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クビになった元社畜、実家の裏山(S級ダンジョン)を草刈り機で掃除したら世界最強の配信者としてバズる  作者: 蜜柑 あめ


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13/19

第12話:庭に吐き出したスイカの種が、世界を覆う大迷宮に成長!?(※ちょっと草むしりのつもりが、ダンジョンマスターになっちゃった!)

翌朝──




チュンチュンという平和な小鳥のさえずりは、今日に限っては聞こえなかった。代わりに聞こえてくるのは、ズズズ……、ミシミシ……という、巨大な建造物が蠢くような不気味な地鳴りの音だった。




「……ん? なんだ? 地震か?」




俺は実家の古びた布団の中でゆっくりと目を覚まし、眠い目をこすりながら身を起こした。




時計の針は午前六時を指している。夏場ならとっくに日が昇り、まばゆい朝日が部屋に差し込んでいるはずの時間なのだが、なぜか部屋の中は分厚い暗幕を引いたように薄暗かった。




「おかしいな。今日も天気予報は晴れだったはずだけど……雷雲でも出てるのか?」




首を傾げながら、俺はパジャマ姿のまま縁側の窓へと向かい、ガラリと戸を開け放った。




「…………は?」




俺の視界は、どす黒く脈打つ『謎の巨大植物の壁』によって、完全に塞がれていた。




「えっ? 何これ? ジャングル!?」




俺は思わず縁側から身を乗り出した。昨日まで、綺麗に整地された自家製ふかふか菜園スペースや、世界樹サイズに成長した巨大トマトの樹があったはずの俺の庭。そこが今、見たこともないような禍々しいドス黒い蔓つると、鋼鉄のように太い茨いばら、そして毒々しい紫色の花を咲かせる正体不明の植物群によって、完全に飲み込まれていたのだ。




その異常な植物の群れは、実家の敷地を覆い尽くすどころか、空高くそびえ立ち、まるで天まで届く巨大な要塞(迷宮)を形成している。空が暗かったのは、この巨大な植物のドームが太陽の光を完全に遮断していたからだった。




「な、なんだこれぇぇぇぇぇっ!?」




俺が絶叫したその時、背後のふすまが勢いよく開き、エルフの女王と近衛騎士団長が、顔面を土気色にして転がり込んできた。




「そ、創造神様ァァァァッ!! お、お目覚めですか!! た、大変なことになっております!!」




「我がエルフの歴史上、最悪の事態です! あ、あの外の光景をご覧になりましたか!?」




彼らはガクガクと震えながら、俺の足元にすがりついてきた。




「ああ、見たよ。すごいことになってるな。一晩でここまで雑草が伸びるなんて……」




俺が呆れ顔で呟くと、女王はブンブンと激しく首を横に振った。




「ざ、雑草などという生易しいものではありません! あれは……昨晩、あなた様が庭に吐き出された『魔王のスイカ』の種が、この聖地の異常な魔力を吸い上げて発芽し、一晩で形成された超特級の大迷宮ダンジョンです!!」




「ダンジョン?」




「はい! 魔王の怨念と生命力が暴走し、周囲の空間を侵食して独自の異界を作り上げてしまったのです! あの黒い茨の城壁は、我々の魔法を一切受け付けません。内部には、種から発生した無数の凶悪な魔族モンスターが蠢いているはず。このまま放置すれば、迷宮は無限に拡張を続け、数日のうちにこの星全体を飲み込んでしまうでしょう……ッ!」




エルフの女王は、絶望のあまり涙をポロポロとこぼし始めた。犬小屋から避難してきたポチ(神獣)も、クゥ〜ン……と情けない声を上げて、俺の後ろに隠れてブルブルと震えている。




「なるほどなあ……」




俺は腕を組み、目の前にそびえ立つ真っ黒な植物の壁を見上げた。エルフの人たちは何やら大げさなことを言っているが、俺の脳内フィルターを通せば、状況は極めてシンプルだった。




昨日、俺が食べたスイカ(すごく美味しかった)の種を、庭にペッと吐き出した。



俺の庭は、ドラゴンの血肉や最高の肥料が混ざった『超・優良土壌』である。



さらに今の季節は、夏。植物が最も成長する時期だ。



結果、スイカの蔓が異常発達し、他の雑草も巻き込んで、庭全体を覆い尽くすほどの巨大な藪になってしまった。




「あーあ、失敗したな。いくら土がいいからって、種を適当に吐き捨てるのはマナー違反だったな。お爺ちゃんにも『食べた後の種から芽が出ると、雑草みたいに蔓が伸びて庭が荒れるから気をつけろ』ってよく言われてたっけ」




