第26話「廃神社で初詣したら古代の厄災女神が復活したけど、とりあえず巫女服を着せて町おこしを手伝ってもらったんだが」
新年、明けましておめでとうございます。
日本アルプスから吹き下ろす、身を切るような冬の寒風。しかし、元旦の朝特有の澄み切った青空は、どこまでも高く、清々しい。見渡す限りの銀世界に包まれた大自然の中、飯田町の俺の実家は、新年早々、信じられないほどの多幸感と狂気的な熱量に包まれていた。
「ふぅーっ……! やっぱり、お正月の朝はお雑煮に限るな。昨日みんなでついた自家製のお餅がトロトロに溶けて、出汁と完璧に絡み合ってる。最高だ」
熱々のお椀を両手で包み込みながら、俺はこたつの中で深く息を吐いた。一口噛むごとに、信じられないほどの生命力が全身の細胞に染み渡り、冬の寒さなど一瞬で吹き飛んでしまう。
「はいっ、創造主様! 昨日皆様で精魂込めておつきになった『世界樹の種子(究極の餅)』に、裏山の清流で獲れた黄金の鰹節から引いた極上の出汁、そして不死鳥の卵で焼き上げた伊達巻を添えてみました!」
俺の隣では、美しいエルフの女王・エルリアさんが、自ら紡いだ晴れ着姿(※あらゆる状態異常を無効化する神話級の霊布)でニコニコと微笑んでいる。エルフの里を束ねる女王が、今や完全にうちの優秀な専属管理栄養士と化していた。
「ワフゥゥゥン……♪」
「キュルルルルン……♪」
縁側へと目を向ければ、昨日のお餅をつまみ食いした結果、さらなる限界突破を果たした愛犬のポチ(※真・天界神狼)とブルー(※深淵の海皇龍)が、初日の出の柔らかな光を浴びながら丸くなっていた。
体長数メートルに及ぶ神々しい威容と、周囲に漂う神話級のオーラ。世界を滅ぼしかねない神獣たちだが、ストーブの特等席を巡って小競り合いをする様子は、以前と何一つ変わらないただの可愛いペットである。
「ハッ! 創造主様、新年あけましておめでとうございます! このゼクサル、本年も創造主様の御手足となり、畑の土壌改良から害虫駆除まで、粉骨砕身の覚悟で挑む所存でございます!」
「オレの竹ぼうき(新たな絶望の牙)も、今年もキレッキレに磨き上げてありますぜ! どんな汚れも、どんな害虫も、一瞬で塵に還してみせまさァ!」
庭の雪景色の中、すっかり農民特有の『純白のオーラ』を放つようになった魔王軍第一軍団長・ゼクサルと第二軍団長・ヴァルグが、完璧な直立不動の姿勢で新年の挨拶をしてきた。ゼクサルに至っては、昨日の「無限剥皮」の感覚が忘れられないのか、両手にピーラーを構えながら感極まったように光の涙を流している。
「あはは、二人とも今年もよろしくね。さて、お腹もいっぱいになったし、そろそろ今年の最初のイベントに出かけるとするか」
俺は空になったお椀を置き、こたつから立ち上がった。そして、いつものようにドローンのスイッチを入れ、新年の生配信をスタートさせる。
【待機100万人! ユウト様、あけましておめでとうございます!】
【新年早々、ポチとブルーの神々しさが限界突破してて草】
【ゼクサルとヴァルグ、すっかり忠犬農奴になってて涙が出るな……魔王軍本隊が見たら泣くぞ】
【(スパチャ ¥10,000)今年もカオスな農業配信を楽しみにしてます!】
【ところで、最初のイベントって? 餅つきの次はなにやるの?】
滝のように流れるコメント欄に向かって、俺は笑顔で手を振った。
「みんな、あけましておめでとう! 今年も飯田町の美味しい野菜の魅力をお届けしていくからよろしくね。で、今から何をするかというと……お正月といえばやっぱり『初詣』だよね? うちの裏山に、じいちゃんが昔から手入れをしてた古い神社があるんだ。今日はそこへ新年のご挨拶に行こうと思います」
