第九話 相容れない
先ほどから背後に視線を感じる。それも、あまり良いとは言えない視線。隠しきれない敵意が向けられている。
「……なぁ、後ろ振り向いてもええかな。後ろ振り向いて、隠れられてませんよ~! 隠密下手なんか~? って、大声で言ってもええかな」
白金は後ろを見たそうにウズウズしていた。白金だけでなく、徳札や高峰も視線をどうにかしたい、そう言わんばかりの表情をしていた。
「この辺りも比較的マシなだけで、人間を好意的に見てないやつらは多いよ。いちいち反応してたら日が暮れるから、やめといた方がいいと思うけどなぁ……」
ノーザイは気にせずと言ったが、先程までとは明らかに変わった背後の気配に徳札たち三人は、持ってきた武器を取り出し構えた。ブレイクとサフィナは、桜音たちを後ろに避難させ刀を構える。
「でもどうやら、そう言っている場合じゃなさそうだね」
ノーザイもさすがに気付いたらしく、残念そうにしながら後ろを振り向く。
背後に立っていたのは三人の男だった。その三人の男は全員、目元が見えない。
中央にいるのは、ピョンピョンとハネている象牙色の長い髪に、黒い包帯で両目を隠している男。
その左には、蘇芳色の髪をポニーテールで結び、半狐面を付けた男。
そして右には、顔面全体を覆うほどの白い布で、目元だけでなく口も隠れている金髪の男。
おそらく彼らも人外なのだろう。普通の人間は、目元を隠された状態で自由に動くことは困難だからだ。
中央の黒い包帯を巻いている男が、大剣の剣先をこちらに向ける。
「なーんか人間の匂いがするなぁ……って思って見てみたら、またノーザイじゃん。相変わらず人間がお好きなようで」
中央の男はわざとらしく肩を竦める。黒い包帯で目は見えないが、彼がノーザイたちを嘲笑っているのが全身で伝わる。
「でも、そんなに連れ歩いてるなら、数人いなくなっても問題ねぇよな? あの頭イカれたサーラに見つかる前に、さっさと殺してやるよ」
「はぁ、あんたらがそんなに馬鹿だとは思わなかった。ここが何処だか忘れたの? この世界は弱肉強食かもしれないけど、この町は共存共栄が全てだよ」
ブレイクは昨日今日で見てきたノーザイとは思えないほどの低い声に驚く。サフィナは今のノーザイを見ても特に変わった様子はなく、敵から目を逸らすことはしなかった。
高峰は視線を三人に向けたままノーザイに聞く。
「お前の知り合いか?」
「いや違う。俺に難癖つけてくるただの変人たちだよ。真ん中の黒い包帯がヴァヴェート・ドンテ、半狐面を付けてるのが曇海満、顔全体を布で覆ってるのがティワト・ドラードン。彼らは人間に危害を加える人外だよ。だから全員気を付けて」
ノーザイは全員に注意を促す。
全員が変わらずヴァヴェートたちに警戒している中、ブレイクやサフィナの背後に避難させられた百奈は、無線機で棚部と連絡を取る。
ヴァヴェートたちはそれに気付いている様子だが、特に何かをする素振りはない。それよりも、彼らの視線は手前の男たちに向けられている。
黒い包帯をしているヴァヴェートは、こちらに向けていた大検の剣先を下ろして地面に刺す。刺した大検の柄頭に両手で体重をかけて、リラックスした様子で語り始めた。
「俺は人間を喰うのも、至るのも好きなんだ。何故なら人間が嫌いだから。弱い人間が人外の真似事をしても意味はない。俺たちから生まれた汚点の残骸は、残さず俺らの手で消さないとな」
ブレイクは、ヴァヴェートの言っている事の意味が分からなかった。嫌いなのは別にいい。問題は、まるで人間が人外から産まれたような言い方をしたことだ。
もしかしたら『カコデモニア』ではそうなのかもしれない。そう思ったが、それはノーザイが否定した。
「逆だよ。人外が人間の真似事をしてるだけ。人間がいなきゃ、あんたも俺もここには存在してない。誰よりも人間に近付こうとしているのが、ここにいる俺ら人外だよ」
「じゃあそれを証明して見せろよ。人間から俺らが生まれた証拠はどこにある?」
「証拠なんてないし、証明もできない。あんたを納得させる物は何一つだってないよ。でも、俺は恩人からそう聞かされた。だから、俺は人間を信じる。あんたらみたいな粗悪な人外から人間を守る。それが俺の使命だからね」
ノーザイは少し傾いていたカラーレンズの丸メガネの位置を片手で直し、戦闘態勢に入る。
ヴァヴェートは面白くないといった表情をし、呆れた声でどうでもよさそうに言った。
「はいはい、綺麗事どうも。人間を信じるなら勝手に信じてろ。お前の感情のために俺らが手を引いてやる義理はない。弱いやつから消えていく、この摂理は止まらない」
「抗うよ。それが自然の摂理だとしても」
「そうか。なら、お前が大好きな人間と一緒に死ね」
ヴァヴェートはその一言と同時に、刺していた大検を抜いた。そして、まるで瞬間移動をしたかのような猛スピードで、ノーザイたちの前まで来て大検を大きく振るう。
ヴァヴェートの一振を、全員がカバーしながら避けたが、地面が少し割れたことで辺り一面は煙に覆われる。
「視界が悪いだけでまともに戦えないなんて、可哀想だなぁ!」
背後から聞こえたヴァヴェートの声にブレイクが振り向くと、すぐそこまで剣身が迫っていた。すぐに刀で受けようとするが、確実に間に合わない。せめて死なないよう、無くなるのを覚悟で手を使いガードする。
しかし、ヴァヴェートの剣身はブレイクまで届かず、サフィナの刀によって受け止められる。
「お兄ちゃんは私が守る。誰にも殺させない」
サフィナの強い眼差しに、ヴァヴェートは口角を上げて笑う。大検を持つ彼の手が更に強くなった。
こうして、戦いの火蓋は切られた。




