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クビになった元社畜、実家の裏山(S級ダンジョン)を草刈り機で掃除したら世界最強の配信者としてバズる  作者: 綾瀬 灯


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第31話「暇になったから農業フェスに参加したら、サイボーグ野菜とバトルすることになったんだが」

春の陽気に包まれたユウト農園では、前代未聞の光景が広がっていた。


「よいしょ、よいしょ……」


「ポイーン、ポイーン」


「シャキシャキシャキッ!」


広大な畑から、丸々と太ったトマトが自らツルを離れてコロコロと転がり、土の中から抜け出した大根が二本の根っこを足のように使ってテケテケと歩き、キャベツたちが楽しそうに弾みながら、次々と指定の出荷用カゴの中へと整列していく。中には、自ら農園内の湧き水ポイント(レヴィが管理している極上の浄水)に向かい、泥を綺麗に洗い流してからカゴに入る、綺麗好きのニンジンまでいる始末だ。


「……ねぇ、アルカ君。これ、本当に現実の光景かな?」


俺は、縁側で渋茶を啜りながら、そのシュールすぎる光景を半ば遠い目で眺めていた。


「はいっ! ユウト社長の『限界突破オーラ』による極上の育成エネルギーと、私の母星セレスの『植物神経ネットワーク同調技術』を見事に融合させた結果です! 野菜たちが確固たる『意志』と『奉仕の心』を持ち、最も美味しく実ったタイミングで自ら収穫されに行くという、究極の【超・自動化農業】が完成しました!」


銀河連邦からやってきた農業研修生のアルカが、タブレットを操作しながら誇らしげに胸を張る。


「いや、凄いのは分かるんだけどさ、これだと……俺たちやることなくない?」


俺の言葉通り、現在のユウト農園の従業員たちは完全な暇を持て余していた。畑を耕す必要も、水をやる必要も、収穫する必要もない。野菜たちが自給自足で育ち、自ら出荷されていくのだから当然だ。


庭の芝生では、ゼクサルとヴァルグが、暗黒闘気をまとわせたキャッチボールをして遊んでいる。エルリアさんは、日向ぼっこをしながら神獣のポチとブルーにブラッシングをしており、ヤクちゃんはレヴィと一緒にスイカ割り(季節外れだが神殿リゾート産)を楽しんでいた。


[待機250万人突破!]


[野菜が自分で歩いてカゴに入る農園www]


[ついに農業の概念が崩壊したぞ]


[ユウト様、ついに不労所得の極地に到達]


[従業員たちが平和すぎて、ただのデカい公園みたいになってる]


ドローンによる生配信のコメント欄も、この異次元のスローライフに草を生やしまくっている。


「社長! 素晴らしいニュースです!!」


そこへ、農園COOの魔王ルシフェードが、パリッとしたスーツの裾をなびかせながら、一枚の豪奢ごうしゃな封筒を持って駆け寄ってきた。


「おお、ルシフェードさん。どうしたの?」


「先ほど、国際農業連盟から招待状が届きました! 今週末、東京の巨大ドームで開催される世界最大の農業の祭典『アース・フェスティバル』の品評会へ、我がユウト農園が特別枠としてノミネートされたのです!」


「アース・フェスティバル……?」


「はい。世界中のトップ農家やバイオ企業が一堂に会し、その年の世界最高の作物を決定する、農業界のオリンピックとも言える大舞台です! 現在、我がユウト農園の野菜は世界中の富裕層を虜にしていますが、公の場での品評会はこれが初。ここで優勝すれば、ユウト農園のブランド価値は銀河系レベルまで跳ね上がるでしょう!」


ルシフェードの眼鏡が、キラリと野心的な光を放った。


「なるほど。みんな暇してたし、ちょうどいい慰安旅行代わりになりそうだね。よし、お祭り感覚で参加してみるか!」


俺の鶴の一声により、ユウト農園の精鋭メンバー(暇人たち)による、アース・フェスティバルへの殴り込みが決定したのである。


数日後──東京・メガドーム特設会場では、世界中のメディアと数万人の観客が詰めかけて異常な熱気に包まれていた。


各国の農家が自慢の巨大カボチャや、色鮮やかなフルーツを展示する中、会場の最奥に設けられたメインステージでは、ひときわ異彩を放つブースがあった。


「フハハハハ! 見たまえ、愚かな旧世代の農家どもよ! これこそが、我ら『グローバル・バイオ・ジェネティクス(GBG)』が誇る、科学の結晶! 究極の【サイボーグ野菜】である!」


