナニ!? 我ノ体ニ直接触レテ、ナゼ貴様ノ手ガミイラ化シナイ!?』


「あー、やっぱりね。表面は固まってるように見えて、中は粒子が粗くてスカスカだ。これじゃあ水分を吸い込んでもすぐに逃げちゃうよ。ほら、土っていうのはね、ただ湿らせればいいってわけじゃないんだ」


俺は腕を振るい、両手で砂の塊をリズミカルに揉みほぐし始めた。それは長年の農作業と鉢植え作りで身についた、土の粒子を潰さずに適度な空気を抱え込ませる無意識の「土揉み」の手つきだった。


「こうやって粗い粒子と細かい粒子を均一に混ぜ合わせて、適度な隙間を作る。そして、ここに……」


シュッ、シュッ、シュバババババッ!


加圧スプレーのノズルを微細ミストモードに切り替え、土を揉みほぐす指先の隙間から、計算し尽くされたような絶妙な角度と圧力で水滴を打ち込んでいく。その指先の加減は、土の粒子一つ一つに完璧な水膜を張らせていく職人技そのものだった。


「ほら、粒子と粒子が水分を挟んで手をつなぎ合わせるだろ? これが『団粒構造』だよ。これを作ってあげないと、土はふかふかにならないんだ」


『ガ……ッ!? ギィィィィッ!? ナ、ナンダコレハ!? 我ノ体ノ構造ガ……乾燥シタ砂ノ粒子ガ、勝手ニフカフカノ土ニ書キ換エラレテイク!?』


魔神は驚愕に目を見開いた。自分が誇る絶望の乾燥波動が、この人間の「丁寧すぎる土揉みとスプレー」によって完全に吸収・中和されているのだ。それどころか、両手で優しく、かつ力強く揉みほぐされるたびに、体中の粗悪な砂粒が、命を育むのに最も適した「究極の保水土壌」へと再構築されていく。


「ここも粒子が固まってるね。よしよし、ほぐしてあげるからね」


『ヤ、ヤメロォォ! ソンナに完璧ニ保湿サレテ、フカフカニサレタラ……我ハもう周リカラ水分ヲ奪ウ必要ガ無クナッテシマウゥゥッ!! 「全てを乾かす」っていう我の存在意義が消えてしまうぅぅ!!』


魔神の叫びは、悲鳴からやがて別の声へと変わっていった。


人間の手によって丁寧にほぐされ、絶妙なミストで湿らされていく感触があまりにも気持ち良すぎたのだ。極度に乾燥して常に苛立ち、空腹のように苛まれていた魔神の全身に、じんわりと心地よい湿りと温もりが広がっていく。


『アッ……あぁぁ……なんだこれ……すっごく気持ちいい……。体の底からカサカサした痛みが消えていく……。ふんわり……しっとり……』


「うん、良い感じになってきたぞ。仕上げに全体をならして……と」


俺がトントンと砂の表面を優しく叩いて整えると、見上げるほど大きかった魔神の姿は跡形もなく消え去っていた。


そこにあったのは、農園の空き地に新しく出来上がった、しっとりと水分を含み、ふかふかで温かい、巨大な「極上の砂場」だった。


スーッ……。


魔神が保水土壌へと変化した瞬間、大気中の水分量が急激に正常値へと戻り、カサカサに乾ききっていた農園の空気に優しい冬の潤いが戻ってきた。枯れかけていた冬野菜の葉も、たっぷりとした水分を取り戻し、息を吹き返したように青々とした艶を放ち始める。


「あ……! お肌の突っ張りが、嘘みたいに綺麗に消えました!」


アルカが自分の頬を両手で触りながら、信じられないものを見る目で俺を見た。


「星を砂漠化するはずの宇宙の魔神が……ユウト社長の『普段通りの丁寧な土いじり』の前に完全に骨抜きにされて……ただの超高品質な園芸用の土になってしまった……!?」


「フフフ……ハハハハ!」


マッドシードが、潤いを取り戻したメガネを押し上げながら高笑いする。


「さすがはユウト社長! 宇宙レベルの乾燥ハザードすらも、農園の土壌改良のついでに無害化してしまうとは! これほど完璧な保水・団粒構造を持つ砂、我が社の最先端研究室の設備を全開にしても再現不可能ですぞ!」


