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クビになった元社畜、実家の裏山(S級ダンジョン)を草刈り機で掃除したら世界最強の配信者としてバズる  作者: 蜜柑 あめ


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第16話:トラクターのエンジンを直したら、時空間を越える神造戦車になったんだが

「いやー、今日もいい天気だ。夏野菜も順調に育ってるし、温泉のおかげで肌もツルツルだよ」




抜けるような青空の下、俺は縁側に座って麦茶をすすりながら、平和な田舎の景色を満喫していた。




庭の奥には世界最高峰の霊泉(※裏山の温泉)から引いてきた足湯スペースが完成しており、そこではエルフの女王と近衛騎士団長が、幸せそうな顔で足を浸している。そして巨大ガラス温室の方からは、伝説の暗殺者・ゼロさんが、神速の身のこなしで、害虫(※S級魔物)を駆除していく軽快な音が響いていた。




「平和だなー。まさに理想のスローライフだ」




俺がのんびりと目を細めていると、実家の前の農道から、ガラガラ、キュルキュル……という、ひどく重苦しい機械音が近づいてきた。




「おーい、ユウト君! おるかねー!」




声の主は、近所に住む長老のゲンさんだった。彼が乗ってきたのは、年季の入った古びた緑色のトラクターだ。全体的に錆びつき、エンジンからは黒い煙をプクプクと吐き出している。まるで今にも息絶えそうな鉄の塊だった。




「あ、ゲンさん。こんにちは。トラクターどうしたんですか? なんだかすごく調子悪そうですけど」




「いやぁ、実を言うとな、さっきからエンジンの掛かりがどうにも悪くてのぅ。修理に出そうにも、お盆休みで農協の整備工場が閉まっとるんじゃ。ユウト君、昔から機械いじりが得意じゃったろ? ちょっと見てもらえんじゃろうかと思ってな」




ゲンさんは困ったように頭を掻いた。確かに、俺は昔からプラモデルや家電の修理が好きだった。ブラック企業時代も、経費削減のためにオフィスの壊れたコピー機やパソコンを、ドライバーひとつで直させられたりしていたものだ。




「いいですよ、ゲンさん。ちょっと見せてください。エンジン回りのトラブルなら、プラグの被りか、オイルの詰まりあたりかな」




俺がトラクターに近づき、ボンネットをパカッと開けると、エルフの女王たちとゼロさんが足湯から飛び出して俺の背後に集まってきた。




「そ、創造神様……。あの鉄の塊ゴーレムは一体……?」




「ああ、これはトラクターっていって、畑を耕すための農機具だよ。ちょっとエンジンが壊れちゃったみたいだから、直してあげようと思ってさ」




俺は物置に向かい、愛用の工具箱を持ってきた。中に入っているのは、ホームセンターのワゴンセールで買った『数百円のドライバーセット』と、先が錆びたペンチくらいである。




しかし、俺がそのプラスドライバーを右手に握りしめた瞬間──




「「「…………ッッッ!!!」」」




エルフたちとゼロさんが、息を呑んで後退りした。




(あ、あのドライバーを握った瞬間、創造神様の纏うオーラが『破壊』から『創造と修復』の神威へと反転した……!)




(ただの鉄の棒が、万物の理ことわりを書き換える『神造のタクト』へと強制進化しているぞ……!)




「えーっと、まずはスパークプラグを外して……うわ、真っ黒に焦げてるな。これじゃ点火しないはずだ」




俺は手際よく部品を外し、ため息をついた。新しいプラグの予備なんてない。だが、俺の『元社畜の限界突破オーラ』は、ここで「部品がないから無理です」という言い訳を許さなかった。(※前職の上司の「代わりの部品がない? ならその辺のゴミで作れ! 今日中に動かせ!」という理不尽な怒声のトラウマがフラッシュバックしたためである)




「仕方ない、代用品を使うか。ゼロさん、ちょっとそこの温室に転がってる『魔王の卵の破片(※超高純度の魔力結晶)』と、温泉の周りにあった『キラキラした石(※オリハルコンの原石)』を持ってきてくれる?」




「はッ! ただちに!」




ゼロさんが光の速さで持ってきたそれを、俺はペンチで適当な大きさに砕き、トラクターのエンジンのプラグ穴にスッポリとハメ込んだ。




「よーし、これで点火効率はバツグンのはずだ。ついでに、オイルの代わりに温泉のお湯(※スーパー・エリクサー)を少し注いで……と。最後にこのネジをドライバーでしっかり締めて……!」




キュッ、と。




俺が渾身の力を込めて、最後のネジを締めたその瞬間──




ゴウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!