ステージ上でマイクを握りしめ、高らかに笑っているのは、白衣を着た神経質そうな男──GBG社CEOのドクター・マッドシードだった。


彼の背後には、異様な光景が広がっていた。土は一切なく、無機質な金属の培養カプセルがズラリと並んでいる。そこから生えているのは、チタン合金の装甲で覆われたトマト、光ファイバーの根を持つネギ、そして、レーザーで常に最適な栄養素を照射され続けている、メタリックな輝きを放つキャベツだった。


「気候変動? 害虫? 病気? そんなものは科学の力で完全にねじ伏せればいい! 我々のサイボーグ野菜は、金属装甲によりあらゆる外敵を弾き返し、遺伝子操作によって栄養価は通常の1万倍! 効率、利益、そして絶対的な管理! これこそが農業の未来なのだ!」


ドクター・マッドシードの演説に、一部の投資家たちからは盛大な拍手が送られるが、一般の観客たちはその禍々しい野菜の姿に「凄いけど、食べたくはないな……」「なんか怖い」とドン引きしていた。


「……というわけで、今年の優勝も我々GBG社がいただく! 異論のある者はいるか!?」


ドクター・マッドシードが傲慢に言い放ったその時──


「あー、ちょっといいかな?」


俺は首に今治タオルを巻き、麦わら帽子を被ったいつもの農作業スタイルで、仲間たちを引き連れてステージへと上がった。その後ろには、自らの足(根っこ)でテケテケとついてくる、ユウト農園の『意志を持つ野菜たち』の姿がある。


「な、なんだ貴様らは!? 警備員、この泥臭い田舎者をつまみ出せ!」


「俺は信州から来たユウト。ユウト農園の代表です。招待状をもらったから参加しに来たんだけど……おじさんの野菜、なんか窮屈そうで可哀想だよね」


俺が率直な感想をこぼすと、マッドシードの顔がピクッと引きつった。


「可哀想だと……? ふざけるな! 彼らは完璧に管理された究極の個体だ! 貴様のように、土にまみれて天候に一喜一憂するような原始的な泥遊びとは次元が違うのだよ!」


マッドシードは、俺の背後を歩く大根やキャベツを見て鼻で笑った。


「それに、なんだそのおぞましい動く野菜は! 手品か何かか? そんなチャチな見世物で、我々のサイボーグ野菜に勝てるとでも思っているのか!」


「見世物じゃないよ。うちの野菜たちは、自分で考えて一番美味しい状態で俺たちのところへ来てくれるんだ。……よし、せっかくだから勝負をしよう。どっちの野菜が本当に世界一か、品評会で決めようよ」


俺の挑発に、会場のボルテージが一気に跳ね上がる。


[キタキタキタァァァ!! ユウト様vs悪の巨大企業!]


[サイボーグ野菜とか絶対に美味しくないだろww]


[ユウト様の歩く大根のほうがよっぽどヤバい件について]


[自然の愛vs科学の暴力、ファイッ!]


