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クビになった元社畜、実家の裏山(S級ダンジョン)を草刈り機で掃除したら世界最強の配信者としてバズる  作者: 蜜柑 あめ


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第17話:海に遊びに行ったら、うっかり海を割って竜宮城を建ててしまった

「あ、暑い……。なんだこれ、今年の夏はちょっと次元が違う暑さじゃないか……」




ジリジリと肌を焦がすような容赦のない太陽が天空に鎮座し、平野部のコンクリートやアスファルトからは、蜃気楼のようにゆらゆらと陽炎が立ち上っている。




蝉の鳴き声すら暑さに溶けて消えそうなほどの猛暑日。俺は実家の縁側に深く腰を掛け、氷をたっぷりと入れた麦茶を喉に流し込んだ。カラン、と涼しげな音を立てるグラスの結露が、たまらなく心地よい。




いくら実家の裏山から湧き出た温泉(※世界最高峰の霊泉)が素晴らしいとはいえ、気温が三十五度を優に超えるこの地獄のような暑さの中では、さすがに温かいお湯に浸かる気にはなれなかった。




俺の足元では、普段は凛々しいポチ(※S級神獣フェンリル)が、すっかり野生を忘れた無防備な姿で腹を見せ、ハァハァと舌を出して扇風機の風を独占している。




「創造神様……、本日の熱波はいささか異常の域を超えております。我らが故郷であるエルフの森の最深部、炎の精霊王が棲まう『焦熱の谷』ですら、これほどの息苦しさは経験したことがありません」




そう言って、冷たいおしぼりで透き通るような白い額を拭っているのはエルフの女王だ。彼女と近衛騎士団長は、今日も今日とてうちの縁側に居候しているのだが、すっかり日本の高温多湿な夏に圧倒され、長い耳をしょんぼりと垂らしていた。




「だよねぇ。盆地特有の熱気がこもっちゃってる感じだよ。……よし、みんな! こんな日は、海に遊びに行こう!」




「う、海……ですか?」




エルフの女王が、垂れ下がっていた耳をピクッと動かし、不思議そうに首を傾げた。




「そう、海! ここから車で高速に乗って三時間も走れば、福井県側の綺麗な日本海に着くんだよ。冷たい海水に浸かって、白い砂浜でスイカ割りでもしよう。ゼロさんも今日は裏山の竹林開拓(※タケノコ掘り)をお休みにして、一緒にどう?」




俺が声をかけると、巨大なガラス温室の陰から、シュタッ!と音もなく影が飛び出してきた。元・裏社会の伝説の暗殺者であるゼロさんだ。彼は、俺がお下がりであげた中学校指定の青ジャージの袖をまくり上げ、背筋をピンと伸ばしてビシッと敬礼した。




「ハッ! マスター・ユウトの御命令とあらば、このゼロ、喜んでお供いたします! 大洋オーシャンという未曾有の危険地帯における護衛任務および、海中からの未知の魔物による奇襲に対する絶対防衛陣形の構築ですね! この命に代えましても、マスターの尊き水着姿をお守りいたします!」




「いや、ただの海水浴だからね? 浮き輪でプカプカ浮いて楽しむだけだから、そんな血生臭いミッションじゃないよ。もっと肩の力抜いていこう」




俺は苦笑いしながら立ち上がり、物置へと向かった。奥の方から、子供用のカラフルなプラスチックスコップやバケツ、幾つかの浮き輪、そして大きなパラソルを引っ張り出し、愛車の軽トラックの荷台へと次々に積み込んでいく。




こうして、俺たちは夏の特別イベント『みんなで楽しい海水浴』へと出発したのである。




***




エアコンを全開にした軽トラを走らせること約三時間。山々を縫うように走る高速道路を抜け、長いトンネルを出た先に広がっていたのは、視界を埋め尽くすほどにどこまでも青く澄み渡る、日本海の雄大な水平線だった。俺たちがやってきたのは、遠浅で白い砂浜が美しいことで有名な、福井県有数の海水浴場だ。




