第十話 人外VS人間
大剣と刀では大きさは歴然としている。それに加え、戦いに慣れている人外と普通に過ごしていた人間では差がありすぎる。
どうにかギリギリで耐えているが、正直もう腕が限界だ。
ヴァヴェートは力でブレイクを押し潰そうとしてくる。
「お前ら人間は大人しく食われて栄養となるか、無様に死んで見せ物になるか、その二択しかないんだよ!」
「ふざけんな! 誰がそんな二択選ぶかよ」
ヴァヴェートのふざけた選択に、ブレイクは久し振りに大声を出した。
他の応戦をしていたサフィナは、すぐに二人の間に入りヴァヴェートの大剣を弾く。
そして、その後ろから徳札が首を狙いドスを刺そうとするが、まるで踊るように避けられ徳札は舌打ちをする。
「……チッ」
「背後から奇襲を仕掛けようとしても無駄。俺にはぜーんぶ見えてるんだからな」
そんなブレイクたちの後ろでは、大きな声を上げながら必死に何かから避けている白金がいた。
「うぉおお!? 炎はアカンって! 拳銃じゃ対処できんのはよくないで!」
「逃げてばかりじゃ面白くないよー?」
「いやでも俺凄くない? 今のところ全部回避しとるで……アカン! これ言っちゃいけんやつ! 言った瞬間当たるやつや、フラグになるやつ!」
曇海の出した炎の玉が白金を狙っていく。なんとか炎の玉を回避しているが、速さはあちらの方が上だ。白金に炎の玉が直撃しそうになった時、その炎は水によって消火され威力を失う。
白金の前に立ったのはノーザイだった。
「大丈夫?」
「ありがとぉ、助かったわ……ってノーザイくん水属性なん!? 髪赤いから勝手に炎属性やと思ってたわ」
「炎は使えないけど、こうやって水を氷にする事はできるよっ!」
ノーザイは白金にそう答えながら、発生させた水を氷柱に変え敵に飛ばし、徳札や高峰の援護をしていく。
そのまま氷で剣を作り、ノーザイは高峰と戦っているティワトに向けて、横から斬りかかるがティワトはそれを槍で弾く。
「この前もサーラおばさんに怒られてたのに、何度も同じことを繰り返そうとするなんて、あんたらは本当に考え無しが過ぎるよ」
「俺は止めました。けど、あの馬鹿二人が止まらなかったので……。それなら、諦めておたくらと戦った方がいいかと思いまして」
「諦めて戦うんじゃなくて、せめて傍観してくれた方が、こっちとしては嬉しかったけどね!」
ノーザイとティワトが氷の剣と槍で攻防をしている中、高峰はティワトの背後を取り、頭にメリケンのパンチを与える。
ゴッと音が鳴り、ティワトはよろめきながら体勢を整え後ろを振り向き、布から僅かに見えた口が笑う。ティワトの顔を覆う白い布には『(>o<")』という顔文字が浮かんでいた。
「いたた……今のは結構痛かったですよ。しかし、こうして殺されないよう抵抗している時の顔が一番輝いていて、興奮しますね」
「え、なに、特殊性癖?」
高峰の何気ない一言に、ティワトは動きを止める。
そして、持っていた槍を下ろして、高峰に震えた声で問い掛ける。彼の顔の布には『困惑』の文字が現れた。
「違います……え、違いますよね? 殺されないよう必死に抵抗する相手の顔が好きなんですけど、もしかして普通ではない?」
「そういうのが好きなヤツもいると思うけど、あんまり見ない気がする……」
「そうか……あんまり言わない方がいいのかもしれない」
顔を覆う布には『( ´・ω・`)』の顔文字が現れ、肩を下げしょんぼりしたティワトを見た高峰は、ティワトの肩に手を置き優しく語る。
「そんなことない、好きなものは好きと言っていい。いつか同士が見つかるかもしれないだろ。だが、気を付けろ。それを不快に思う相手だっている。だから見極めるんだ。その性癖を伝え、ぶちまけていい相手かどうか、その目で見定めろ。大事なのは相互理解だ。お互いにお互いの性癖を認め合い高め合える、そんな相手を見つけるんだ」
真剣な眼差しで言う高峰にティワトは感動したようで、顔の布に『感激』の文字が浮かんでいた。
高峰はティワトの顔の布を見て思った。戦ってる最中はそれどころではなく気付かなかったが、ティワトの布は彼の感情に合わせて単語や顔文字が現れるらしい。
