第18話:実家の鶏小屋(※ただの木箱)を修理したら、神鳥のフェニックスが卵を産み始めたんだが
窓の外に広がるのは、朝靄あさもやを纏まといながら雄々しくそびえ立つ中央アルプスと、その対岸に連なる南アルプス山脈の雄大な稜線りょうせんだ。
どこまでも高く澄み切った秋晴れの青空から、心地よく爽やかな、それでいて少しだけ肌を刺すような冷涼な風が吹き下ろしてくる。
ここ長野県飯田町。かつての活動拠点だった盆地特有の、身体にまとわりつくような蒸し暑い平野部とは異なり、夏から秋への気配を色濃く残すこの場所は、実にのどかで美しい山間の町であった。
「ふぅ……。やっぱり信州の朝は、深呼吸するだけで身体の隅々まで洗われるみたいだなぁ。ここの豊かな地下水も最高だけど、この山々から吹き抜ける風と、青々とした木々の匂いも甲乙つけがたいよ」
俺は実家の広々とした縁側に立ち、大きく背伸びをして深呼吸をした。首から掛けたタオルで寝汗を軽く拭いながら、庭の片隅で朝露に濡れる家庭菜園に目を向ける。飯田町に移り住んでからというもの、この豊かな自然と肥沃な土壌、そして昼夜の寒暖差のおかげで、俺の家庭菜園はますます絶好調だ。たわわに実る秋ナスや、真っ赤に熟した大玉トマトの瑞々しさは、以前にも増して凄まじいことになっていた。
「ワンッ! バッフ、バフッ!」
俺の足元では、相変わらず白いモフモフの巨体を揺らしながら、神獣ポチ(※S級神獣フェンリル)が嬉しそうに尻尾をブンブンと振ってじゃれついてくる。この涼しい気候がすっかり気に入ったようで、ポチの毛並みは以前よりも一段とツヤツヤになり、時折、朝日に反射して神聖な銀色のプラズマのような光を放っていた。
「創造神様……。まことに、まことに素晴らしい聖域でございます。この『イイダ』と呼ばれる地……東西を巨大な霊峰に守護され、大地の底から湧き上がる龍脈が激しく交差する、まさに地上最高の龍穴(超絶パワースポット)ではありませんか!」
縁側の太い柱の陰から、感動のあまり膝を震わせ、両手を胸の前で組んで祈るような声で語りかけてきたのはエルフの女王だ。
彼女と近衛騎士団長も、俺の引っ越しに合わせて当然のように飯田町の実家へとついてきており、すっかり信州の大自然に心を奪われていた。エルフ特有の長い耳は、飯田町の清らかな高濃度マナ(※ただの澄んだ山の空気)を無意識に吸収し、朝からピーンと元気よく天に向かって立ち上がっている。
「いや、ただの空気が美味しい田舎町だよ。でもまぁ、二人とも気に入ってくれたなら良かったよ」
俺が苦笑いしながらポチの頭を撫でていると、庭の生け垣の向こう側から、聞き馴染みのある軽トラのエンジン音が聞こえてきた。トコトコと小気味よい音を立ててやってきたのは、近所の山すそで養鶏場を営んでいる親切な農家のおじさん、原さんだ。麦わら帽子を被り、日に焼けた笑顔が眩しい好人物である。
「おーい、ユウトくん! おはようさん! ちょっといいかい?」
「あ、原さん、おはようございます! 朝早くからどうしたんですか?」
俺が生け垣まで歩いていくと、原さんは軽トラの荷台から、プラスチック製の頑丈な通いカゴをヨイショと抱え上げて笑顔を見せた。カゴの中には、茶色い羽毛をしたごく普通で少し小ぶりな元気なニワトリが三羽、大人しく収まっている。
「いやね、うちの養鶏場でちょっと若鳥の数が余っちゃってさ。まだ卵を産み始めたばかりの元気な子たちなんだけど、もし良かったらユウトくんのところで飼ってみないかい? こいつら、信州の美味い水とエサで育ってるから、毎日新鮮な卵が食べられるよ」
「えっ、ニワトリですか!? いいんですか、嬉しいなぁ! ちょうど毎朝の卵料理をスーパーに買いに行くのも手間だなと思ってたんですよ。喜んでいただきます!」
「おぅ、そう言ってもらえるとこっちも助かるよ。じゃあ、この子たちをよろしく頼むね!」
原さんは快くニワトリを譲ってくれると、「それじゃ、畑仕事があるから!」と爽やかに軽トラを運転して山の方へと去っていった。