「おおおおお……ッ!! な、なんという……ッ!!」




軽トラの助手席から身を乗り出したエルフの女王が、その光景を前にしてわなわなと激しく震えだした。彼女の瞳孔が開いている。




「な、なんという圧倒的かつ暴力的な魔力の奔流……! 世界中の全てのマナが収束し、一つの巨大な水盤エネルギー・プールを形成しているかのようです……!あれが、創造神様の生み出された『始まりの青プライマリー・ブルー』……!」




「す、凄まじいプレッシャーだ……。あの打ち寄せる波の一つ一つが、下位の魔獣など一瞬で呑み込み、圧殺するほどの恐るべき質量兵器……! 一歩でも足を踏み入れれば、我々の肉体など塩の結晶と化して四散するのでは……!?」




近衛騎士団長も、初めて見る広大にして無慈悲な『海』という存在に完全に気圧され、腰の聖剣(※今日は水着用に家に置いてきたが)の柄を探すように、虚空を何度も掴んでいた。




「いや、ただの海水浴場だってば。ほら、みんな更衣室で水着に着替えておいでよ!」




俺はあらかじめ、道中の大型スーパーで全員分の水着を買っておいた。エルフの女王たちは、人生初となるフリル付きの可愛らしい水着(※ごく一般的なビキニ)に顔をリンゴのように赤くしながらも、おずおずと砂浜へと足を踏み入れた。




ゼロさんはというと、なぜか黒一色の全身タイツのような競泳水着にシュノーケルと水中メガネを完璧に装備し、両手にサバイバルナイフ(※一応、持ち込みは自粛してもらったが、代わりに木製のヘラを逆手持ちしている)を構え、四方八方に鋭い視線を配っている。




「ワンッ! ワゥンッ!」




ポチだけは水を得た魚のように(フェンリルだが)、熱い砂浜を元気に走り回り、打ち寄せる波に向かって楽しそうに吠えかかっていた。




「いやー、やっぱり海は気持ちいいねぇ! 潮風が最高だ!」




俺は砂浜の適当な場所にカラフルなパラソルをグサッと突き刺し、大きなレジャーシートを広げた。心地よい潮の香りが鼻腔をくすぐり、波の音が日々の疲れを癒してくれる。




「ねえ、女王陛下、騎士団長、そんな波打ち際で固まってないで、もっとこっちにおいでよ。冷たくてすごく気持ちいいよ!」




俺が膝まで海水に浸かりながら手招きすると、二人のエルフは恐る恐る、お互いの手を強く握り締めながら足先だけを海水に浸した。




「ひゃうっ……! つ、冷たい……。ですが、なんという心地よさ。女王陛下、この海水、ただの水ではありません。全身の魔力回路が、波の周期と同調して限界突破していくのを感じます……!」




「は、はい……。浸かっているだけで、私の剣技のキレが数段階跳ね上がったような錯覚すら覚えます……。創造神様が用意された、神の海水浴……! これは、我々に対する新たなる修行の一環なのですね!」




二人は何やら壮大な勘違いをしたまま、キャッキャと波と戯れ始めた。その様子を見て、俺もなんだか無性に嬉しくなる。やっぱり思い切って海まで連れてきて大正解だったな。




しかし、そんなのんびりとした平和な空気は、長くは続かなかった。




──ゴゴゴゴゴゴ……。




突然、遠くの空にどす黒い雨雲が立ち込め、急激に風が強くなってきたのだ。先ほどまで穏やかだった日本海が、まるで怒り狂った獣のように荒れ狂い、激しい白波を立てて砂浜を大きく侵食し始めた。




「おや、山の天気が変わりやすいっていうけど、海も急に荒れるんだな。波がだんだん高くなってきたぞ」




俺は眉をひそめ、パラソルが飛ばされないように支柱を押さえた。これではエルフたちやポチが波に流されてしまうかもしれない。せっかくの海水浴が、これでは台無しだ。




「よし、ちょっと波が高くて危ないから、みんなが安全に遊べるように、浅瀬に『防波堤』でも作ろう」




俺は、荷台から持ってきた黄色いプラスチックスコップを手にした。近所の百円ショップで買った、子供が砂場で遊ぶためのペラペラで軽い安物スコップだ。




だが、俺がそのスコップを右手に握りしめ、荒れ狂う海に向かって一歩足を踏み出した瞬間──




「「「…………ッッッ!!!!!」」」




エルフたち、そして周囲を警戒していたゼロさんの背筋に、尋常ではない氷のような戦慄が走った。




(き、来た……! 創造神様の、あの『世界の絶対法則を書き換える』神威の構え……!)




