第33話「ジャガイモ畑からダンジョンが生えてきたので、地下の魔王ごと天然の冷蔵庫として有効活用してみたんだが」
柔らかな春風が徐々に熱を帯び、木々の緑が一段と色濃くなる初夏の気配。ユウト農園を囲む山々からは、鳥たちの元気なさえずりが聞こえてくる。
かつては、俺が一人で開墾を始めた荒れ地だったが、今や地球の常識はおろか、宇宙や天界の法則すらも超越する「宇宙一の農業特区」へと変貌を遂げていた。
「フゥーッハッハッハッ! 見よ、この圧倒的な草むしりのスピードを! 雑草どもめ、我が神威の前にひれ伏すがいい!」
畑の隅では、天界から出稼ぎに来ている最高神ゼウスが、麦わら帽子に首タオルという完璧な農家スタイルで、目にも留まらぬ速さで雑草を引っこ抜いていた。
「ゼウスお爺ちゃん、あんまり力任せに抜くと、土が掘れすぎちゃうわよ!」
厄災女神のヤクちゃんが、スイカのアイスバーを齧りながら呆れたように注意する。
先日、天界の超インフレと財政破綻という未曾有の危機を救うため、俺は『神様向けクラウドファンディング(KAMI-FUND)』を立ち上げた。神々が奇跡を提供する代わりに、俺が『限界突破野菜』を支援(投資)するという画期的なシステムだ。
結果として神々は力を取り戻し、その返済(労働)として、現在ユウト農園には数万柱の神々がシフト制のアルバイトとして派遣されている。
「ユウト社長! 本日もアポロン殿の日照調整により、畑の光合成率は3,000%を突破しております! デメテル殿の防虫結界も完璧に機能しており、まさに無菌状態のユートピアです!」
農園COOの魔王ルシフェードが、パリッとしたスーツ姿でタブレットをタップしながら報告してくる。
「ありがとう、ルシフェードさん。天界の神様たちにも、ちゃんとこまめに水分補給と休憩を取らせるようにね。うちの農園は『定時退社・残業ゼロ・三食昼寝付き』がモットーなんだから」
「ははっ! 承知いたしました!」
俺は腕まくりをして、広大なジャガイモ畑へと足を踏み入れた。今日は、春先に植えた『限界突破・黄金メークイン』の収穫日だ。
「よし、ポチ、ブルー。お前らも手伝ってくれ」
「ワフッ!」
「キュルルッ!」
神獣のポチ(真・天界神狼)とブルー(深淵の海皇龍)が、尻尾を振りながら駆け寄ってくる。俺は、大人の背丈ほどに成長したジャガイモの太い茎を、しっかりと両手で握りしめた。
「いくぞ……せーのっ、うんとこしょ、どっこいしょ!」
ズズズズズズ……ッ!
俺の『限界突破オーラ』と神獣たちの力が合わさり、大地が大きく揺れる。バコンッ!! という凄まじい音と共に、土の中から現れたのは、まるで純金のように輝き、大岩ほどのサイズに育った超巨大なジャガイモの連なりだった。
[待機 350万人突破!]