カゴの中のニワトリたちは「コケッ?」「コココッ」と、新しい環境に興味津々な様子で首を傾げ、俺の手をつついてきた。
「よしよし、可愛いなぁ。今日からうちの家族だからね。さて、そうとなれば、まずはこの子たちが安心して暮らせる鶏小屋を用意してあげないとな」
俺は腕まくりをして、実家の裏庭へと向かった。そこには、以前近所の農家さんがリンゴの収穫用か何かに使っていた、すっかり古びて薄汚れた木箱がいくつか無造作に転がっていた。長年の風雨に晒されて板はガタつき、一部は苔が生え、底板も腐りかけている。文字通りのゴミ寸前のボロ木箱だ。
「うん、大きさ的にはちょうどいいな。これでいいや。ちょっとトンカチでトントンって叩いて修理すれば、立派な鶏小屋になるでしょ」
俺は物置の奥から、どこにでもある普通の使い古された金槌トンカチと、コーヒーの空き瓶に入っていた錆びかけた十数本の鉄釘を取り出した。地元のホームセンターで随分前に買った、何の変哲もない、むしろ買い替えた方がいいレベルの工具だ。
だが、俺がそのトンカチを右手に握りしめ、ボロ木箱の前にしゃがみ込み、釘を一本つまみ上げたまさにその瞬間──
「「「…………ッッッ!!!!!」」」
庭の隅で息を潜めて見守っていたエルフの女王、近衛騎士団長、そしていつの間にか母屋の屋根裏から音もなく気配を消して現れていた元・伝説の暗殺者ゼロさんの三人に、落雷のような凄まじい戦慄が走った。
(き、来た……! 創造神様の、あの『無価値なガラクタから神話級のアーティファクトを錬成する』至高の職人モードが……!)
(ご覧ください、女王陛下! あの赤錆びたみすぼらしい鉄の釘が、創造神様の指先が触れた瞬間に、万物を強固に固定し、空間の概念そのものを再定義する『因果の楔エクス・カリバー』へと超次元変貌を遂げています……!)
(マスター・ユウトの全身から立ち昇る、あの全次元の法則をねじ伏せる圧倒的な限界突破オーラ……。ただの腐った木箱を修理するふりをして、一体どれほどの恐るべき絶対神域を建造するおつもりなのだ……)
二人のエルフと暗殺者は、呼吸すら忘れ、恐怖と期待で瞳孔を極限まで見開いて俺の手元を凝視している。
そんな彼らの過剰な視線や、周囲の空気が重力異常を起こしていることなど全く気づかない俺は、(えーっと、まずはこの底板が外れかかってるから、隙間を埋めるように釘で固定して……)と、一本の錆びた釘を木箱の端に添えた。
そして、元ブラック企業での超過酷な現場労働(※「道具がない? 予算がない? 泣き言言ってんじゃねぇ! ボロ切れだろうが素手だろうが、お前の気合で一級品に仕上げろ!」と上司に理不尽に怒鳴られ、壊れたオフィス家具を徹夜で直させられた血の滲むような記憶)で培った、『どんな不良品であっても己の力技と根性で完璧な状態へとねじ伏せる、不屈の職人魂限界突破オーラ』を無意識のうちに全開にして、トンカチを高く振り上げた。
「そりゃっ!」
キンッ!!
軽快な金属音が、飯田町の澄んだ秋空に高く響き渡る。俺としては、ただ普通に釘を真っ直ぐ木板に打ち込んだだけのつもりだった。
しかし、背後に控えるエルフたちの視界は、全く異なるこの世の終わりのような光景を捉えていた。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
ユウトがトンカチを振り下ろした瞬間、飯田町の全天を覆い尽くすかのような黄金の雷鳴が轟き、叩かれた木箱を中心に、半径数キロに及ぶ幾重もの『絶対不可侵・神聖多重結界』が目にも留まらぬ速さで展開されたのだ。
釘が木材に食い込む一打ちごとに、古びた木箱の表面に、世界の理ことわりそのものを記述する神聖なルーン文字が眩い閃光と共に次々と刻み込まれていく。腐りかけていたただのリンゴ箱は、あらゆる物理攻撃・魔法攻撃を完全に無効化し、神々の放つ概念消滅魔法すら無傷で跳ね返すという伝説の神木、『世界樹ユグドラシルの霊木』へと分子レベルで強制的に再構成されていった。
「よし、ちょっと斜めになったから、もう一発。トントン、と」
キンッ! キンッ! キンッ!