俺は一人で勝手に納得し、ポンと手を打った。




「まあ、生えちゃったもんは仕方ない。夏休みの宿題だと思って、朝飯の前に草むしりでもするか」




俺の呑気な宣言に、エルフたちは耳を疑うような表情を浮かべた。




「く、草むしり……!? 創造神様、あれは世界を滅ぼす大迷宮ですよ!? 中に潜り込めば、迷宮の意志ダンジョンコアによって魂を抜き取られ、永遠に茨の養分にされてしまうのです! いくらあなた様でも、単身で挑むのは危険すぎます!」




「そうですよ! ここはアメリカや日本政府の軍隊を呼び寄せ、ミサイルで外壁を焼き払うしか……ッ!」




「いやいや、大げさだなぁ。こんなの、ちょっと根っこから引っこ抜けば終わるって。軍隊なんか呼んだら近所迷惑になるし、俺の庭の土までえぐられちゃうだろ?」




俺は彼らの制止を笑って受け流すと、縁側の横に置いてある物置へと向かった。そして、中から農業の必須アイテムを二つ取り出した。




一つは、ホームセンターで『10双セット・298円』で売っている、手首の部分が黄色い安物の『軍手(綿100%)』。もう一つは、柄の部分が少し黒ずみ、刃が欠けかけている『お爺ちゃんのお下がりの草刈りカマ』だ。




「よし、完全装備完了。女王さんたちは危ないから、家の中で待っててね」




軍手を両手にはめ、カマを片手に持った俺の姿は、どこからどう見ても『休日のお父さん』か『熱心な農家の青年』にしか見えなかった。しかし、エルフの女王たちは、俺がその二つのアイテムを装備した瞬間、息を呑んで後退りした。




「な、なんというプレッシャー……! あの薄汚れた布の手袋(軍手)を装着した途端、創造神様のオーラが限界を超えて凝縮されたぞ!?」




「あの錆びた三日月刀カマからは、空間そのものを刈り取る『死神の気配』が漂っています……! これが、神の本気……!」




俺は彼らの畏れ多い視線を背に受けながら、巨大な茨の迷宮へと向かって、ズンズンと歩き出した。




***




ザクッ、バキィッ!




「よいしょっと。うわー、すっげえ太い蔓だな。これ、葛クズの一種かな?」




迷宮の入り口(蔓が絡み合ってできたゲートのような場所)に到着した俺は、目の前を塞いでいる大蛇のように太い茨の壁に向かって、適当にカマを振り下ろした。




その瞬間──




俺の『元社畜の限界突破オーラ』を帯びたお下がりのカマは、『物理・魔法・空間のあらゆる概念を切断する絶対の刃』へと強制進化を果たしていた。




スパーーーーーーーンッ!!!!!




軽く刃を当てただけなのに、厚さ十メートルはあろうかという茨の防壁が、まるで熱したナイフでバターを切るように、音もなく真っ二つに両断された。切断面からは、ドス黒い瘴気が悲鳴のように噴き出したが、俺が身につけている『百均の軍手』から放たれる浄化のオーラに触れた途端、シュワシュワと音を立てて消滅してしまった。




「おっ、意外と柔らかいな。このカマ、古くてもまだまだ現役じゃん。よし、どんどん刈っていくぞー」




俺は、鼻歌交じりに迷宮の内部へと足を踏み入れた。




***




一方、その頃──




東京、ダンジョン管理庁・特別対策本部。




「長官! 長野県飯綱町──例の結城様の御自宅を中心としたエリアに、観測史上最大規模の魔力反応が出現しました!!」




オペレーターの悲痛な叫び声が、緊迫した対策本部内に響き渡った。巨大なモニターには、長野県の一部を覆い尽くすほどの超巨大な『真っ黒なドーム状の迷宮』が映し出されている。




「な、なんだと!? 魔力クラスは!?」




徹夜明けで目の下にクマを作った東郷長官が、コーヒーを吹き出しながら立ち上がった。




「測定不能エラーです! SS級……いや、それすらも遥かに凌駕しています! データバンクの照合結果によれば……神話に記されし『魔王の迷宮』の波長と完全に一致!!」




「ば、馬鹿な……。数千年前の厄災が、なぜ現代に……!? しかも、よりによってあの『創造神ユウト』の自宅の庭に!?」




東郷長官は頭を抱えた。隣では、アメリカ最強ギルドのリーダーが、サングラスを外して冷や汗を流している。




「Oh, my God……。あれは我々の手に負える代物じゃない。核ミサイルを全弾撃ち込んでも、あの茨の壁一枚傷つけられないだろう……。人類は終わりだ」




絶望の空気が、対策本部全体を包み込んだ。誰もが世界の終わりを覚悟し、家族の顔を思い浮かべ始めた、その時だった。




「ちょ、長官! モニターをご覧ください! 迷宮の内部で、信じられない局地的なエネルギー爆発が連続して発生しています!!」




「なんだと!?」




長官たちがモニターを凝視すると、真っ黒な迷宮の一部が、まるで内側から巨大な草刈り機に蹂躙されているかのように、猛烈な勢いで切り開かれていくのが見えた。




「これは……迷宮の魔物が、次々と消滅ロストしています! 一体、中で何が起きているんだ!?」




***




「そりゃあっ!」




ザシュゥゥゥゥンッ!!