今は『大事』という文字が現れており、ティワトは横で戦っているヴァヴェートと曇海の顔を思い浮かべる。
「……あぁ、いますね。俺には、俺の性癖を笑わない、否定しない、そんな彼らが周りにいる。俺は幸せ者だったんですね。そうか、俺の性癖を受け入れてくれる彼らは、俺にとって大事な存在だったんだ」
「ふっ、なんだ。既に分かり合える仲間がいたか。なら、そいつらに伝えてやれ。お前らに合えて良かった。自分の性癖に引かず笑わず、傍にいてくれてありがとうってな」
ヴァヴェートや曇海の方を眺めるティワトに、高峰はティワトの背中を優しく叩き、親指を立ててウインクをした。
ティワトはそんな高峰をしっかりと見た。ティワトの顔を覆う布には『見直し』の文字が浮かんでいた。
周りが火花を散らしているというのに、彼らの周りは何故かほんわかとしているように見えた。
「おたく、人間なのにいい方ですね。ちょっと人間のこと見直させてもらいます」
「あぁ、是非そうしてくれ」
まるで友達のように、高峰とティワトが普通に話している姿を見て、白金と曇海は手と足が止まっていた。
「なぁちょっと、なんかあそこ仲良くなっとらん!? あそこだけ戦うのやめて友達みたいになっとる……!」
「ティワトくーん、お主はまたそうやって絆される! 会話してないで、戦いなよ! 戦わないとお主の好きな顔見れないでしょ!?」
端で会話を進める二人とツッコミの二人がいるそんな中、ブレイクと徳札の隙を付いて、ヴァヴェートは桜音姉妹へ近付き大剣を振るう。
「百奈さん! 百花さん!」
徳札が桜音姉妹の名前を呼び、徳札とブレイクが走り出し、ノーザイも氷柱をヴァヴェートへ飛ばすが間に合わない。
ブレイクが拳銃の照準を合わせようとする前に、ヴァヴェートと桜音姉妹の間にひとりの少女が飛び込み、ヴァヴェートの大剣を刀で受け止める。
ヴァヴェートの大剣をそのまま振り払ったサフィナは、霞の構えでヴァヴェートを睨み付ける。
「ここにいる皆さんは、私の大事な人達です。戦う意思のない相手にも容赦なく手を出すというのなら、私も貴方に容赦は致しません」
「俺はお前とやる気なんてないけど、邪魔するならお前も殺す。人間の味方する人外なんて、いなくなっても問題ねぇもんな!」
ヴァヴェートはサフィナに大検を振りかざすが、サフィナは刀でそれを受け流し反撃する。その隙を見て、ブレイクもヴァヴェートに攻撃を仕掛ける。
ヴァヴェートは二人の刀から間一髪で避けるが、頬に切り傷が入り横髪が少し切れる。
ヴァヴェートはサメのようなギザギザの歯を見せるように口角を上げた。
「いいね、楽しくなってきた」
目の前で繰り広げられる戦いに百奈は、どうすればこの戦いを止められるのか、何か良い案はないか周りを見渡すが、周りは沢山の観衆に囲まれているだけだった。これだけ多いと誰かに被弾しそうだが、相手側は止まる気配がない。
そして何より、周りの誰もが止めようとしない。心配そうに見てる子供も、何かを言い合っている大人も、まるで透明な壁があるように、一定数離れた位置から動かない。
周りの群衆は何かを待っているようにも見えた。
「ちょっとマズいね。応戦しつつ守りもしないといけないし、戦闘力的にも分が悪い」
ノーザイはそう口から溢す。
このままだと消耗戦で負ける可能性がある。ノーザイとサフィナ以外は戦いに慣れていない、ましてや人外相手に戦うなど彼らは人生で初めてだろう。
棚部さんが来るまで持ちこたえるしかないのか。ノーザイがそう考えていた時、とある声がヴァヴェート達の動きを止めた。
「コラァー! ここでドンパチするのはやめなさいって言ったでしょ!?」
可愛らしくも威圧を感じる大きな声が、この地区一帯に響き渡る。
その声の発生源は教会の屋根に立っていた。
そこにいたのは、大きく長いウサギのような獣耳をピコピコと動かし、珊瑚色のふわふわな長い髪を靡かせた、なんとも可愛らしい少女だ。
彼女は腰に手を当て仁王立ちでこちらを見下ろしていた。その表情はプンプンという擬音が聞こえてきそうなほど、分かりやすく怒っていた。