「社長! 見事な土壌整備でありますぞ! 私めも、このしっとりとした砂の感触には驚きを隠せません! 剣の鞘の滑りも元通りです!」


テラノスが、地面の砂をすくい上げて感涙を流している。


「みんな、大丈夫だったかい?」


俺がスプレーを置いて振り返ると、ヤクちゃんがトテテッと走ってきて、俺の腰にぎゅっと抱きついた。


「ユウト様、ありがとう! お口の中のパサパサ、治ったよ! お目々も全然痛くないよ!」


「よかった。ヤクちゃんのモチモチ肌が、乾燥で荒れちゃったら一大事だからね」


俺がヤクちゃんの頭を撫でてやると、彼女はふと、俺の背後にある「魔神だった砂場」を見て目を丸くした。


「ねえユウト様。このお砂、すっごくぽかぽかしてて、温泉みたいに湯気が出てるよ?」


ヤクちゃんの言葉に、俺は砂場に手を触れてハッと気付いた。俺が丁寧に揉みほぐして保湿した魔神の砂は、適度な水分を内部に完璧に閉じ込んだまま、魔神自身が持っていた膨大な熱エネルギーによってじんわりと温められ続けていたのだ。温度はおよそ50度。高すぎず、低すぎない、奇跡のような適温である。


「……なるほど。これだけ保温性と保湿性に優れ、しかも遠赤外線効果までありそうな温かい砂のベッド……。これ、天然の砂風呂にぴったりじゃないか!」


数時間後──


俺たちは農園の空き地に、魔神の体をベースにした立派な『特製・天然砂風呂施設』を完成させていた。木枠で綺麗に囲った広大な砂場に、俺たちは浴衣姿で仰向けに寝転がり、首までしっとりと温かい砂に深く埋もれていた。


「ふぁぁ〜……あったか〜い……。お砂がすっごくふわふわで、体の芯からポカポカしてくるよぉ、ユウト様ぁ……」


ヤクちゃんが、砂からちょこんと顔だけを出して、完全にとろけきった笑顔を浮かべている。


「おおお……なんという極楽じゃ! 温泉の湯に浸かるのとはまた違う、体中の血行がジワジワと促進されるこの感覚! パサパサになっていたわしの髭も、砂の絶妙な保湿効果で、かつてないほどしっとりツヤツヤに蘇ったわい!」


ゼウスも隣で砂に埋もれながら、天にも昇るような声を上げている。


「ええ……。温かく重みのある砂が、適度な指圧のようになって全身のコリをほぐしてくれます……。死の世界の冷たい土とは大違いです……デトックス効果が凄まじい……生きてるって素晴らしい……」


タナトスも、目元に温かい濡れタオルを乗せ、完全にリラックスしきっていた。


「ユウト社長、この砂風呂のマイナスイオン効果と保湿効果は凄まじいですよ。私の人工皮膚の肌年齢が、計測器の限界を超えるほど若返っています。裏庭にある天然温泉も最高ですが、このドライでありながら潤いを内包する砂風呂も、甲乙つけがたい至高のリラクゼーション施設ですね」


アルカも、いつも手放さないタブレットを今は横に置き、砂の中で幸せそうに目を閉じている。


「そうだね。あの時の温泉旅行も楽しかったけど、農園にいながらにしてこんな極上のスパ体験ができるなんて思わなかったよ」


ちなみに、極上の保水砂風呂として農園に定着した砂漠化魔神の意識も、みんなが「温かい!」「肌がツヤツヤになる!」と笑顔で自分の砂に埋もれて喜んでいる姿を見て、


(オ、オレの体が……みんなをミイラにして苦しめるんじゃなくて、こんなに喜ばれる「ぽかぽかスパ」になるなんて……。宇宙を干からびさせて嫌われるより、極上の砂風呂施設になって、この優しいお兄さんに時々揉みほぐしてもらう方が、100万倍気持ちいいし幸せだぞ……!)


と、感動の涙(絶妙な湿度のミスト)を内側で分泌させながら、自ら進んで最高の温度と湿度を保ち続ける農園の『専属・砂風呂&土壌係』として、すっかり馴染んでくれていた。


俺は、ヤクちゃんの幸せそうな寝顔を見つめながら、静寂魔獣が奏でる微かな冬風の音色をBGMに、ポカポカの砂の中でゆっくりとまどろんでいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。