俺がそう宣言すると、エルリアやゼクサルたちは「ハハァッ!」と深く頭を下げ、すぐさまお出かけの準備に取り掛かった。
◆
俺の家の裏手から続く山道は、大晦日からの雪で深く覆われていた。本来ならカンジキでも履かなければ進めない悪路だが、我らが農園の誇る精鋭たちには何の問題にもならない。
「道を開けよ、雪ども! 我が究極の暗黒闘気『ヴォイド・スラッシュ』……改め、『スノウ・クリアランス・アルティメット』の前にひれ伏すがいい!」
「オラオラオラッ! 落ち葉一つ、雪一粒残さねェぜ!!」
ゼクサルとヴァルグが先頭に立ち、目にも留まらぬ速度で雪を「空間ごと消滅」させていく。彼らが通り過ぎた後は、まるで春が来たかのように完全に乾いた美しい石段が姿を現した。
「すごいな二人とも。これなら町内の雪かきボランティアでも大活躍できそうだよ」
「も、もったいなきお言葉……! このゼクサル、創造主様のお褒めの言葉を胸に、さらに除雪の真理へと近づいてみせますぞォォォッ!!」
ゼクサルは俺の何気ない称賛に再び号泣し、さらに速度を上げて山道を切り開いていく。しかし、山の中腹を過ぎたあたりから、周囲の空気が少しずつ変わり始めた。
冬の澄んだ空気の中に、何かが混じっている。それは、ひどく淀み、古く、そしてこの世のすべての負の感情をドロドロに煮詰めたような、おぞましい冷気だった。
「……ッ!? な、なんだこの気配は……!」
ゼクサルがピタリと足を止め、全身の包帯を逆立てて震え始めた。
「おいおい、冗談だろ……? オレたちの暗黒魔力なんか目じゃねェ、純粋な『死』と『崩壊』の概念そのものじゃねェか……!」
ヴァルグも竹ぼうきを構えながら、顔面を蒼白にしている。エルリアさんも、俺の背中に隠れるようにしてガタガタと震えていた。
「そ、創造主様……この山の頂には、とてつもない邪悪が封印されております……! 神話の時代、あまりの厄災ゆえに世界中の神々が総出で結界に閉じ込めたという『最悪の概念』の気配が……!」
【おいおいおい、新年早々ヤバいフラグが立ってないか!?】
【ギルドの魔力観測機がエラー吐いてるぞ! 日本アルプスに神話級の特異点が発生してる!】
【ただの裏山の神社じゃねえ! それ『封印の社』だ!!】
【逃げてユウト様! 初詣に行ってる場合じゃない!!】
【人類滅亡のカウントダウン始まってるって!!】
配信のコメント欄が世界中の探索者たちのパニックで埋め尽くされる中、俺は首を傾げた。
「ん? ちょっと空気が冷たくなったな。まあ、山頂近いし、風も強いから防寒対策はしっかりしないとな。ほら、みんなも俺のお手製ネックウォーマーを貸してあげるから」
俺は全く意に介することなく、リュックから取り出したネックウォーマー(※あらゆる呪詛と絶対零度を無効化する神話級の霊布)を、震えるゼクサルたちに巻いてやった。俺自身は、いつもの使い古した今治タオルを首に巻いているので完璧だ。
「よし、着いたぞ。ここがうちの裏山の神社だよ」
目の前に現れたのは、鳥居の朱色も剥げ落ち、屋根の瓦も崩れかけた、今にも倒壊しそうなボロボロの小さな廃神社だった。賽銭箱は木が腐って穴が開き、しめ縄も切れかかっている。
「うわぁ、しばらく来ないうちにずいぶん荒れちゃったな。こりゃあ、春になったら本格的にDIYで修理しないと神様も可哀想だな」
俺はそう呟きながら、ポケットから財布を取り出した。
「まずは新年のご挨拶から。奮発して500円玉にしておこう。今年も豊作で、美味しい野菜がたくさん育ちますように」
俺は、願いと無意識の『限界突破オーラ』を込めた500円玉を、親指でピンッと弾いた。
ギュルルルルルルッ!!! ヒュンッ!!!
