↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった元社畜、実家のS級ダンジョンを草刈り機で攻略して世界最強の配信者になる  作者: 綾瀬 灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/54

第45話「星の命を吸い尽くす宇宙最悪の寄生植物が繁殖したんだが、限界オーラで綺麗に整頓したら、極上の防寒ニット素材になって農園の冬支度が捗った」

秋風がいよいよ冷たさを増し、吐く息がうっすら白く色づき始めたユウト農園。


朝の冷え込みに備えて、俺たちは母屋の縁側で、冬に向けた準備の話し合いをしていた。


「ユウトさまー、最近、お布団から出るのがちょっとだけ辛くなってきたよー」


モコモコの部屋着に身を包んだヤクちゃんが、両手で温かいほうじ茶の湯呑みを包み込みながら、ふるふると肩を揺らした。


「そうだね。そろそろ農園のみんなにも、本格的な冬服や温かい毛布が必要かもしれないな。特にヤクちゃんには、風邪をひかないように一番温かい上着を用意しないと」


俺がヤクちゃんの頭を撫でると、彼女は「えへへ」と嬉しそうに微笑んだ。


「ユウト社長、冬支度の予算なら先月の収穫の売り上げで十分に確保できています。ただ、この大所帯全員分の最高級の防寒具を揃えるとなると、少し街まで買い出しに出る必要がありますね」


タブレットで家計簿を管理しているアルカが、眼鏡のブリッジを押し上げながら的確な報告を上げてくれる。


「うむ! わしは天界の神ゆえ寒さなど気にも留めぬが、人間界の『コタツ』という魔の結界には非常に興味があるぞぃ!」


「死の冷たさに比べれば冬の寒さなど……と言いたいところですが、温かい毛布に包まって飲むホットココア……最高ですよね……。生きてるって素晴らしい……」


ゼウスやタナトスも、すっかり人間界の冬のぬくもりを心待ちにしている様子だった。


そんな平和な朝のひととき──


ピピピピピッ!! ピピピピピッ!!


突如、アルカのタブレットがけたたましい警告音を鳴らし始めた。画面が真っ赤なエラー表示で埋め尽くされ、アルカが血相を変えて立ち上がった。


「ユウト社長! 農園の西側エリアに、未確認の飛来物が落下しました! 隕石……いえ、この異常な増殖スピードは生物です! 植物系の……マズい……、この確認データは……!」


アルカが叫ぶと同時に、西の空が不吉な赤紫色に染まった。


ドゴォォォォォン!!という地響きと共に、遠くの森の木々が次々と悲鳴を上げるように薙ぎ倒されていく。そして、恐るべきスピードで農園に向かって押し寄せてきたのは、蠢《うごめ》く無数の赤黒い「蔓《つる》」の大群だった。まるで何万匹もの大蛇が絡み合い、蠢いているようなおぞましい光景だ。


「ヒィィッ! なんじゃあれは! 触れたそばから大地の養分が吸い尽くされて、草木が枯れ果てていくぞぃ!」


ゼウスが杖を構えて後ずさる。


「あれは……『アストラル・アイビー』です! 宇宙の深淵に生息し、星に寄生して全ての生命力を吸い尽くす宇宙最悪の寄生植物! どんな刃でも切れず、燃やしても灰の中から無限に増殖する厄災の化身です!」


マッドシードが白衣を翻し、珍しく焦った声を上げた。


「いけません、ユウト社長! あれが農園の畑に到達したら、土の養分が全て奪われ、この星は数日で死の星になってしまいますぞ!」


テラノスが大剣を抜き放ち、蔓の群れに斬りかかるが、硬い金属のような蔓は刃を弾き返し、逆にテラノスの剣をグルグル巻きに拘束してしまった。


「ギシシシ……我ハ星ヲ喰ラウ者……全テノ命ヲ吸イ尽クシ、我ガ成長ノ糧トセン……」


無数に絡み合った蔓の奥から、星そのものを絞め殺すような邪悪な意思が響き渡る。強大な神々ですら手出しできない無敵の寄生植物を前に、誰もが絶望の表情を浮かべていた。


しかし、その無数に絡み合ったおぞましい姿を見た瞬間、俺の脳裏にはかつてのブラック企業で味わった、とある地獄の光景がフラッシュバックしていた。


(……あの絶望的な絡まり具合。ほこりまみれで、どこがどう繋がっているのか全く分からない、混沌の極み……)