[ジャガイモのサイズがおかしいwww]
[もう岩石だろこれ]
[黄金に輝くメークインとか、絶対うまいやつじゃん]
[フライドポテトにしたら一週間は食い続けられそう]
ドローンの生配信カメラが、その規格外の収穫風景を捉え、コメント欄が驚きと笑いで埋め尽くされる。
「ふぅ、大豊作だな。……ん?」
巨大なジャガイモを引き抜いた直後だった。ジャガイモが埋まっていた巨大なクレーターの底から、ズゴゴゴゴ……という重低音が響き、ぽっかりと黒々とした大穴が開いたのだ。
「え? なんだこれ」
俺が穴の底を覗き込むと、そこにはただの土壁ではなく、苔むした精巧な石組みが広がっていた。そして、暗闇の奥深く、地下へと向かって果てしなく続く巨大な石階段の姿があった。
「ユウト社長! これは……!」
かつては悪のバイオ企業CEOであり、現在は農園の技術顧問として泥まみれになっているマッドシードが、探知機を手に駆け寄ってきた。
「地下から、未知のエネルギー反応を検出しました! どうやらこの農園の地下には、古代に作られた広大な地下空間が眠っていたようです!」
「古代の地下空間……って、まさかダンジョン?」
「ひんやりとした空気が吹き上げてきますわ。創造主様、お気をつけください」
エルフの女王エルリアさんが、警戒するように俺の前に立つ。確かに、初夏の強い日差しの中にあって、その大穴からは、背筋が凍るような冷気が絶え間なく漏れ出していた。
「……涼しい」
俺はその冷風を全身に浴びて、思わず呟いた。
「めちゃくちゃ涼しいな、ここ」
俺の脳裏に、かつてスーパーで見た「野菜の保存方法」の知識がフラッシュバックする。ジャガイモやニンジンなどの根菜類は、常温の土の上よりも、冷暗所で保存したほうが圧倒的に長持ちし、さらにはデンプンが糖に変わって甘みが増す。いわゆる「熟成」だ。これだけ広大で、かつ冷気に満ちた地下空間……。
「みんな、ちょっと探検に行ってみよう。ランタンとピッケルの準備だ」
俺の言葉に、ヤクちゃんやゼクサルたちも目を輝かせた。
「ダンジョン探索! RPGみたいで楽しそうです!」
「オレの暗黒剣の錆落としにちょうどいいぜ!」
こうして、俺たちユウト農園の精鋭メンバー(+バイトの神様数名)による、謎の地下ダンジョン探索が幕を開けたのである。
◆
「おおおっ……! これは見事な石造りじゃな。神話の時代の建築様式に似ておる」
地下深くへと続く階段を下りながら、ゼウスが壁の装飾を撫でて感心している。松明の青白い炎が等間隔で灯るその空間は、まさにファンタジーRPGに登場する「地下迷宮」そのものだった。
『ギシャァァァァァッ!!』
第一階層に足を踏み入れた瞬間、暗がりから無数の凶悪なモンスターたちが襲いかかってきた。全身が酸でできたアシッドスライム、骨だけで動くスケルトンアーチャー、そして身長3メートルを超える巨大なオークの群れだ。
「敵襲だ! ユウト社長はお下がりを!」
宇宙からの研修生アルカが、光線銃を構えようとするが、それより早く動いた者たちがいた。
「ハッハッハ! 良い準備運動になりそうじゃわい!」
「久々に血が騒ぐのう!」
バイトの休憩中だったゼウス、アポロン、ヘファイストスら「天界の神々」である。彼らは限界突破野菜を毎日食べているおかげで、神話の全盛期以上の筋力と神威を取り戻していた。
「喰らえ!【神王の雷霆・農家バージョン】!!」
ゼウスが麦わら帽子を押さえながら放った極太の雷撃が、オークの群れを一瞬にして黒焦げの消し炭に変える。
「我が太陽の力、とくと味わえ!【サンフレア・ストレート】!」
アポロンの輝く拳が、アシッドスライムたちを蒸発させる。
「鍛冶神のハンマーの前に砕け散れいっ!」
ヘファイストスがクワを振り回し、スケルトンたちを粉微塵に粉砕していく。
「あ、あわわわ……っ」
アルカが光線銃を下ろし、呆然と口を開けている。
「……なんか、俺たち何もしなくて良さそうだね」
俺は苦笑しながら、彼らの無双ぶりを眺めていた。
俺の関心は、モンスターとの戦闘よりも、このダンジョンの「環境」にあった。
「ルシフェードさん、この階層の温湿度は?」
「はい。現在、室温は15度、湿度は90%で安定しております」
「なるほど。ここは湿度が高いから、キノコの菌床栽培や、湿気を好む野菜の保管に向いてるな。よし、メモしておいてね」
「承知いたしました」
さらに下の階層へと進む。そこは、燃え盛る溶岩が川のように流れる「灼熱のトラップ部屋」だった。
「おお、ここは温かくて風通しがいいな。干し芋やドライフルーツを作る『乾燥室』にぴったりじゃないか」
さらに進むと、今度は壁一面が分厚い氷で覆われた「絶対零度の部屋」がある。
「完璧だ。ここは収穫した果物を急速冷凍する『冷凍庫』に使えるよ」
もはや俺の目には、この恐ろしい地下迷宮がユウト農園の巨大な「天然冷蔵庫(兼・加工工場)」にしか見えなくなっていた。
どんなに凶悪なトラップ(落とし穴や毒矢)があっても、それは「野菜を下の階に落とすためのシューター」や「水はけの良い排水溝」として再利用できそうだと計算が働く。不動産物件を内見するようなワクワク感を抱きながら、俺たちはついに、ダンジョンの最深部にある重厚な黒鉄の扉の前に到達した。
「この奥から、尋常ではない魔力を感じますわ……」
エルリアさんが杖を構え、ポチとブルーも低く唸り声を上げる。
ドォォォォォンッ!!