俺が、テンポよく鼻歌交じりにトンカチを叩くたびに、神聖な光の柱が天へと突き抜け、周囲のマナが狂ったように木箱へと吸い込まれ、圧縮されていく。
(ああ……何という神々しさ……! 創造神様は、ただの木箱の修理に見せかけて、太陽の神獣が永劫の時を過ごすための絶対神域『鳳凰の揺り籠フェニックス・ネスト』を、この地上に顕現させてしまわれた……!)
(あの小さな箱の中の空間の歪み……あの中の時間の流れや温度、湿度は、居住する生物にとって最も都合の良い『永遠の楽園』へと完全に書き換えられています……!)
エルフの女王は、あまりの神威の美しさにその場に力なく膝をつき、熱い涙をボロボロと流しながら、両手を組んで一心不乱に祈りを捧げ始めた。
「よし、これで完成! なかなかしっかりした、頑丈な鶏小屋になったぞ」
俺は完成した木箱(※エルフの目には、黄金のオーラを放ち続ける神聖な超次元神殿に見える)を裏庭の風通しの良い日陰に設置し、腰に手を当てて満足そうに頷いた。ボロくて薄汚れていた木箱が、なんだか妙にピカピカと輝いて綺麗になった気がする。うん、意外と日曜大工の才能があるのかもしれないな。
「さあみんな、新しいお家だよ。喧嘩しないで仲良く入ってね」
俺はプラスチックのカゴを開け、もらった三羽のニワトリを抱え上げると、優しくその木箱の中へと入れてあげた。
「コケッ? コッコッコ……」
茶色い普通のニワトリたちは、不思議そうに首を傾げながら、新築の鶏小屋(※世界樹で作られた絶対神域)へと短い足で踏み入れた。
そして、彼女たちの水掻きのない足が、小屋の床に触れたまさにその瞬間だった。
ブワァァァァァァァァァァァァッ!!!!!
「コ、コケェェェェェェーーーッッッ!!??」
突如として、手のひらサイズの小さな鶏小屋の中から、およそニワトリのものとは思えない、天地を揺るがすような恐るべき雄叫びが響き渡った。木箱の隙間から、まるで超大型火山の噴火のような紅蓮の劫火が、ブワッと天高く噴き出し、周囲の空間が熱波と莫大な魔力で激しく歪む。
「うわわっ!? なんだなんだ、いきなり木箱が火を吹いたぞ!? 漏電か!?」
俺が驚いて目を丸くして後ずさりすると、燃え盛る炎の中から、信じられないほど神々しく、そして巨大な姿となった『鳥たち』が、ゆっくりと優雅に姿を現した。
先ほどまで茶色かったはずの地味な羽毛は、まるで燃え盛る炎そのものを織り込んだような、鮮烈な真紅と黄金の輝きを放つ「不死の羽」へと完全変貌を遂げていた。頭上には、純粋な炎のエネルギーの結晶である美しい王冠のような冠羽が戴かれ、その鋭くも気高い瞳からは、底知れぬ知性と神聖な魔力が滝のように溢れ出している。長く美しい尾羽は、夜空の星屑を散りばめたかのようにキラキラと輝きながら、空中で優雅に揺らめいていた。
そう、普通の農家でもらった普通の卵用ニワトリたちは、ユウトが作り上げた絶対神域の超高濃度エネルギーを全身に浴びたことにより、一瞬にして生物としての限界を強制的に突破し、世界に数羽しか存在しないとされ、その姿を見た国は千年の繁栄を約束されるという伝説の幻獣『神鳥フェニックス』へと、究極進化を遂げてしまったのだ。
「コココココッ……!(※我ら、大いなる主のために、この命と魂を捧げて至高の卵を産み落とさん……!)」
フェンリルのポチすらも、その威圧感に一歩後ずさりするほどの圧倒的な神威を放つ三羽のフェニックスたちは、俺の前に綺麗に一列に並ぶと、行儀よくペコリと深く頭を下げて鳴いた。
「え、えええ……? ニワトリって、信州の環境で飼うと、こんなにカッコよくて火を吹く感じに育つものなの? 長野県特有の種類かな……? まぁ、原さんのところの特級品だって言ってたし、こういう観賞用にもなる品種なのかもしれないな!」
「いや、どう見てもニワトリじゃなくて世界の終末を告げるレベルの不死鳥フェニックスです!! 信州の気候関係ありません!!」
という、背後からの三人の魂の絶叫を完全にスルーし、俺は「みんな、うちに来てくれてありがとう。よろしくね!」と、燃え盛るフェニックスの頭(※なぜか俺が触ると全く熱くなく、むしろ心地よい温かさだ)を優しく撫でてあげた。