「面白い! その安い挑発、乗ってやろう! 我が社の最高傑作の力、その目に焼き付けて絶望するがいい!」


こうして、前代未聞の『野菜バトル(品評会)』が幕を開けた。


「第一回戦! トマト部門!」


司会者の声がドームに響く。


「行け! アイアン・メイデン・トマト!」


マッドシードの号令と共に、チタン合金の装甲を纏った巨大なトマトがステージ中央に転がり出た。


「このトマトの皮は、対戦車ライフルでも貫通不可能! さらに内部には高濃度のリコピンが圧縮されており、一口かじれば細胞が爆発的に活性化する!」


「へえ、すごい硬いんだなあ」


俺は感心しながら、自分の足元を見た。


「よし、行ってこい。ぷるぷる太陽トマト」


ポヨーン。


俺の足元から、真っ赤に熟し、見るからに柔らかそうで瑞々しいトマトが、楽しそうに跳ねながらステージ中央へ向かった。


審査員たちが二つのトマトの前に立つ。まずはGBG社のトマトを試食しようとするが……


「か、硬ぇっ! 包丁が折れたぞ!?」


「チェーンソーでも切れません! これ、どうやって食べるんですか!?」


審査員たちが涙目で訴える。


「馬鹿者! それは超音波カッターでミリ単位にスライスして、サプリメントとして摂取するものだ!」


マッドシードが怒鳴るが、審査員たちはドン引きだ。


続いて、ユウト農園のトマト──


「では、こちらを……」


審査員が手を伸ばした瞬間、ぷるぷる太陽トマトは自らポヨんっと跳ね上がり、パカッと綺麗な八等分に分裂して、審査員たちの口の中へダイブした。


「「「「んんんんんまァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!」」」」


食べた瞬間、審査員たちの背後に幻の太陽が昇り、彼らの目から大粒の涙が溢れ出した。


「な、なんだこの甘みは……! まるで、初恋の思い出のような優しさが全身を包み込む……!」


「皮が口の中でとろけ、果汁が命の源のように染み渡る! 生きててよかったァァァッ!」


「勝者、ユウト農園!!」


圧倒的な差で、第一回戦は俺たちの勝利となった。


「ば、馬鹿な! 数値上の栄養素では、我が社のアイアン・メイデンが100倍は上回っているはずだぞ!」


マッドシードが頭を抱える。


「数字じゃないよ。食べる人を笑顔にしたいっていう『思い』の差かな」


俺が言うと、マッドシードはギリッと歯を食いしばった。


「ええい、戯れ言を! 第二回戦だ! 行け、レーザー・ネギ・エクスカリバー!」


次に登場したのは、緑色の光の刃(レーザー)を放つ、もはや武器にしか見えないネギだった。


対するユウト農園は、アルカが誇らしげに送り出した『星屑のダンシング・ネギ』が壇上に上がった。自らステップを踏みながら、ネギの香りを振りまく陽気な奴だ。


ここでも、GBG社のネギは「まな板が焦げる」「眩しくて目が痛い」と酷評され、ユウト農園のダンシング・ネギは「刻むと勝手に味噌汁の具になってくれる」「香りが神」と絶賛され、連勝を飾った。


「ぐぬぬぬぬ……! 認めん、絶対に認めんぞぉぉ!! 我が完璧な科学が、こんな原始的な農業に敗北するなど!」


マッドシードは目を血走らせ、白衣を脱ぎ捨てた。


「こうなれば、最終兵器を出すしかない! 出でよ、我が社の全てを注ぎ込んだ最高傑作! 殲滅型サイボーグ・メガロキャベツMk-II!!」


ズドドドドドドォォォォォンッ!!


ステージの床をぶち破り現れたのは、直径5メートルはあろうかという、全身にミサイルポッドとビーム砲を搭載した、漆黒の鋼鉄キャベツだった。


「キャベツに……ミサイル?」


俺は思わずツッコミを入れた。


「フハハハ! もはや食べる必要すらない! このキャベツは、周囲の土壌から養分を強制的に吸い上げ、邪魔な害虫や競合する農家の畑を物理的に焦土と化す! 圧倒的な暴力による農業の独占! これが私の真の目的だ!」


「いや、それもう農業じゃなくてただの兵器開発……」


『ガガガ……ターゲット確認。ユウト農園ノ作物ヲ、排除シマス』


メガロキャベツMk-IIが機械音を響かせ、無数のビーム砲口を俺たちの方へ向けた。


「させんぞ! 創造主様のステージを汚すなど、万死に値する!」


ゼクサルとヴァルグが前に出ようとするが、俺はそれを手で制した。


「待って。みんなは下がっててくれ。あれは……俺たちの野菜の出番だ」


俺が視線を落とすと、足元にはユウト農園のエースである『ぽんぽこキャベツ』が、やる気に満ちた顔(葉っぱのシワ)でピョンピョンと跳ねていた。


「行けるか、ぽんぽこ?」


ぽんぽこキャベツは、任せとけ! とばかりに葉っぱを揺らし、巨大なメガロキャベツMk-IIの前へとテケテケと歩み出た。


「ハッ! そんな小さなキャベツで何ができる! 踏み潰してしまえ、メガロキャベツMk-IIよ!」


マッドシードの命令に従い、巨大サイボーグキャベツが鋼鉄の葉を振り上げ、ぽんぽこキャベツを押し潰そうとする。同時に、超高出力の栄養素照射レーザーが放たれた。


ズガァァァァァァァンッ!!!