思い出す。俺が押し付けられていた『サーバー室の管理業務』を……。


数百台のサーバーラックの裏側に無造作に押し込まれた、何万本というLANケーブルと電源コード。長年のずさんな管理により、ケーブルはまるで巨大な蛇の巣のように複雑怪奇に絡み合い、もはや一つの巨大な呪いの塊と化していた。通称『スパゲッティ配線』である。


「おいユウト! ネットワークが落ちたぞ! 5分以内に断線箇所を見つけて復旧させろ! できなきゃクビだ!」という社長の理不尽な怒号。薄暗く、空調の効きすぎた極寒のサーバー室で、俺は来る日も来る日も、手先から血を流しながら、その『無限の絡まり』を一本一本解きほぐし、美しく整頓するという狂気の作業をたった一人で完遂したのだ。


「なるほど……。冬支度で忙しいっていうのに、ずいぶんとだらしない配線が飛んできたもんだな」


俺の身体から、絶対的な秩序を強要する冷酷なオーラが立ち上り始めた。限界突破した社畜オーラ『スパゲッティ配線ほどきスキル(神級)』の解放である。


「ユウト社長!? ダメです、逃げてください! あれに触れれば、一瞬で生命力を吸い取られてミイラになってしまいます!」


アルカが悲鳴を上げるが、俺は愛用の結束バンド(農業用のビニールタイ)を腰に大量にぶら下げ、ニコニコと微笑みながら真っ直ぐに蔓の群れへと歩いていった。


「大丈夫だよ。俺、ああいうだらしなく絡まった状態を見ると、どうしても我慢できない性分なんだ」


「ギシシ……愚カナ人間メ……自ラ我ガ養分ニナリニ来タカ……!」


アストラル・アイビーの無数の蔓が、鋭い棘を逆立てて一斉に俺に襲いかかってきた。


だが、俺の目はすでに常人のそれとは違っていた。『神のネットワーク管理者』の目である。


「よし、まずは主電源(メインルート)の確保からだな」


シュバババババババッ!!!


俺の両手が、千手観音のような残像を残して動き始めた。襲い来る無数の蔓を、生命力を吸われるよりも早く、的確に掴み、引き抜き、仕分け、滑らかな動きで次々と解きほぐしていく。


「あー、ダメダメ。ここのルート、完全に結び目ができちゃってるじゃないか。これじゃあ養分の『通信速度』も落ちちゃうよ。ほら、もっと真っ直ぐ伸ばして。はい、ここは束ねて結束バンドで固定、と」


「……!? ギッ!? ナ、ナンダ……!?」


アストラル・アイビーは驚愕した。今までどんな星の住人も、自分の恐ろしい姿を見ただけで絶望し、触れれば一瞬で干からびていたというのに、この人間は生命力を吸う暇すら与えない神速の指先で、自分の身体(蔓)をスルスルと見事に整頓していくのだ。


しかも、その人間から放たれる「さあ、大人しく俺のルールに従って綺麗に整列しろ。一本でもはみ出せば、根本から引っこ抜くぞ?」という無言の絶対的圧力《プレッシャー》の前に、最凶生物の運命はもはや決まっていた。


「ヒ、ヒィィィィッ!? コ、コノ人間、恐ロシイ笑顔デ我ノ身体ヲ無理ヤリ真っ直グニ……! や、ヤメ……アッ……」


俺の限界突破した「配線ほどきスキル」により、何万本と絡み合っていたアストラル・アイビーの蔓は、たった数分のうちに、一本の無駄な交差もない芸術的なまでに美しい『直線と束』へと整頓されてしまった。


すると、美しく整頓され、ストレスフリーな状態になったアストラル・アイビーの蔓から、毒々しい赤黒い色がスゥーッと抜け落ちていったのだ。


複雑に絡み合い、互いに傷つけあっていた「生存本能の暴走」が収まり、本来の姿である、淡く発光する純白で極上の柔らかさを持つ『宇宙の神秘の繊維』へと変貌を遂げたのである。


