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人外だらけの世界に飛ばされた人間様御一行の記録  作者: 南野


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第四十九話 疲労


 全員の取り調べが終わり、天界てんかいからブレイクたちが車を置いていた神殿まで、天使たちが送ってくれた。他の被害者たちもそれぞれの場所まで送ってくれているようだ。

 棚部たなべが運転する車で、全員が『デルテのやかた』まで帰ってきた。空には夜のとばりが落ち、大きな月だけが光を灯している。

 全員が車から出ると、玄関近くで待っていたのは広岡ひろおかだった。彼はブレイクたちを見つけると、優しく微笑ほほえんで出迎えてくれた。


「みんなおかえり」

「……ただいま、です」


ブレイクはぎこちなく答えた。それに続いて、ノーザイや棚部たなべたちも「ただいま」と返事を返した。

 広岡ひろおかは疲れきった様子のブレイクたちを見ながら、玄関を開けて一緒にやかたへ入っていく。

 ソワソワしているブレイクに、広岡ひろおかが優しく彼の知りたいことを伝える。


「本当にお疲れ様。サフィナならとりあえず大丈夫だよ。今はスヤスヤ寝てるし、百奈ももな百花ももかが付いてくれてる。心配だろうから、キミもそばに居てあげるといい」

「……はい」


ブレイクはそれだけ返すと、誰よりも先に三階にあるサフィナの部屋まで静かに走っていく。そんなブレイクの姿を見ていたキャルソンは、広岡ひろおかにもう一人の容態ようだいを聞く。


「メセルは?」

「彼女も一命は取り留めたよ。百奈ももなとサントスさんにお礼を言うといい。二人がいなかったら結構ヤバかったから」

「そうか……」

「彼女は今僕の部屋で寝てるから、キミも一緒に居てあげなよ。テミスもそこにいるしね」

「なんでお前の部屋なんだよ」


 キャルソンはなぜ広岡ひろおかの部屋なのか指摘してきする。キャルソンは、他の女性陣の部屋で良くないか? という気持ちと、男の部屋に女を寝かせるな……という気持ちがあった。

 眉間みけんしわせるキャルソンに、広岡ひろおかは両手を組んで悪びれもなく答える。


「ベッドがあって空いてる部屋が僕の部屋しかなかったんだよ。だってみんな疲れて帰ってくるでしょ? それなら、みんなの部屋は残しといた方がいいだろうと思ってね。それに、僕の部屋には何も無いから安心して。動かせそうな物は全部、本貴もときさんの部屋に移動しといたから!」

「……そうかよ」


 キャルソンはそう言って、三階へと向かった。階段を上がっていくキャルソンに、広岡ひろおかが「部屋は102号室だよ~」とキャルソンに聞こえる程度の小さな声で伝えた。キャルソンは軽く手をヒラヒラさせるだけで、特に返事はせずにそのまま三階へと姿を消した。

 そんな姿を眺めていた広岡ひろおかの肩をガッ! とつかんだ棚部たなべは、先ほどの広岡ひろおかの発言に言及げんきゅうする。


「おい広岡ひろおか、さっき聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが?」

「急いでたからしょうがないね。広い心で許してくれると嬉しいな~」

「はぁ……」


両手を合わせるだけで、全く申し訳なさそうにしていない広岡ひろおかに、棚部たなべはため息を吐きながらもそれ以上は言及げんきゅうしなかった。

 ブレイクとキャルソンを見送った棚部たなべたちは、静かにリビングへと入っていく。そしてすぐに、カラーレンズの眼鏡を机に置いたノーザイが、大きなソファーへと横になり眠る。