(ただの黄色いプラスチックのスコップが、概念そのものを削り取り、空間を両断する『次元割りの大鎌』へと強制進化している……!)




「よーし、このへんの砂を、ちょっと海に向かって投げて……と」




俺は、足元の湿った砂をスコップで、ひとすくいした。そして、元ブラック企業での超絶過酷な労働環境(※「お前の根性で台風の進路を変えろ!」と上司に理不尽に怒鳴られ、徹夜で土嚢を積まされた記憶)で培った、『理不尽な自然現象すらも己の力技でねじ伏せる強い意志(限界突破オーラ)』を全開にして、スコップを海に向かって力強く振り抜いた。




「とおっ!!」




俺が砂を前方へ投げ入れた、まさにその瞬間だった。




ドッバァァァァァァァァァァンッ!!!!!




それは、防波堤を作るという次元の現象では到底なかった。俺が振り抜いたスコップから放たれた極大の物理的衝撃波オーラが、大気を引き裂き、轟音と共に海面へと激突。その圧倒的な質量と風圧によって、目の前に広がる日本海が、モーゼの十戒のごとく、左右に真っ二つに割れたのだ。




ズズズズズズズズズズンッ!!!!!




鼓膜を破るような地鳴りと共に、数億トンもの海水が左右に押し除けられ、高さ数十メートルにも及ぶ巨大な「水の壁」となってそびえ立った。水壁の中では、取り残された魚たちやサメが、宙に浮いたまま泳いでいるのが見える。割れた海の間には、今まで誰も見たことのない、どこまでも続く乾いた海底の道が一直線に露出していた。




「あ、あれ……? なんか、ちょっと防波堤を作るつもりが、加減を間違えて海が割れちゃったな」




俺はスコップを持ったまま、ぽかんと口を開けて割れた海を見つめた。最近、どうも力のコントロールが効かない時がある。まあ、荒れていた波は完全に止まったし、これなら流される心配もない。安全という意味では大成功だけど。




一方、俺の背後にいたエルフたちとゼロさんは、完全に魂が口から抜け出しかけていた。




「う、海が……割れた……? 大洋の全質量を、ただの一振りでねじ伏せ、重力と流体力学の法則すらも完全に書き換えてしまわれた……?」




「これが、創造神様の『砂遊び』……。我々が知る最上位の古代魔法など、この御方の前では児戯にも等しい……!」




ゼロさんに至っては、あまりの神威の前に完全に平伏し、砂浜に深々と頭を擦り付けながら震えていた。




「ワンワンッ!」




ポチ(フェンリル)だけが嬉しそうに尻尾を振り、割れた海底の道の中央へとトコトコと歩いていく。




と、その時──




割れた海底の最深部、遥か奈落の底から、眩いばかりの五色の光が立ち昇った。




ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!




さらなる地鳴りのような轟音と共に、海底の地殻が押し上げられ、そこから超巨大な『和風の建造物』がズズズ……と浮上してきたのだ。




金銀財宝で絢爛豪華に飾られた大門。美しく組み上げられた朱塗りの柱と、太陽の光を反射して輝く真珠の瓦。それは、おとぎ話に登場する『竜宮城』そのものの姿をしていた。




「おぉ……! なんだあれ! 海の底から、すっごく立派な和風の超高級ホテルが出てきたぞ!」




俺は目を輝かせた。




「すごいなー、最近の海水浴場ってこんな粋な演出のホテルが隠されてるのか! ちょうどお腹も空いてきたし、お昼ご飯はあのホテルで食べよう! 今日はあそこに泊まっちゃうのもいいかもな!」