「ア……アァァ……。ナンダ、コノ解放感ハ……。ズット絡マッテ苦シカッタ身体ガ、嘘ノヨウニ軽イ……。コノ人間ノ指先、スゴク気持チイイ……!」


完全に心が折れた──いや、究極の整理整頓によって深い感動と快感に包まれたアストラル・アイビーの本体は、俺の足元にすり寄るように、自ら柔らかく温かい毛糸の玉のように丸まった。


「うんうん、やっぱり配線は綺麗にまとめないとね。君たち、すごく手触りが良くて温かい繊維じゃないか。これなら最高の冬服が作れそうだな」


俺が純白の蔓──もとい、極上の宇宙繊維を撫でると、アイビーは嬉しそうにポゥッと温かい光を放った。


背後で見ていたヤクちゃんや神々たちは、もはや言葉を失い、石像のように固まっていた。


「あ……あ……」


アルカがタブレットを取り落としそうになる。


「星の命を吸い尽くす宇宙最悪の寄生植物が、ユウト社長の『配線整理』の威圧感に屈して、ただの超高級な毛糸玉に成り下がった……」


「フフフ……ハハハハ!」


マッドシードが腹を抱えて高笑いする。


「さすがはユウト社長! 宇宙の厄災すらも、農園の冬支度の素材として活用してしまうとは! その恐るべき生産性、我が社の開発部にも爪の垢を煎じて飲ませたいですな!」


「社長! 見事な手際でありますぞ! 暴力ではなく、圧倒的な整理整頓で敵を味方に変えてしまうとは!」


テラノスも、解放された大剣を鞘に収めながら感涙を流している。


「みんな、お待たせ! このアイビーさんに協力してもらって、さっそく冬の準備をしよう!」


俺は、すっかり大人しく(そして協力的)になったアストラル・アイビーの繊維を使って編み物を開始した。ブラック企業時代に培った「徹夜での精密手作業」の応用で、魔法のようなスピードでセーターやマフラーが編み上がっていく。


この宇宙繊維は、着用する者の体温に合わせて自動で保温性を調節してくれるという、信じられないほど高性能な代物だった。


「わぁぁっ! ユウト様、これすっごく温かいよ! ふわふわで、お日様の匂いがするのー!」


ヤクちゃんが、俺の編んだ特製の白いポンチョを羽織り、嬉しそうにくるくると回っている。


「素晴らしい……。このマフラー、首に巻いただけで天界の温泉に浸かっているかのようなポカポカ具合じゃわい!」


ゼウスも立派な髭の上にマフラーを巻いてご満悦だ。


「ええ、本当に……。これなら今年の冬は凍えずに済みそうです。生きてるって素晴らしい……」


タナトスも、すっぽりと分厚いニット帽を被り、幸せそうに目を閉じている。


「ユウト社長、この繊維の構造を解析すれば、銀河中で大ヒット間違いなしの特許が取れますよ!」


アルカも自分用の手袋をはめながら、興奮気味にタブレットを叩いていた。


そして俺たちの農園の母屋には、アイビーの繊維をふんだんに使った『極上宇宙素材の超特大コタツ』が完成した。


かつて星を喰らおうとしていた厄災は、今や「この人間様のお役に立って、綺麗に整頓してもらうのが一番幸せだ」と完全に寝返り、自らホカホカと発熱しながら俺たちを優しく包み込んでくれている。


「やっぱり、冬はみんなでコタツに入るのが一番だなあ」


俺は、コタツの中でヤクちゃんや神々たちと温かいお茶をすすりながら、みかんの皮を剥いた。


ブラック企業時代、冷え切ったサーバー室で凍えながらケーブルと格闘していたあの頃──それに比べて、今はどんな宇宙規模のトラブルが降ってこようとも、仲間たちと笑い飛ばし、こうして皆で温め合うことができる。


農園を吹き抜ける冷たい秋風をよそに、俺たちの居間は、信じられないほどのぬくもりと穏やかな笑い声で満たされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。