ゼクサルとヴァルグが、力任せに黒鉄の扉を蹴り開けた。
そこは、黒曜石で作られた広大な玉座の間だった。部屋の最奥、禍々しい骸骨の装飾が施された玉座に、一人の巨漢が腰を下ろしていた。漆黒の重鎧を纏い、頭には山羊のようなねじれた二本の角。その全身からは、周囲の空気を凍りつかせるほどの冷酷な暗黒魔力が立ち上っている。
「……フハハハハ……。千年の時を経て、ついに我が封印を解く者が現れたか」
男は玉座からゆっくりと立ち上がり、地鳴りのような低い声で笑った。
「我は地下帝国の魔王・テラノスぞ。かつて地上を恐怖と氷河期に陥れ、忌まわしき勇者によってこの地下深くに封印された存在。さあ、愚かな人間どもよ、我が復活の生贄となるがいい。手始めに貴様らの血肉を凍らせて砕き──」
テラノスが、絶対的な強者の威圧感を放ちながら見得を切った。
しかし──
「……ねぇ、ルシフェードさん。あの人、自分で魔王って名乗ってるけど」
俺が横を見ると、元・真魔王であるルシフェードは、眼鏡をクイッと押し上げて深くため息をついていた。
「……お恥ずかしい限りです、社長。魔力値があまりにも低すぎます。あれでは、魔界の辺境に住むゴブリンの長と大差ありません。とても魔王などと呼べる代物では……」
「オレの大剣のサビにするのもバカらしいレベルだぜ」
「私から見ても、ちょっと可哀想になるくらいの魔力ね……」
ゼクサルもヤクちゃんも、完全にテラノスを「弱キャラ」として見下していた。
「な、なんだと貴様ら!? 我の圧倒的な魔力を前にして、なぜ震え上がらんのだ!」
テラノスが怒りで顔を真っ赤にする。
だが俺は、テラノスの脅威など完全に無視して、玉座の間の環境チェックを進めていた。温度計と湿度計を取り出し、空気を確かめる。
「……温度10度、湿度80%。しかも、この黒曜石の壁が完璧な断熱材になっていて、外部の気温変化を一切通さない。……完璧だ。これほど理想的な、夏場のジャガイモの貯蔵庫は他にないぞ」
俺は目を輝かせ、テラノスの前までスタスタと歩み寄った。
「な、なんだ貴様! 我に恐れをなして命乞いに来たか!」
「いや、そうじゃなくて。ねぇ、テラノスさん。ここって、あなたの持ち家ですか?」
「家ではない! 我が誇り高き地下帝国だ!」
「ふーん。で、あなたは今、仕事とかしてるんですか?」
「し、仕事だと? 我は千年間封印されていたのだぞ! そんなものしているわけがなかろう!」
つまり、無職の引きこもりである。
「そっか。それならちょうどいい。悪いんだけどさ、このダンジョン全体、うちの農園の巨大地下貯蔵庫としてリノベーションさせてくれない? テラノスさんには、ここの貯蔵庫長として、温度管理の仕事を任せたいんだ」
「は……? ちょ、貯蔵庫長……?」
「もちろんタダでとは言わないよ。家賃代わりと言っちゃなんだけど、給料も出すし、週休二日で、三食のまかないも付ける。うちの野菜、めちゃくちゃ美味いから。どう? 悪くない条件だと思うけど」
俺の提案に、テラノスは数秒間呆然としていたが、やがて顔を真っ青にして激怒した。
「ふ、ふざけるなァァァァッ!! 魔王であるこの我に、人間の下働きをしろだと!? 舐めるな! 貴様らなど、我が究極魔法で氷の彫像にしてくれるわ!!」
テラノスが両手を掲げ、自身の頭部に生える巨大な『極氷の双角』に全魔力を集束させると、玉座の間の空気が一気に凍りつき、凄まじい吹雪が巻き起こった。
「消え失せろ!【暗黒極氷結波】!!」
全てを凍てつかせる死の冷気が角に収束し、今まさに極大の氷撃となって俺たちに向かって放たれようとしていた。
「ユウト様、危ない!」
ヤクちゃんが叫ぶが、俺は一歩も引くどころか、テラノスの頭頂部を見て目を輝かせていた。
(うおっ! すごく立派で巨大な『氷のタケノコ』みたいな野菜が頭から生えてるぞ! 冷え込んでカチカチになる前に刈り取らないと鮮度が落ちちゃう!)