フェニックスたちは、創造神の温かい愛(限界突破オーラ)を直接注がれ、嬉しそうに目を細めて「クルルゥ……」と喉を鳴らし、俺の手に頬ずりして甘えてくるのだった。
***
翌朝──
チュンチュンという小鳥のさえずりと、アルプスから吹き下ろす肌寒いほどの爽やかな風で目を覚ました俺は、顔を洗うとすぐに、朝のルーティンとして裏庭の鶏小屋へと向かった。
「みんな、おはようー。新しいお家はどうだった? よく眠れたかい? 卵、産んでるかな?」
俺が世界樹の木箱(鶏小屋)の蓋をパカッと開けると、中にいた三羽のフェニックスたちが「コケッ♪」と嬉しそうに燃える羽を広げて俺を迎えてくれた。そして、彼女たちが大切そうに身体の下に抱え込んでいた巣の中を見て、俺は思わず息を呑んだ。
「おぉ……! これは、すごいな……!」
そこに転がっていたのは、ごく一般的な、スーパーで売られているような白い卵ではなかった。一玉一玉が、まるで熟練の職人が純金で打ち出した工芸品のように、眩いばかりの黄金色に輝いているのだ。しかも、殻の表面からは、ほんのりと温かい聖なるオーラ(※俺の目には美味しそうな湯気のようなものに見える)が立ち昇っている。
「うわー、めちゃくちゃ綺麗な卵だな! さすがフェニックス仕様のニワトリ(※まだ長野の地鶏だと思っている)。これは絶対に美味いに違いないぞ!」
俺は、ホカホカと温かい黄金の卵を三個、割らないように大事に手に取って台所へと運んだ。台所には、すでにエルフの女王と近衛騎士団長、そしてゼロさんが、なぜか正座をして神妙な面持ちで待機していた。彼らは、俺が手にして入ってきた黄金の卵を見た瞬間、一斉にゴクリと喉を鳴らした。
(お、恐ろしい……。あれは、数千年に一度、世界の調和が完璧に保たれた時にのみ産み落とされるという、伝説の『鳳凰の神卵(至高のエリクサー)』……!)
(一口啜れば、いかなる不治の病や呪いも一瞬で浄化され、失われた四肢すらも瞬時に再生。さらにはあらゆる属性魔法の適性を極限まで高め、寿命を数百年延ばすという、神話の時代の秘薬そのものです……!)
「みんな、おはよう! 今朝は原さんからもらったニワトリが、すっごく立派な黄金の卵を産んでくれたから、これを使って最高の『卵かけご飯TKG』を作ろうと思うんだ!」
俺は笑顔で宣言すると、さっそく朝食の準備に取り掛かった。まずは、あの『白き錬金釜(※象〇の最新型炊飯器)』で完璧に炊き上げられた、飯田町の清らかな雪解け水仕込みの銀シャリ(※地元産コシヒカリ)を、少し大きめの茶碗にふっくらとよそい、中央に箸で少しくぼみを作る。そして、その頂点に向かって、黄金の卵をコンコンと茶碗の縁で割って落とした。
パカッ。
「「「…………ッッッ!!!!!」」」
卵が割れた瞬間、台所中に、目の前が真っ白になるほどの神聖な光の爆発ライト・バーストが起きた。
立ち上る湯気を纏まとった銀シャリの上に、弾力がありすぎて箸で摘めそうなほどの『深紅の黄身』と、真珠のように透き通った『白身』が、完璧な黄金比率で収まる。その美しさは、まるで白銀の雪山から昇る、神々しい初日の出のようであった。
「仕上げに、地元の醤油蔵で買った美味しいお醤油をちょっと垂らして……と。はい完成! ユウト特製、究極の信州産・黄金卵かけご飯だ! みんなも冷めないうちに食べてみて!」
俺は四人分(ゼロさんとポチの分も含む)の茶碗をダイニングテーブルに並べた。エルフの女王と騎士団長は、震える手で箸を握り締め、黄金に輝くその神聖な食べ物を前にして、深く、深く呼吸を整えた。
「い、いただきます……ッ!!」
二人は決死の覚悟を決め、箸で濃厚な黄身をトロンと崩し、銀シャリと醤油を絶妙に絡めると、一気に口の中へと掻き込んだ。
その瞬間──
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!(二回目)