【は?】
【今、レールガンの発射音みたいなの聞こえなかった?】
【硬貨からプラズマ出てるぞ!?】
弾き出された500円玉は、大気を切り裂き、プラズマを纏いながら、ボロボロの賽銭箱の隙間へと吸い込まれていった。そして、賽銭箱の奥底に施されていた『古代神々による九十九重の絶対封印陣』の核に直撃し、それを紙くずのようにあっさりと粉砕した。
「よし、次はお祈りだな。二礼、二拍手、一礼っと」
俺は深く二度お辞儀をし、胸の前で両手を合わせた。そして、新年の澄み切った空気を吸い込み、勢いよく両手を打ち鳴らした。
パァァァァァァンッ!!!!!!!
その瞬間、飯田町の盆地全域の空気が爆発的に圧縮され、宇宙空間まで届くほどの凄まじい衝撃波が山頂から放射状に放たれた。雲海が一瞬にして吹き飛び、周囲の空間そのものが「ガラスのようにひび割れる」という、物理法則を根底から覆す現象が発生する。
俺の放った完璧な拍手は、単なる音ではなく、因果律を書き換える神の裁きの如き一撃となり、残されていた全ての次元封印を文字通り、粉砕してしまったのだ。
「……よし。今年もみんなが健康で過ごせますように」
俺が満足げに目を閉じてお祈りを終えた、その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!!
突如として、廃神社の本殿から漆黒の瘴気が間欠泉のように噴き上がり、空が瞬く間に赤黒く染まり始めた。周囲の木々が一瞬にして枯れ果て、地面の雪が猛毒の沼のようにドロドロと溶けていく。
「な、なんだ!? 急に天気が悪くなったぞ?」
俺が驚いて空を見上げる中、本殿の屋根を突き破り、漆黒の瘴気の中から『一人の少女』が空中に浮かび上がった。
長い黒髪を振り乱し、ぼろぼろの十二単のような古い衣装を身に纏ったその少女は、青白い肌と、この世の全ての絶望を湛えたような赤い瞳を持っていた。
「アハハハハハハハハッ!!! 解かれた、解かれたぞォ! 数万年の長きにわたる忌まわしき封印が、ついに破られた!!」
少女の哄笑が、脳内に直接響き渡る。その声を聞いただけで、ゼクサルとヴァルグは血を吐きそうになりながら地面に膝をついた。
「ぐはぁッ……! な、なんという絶望の波動……! 我ら魔族の魂すらも強制的に腐敗させるほどの……ッ!」
「こ、これが……世界を終わらせる古代の厄災……!」
少女は、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら、眼下にいる俺たちを傲慢に見下ろした。
「我は、厄災と貧困、腐敗と滅亡を司る古代神【ヤクモ】なり! 我を封印せし愚かな神々はとうに滅びたか! ならば今日、この刻より、この星のすべての生命と富を喰らい尽くし、永遠の貧困と絶望の時代を——』
「うわぁ、びっくりした。こんな寒い神社の屋根裏に、女の子が住み着いてたのか?」
「……は?」
俺の間の抜けた声に、世界を滅ぼす宣言をしていた厄災神ヤクモが、ぽかんと口を開けた。
「いやぁ、最近の家出少女はこんな山奥の廃神社を拠点にするのか……。それにしても、ずいぶんボロボロの服を着てるな。そんな薄着じゃ、この信州の冬は越せないよ?」
俺は本気で心配しながら、屋根の上に浮かぶヤクモに向かって声をかけた。
【ちょwwwユウト様wwww】
【家出少女扱いwwwww】
【世界を滅ぼす古代神(数万歳)を捕まえて、家出少女は草】
【相手、空飛んでるし、周囲の木を瞬殺で枯らしてるんですがそれは……】
【ユウト様の目には、ただの不審な子供にしか見えてないのか!?】
「き、貴様……我をただの人間と勘違いしておるのか!? 我は厄災の神だぞ! 触れるものすべてを腐らせ、国を滅ぼす貧乏神の頂点にして——」
「ああ、なるほど! 君がこの神社の『神様』だったのか!」
俺はポンッと手を叩いて納得した。
「でも、貧乏神ってのはちょっとかわいそうな名前だな。こんなにボロボロの神社じゃ、お賽銭も集まらないし、お腹も空いてるでしょ? 神様とはいえ、もう少し身の回りの掃除や整理整頓をしないと、ご利益もないんじゃないかな?」
俺は腕を組み、年長者として説教するような口調でヤクモを見つめた。
「貴様……ッ! 我を愚弄するか人間風情が! よかろう、ならばまずは貴様から、永遠の飢餓と腐敗の呪いを与えてくれるわ! 死して骨すら残らぬ貧困の極致を味わうがいい!!」
激昂したヤクモが両手を掲げると、彼女の背後から、周囲の空間の生命力を根こそぎ奪うという極大の漆黒のレーザー【絶対飢餓の波動】が放たれた。それは、かすっただけで国一つを不毛の砂漠に変え、魂すらも塵に還す、恐るべき概念魔法である。
ズドォォォォォォォォォォンッ!!!