トラクターの車体が、まるで命を吹き込まれたかのように、脈打つような激しい鼓動を打ち始めた。サビだらけだった緑色のボディは、一瞬にして眩いほどの光沢を放つ『神造装甲』へと変化し、排気筒から吐き出されていた黒煙は、周囲の空間を浄化し、大気中の魔力濃度を限界まで高める『極光のエーテル』へと書き換えられた。




(な、なんだこの恐るべきプレッシャーは!?)




ゼロさんが戦慄の表情でトラクターを見つめる。




(ただの農機具が……神々が乗る天駆ける戦車チャリオットすらも凌駕する、絶対無敵の次元兵器に生まれ変わってしまった……!)




「よし、完璧だ! 部品の噛み合わせもバッチリ! ちょっとエンジン掛けてみるね!」




俺は運転席にヒョイと飛び乗り、キーを回した。




キュルルル……ッドギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!




エンジン音というよりは、小型のビッグバンが起きたかのような凄まじい爆音が響き渡り、トラクターの車体が数センチほど空中に浮遊した。




「おおっ! すっげえパワーだ! アイドリングだけで車体が浮いちゃったよ。最近のトラクターってホバー機能もついてるのかな?」




「浮くわけないじゃろがい!」と普通ならツッコむべきところだが、ゲンさんは耳が遠いのか「ほうほう、随分と元気が良くなったのぅ」とニコニコと笑っている。




「ちょっとそこら辺でテストドライブしてくるね! ポチ、助手席(※ただのフェンダーの上)に乗るか?」




「ワォンッ!」




ポチ(S級神獣)は嬉しそうに尻尾を振り、俺の横に飛び乗った。




「よし、出発進行ー!」




俺はギアを『1速』に入れ、アクセルを軽く踏み込んだ。




ズバァァァァァァァァァァンッ!!!!!




その瞬間、トラクターは音の壁を容易く突破し、実家の前の農道を亜光速で駆け抜けた。周囲の景色が線のように流れ、空間そのものが圧縮されていく。




「うおぉぉぉぉっ!? なんだこれ、すっげえ速い!! 1速でこれって、最高速出したらどうなっちゃうんだ!?」




俺は風圧(※実際にはトラクターから展開された絶対防壁によってそよ風程度にしか感じていないが)を顔に受けながら、大興奮でハンドルを握った。




「あ、そうだ。このレバー、なんだろう?」




ハンドルの横に、修理前には無かったはずの、謎の赤いレバーが追加されていた。そこには、見たこともない古代文字のようなもので『R』と刻まれている。




「R……リバース、つまりバックギアかな? ちょっと走りすぎちゃったし、バックしてみよう」




俺は走行中にも関わらず、その『R』のレバーをガチャン!と引いた。しかし、それは『バック後退』のRではなかった。




魔王の結晶とオリハルコン、そして限界突破オーラが融合したことによって生み出された奇跡の機能──




『R』=『Retrograde(時間遡行)』




すなわち、過去への次元跳躍タイムトラベルを引き起こす、時空突破のギアだったのだ。




バリィィィィィィィィィンッ!!!!!




