第四話 決意
棚部、広岡、ナイアー以外の全員が一階の諸室から出て、この家の全体をサフィナに案内される。
「一階は玄関、先程まで私たちがいた諸室、お手洗い場、あとは図書室と応接室、物置部屋があります。それと、物置部屋から地下へも行けます。二階はリビングとキッチン、お風呂場、シャワー室、お手洗い場、衣装部屋があります。三階が皆さんのお部屋ですね」
この大きな館を一通り説明したサフィナに付いて行き、階段を登り三階へと向かう。三階に到着して全体を見る。扉は八枚あり、両端の扉は他より大きめだ。
「こちらの端にある108号室は二人部屋なので、桜音さんお二人で使ってください。108号室の反対側にある端の101号室は、棚部さんが既に使用されているので、夜中に何か急用があればノックして欲しい……とのことです」
サフィナはそのまま、桜音姉妹の部屋から階段を挟んですぐ隣にある、107号室を指して言った。
「こちらの107号室が私の部屋で、お兄ちゃんは私の隣、106号室ね。それと、今はいらっしゃらないけど、広岡さんが102号室。徳札さん達は来ると思ってなかったので、残りの部屋から好きなところを選んでいいと本貴さんが仰っていました」
申し訳なさそうに言うサフィナに、徳札たちは気にしなくていい事を伝えて、好きな部屋を選んでいく。最初に部屋を選んだのは白金だった。
「早い者勝ちっちゅう事で、俺は真ん中の104号室にするわ」
「私は少しでも本貴さんの近くがいいので、103号室にします。間に広岡さんが居るのは少々気に入りませんが……致し方ありません」
「じゃあ、僕は105号室か、わかった。ブレイクさん、お隣だ。うるさくはしないよう頑張る、よろしく」
白金、徳札、高峰の順で揉めることなく部屋が決まった。
105室になった高峰は、ブレイクの隣部屋ということで、こちらに挨拶をしてきたため、ブレイクも一瞬戸惑うが「よろしくお願いします」と軽くお辞儀をし、高峰もお辞儀を返した。
徳札達は一度リビングで集まるらしく、三人で二階へ降りて行った。桜音姉妹は部屋の中を確認するためか、こちらに一言伝えてから一緒に部屋へと入っていった。
三階の廊下に残ったのはブレイクとサフィナだけだ。ブレイクがサフィナを呼ぶ前に、サフィナがブレイクを呼んだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。私、話したいことが沢山あるの。今日はお兄ちゃんの部屋で過ごしてもいい?」
「あぁ、いいに決まってる。俺もお前と沢山話したいことがある」
二人はお互いに笑った後、ブレイクの部屋へと入った。扉を閉めると、サフィナが優しく抱擁してきた。
ブレイクはそんなサフィナの頭を撫でる。サフィナは嬉しそうにした後、少し俯いて話す。
「ねぇ、お兄ちゃん。私、すごく不安だった。棚部さんやノーザイさんが居たとはいえ、やっぱりお兄ちゃんのいない世界は寂しくて、ずっと会いたいって願ってたの。でも、もし会えたとして、今の私を受け入れてくれるかどうか怖かった。だから今こうして、お兄ちゃんと一緒にいられるのがとても心地よくて、夢みたい」
「……俺も不安だった。なんの連絡もなく急にいなくなったお前に、頭がおかしくなりそうだった。けどこうしてまた、お前と会えた。俺は諦めずにいて、本当に良かったと思ったよ。前にも言ったが、サフィナ。お前がどんな姿であろうと、サフィナがサフィナである限り、お前は俺の唯一の妹だ」
ブレイクは抱き付いているサフィナの頭を何度も撫でながら、安心させるようにそう言った。
サフィナは頭を撫でていたブレイクの手を取り、それなりに大きいベッドに座った。それに合わせてブレイクも隣に座る。
サフィナは自分の胸に手を当て、窓から見える星空を眺めながら言葉を紡いでいく。
「お兄ちゃんをここに連れてくるの、最初はどうしようかと迷ったの。こんな危ない世界にお兄ちゃんを連れてきて、もしなにかあったらどうしようって、すごくすっごく悩んだの。それでも、お兄ちゃんに会いたかった。そこでひとつ思い付いたの。私がお兄ちゃんを守ればいいんだって。それから無理を言って、棚部さんやノーザイさんに稽古してもらったの。武器の使い方とか、相手が襲ってきた時の対処法とか、たくさん練習したわ。だから、安心して。何があっても、私がお兄ちゃんを守るよ」
そう言った妹は、とても頼もしく見えた。
ブレイクが知らないところで、サフィナは本当にたくさん努力し頑張ったのだろう。ブレイクを守ると言った時の彼女はとても自信に満ち溢れており、少し眩しく感じた。
ブレイクは自分の握った拳を見つめて、目を細める。今の自分では妹を守れないだろう。まだ十六歳の少女であるサフィナが、戦う練習をしなければいけないほど、この世界は危ないのだ。ブレイクは今すぐにでも、戦いの練習をしたいと思う。妹に守られるだけではなく、自分も妹を守れるぐらいに強くならなければいけない。
そんな思いを胸に、サフィナへ語り掛ける。
「そうか。いろいろ悩んで、たくさん頑張ったんだな。けど、そうだな、俺にもお前を守らせてほしい。きっと今のお前は俺より強いんだろう。でも、それでも、お前は俺の大事な妹だ。だから俺もこれから沢山、お前と同じぐらい練習して強くなる。そして、どっちかが守られるだけじゃない、俺たち二人でお互いを守り合いたいんだ。そして、一緒に元に戻れる方法を探そう。俺はお前と一緒に帰って、あの日常に戻りたい」
ブレイクが思いを言い終わると、サフィナは少し照れくさそうにしながら、ブレイクを巻き込んでベットで横になる。横になったサフィナはブレイクに微笑みかける。
「ふふ、お兄ちゃんに守られる日を楽しみにしてる。私はね、お兄ちゃんさえ居れば、もう何も……望まない……よ…………」
横になったことで眠気が来たのか、サフィナは話の途中で寝てしまった。
眠気に負けてスヤスヤと眠るサフィナを起こさないよう、ブレイクは彼女の頭をゆっくりと撫でた。
「……おやすみ、サフィナ」
きっとこれから、大変なことや危ないことが待っているのだろう。けれど、大事な妹のためならどこまでだって、どんなにツラいことだって乗り越えていける。
必ずサフィナを人間に戻す。そして、一緒に帰る。何年経っても絶対に諦める事はしない。そう強く心に決めて、ブレイクも眠りへと落ちていく。