「疲れた、さすがに寝るね。みんなお休み~……」


目をつむって数秒も経たない内に、ノーザイの寝息が聞こえた。

 そして、白金しろがね高峰たかみねも眠そうに欠伸あくびをした後、徳札とくさね棚部たなべたちに小さな声でこう言った。


「ふぁ……はぁ~、ほんま疲れた。自分の部屋へ行くのもダルいなぁ……俺もノーザイくんと一緒にここで寝るわ」

「僕もソファーで寝る、おやすみ」


ノーザイが寝ていない方のもうひとつの大きいソファーへ、白金しろがね高峰たかみねが足を中央で合わせるようにして寝始めた。

 そんな二人に徳札とくさねは、ノーザイを起こさないように、小さな声で二人に話し掛ける。


「ちょっと、せめて上着ぐらいは脱いでください。って、もう寝てるんですか? はぁ、全く……。でも、全員無事で、良かっ……た……」


そう言いながら白金しろがね高峰たかみねに毛布をかけて、徳札とくさね羽織はおりを脱いでから一人用のソファーに座るが、すぐに睡魔に襲われて意識を落とす。

 そんな徳札とくさねと既に寝たノーザイを起こさないように、棚部たなべ広岡ひろおかが毛布をかける。


「……お疲れ様」


毛布をかけながら、広岡ひろおかが小さな声でそう口に出した。そしてリビングの電気を消し、音を出さないように、棚部たなべ広岡ひろおかはリビングを後にする。

 本当はリビングで飲み物を飲んだり、色々と話し合いがしたかったのだが、四人が即座そくざに寝てしまったため、それは無しになった。

 棚部たなべ広岡ひろおかの二人は、リビングから一番遠い廊下のはしを背にして、二人しか聞こえない様な小さな声で会話をしていく。


本貴もときさんもお疲れ様」

「あぁ、本当に疲れた。それにマジでヤバかった、さすがに今回はきもが冷えたな。それに、反省点も増えた」


 廊下のはしにある窓を静かに開け、窓枠まどわくひじを立てて、外をながめながら棚部たなべはリトルシガーを吸ってそう言った。

 反省点。サフィナの件が一番だろうが、それ以外にもきっと沢山増えたのだろう。棚部たなべは難しそうな顔をしたまま、けむりを外へ向けて吐く。

広岡ひろおかはそんな棚部たなべの横に立ち、同じように窓枠まどわくひじを立てて、町明かり以外は暗い外を見ながら言葉を口にする。


「そっか……キミも早く休みなよ。リビング……は満員だから自分の部屋でね」


そう言って三階を指差す広岡ひろおか銀髪ぎんぱつが月に照らされ、棚部たなべはサングラス越しでも少しまぶしく感じて目を細めた。

 棚部たなべは少し体勢を変えて、持ったままのリトルシガーで広岡ひろおかの顔をす。二人の間には、リトルシガーのけむりが薄く広がる。


「……お前はどこで寝るんだ。部屋のベッドはメセルにゆずったんだろ」


 リトルシガーのけむりを手で軽く払いながら、広岡ひろおか棚部たなべの問いに対して、いつもと変わらないニヒルな笑みで答える。


「寝る場所ないから、今日は起きとくよ。徳札とくさねたちがリビングで寝ちゃったから部屋は空いてるけど、僕は他人の部屋で寝るのあんまり好きじゃないからやめとく」


そんな事を言う広岡ひろおかに、棚部たなべは腕を組みながらひとつ提案する。

 棚部たなべの101号室の部屋ははしにある。そして、はしの部屋は他より大きく二人部屋になっているのだ。101号室の反対に位置する、桜音さくらね姉妹が使っている108号室もそうだ。つまりベッドは二つあり、ひとつのベッドで寝なくて良いという事でもある。


「……はぁ……俺の部屋はベッドが二つある。それに、勝手に俺の部屋に荷物を移動させたんだろ? なら、俺の部屋で寝ればいい」


 そう言いながら、棚部たなべは開けた窓を静かに閉めて、リトルシガーを携帯灰皿へと入れる。そして広岡ひろおかの腕を雑につかみ、三階の101号室へと向かうため、なるべく音を立てずに階段を上がる。