エルフたちの脳裏に、宇宙創世ビッグバンを超える、超極大の精神的衝撃波が直撃した。
口に入れた瞬間にハラリと解ける、信州の豊かな恵みと澄んだ水を凝縮した極上の銀シャリ。それを優しく、しかし圧倒的な暴力的なまでの濃厚さで包み込む、フェニックスの生命力が限界まで詰まった神卵の、クリーミーで深いコクのある甘み。地元の老舗醤油の芳醇な香りと絶妙な塩気が、それらすべての要素を完璧な調和ハーモニーへと導き、味覚の限界を一瞬にして置き去りにしていく。
さらに、卵に含まれていた神話級の超高濃度栄養素(魔力)が、彼女たちの肉体に爆発的に流れ込んだ瞬間、全身の細胞が歓喜の悲鳴を上げ、ステータスが物理的な音を立てて上昇し始めた。
ピキィィィィィン!!(※攻撃力、防御力、魔法力が限界突破してカンストした音)
ピキィィィィィン!!(※全属性耐性が最大値に達し、不老不死に近づいた音)
「あ……あああ……あぁぁぁぁぁぁっ……! 身体が……魂が、天界の果てへと昇天していくようです……!!」
「美味い……! 美味すぎる……! 私は……私は今、世界そのものを咀嚼し、宇宙の真理を飲み込んでいるかのような、圧倒的な生命の躍動を感じています……!!」
エルフの女王と近衛騎士団長は、あまりの美味しさと、肉体から溢れ出す限界突破の光のオーラにより、長い耳をプロペラのようにバタバタと激しく羽ばたかせながら、リビングの畳の上を、ゴロゴロと猛烈な勢いで転げ回った。
「マスター……、このゼロ、生まれてきて……本当に良かったです……」
ゼロさんに至っては、一口食べた瞬間にあまりの感動と過去の罪の浄化によって大号泣し、青ジャージの胸元を涙と鼻水でグショグショに濡らしながら、もはや言葉を失い、神速の速度で一心不乱に茶碗を掻き込んでいた。
「ワンワンッ! ガルルルゥゥッ!!」
ポチも、専用のステンレス皿に盛られた黄金TKGを秒速で平らげ、犬でありながら全身から紅蓮の炎(※フェニックスの加護による無敵状態)を立ち昇らせて、嬉しそうに庭を音速で爆走している。
「アハハ、みんなそんなに気に入ってくれた? やっぱり、朝の炊きたてご飯に新鮮な卵は最高だよね! 原さんのニワトリ、本当に大正解だったなぁ。明日からは卵焼きも作ってみよう」
俺は自分の茶碗を美味しそうに頬張りながら、窓の外に広がる飯田町の美しいアルプスの山並みと、高く澄んだ秋空を眺めて、のんびりと微笑んだ。
こうして、長野県飯田町へと舞台を移した最強の農家ユウトは、「実家の庭にあるボロ木箱は、どんな生物をも神格進化させる恐るべき神の祭壇である」という、周囲の壮大でピントのズレた勘違いをさらに深めることとなった。
「女王陛下……、あの鶏小屋から毎朝採れる黄金の卵があれば、我々は魔王の残党どころか、世界の崩壊すらも未然に防げる無敵の神聖軍隊となれるでしょう……!」
「ええ……! ですが、決して調子に乗ってはなりません。我々はあくまで、創造神様の『朝食のお手伝い』をさせていただくちっぽけな身。明日もまた、神鳥たちの機嫌を損ねぬよう、最高級の川の恵み(※ただのその辺で捕まえたミミズ)を進呈しにいきましょう!」
信州の澄み切った秋の気配が少しずつ近づく飯田町で、エルフたちのピントのズレた『最強の主婦(?)への道』は、この美しい自然環境の中でますます加速していくのであった。
次回、第19話「実家の裏山の小川(※ただの用水路)を掃除したら、水神のブルードラゴンが居着いて水車小屋が稼働し始めたんだが」
飯田町の豊かな湧き水を庭に引くため、裏山の古びた用水路の泥かきを始めたユウト。しかし、彼がスコップで泥をひとすくいするたびに、用水路は神聖な霊脈へと変貌!詰まっていた泥と共に、封印されていた伝説の『水神ブルードラゴン』が飛び出してきて!?「あれ? この青いトカゲ、すごく水出しの効率がいいな! ちょうどいいから、この手作りの水車を回すのを手伝ってもらおう!」水神の力で回る水車が、今度はどんな奇跡の特産品(※美味しいお蕎麦)を錬成してしまうのか!?信州飯田町編、ますます絶好調! 次回もどうぞお楽しみに!