ステージが光に包まれ、観客から悲鳴が上がる。


「勝った! これで我が社の完全勝利……」


マッドシードが狂喜の声を上げたその時──


「……ぷはーっ! あったか〜い!」


光が収まった後、そこには無傷でニコニコしているぽんぽこキャベツの姿があった。なんと、放たれたレーザーのエネルギーを、ぽんぽこキャベツは『光合成のエネルギー』としてすべて美味しく吸収してしまったのだ。


『ガ……エラー……攻撃ガ吸収サレマシタ……』


メガロキャベツMk-IIが混乱する中、ぽんぽこキャベツはピョンッと跳ね上がり、巨大な鋼鉄の装甲にギュッと抱きついた。


俺の『限界突破オーラ』と、アルカの『思いやりネットワーク』を極限まで受け継いだぽんぽこキャベツ。その抱擁から放たれたのは破壊の力ではない。「一緒に遊ぼうよ!」「土の匂いは気持ちいいよ!」という、純度100%の『愛と癒やしの波動』だった。


パァァァァァァァァァッ……!


ステージ全体が、優しい翠緑すいりょくの光に包まれる。その光を浴びた瞬間、メガロキャベツMk-IIの鋼鉄の装甲が、ポロポロと音を立てて崩れ落ち始めた。


「な、なんだと!? 私の完璧なチタン装甲が……溶けているだと!?」


「溶けてるんじゃないよ。装甲なんて最初から必要なかったんだよ」


俺が静かに言うと、メガロキャベツMk-IIの装甲は完全に剥がれ落ちた。


中から現れたのは、巨大で恐ろしい兵器などではなく、本当は太陽の光を浴び、風に揺られ、泥まみれになりたかった……ひどく小さく、か弱い『普通のキャベツ』だった。


ずっと冷たい金属に閉じ込められていたそのキャベツは、ぽんぽこキャベツの温もりに触れ、ワァァァァン!と泣き出すように葉っぱを震わせ、ぽんぽこキャベツに強く抱きつき返した。


ぽんぽこキャベツは、「よしよし、もう大丈夫だよ」と、優しくその葉を撫でている。


「…………あっ……あぁ……」


その光景を見たドクター・マッドシードは、膝から崩れ落ちた。


「私……私は……何ということを……。彼らを完璧にしようとするあまり……彼らから一番大切なものを奪っていたのか……」


マッドシードの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。


会場は水を打ったような静寂に包まれ、やがて割れんばかりのスタンディングオベーションが巻き起こった。


[うおおおおおおおおっ!!!]


[泣いた。キャベツのハグでマジ泣きした]


[愛こそが最強の農業……ユウト様、アンタが世界一だ!]


[GBGの社長も改心してて草]


[やっぱユウト農園のオーガニック最高や!]


「……私の負けだ。完敗だよ、ユウト君」


マッドシードは涙を拭い、俺に向かって深く頭を下げた。


「君の言う通りだった。効率や数値だけでは決して超えられない壁がある。彼ら(野菜)の心に寄り添うことこそが、真の農業だったんだな……」


俺は歩み寄り、彼に手を差し伸べた。


「おじさんの技術そのものが悪いわけじゃないよ。うちのアルカ君の宇宙技術だって、最初は使い方が分からなかった。その科学の力を、野菜たちを縛るためじゃなくて彼らがもっと元気に育つために使えばいいんだ。どうかな? もしよかったら、うちの農園で技術顧問として、本当の農業を一から学んでみない?」


俺の提案に、マッドシードは驚きに目を見開き、そして……子供のように顔をくしゃくしゃにして泣き崩れた。


「ああ……っ! よろしくお願いする! 泥まみれになって一から出直させてくれ……っ!」


こうして、世界最大の農業フェスは、ユウト農園の圧倒的な優勝と、新たな仲間(元・悪のCEO)の加入という、最高の大団円を迎えたのだった。


帰り道──


俺たちは、ぽんぽこキャベツと、元サイボーグキャベツが仲良く手を繋いで歩く姿を見守りながら笑い合っていた。


ユウト農園の「愛の農業」は、ついに地球全土にその名を轟かせたのである。

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