「ん? ちょっと、僕の話聞いてた? 人の部屋で寝るのあんま好きじゃないって……」

「嘘つけ。昔、俺の部屋で熟睡じゅくすいしてたの忘れてないぞ」


ほんの少し抵抗を見せる広岡ひろおかに、素っ気なく言った棚部たなべは101号室への扉を開けて、広岡ひろおかの腕を雑に引っ張って部屋に投げ入れた。その後、自分も部屋の中に入りながら、彼は口を開く。


「他のやつの部屋は無理でも、俺の部屋は大丈夫だろうが」


 棚部たなべはあの日の事を思い出しながら、部屋の扉を静かに閉めてそう言った。

 あの日──数年前に巻き込まれたとある事件の後、紆余曲折うよきょくせつを経て広岡ひろおか棚部たなべの住むマンションに、一週間程お世話になった事がある。

あの時棚部(たなべ)広岡ひろおかにホテルに泊まれと言ったし、広岡ひろおかもそのつもりだったのだが、桜音さくらね姉妹が一緒に居て欲しそうだったので、結果としてそうなったのだ。

そして棚部たなべの部屋にあるひとつしかないベッドに、主である棚部たなべを差し置いて、広岡ひろおかがベッドを占拠せんきょして爆睡ばくすいを決め込んでいたのだ。

もちろんあの後、棚部たなべ広岡ひろおかをベッドから蹴り落として、かたく冷たい床で寝かせたのだが、全くの抵抗もなく人の部屋で寝ていたのは事実だ。

 それは広岡ひろおかも覚えているようで、彼は困った様に笑いながら、観念かんねんしたようで小さな抵抗をやめた。


「んはは、覚えてたんだ。そっかぁ……じゃあ、遠慮無えんりょなくキミの部屋のベッドりるよ」


広岡ひろおかはいつもと変わらない表情に見えるが、ほんの少しだけ困り眉になっている。

 そんな広岡ひろおかを見た棚部たなべは、ため息を吐きながらサングラスを外し、オールバックにしている前髪を片手で雑に下ろしながらボソッとつぶやく。


「はぁ、面倒めんどうやつ……」

「何か言った?」


 棚部たなべの小さなつぶやきをよく聞いてなかった広岡ひろおかが彼に疑問を投げた。

 棚部たなべは下ろした前髪の隙間すきまから見える、緑色の目で広岡ひろおかにらむ。そしてそのまま、コートや上着を脱いでシャツ一枚というラフな格好になり、普段から使っている方のベッドへ横になって雑に返事をした。


「うるせぇ早く寝ろ。俺も寝る。明日もやる事があるからな」

「はいはい、お休み」


 広岡ひろおかはそう言って、自分もロングパーカーを脱ぎ、もうひとつのベッドへ横になる。こうして、二人は遅い就寝を取った。そして『デルテのやかた』は、静寂せいじゃくつつまれる。



 ******



 今『デルテのやかた』には、ある一人をのぞき全員が寝ている。

 唯一起きているブレイクは、サフィナの手を握ったまま寝ている百花ももかと、眼鏡を掛けたまま机に突っ伏して寝てしまっている百奈ももなを起こさないように、ベッドで寝ているサフィナを眺めていた。

 ブレイクは今、自分の無力さと相手へのうらみと怒りで、思考がぐちゃぐちゃだ。自分がもっと強ければサフィナを守れたかもしれない。警戒けいかいはしていたが、結果はこのザマだ。どうしてサフィナがねらわれたのか、なぜサフィナはこんなにもツラい思いをしないといけない。サフィナは普通に生きてきただけの、ただの女の子だというのに。彼女が一体何をしたというのか、どうせならサフィナではなく、自分にその厄災やくさいが降り注げば良かったのに。そんな事を思いながら、どうにもならない現状に小さくため息を吐く。

 ブレイクの明るい水色の瞳は、いつもと違い暗くにごっていた。そんな目で、ずっとベッドで寝ているサフィナを立ったまま見つめる。

 もうすぐ、夜が明けようとしている。


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