迫り来る絶対零度の冷気は、俺にとって『ちょっと冷たい冬の隙間風』程度でしかなかった。俺の脳内には、ブラック企業時代に培われた「目の前のタスクは絶対に見逃さない」という社畜の血と、農家としての本能だけが渦巻いていた。
俺は腰に下げていた愛用の草刈り鎌を引き抜くと、猛吹雪の中をそよ風のように駆け抜けた。
そして、究極魔法が放たれる直前の無防備な瞬間、神速のステップでテラノスの懐に潜り込むと、その頭部の立派な角を根元からスパンッと綺麗に刈り取った。
パキィィィィンッ!!
「……え?」
テラノスが間の抜けた声を上げた。
全魔力を集束させていた角をあっさり切断されたことで、チャージしていた究極魔法のエネルギーが行き場を失い大暴発。ユウトの『限界突破オーラ』によって完全に弾き返されたそのエネルギーは、テラノスの背後にあった巨大な玉座を木っ端微塵に吹き飛ばしてしまったのだ。
「あ……あ……」
テラノスは、粉々になった玉座の破片と、刈り取った極氷の角を手に「いやー、いい収穫だ!」とホクホク顔で笑っている俺を交互に見比べ、膝からガクンと崩れ落ちた。
「余の……数百年鍛え上げた極氷の角が……バカな……。貴様、一体何者なのだ……っ!?」
「俺? 俺はただの農家だよ」
俺はニッコリと笑い、テラノスの肩をポンと叩いた。
「というわけで、今日からここは『ユウト農園・第一地下貯蔵庫』でいいかな。よろしく、テラノス貯蔵庫長」
「……はい。よろしくお願いいたします……」
圧倒的な力の差(物理)を前に、地下帝国の魔王はあっさりと陥落したのである。
◆
それからの動きは早かった。
俺の指示の下、ユウト農園の全勢力を結集した壮大な「ダンジョン・リノベーション計画」がスタートした。
「よし、まずは動線の確保だ! ヘファイストスさん、ゼクサル君! 邪魔な壁をぶち抜いて、搬入用の巨大なエレベーターシャフトを作ってくれる?」
「任せておけい! 鍛冶神のハンマーが唸るわい!」
ドゴォォォォン! と、神の力で分厚い石壁が豆腐のように崩されていく。
「ドクター、アルカ君、二人の科学力と宇宙建築技術で、各階層の温湿度を自動管理するシステムを構築してほしいんだ」
「了解しました、ユウト社長! セレス星の空間拡張技術を応用し、ダンジョンの容積を元の100倍に拡張します!」
「私の生体ネットワークを使えば、野菜の鮮度を分子レベルで監視できるぞ! ハッハッハ、血が騒ぐな!」
ダンジョン内に張り巡らされていた厄災のトラップたちは、見事なまでに生まれ変わった。第一層に仕掛けられていた「毒矢の罠」や「落とし穴」は、ベルトコンベアとシューターに改造され、地上から収穫した野菜を各階層へ自動で振り分ける【自動仕分けレーン】となった。
元・毒沼の部屋には、海神レヴィが神聖な湧き水を引き込み、清らかな【洗浄ルーム】が完成した。
「スライムたち!君らの酸の力じゃなくて、そのプルプルの体を使って、野菜の泥を優しく洗い落としてくれる?」
俺が指示を出すと、アシッドスライムたちは「プニッ!」と嬉しそうに返事をし、流れてきたジャガイモを丁寧に磨き上げ始めた。
重い荷物を運ぶのは、怪力自慢のオークやゴーレムたちの仕事だ。
「定時退社・完全週休二日制……それに、あんなに美味いまかないが食えるなんて……!」
「千年間、暗くてジメジメして飯もないダンジョンにいたッス……農園の待遇、最高ッス!!」