(いや、どう見ても海底に封印されていた太古の神殿竜宮城です!!)という周囲の心の中のツッコミを置き去りにし、俺はウキウキとした足取りで割れた海底の道を進み、竜宮城の正面玄関へと向かった。




***




その頃──




浮上した竜宮城の最も奥の間に位置する『真珠の玉座』では、この海底神殿を統べる絶対的な海の女神──『乙姫おとひめ』が、怒りで全身をわなわなと震わせていた。




「……何事ですか、一体! 我ら海の民が、地上との関わりを絶ち、数万年の永き眠りについていたというのに! この絶対不可侵の結界を強引に破壊し、大洋を真っ二つに引き裂いた無礼者は……!」




乙姫は、波を象かたどった美しい十二単のような着物を激しくはためかせ、竜宮城の最高峰の神器である『三叉の神槍トリシューラ』を手に取った。彼女の周囲には、強力な海の魔獣である『タイ』や『ヒラメ』、そして巨大な『タコ』の魔将たちが、禍々しい武器を構えて控えている。




「乙姫様! 結界を物理的に破壊した侵入者が、こちらに向かって歩いてきます! なんと、丸腰の人間が数人と、犬が一匹です……!」




「愚かな地上人どもめ。神の領域に土足で踏み込んだ代償、その命で支払わせてあげましょう!」




乙姫は怒り心頭の様子で、魔将たちを引き連れ、竜宮城の大門へと移動した。そして重厚な大門が開き、侵入者である俺たちの姿が彼女の目に入った、まさにその瞬間──




ドクン……ッ!




乙姫の心臓が、未曾有の恐怖で跳ね上がった。




(な、何ですか……あの男は……!?)




乙姫の目に映ったのは、麦わら帽子を被り、首にタオルを巻き、黄色いプラスチックスコップを肩に担いだ、一見どこにでもいる平凡な青年の姿だった。




しかし──




その青年の全身から、無意識に、まるで呼吸をするように自然に溢れ出ている『プレッシャー(限界突破オーラ)』は、世界の全海洋の質量を束ねても、一瞬で蒸発させるほどの圧倒的かつ絶望的な神威に満ちていた。




青年の足元にいるフェンリルからも、天界を滅ぼす神獣の凶悪な波動が漏れ出ている。さらに、後ろに控えるエルフたちや、青ジャージの男すら、世界を単独で滅ぼせるレベルの規格外のステータスに到達しているのが、神である乙姫の目には一瞬で理解できた。




(ひ、ヒィィィィィィッ!? な、何ですかあの異次元の殺戮集団は!? あの男がちょっと指先を動かしただけで、この星ごと私たちが消滅してしまう……!?)




乙姫は恐怖のあまり、手に持っていた無敵のはずの三叉の神槍をガタガタと震わせ、そのまま床にカラン……と落としてしまった。勇猛だったタイやヒラメの魔将たちも、あまりのプレッシャーに白目を剥いて泡を吹き、その場にバタバタと卒倒している。




「あ、こんにちはー!」




俺は笑顔で挨拶し、大門の前に立ち尽くす綺麗な着物の女性乙姫に向かって、気さくに話しかけた。




「すいません、予約してない飛び込みの客なんですけど、今から大人四人と犬一匹で、日帰りのお食事と、できれば一泊って空いてますか? 海の底から出てくる演出は本当にすごくて感動しました!」




俺のその言葉を聞いた瞬間──




乙姫は、己のプライドも神格もすべてかなぐり捨て、頭が床の真珠にめり込むほどの猛烈な勢いで、土下座(五体投地)を敢行した。




「ははぁーーーーーーーーーーッッッ!!! よ、よくぞ我が竜宮城当ホテルへお越しくださいました、偉大なる創造主様ァァァァァッ!!!」




乙姫の声は完全に裏返り、涙と鼻水で、美しい顔をぐしゃぐしゃにしていた。




『ご、ご予約など滅相もない! この竜宮城、本日より全て、創造主様のプライベート別荘として完全貸し切りとさせていただきます! どうぞ、どうぞ中へお入りくださいませぇーーーッ!!』




「おおっ、本当に!? やっぱり飛び込みでも聞いてみるもんだねぇ。じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔させてもらうよ。みんな、入ろう!」




俺がのんびりと大門をくぐると、乙姫は慌てて立ち上がり、高価な着物の裾を引きずりながら、俺の「案内人(仲居さん)」として小走りで先導を始めた。




(お、お命だけは……お命だけはお助けください……! 少しでもご機嫌を損ねたら、今度こそ海ごと私たちが塵芥にされる……!)