俺の目の前の空間が、まるでガラスが割れるように粉々に砕け散った。トラクターはそのまま亜光速のスピードで、時空の狭間へと突入していったのである。




***




その頃──




現代から遥か数万年を遡った過去の『神話時代』。赤茶けた大地が果てしなく続く荒野で、世界の存亡を懸けた最終戦争が繰り広げられていた。




「ハァ……ハァ……! なんという絶望的な力だ……!」




天界の軍勢を率いる若き日の戦神(※前回の温泉で土下座した神の祖先)が、血まみれになって膝をついていた。彼の周囲には、数え切れないほどの天使や神々が倒れ伏している。彼らの視線の先には、空を覆い尽くすほどの巨体を誇る、漆黒の絶望が顕現していた。




『原初の闇竜アポカリプス・ドラゴン』。




世界を無に還すために生まれた、神々ですら太刀打ちできない破壊の権化である。




「グルルル……。無力な神々よ。貴様らの光など、我が闇の前では風前の灯火。これで終わりだ。この星は我のブレスによって完全に消滅する」




闇竜が、巨大な顎あぎとを大きく開いた。その口の中に、星を三つは吹き飛ばせるほどの暗黒のエネルギーが収束していく。




神々は目を閉じ、己の死と、世界の終焉を覚悟した。




「さあ、灰燼に帰せ! アポカリプス……」




闇竜が、必殺のブレスを放とうとしたまさにその時──




バリィィィィィィィィィンッ!!!!!




闇竜の頭上の空間が、突如として真っ二つに割れた。




「……な、何奴ッ!?」




闇竜と、倒れ伏していた神々が一斉に上空を見上げた。そこから飛び出してきたのは……




「うわああああああああっ!? なんだここ、どこだ!? なんか景色が急に変わったぞ!?」




緑色の車体をピカピカに輝かせ、けたたましいエンジン音を響かせる『一台のトラクター』と、ハンドルを握ってパニックに陥っている、麦わら帽子を被った青年ユウトだった。




「ブレーキ、ブレーキ! うおっ、なんか下の方にすっげえデカい黒いトカゲみたいなのがいる! ぶつかる!!」




俺は必死にブレーキペダルを踏み込んだが、亜光速で時空をぶち抜いてきたトラクターの慣性は、すぐには止まらない。トラクターは、真っ逆さまに『原初の闇竜』の顔面へと向かって墜落していった。




「フンッ、下等な鉄の塊が! 我が絶対の鱗を貫けるなどと思うな——」




闇竜は嘲笑いながら、鼻先でそのトラクターを弾き返そうとした。




ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!




「ギギャアアアアアアアアアッッッ!?!?」




神々の全力の魔法すらノーダメージで弾き返す闇竜の絶対鱗アブソリュート・スケイルが、トラクターのフロントバンパーに触れた瞬間、まるで豆腐のようにグシャリと粉砕された。




限界突破オーラを纏った神造戦車トラクターの質量攻撃は、次元の壁すらも耕すほどの超・物理法則を持っていたのである。




「うわわわっ! なんか轢いちゃった! ごめん、おっちゃん(トカゲ)! しかもここ、めっちゃ地面がデコボコで走りにくいぞ!」




トラクターは闇竜の顔面を粉砕した後、そのまま荒野(戦場)に着地した。俺はトラクターが横転しないよう必死にハンドルを握りしめ、ふと後ろのレバーに目がいった。




「そうだ、こんな荒れ地は、ちゃんと平らにしないと! よし、『耕耘こううんモード』起動!」




俺は、トラクターの後部に取り付けられている『ロータリー(土を掘り返すための回転刃)』をガシャンと地面に下ろした。




ギュルギュルギュルギュルギュルッ!!!!!




「ギャァァァァァァァァァァッッッ!!!」




トラクターの後方で、悲鳴ともつかない絶叫が響き渡った。トラクターの車体に巻き込まれていた『原初の闇竜』の巨体が、超高速で回転する神造のロータリー刃によってミリ単位でミンチにされ、この荒野の土と完璧に混ぜ合わされて(耕されて)いくではないか。




闇竜の持つ絶望の魔力は、ロータリーの回転によって完全に浄化され、極限まで濃縮された『最高の肥料』へと変換されて大地に撒かれていく。俺がトラクターを走らせた跡には、先ほどまでの血生臭い荒野が嘘のように、ふかふかで栄養満点の『極上の畑(畝)』が完成していた。さらに、闇竜の生命力が肥料となったことで、耕されたそばから見たこともないほど美しい色とりどりの花々が、狂い咲くように芽吹き始めたのである。