「ギギャアアアアアアッ!?」




迷宮の内部──




俺が適当にカマを振り回すと、俺の背丈の十倍はある『巨大なカマキリ(※S級魔族・ヘルマンティス)』が、自慢の鋼鉄の鎌ごと真っ二つに両断され、チリとなって消滅した。




「うわっ、でっかい虫! やっぱり草が伸び放題だと、こういう害虫が湧くから嫌なんだよな。夏の草むしりはこれだから気が抜けない」




俺は顔の前に飛んできた虫(※A級魔族・キラーホーネット)を、はめていた軍手でペチッと叩き落とし(※物理的粉砕)、さらに奥へと進んでいった。




迷宮の中は、まさに異界だった。空は紫色の雲に覆われ、地面からは毒の沼が湧き出し、周囲の壁には、人間の顔のような模様が浮かび上がって呪詛を吐き出している。




普通の探索者なら、この空間に足を踏み入れただけで精神が崩壊し、狂い死ぬだろう。しかし、俺の『元社畜の強靭なメンタル(=毎日満員電車に揺られ、上司の理不尽な怒声に耐え抜いた精神力)』の前では、魔王の呪詛など『月曜日の朝礼の校長先生の話』よりもスルーしやすいノイズでしかなかった。




「しかし、どこまで続いてるんだこの雑草。根っこが深そうだな。……おっ、なんか開けた場所に出たぞ」




三分ほどカマを振り回しながら進むと、突然、広大なドーム状の空間に出た。その中心に、周囲の蔓をすべて束ねたような、ひときわ巨大でグロテスクな『黒い球体』が脈打っていた。大きさは体育館ほどもあり、球体の中心には、巨大な赤い宝石のようなものが埋め込まれている。




「……グルルル……。よくぞここまで来たな、矮小なる人間よ……」




球体から、脳を直接揺らすような、低く恐ろしい声が響き渡った。迷宮の意志そのもの『ダンジョンコア魔王の残滓』である。




「我はこの迷宮の支配者。貴様のその異常な魂、我が迷宮の極上の養分として……」




「ああ、あったあった。これが親玉(根っこ)だな」




俺は、ダンジョンコアの仰々しいセリフを完全に無視し、軍手をはめた両手をパンパンと叩き合わせた。




「草むしりの基本は、表面の葉っぱを刈るだけじゃダメなんだ。こうやって、一番奥にある親玉の根っこを、根本から引き抜かないと、またすぐに生えてきちゃうからな」




俺はカマを腰に差し、ダンジョンコアに向かってスタスタと歩み寄った。




『な、なんだ貴様……? 我の恐るべき精神汚染マインド・コントロールが効いていないだと……!? や、やめろ、近づくな! 我が触手よ、この不敬な人間を串刺しに——』




ズガァァァァァァァァァンッ!!




コアの周囲から無数の鋭い茨の槍が射出されたが、俺が「ちょっと邪魔だな」と手で払いのけただけで、すべての茨は粉々に砕け散った。限界突破オーラを帯びた俺の『軍手』は、あらゆる物理・魔法攻撃を無効化し、逆に触れたものを浄化する神の盾となっていたのだ。




「ば、馬鹿な!? 我の絶対攻撃が、百均の軍手に弾かれただと!?」




ダンジョンコアがパニックに陥る中、俺はついにその巨大な黒い球体の足元(根元の部分)に到達した。




「よし、こいつを引き抜けば終わりだな。よーし、いくぞー……!」




俺は軍手をはめた両手で、ダンジョンコアの下部から伸びている極太の蔓(地脈と繋がるエネルギーの供給管)をガシッと掴んだ。




『ヒィィィィッ!? や、やめろォォォ! そこは我の生命線だ! 引き抜かれたら我が迷宮が崩壊してしまうゥゥゥ!』




「結構頑固だな。よし、腰を入れて……せーのっ!!」




俺は両足を踏ん張り、元ブラック企業社員の『絶対に今日中に仕事を終わらせて帰るという強い意志オーラ』を全開にして、一気にそれを上へと引き抜いた。




メリメリメリメリメリッッッ!!!!!