乙姫の脳内は、すでに生存本能による圧倒的な恐怖と、奉仕の精神で支配されていた。




***




竜宮城の大広間──




真珠や珊瑚、翡翠で飾られた、目が眩むほど贅沢な広間に俺たちは通された。




「うわー、すごいな。壁がガラス張りになってて、深海の魚が泳いでるのが見えるよ。最近のホテルは本当に手が込んでるなぁ」




俺が感心して見回していると、乙姫が「へ、へへっ、恐縮でございます……!」と、完全に高級料亭の女将かベテラン仲居さんのようなペコペコした態度で、熱いお茶と冷たいおしぼりを持ってきた。




「さあさあ、創造主様! まずは当城が誇る、極上の海の幸をご堪能くださいませ!」




乙姫が手を叩くと、奥から生き残った魚の魔物たちが、これでもかとばかりに豪華なご馳走を運んできた。テーブルの上に所狭しと並べられたのは、神話級の魔獣である『クラーケン(大王イカ)の活け造り』や、一口食べれば寿命が千年延びるという『不老不死の霊鯛の塩焼き』、そして『神海アワビの踊り焼き』など、この世の贅沢を極め尽くした料理の数々だ。




「おおお……っ! なんという贅沢な料理……! 一口食べただけで、魔力の最大値が狂ったように上昇していくのがわかります……!」




「美味い……! この『大王イカ』の弾力、まさに極上の死闘を繰り広げているかのようだ……!」




エルフの女王と近衛騎士団長は、普段の上品さをかなぐり捨てて、ご馳走をパクパクと勢いよく口に運んでいる。ゼロさんも、木製のヘラを箸代わりに使いながら、神速の動きで海の幸を次々と平らげていた。




「うん、このお刺身、すごく新鮮でコリコリしてて美味しいよ! やっぱり海に来たら、海鮮だよね」




俺も一切れの刺身を口に運び、そのとろけるような美味しさに大満足した。




「お気に召していただけて、この乙姫、光栄の至りにございます……ッ!」




乙姫は、俺の隣で正座し、細かく震えながらビール(※アサヒの缶ビール。俺が軽トラのクーラーボックスから持ってきたやつ)を、トトトト……と恐る恐るグラスに注いでくれた。




「ありがとう、お姉さん。気が利くね。あ、これ、お礼にどうぞ。うちの温室で今朝採れたばかりのトマトなんだけど、おやつにでも食べてよ」




俺は、ポケットから二個の真っ赤なトマトを取り出し、乙姫の震える手に乗せた。俺が作った、ただの美味しい普通のトマトだ。だが、そのトマトを手にした瞬間、乙姫は「ひっ……!」と短く息を呑み、目を見開いた。




(こ、これは……ッ!? 大地の恵みと、創造神様の純粋な魔力が極限まで凝縮された『太陽の神果サン・エリクサー』……!? ひとかじりするだけで、失われた太古の神格が完全に修復され、不老不死の存在へと昇華する、あの伝説の神々の果実……!!)