「ふぅー……。なんとか止まった。いやー、焦った焦った」




俺はトラクターのエンジンを切り、麦わら帽子を脱いで額の汗を拭った。




「それにしても、ずいぶん荒れた土地だったなぁ。これじゃ野菜も育たないよ。誰の畑か知らないけど、ついでに耕しておいて正解だったな」




俺が満足げに振り返ると、そこには、自分たちを滅ぼすはずだった最強の闇竜が、たった数秒で肥料にされ、美しい花畑へと変わっていく光景を前に、完全に魂が抜けたように口を開けて硬直している神々の姿があった。




「あ、どうもこんにちは! 勝手に畑に入っちゃってすいません! 石がいっぱい転がってたんで、ついでに耕しておきましたから! これなら明日からでも種が蒔けますよ!」




俺が爽やかに手を振ると、若き日の戦神は、ガクガクと震えながら俺の前にひれ伏した。




「あ……あぁ……! なんという神威……! 天地を創造せし原初の神よ! あの恐るべき闇竜を、見たこともない神器(緑のチャリオット)で打ち砕き、この死の大地を生命の楽園へと変えてくださるとは……!』




「ん? よくわかんないけど、農作業頑張ってくださいね! それじゃ、俺はゲンさんにトラクター返しに行かなきゃいけないんで!」




俺は再びトラクターのエンジンを掛け、先ほどとは逆方向にRレバーを押し込んだ。




バリィィィィィィィィィンッ!!!!!




再び時空の壁が割れ、トラクターは亜光速で元の時代へと引き返していった。




後に残された神々は、美しい花畑の中心で、いつまでもいつまでも、その『緑のチャリオットに乗った創造神』の姿を後世に語り継ぐことを誓ったのである。(※これ以降、天界の歴史書(神話)には、『絶望の闇竜は、緑の鉄馬に乗った農耕の神によって肥料にされた』という、どう見てもギャグ漫画のような記述が追加されることになるのだが、それはまた別の話である)




***




「お待たせゲンさん! バッチリ直ったよ!」




現代の実家の庭。時空の壁を突き破って帰還した俺は、何食わぬ顔でトラクターから降りた。




「おお、ご苦労じゃったなユウト君! エンジン音も静かになって、まるで新品みたいじゃわい!」




ゲンさんは、たった今このトラクターが時空を越えて、神話を書き換えてきたことなど知る由もなく、満足そうに頷いている。




しかし——




縁側で休んでいたエルフの女王とゼロさんは、先ほどからずっと、手元の『世界史(神話時代)』の本を読んで、ガタガタと激しく震えていた。




「そ、創造神様が、トラクターに乗ってテストドライブに出かけた瞬間……。歴史書の『原初の闇竜』のページが、リアルタイムで書き換わっていったぞ……!?」




「『闇竜は、緑のチャリオット(クボ〇製)に乗った神により、ミンチにされて肥料となった』……。マスター……あなたというお方は、ついに時間すらも農業の概念で支配してしまわれたのですか……!」




彼らは完全にキャパオーバーを起こし、白目を剥いて縁側に倒れ込んだ。




「いやー、やっぱり機械いじりは楽しいな。次はポチの犬小屋を全自動で空飛ぶように改造してみようかな!」




俺が無邪気に笑う横で、ポチが「ヒンッ!?」と怯えたように尻尾を巻いた。俺の求める平和なスローライフは、今や時空や歴史すらも巻き込みながら、さらに規格外のスケールへと突き進んでいくのだった。

次回、第17話「海に遊びに行ったら、うっかり海を割って竜宮城を建ててしまった」


暑い夏を乗り切るため、エルフたちを連れて近くの海水浴場にやってきたユウト。しかし、彼が「ちょっと波が高いな。防波堤を作ろう」とスコップを振るった瞬間、海がモーゼの如く真っ二つに割れ、海底から伝説の『竜宮城』が浮上してしまった!「おお、なんか立派なホテルが出てきたぞ! 今日はここに泊まろう!」最強農家、ついに海を支配し、乙姫様を仲居さんにしてしまう!?大波乱の海水浴編、どうぞお楽しみに!

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