漆黒のレーザーは、逃げる間もなく俺の胸元に直撃した。
「そ、創造主様ァァァァァァッ!!」
ゼクサルが絶望の悲鳴を上げる。
だが——
「……ん? なんか今、フワッと温かい風が吹いたな。やっぱり山頂は天気が変わりやすい」
俺は、服のホコリをパッパッと払うだけで、全くの無傷で立っていた。
「な……なにィィィィィィッ!?!?」
ヤクモの目が、限界まで見開かれる。
【効いてないwwwwwwww】
【概念魔法がそよ風扱いwwww】
【ユウト様が首に巻いてる『今治タオル(神話級防具)』が、厄災の呪いを完全に浄化して、ただの温かい暖房の風に変換しちゃってるぞww】
【もはやギャグマンガの耐久力】
「ば、馬鹿な……我が数万年かけて練り上げた最強の呪詛が、ただの汚いタオルに阻まれただと!? な、ならば、我が内なる絶望の瘴気を直接貴様の脳内に——」
「ほらほら、そんな危ない屋根の上に立ってないで降りてきなさい。怪我するよ」
俺は、慌てふためくヤクモの足元(屋根のひさし)に向かって、スッと手を伸ばした。そして、俺の無意識の『限界突破オーラ』が空間を捻じ曲げ、ヤクモの足首をガシッと掴んだ。
「ヒィッ!? 空間を無視して直接!? や、やめろ、我に触れ——」
「よっと」
俺は空中に浮かぶ古代神を、まるで軽い羽毛でも扱うかのようにヒョイッと引っ張り下ろし、地面にポンと降ろした。
「あ、あわわわ……っ!」
ヤクモは、あまりの力の差と理不尽な現象に完全にキャパオーバーを起こし、地面にへたり込んでガタガタと震え始めた。
彼女が放っていた漆黒の瘴気は、俺が触れた瞬間に「圧倒的な光のオーラ」によって完全に消毒(浄化)され、今やただの青白い顔をした怯える少女になり下がっていた。
「よしよし、これで安全だ。それにしても本当に冷え切ってるな。手なんか氷みたいだ」
俺は、震えるヤクモの頭をポンポンと撫でた。
「あ……う……(我が、我が浄化されていく……っ! この男の放つ生命力、宇宙そのものより巨大……! 勝てない……どんな呪いも、この男の前では埃以下の意味もなさない……!)」
「エルリアさん、リュックに入れておいた『アレ』、出してくれる?」
「はいっ、創造主様! こちらに!」
エルリアさんが満面の笑みで取り出したのは、赤と白の鮮やかな衣装『巫女服』だった。お正月気分を盛り上げるために、エルリアさんが趣味(※世界樹の糸と神話の蜘蛛の糸をブレンドした神格拘束具)で作ってくれていた特注品だ。
「よし、君は今日からこの神社の再建を手伝ってくれる? 神様がボロボロの服を着てちゃ、参拝客も寄り付かないからね。まずはこの巫女服に着替えて、身だしなみを整えよう」
俺は、へたり込むヤクモに巫女服を押し付けた。
「み、巫女服……? 我は厄災の神だぞ!? なぜ我が自ら巫女の真似事を——」
「グゥゥゥゥゥゥ……」
ヤクモが反抗しようとした瞬間、彼女のお腹から、とてつもなく情けない音が鳴り響いた。数万年ぶりの復活で無駄に大力を使ったせいか、完全な空腹状態に陥ってしまったらしい。顔を真っ赤にしてうつむくヤクモ。
「あはは、お腹空いてるじゃないか。ちょうどよかった、保温水筒に朝のお雑煮の残りを入れてきたんだ。これを食べて少し温まるといいよ」