ズドバァァァァァァァァァンッ!!!!!




『アベッ!?』




凄まじい轟音と共に、体育館ほどの大きさがあったダンジョンコアが、地盤ごとスッポリと根こそぎ引き抜かれた。




その瞬間──




コアから供給されていた魔王の瘴気が完全に途絶え、迷宮全体を満たしていた紫色の空気が、一瞬にして澄み切ったものへと浄化されていった。




【警告……警告……。ダンジョンコアの所有権が強制的に剥奪されました】




【新たなマスターをスキャン中……。マスターの魔力オーラを認識しました】




【新ダンジョンマスター:『ユウト』。権限の譲渡を開始します】




頭の中に、機械的なアナウンスのような声が響いた。そして、俺が引き抜いた巨大なダンジョンコアは、シュルシュルと音を立てて手のひらサイズまで縮小し、ピカピカに輝く『透明な水晶玉』へと変化した。




「おっ、綺麗に抜けた! しかもなんか小さくて綺麗な石になったぞ。これがお爺ちゃんの言ってた『雑草の核』ってやつか。よしよし、これで庭もスッキリするはずだ」




俺が水晶玉を軍手でキュッキュッと磨いていると。




【マスターの潜在的な願望『素晴らしい農園スローライフが欲しい』を読み取りました。迷宮の構造を、マスターの望む形へと再構築します】




アナウンスが響いた直後、俺の周囲を取り囲んでいた禍々しい茨の壁や、ドス黒い蔓が、まるで早送りを見るように急速に枯れ落ち、真っ白な光の粒子となって消えていった。そして、その光の粒子が再び集束し、新たな形へと組み上がっていく。




「……えっ? うおっ!?」




数秒後──




光が収まった後、俺の目の前に広がっていたのは、温度と湿度が完璧に管理され、太陽の光をたっぷりと取り込める透明なガラス張りの天井。自動散水システムが備わった、見渡す限りのフカフカの畝うね、そして、無数の色とりどりの野菜や果物が、宝石のように実っている光景だった。




そこは、超近代的な設備とファンタジーの魔法が融合した、究極の『超巨大・全自動ガラス温室メガ・グリーンハウス』へと姿を変えていたのである。




「す、すっげええええええええっ!!」




俺は目を輝かせて歓声を上げた。




「なんだこれ!? 雑草を引き抜いたら、代わりに超立派なビニールハウスが建っちゃったぞ!? どういう原理かわかんないけど、田舎の土地ってすげえな! これなら、冬でもトマトが育て放題じゃないか!」




俺が狂喜乱舞していると、温室の入り口から、エルフの女王と近衛騎士団長とポチが、腰を抜かした状態で這いつくばって入ってきた。




「そ、創造神様……。ま、まさか、たったの五分で、あの魔王の迷宮を単騎で攻略し……さらに、迷宮そのものを、こんな平和な『農園』へと造り変えてしまわれたのですか……?」




「神の奇跡……。いや、事象の書き換え……。これが、真のダンジョンマスターの力……」




彼らは完全に魂が抜けたような顔で、美しい温室を見渡している。




「あ、みんな! 見てくれよこの立派な温室! なんか草むしりしたら急に出てきたんだ! ほら、このダンジョンコアが鍵みたいになってるっぽくてさ」




俺が水晶玉を掲げて満面の笑みで振り返ると、エルフたちは「ひはぁっ!」と変な悲鳴を上げて一斉に土下座した。




「ははぁーーーーッ!! 新たなる迷宮の主、大地の創造神ユウト様に、永遠の忠誠を誓います!!」




こうして、人類を滅亡の危機に陥れるはずだった『魔王の迷宮』は、俺の朝飯前の草むしりによってあっさりと制圧され、俺は図らずも、世界最高難易度ダンジョンのマスター権限を持つ、最強の『温室農家』としてデビューを果たしてしまったのである。




「よし! とりあえず、この温室の端っこに、新しいキュウリの苗を植えてみようかな!」




ポカポカと暖かい温室の中で、俺の夢見るスローライフは、さらにスケールアップ(物理)していくのだった。

次回、第13話「うちの温室に、凄腕の泥棒(伝説の暗殺者)が忍び込んできた件」


超巨大温室を手に入れたユウトだが、その噂を聞きつけた裏社会のトップ・伝説の暗殺者が、「神の野菜」を盗み出すために深夜の温室に潜入する!しかし、そこはユウトが無自覚に設定した『世界最悪の防衛システム(全自動水やり機)』が稼働する恐怖のダンジョンだった!「あれ? なんかカカシが勝手に動いてる?」最強の農家VS伝説の暗殺者、仁義なき(?)深夜のバトル開幕! どうぞお楽しみに!

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