魔物たちは感動の涙を流しながら、喜んでユウト農園との労働契約書(正規雇用)にサインし、一生懸命に荷運びをしてくれた。
そして、元・魔王のテラノスは、最下層の巨大な「熟成庫(兼・ワインセラー)」に配置され、その強力な氷結魔法を制御盤に直接繋ぐことで、巨大冷蔵庫の【|セントラル・クーリング・システム《中央冷却装置》】のコアとして再就職を果たしたのだ。
「右舷の温度が0.5度上昇しています! テラノス貯蔵庫長、冷却魔法の出力を3%上げてください!」
ルシフェードからのインカム指示が飛ぶ。
「了解した! 【暗黒極氷結波・微弱】!!」
テラノスが真剣な顔で魔法を放ち、庫内の温度がピタリと十度に調整される。
こうして、かつて恐怖の象徴だった地下迷宮は、最先端の科学と神の力、そして魔物たちの労働力が見事に融合した、「究極の地下貯蔵庫」へと生まれ変わったのだった。
リノベーション完了から数日後──
広大な地下の最下層・熟成庫には、美しく磨き上げられた黄金メークインや、極上のニンジン、そして天界の神々が持ち込んだ「神牛の肉」などが、温度管理された棚にズラリと並べられていた。
冷気のおかげで、真夏のような外の暑さが嘘のように快適な空間だ。俺は、ダンジョンの真ん中に巨大な鍋を設置し、まかないの準備を始めていた。
「よし、できた! ユウト農園特製、『限界突破・究極の肉じゃが』だ」
大鍋の蓋を開けると、甘辛い醤油と出汁の香りが、地下空間いっぱいに広がった。
熟成されて糖度を増した黄金メークインは、煮崩れすることなくホクホクとした黄金色に輝き、神牛の肉からは極上の脂が溶け出している。
「さあ、みんな! 改装工事お疲れ様! いっぱい食べて!」
俺の号令と共に、神々も、魔王軍幹部も、そして地下の魔物たちも、一斉に肉じゃがに群がった。
「う、うおおおんっ! このジャガイモ、口の中で溶けるッス!」
「甘い……! 砂糖の甘さではない、大地の深い甘みが染み渡る……!」
オークやスライムたちが、初めて味わう地上の本物の美味さに感極まって泣き叫んでいる。そして、貯蔵庫長のテラノスも、お椀に盛られた肉じゃがを震える手で口に運んだ。
「…………ッ!!!」
一口食べた瞬間、テラノスの目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「なんという……なんという美味さだ……。ホクホクとしたジャガイモの食感、肉の強烈な旨味。我は、千年間こんな美味いものを知らずに、暗闇の中で憎しみだけを募らせていたというのか……」
テラノスは、空っぽになったお椀を握りしめ、俺に向かって深々と頭を下げた。
「ユウト社長……! 感謝いたします! 我にこんな素晴らしい居場所と、生きる喜びを与えてくださって……! 我は一生あなたについていきます! 貯蔵庫長として、このユウト農園の野菜の鮮度は、我が命に代えても守り抜いてみせます!!」
「ははっ、頼もしいな。でも命はかけなくていいから、定時でしっかり上がってね」
俺が笑ってテラノスの肩を叩くと、地下帝国に温かな笑い声が響き渡った。
暑い夏を乗り切るための、最高の天然冷蔵庫(と優秀な新入社員たち)を手に入れたユウト農園。限界突破のオーガニック農業は、地上だけでなく、ついに地下深くまでその根を張り巡らせたのである。