俺は、水筒のカップに熱々のお雑煮(※世界樹の餅と不死鳥の卵入り)を注ぎ、彼女の手に握らせた。
「ふんっ! 人間から施しなど受けるか! 我が……我がこんな……」
ヤクモはプイッと顔を背けたが、お雑煮から漂う強烈な生命力と究極の出汁の香りに抗えるはずもなく、恐る恐る一口、お餅を口に運んだ。
その瞬間——
カッ!!!!!!!!!!!!(ヤクモの脳内宇宙ビッグバン)
「!!!!!!!!」
ヤクモの両目から、滝のような光の涙が噴き出した。
「お、おいひぃぃぃぃぃぃぃっ!!! なにこれぇぇぇっ!! 数万年ぶりの食事が、こんな、こんな美味しいなんてぇぇぇっ!! お餅が口の中でトロけて、無限の力が湧いてくるぅぅぅぅっ!!」
ヤクモは、厄災神としての矜持もすべて投げ捨て、一心不乱にお雑煮を啜り始めた。お椀を空にする頃には、彼女の青白かった肌は健康的な桜色に変わり、その表情には、かつてないほどの幸福感が満ち溢れていた。
「うんうん、いい食べっぷりだ。美味しいものを食べれば、厄災なんて吹っ飛んじゃうでしょ?」
「……は、はい。吹っ飛びました。完全に、浄化されました……ごちそうさまでした……」
ヤクモは正座し、涙と鼻水を拭いながら、俺に向かって深く深く頭を下げた。
「よし! それじゃあ、今日から君の名前は『ヤクちゃん』だ! この神社の巫女兼・飯田町の町おこしキャラクターとして、神社の掃除と参拝客の案内を任せるね! 給料は現物支給(うちの野菜と三食のご飯)でどうかな?」
「ヤクちゃん……! はいっ! 私、ヤクちゃん、一生懸命働かせていただきます! もう世界なんて滅ぼしません、お掃除頑張ります!! だからまたお雑煮食べさせてください!!」
こうして、かつて神々すら恐れた古代の厄災女神は、美味しいお雑煮一杯と巫女服によって、完全にユウト農園の(町おこし用)アルバイトとして取り込まれたのである。
【ファッ!?!?!?】
【厄災女神が、雑煮一杯で完全堕ちしたwwwww】
【「ヤクちゃん」ってwww名前のスケールダウンが酷すぎるwww】
【でも巫女服に着替えたヤクちゃん、めちゃくちゃ可愛いぞ!?】
【神を物理(胃袋)で屈服させる男、ユウト】
【これで飯田町にまた一人、ヤバい戦力が加わってしまった……世界中探しても飯田町より安全な場所ねえよ】
配信画面は、もはやお決まりとなった驚愕と爆笑のコメントで埋め尽くされている。
「ほら、ヤクちゃん、竹ぼうきの持ち方はこうだ。箒の先で空間の理を撫でるように掃くのだ」
「は、はいっ! ゼクサル先輩! こうですか!?」
「うむ、筋がいいぞ! さすがは元・神といったところか」
鳥居の近くでは、すっかり巫女服に着替えたヤクちゃんが、ゼクサルから「究極の落ち葉掃き」のレクチャーを受けていた。
数万年の封印から目覚め、世界を滅ぼすはずだった彼女が、今は一生懸命に神社の階段を掃いている。その姿は、どこからどう見ても健気な田舎のアルバイト少女だった。
「いやぁ、今年の初詣も大成功だったな! いいアルバイトも見つかったし、今年はもっといい野菜が作れそうだ」
俺は、すっかり綺麗に晴れ渡った信州の青空を見上げながら、満足げに深呼吸をした。
大自然に囲まれた飯田町でのスローライフは、神様も魔族も巻き込みながら、今日も平和に、そしてカオスに続いていく。