「こ、こんな貴重な神宝を、私のような卑小な存在がいただいてもよろしいのでしょうか……!?」




「え? うん、ただのトマトだから、冷蔵庫で冷やして食べると美味しいよ。うちの畑でいっぱい採れるから、遠慮しないで」




「は、ははぁーーーっ! 我が一族の至宝として、末代まで大切に、毎朝拝ませていただきますぅぅぅっ!!」




乙姫はトマトを両手で高く捧げ持ち、滝のような涙を流して感謝した。どうやら相当トマトが好きらしい。田舎の野菜は、やっぱり海の底で暮らす都会の人(?)には新鮮で喜ばれるんだなぁ。




「それじゃ、お腹もいっぱいになったし、ちょっと竜宮城のお風呂にも入らせてもらおうかな。海の見える露天風呂とか、ある?」




「は、はいっ! 太古の神々にのみ入浴が許された『深海源泉・神癒の湯』がございます! ただちに、お湯の温度を創造主様に最適な温度(極楽温度)に調整させますので、どうぞどうぞこちらへ!」




乙姫は、もはや一流ホテルのコンシェルジュのような見事な手際と笑顔(※引きつっているが)で、俺たちをお風呂へと案内してくれた。




***




数時間後──




すっかり日も傾き、美しい夕焼けが日本海を黄金色に染め上げていた。




極上の深海風呂を満喫し、至高のもてなしを受けた俺たちは、大満足で竜宮城の玄関へと出てきた。




「いやー、本当に素晴らしいホテルだったよ。ご飯も美味しいし、お風呂も最高。お姉さん、今日はありがとう。また遊びに来るね!」




俺が笑顔で手を振ると、乙姫はタイやヒラメの魔将たちを従え、大門の前に整列して深々と頭を下げた。




『はっ! いつでも、いつでもお待ちしております! 創造主様が再びお越しになられる日を、我ら海の民一同、首を長くしてお待ち申し上げております!!』




乙姫たちは、すっかり俺の『熱狂的な信者ファン』のような目をして、熱い眼差しを送ってきていた。




「よし、それじゃ帰ろうか。あ、割れた海も元に戻しておかないとね」




俺は、足元の乾いた海底の砂浜に、再び黄色いプラスチックスコップをグッと突き刺した。そして、今度は「元に戻れー」という願いを込めて、優しくスコップを上に向かって引き上げた。




フワッ……。




その瞬間、両脇にそびえ立っていた数億トンの巨大な「水の壁」が、まるで魔法が解けたかのように重力に従って静かに、そして滑らかに元の場所へと戻っていった。一滴の水飛沫すらも周囲を濡らすことなく、日本海は何事もなかったかのように穏やかで美しい元の姿を取り戻した。




竜宮城は再び海底へと沈み、俺たちのための『いつでも呼び出せる、最高のプライベートホテル』として、静かに海底の底で待機することとなったのである。




「ふぅー、いい海水浴だったな! やっぱり夏は、海に限るよ」




俺は軽トラのエンジンを掛け、エアコンの効いた車内で大きく背伸びをしてから、のんびりと長野への帰路についた。助手席では、エルフの女王が(気高き海の神すらも、一瞬で平伏させ仲居にしてしまうとは……)と呆然とした様子で夕日を見つめており、荷台ではゼロさんが(さすがはマスター。大洋すらも完全に手懐けられたか……。私の防衛陣形など不要であった)と、畏怖の眼差しで俺の背中を見つめていた。




しかし、俺は相変わらず「最近の海水浴場は、サービスが本当に充実してるなぁ。福井の海、最高!」と、呑気な勘違いをしたまま、最高に充実した夏の思い出を胸に、軽トラのハンドルを握り続けるのだった。

次回、第18話「実家の鶏小屋(※ただの木箱)を修理したら、神鳥のフェニックスが卵を産み始めたんだが」


近所の人から「余った卵用のニワトリをあげるよ」と言われ、実家の庭の古い木箱を「鶏小屋」としてトンカチで修理したユウト。しかし、彼が釘を一打ちするたびに、木箱には神聖な結界が張られ、中にやってきた普通のニワトリは、一瞬にして伝説の『神鳥フェニックス』へと超進化を遂げてしまう!「あれ? このニワトリ、なんで体から火を吹いてるの!? しかも産んだ卵が、めちゃくちゃ金色に輝いてるんだけど!」毎朝の卵かけご飯が、食べれば食べるほどステータスをカンストさせる『神の朝食』に!?最強農家の、にぎやかなペット(?)ライフ、どうぞお楽しみに!

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