第三十九話 お隣さん
朝になってブレイクは目を覚ます。時計を見ると、いつもより少し遅い時間に起きてしまった。昨日はなんだかんだ、日没まで松道とノーザイの家でアレコレしていた。そのせいで、晩御飯も寝るのもいつもより遅かったのだ。
軽く身支度を整え、ネロリを抱えて部屋を出ようとした時、隣の部屋から何かが落ちた音がした。かなり大きい音で、ブレイクは隣の部屋──高峰が使っている105号室の扉をノックする。何も反応がないので、失礼を承知で扉を開けて中を確認する。
部屋の中には、ベッドから落ちて床に頭が投げ出されている高峰がいた。目は開けているが、どこか虚無を見つめている。そして彼の周りでは、バタバタと羽をバタつかせながら、心配そうに高峰を頭でつついている舞がいた。
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない眠い痛い」
ブレイクの言葉はしっかり聞こえているようで、高峰はガラガラの声で答えた。眠いと痛いを交互に呟く高峰に、ブレイクはどうすればいいのか聞く。
「えーっと、どうすれば……?」
「待ってて欲しい。あとちょっとで、きっと起き上がれる。ヤバそうだったら助けて欲しい。本当に申し訳ない。僕が朝に激弱なせいで」
「は、はぁ……」
程なくして、高峰は頭を起こしてベッドに座る。その途中で、ブレイクも少し起き上がるのを手伝い、舞も少しばかりだが手伝ってくれた。
「ありがとう助かった。今とても頭が痛い。少し休んでから僕は降りる。ブレイクさんは先に降りてていいよ」
「いえ……休んでる間に話しでもしませんか?」
ブレイクの提案に、高峰は何故? という顔をしながら言葉を返した。
「話し? いいけど、僕と話すのに何か話題があっただろうか」
「そうですね……向こうではなんの仕事をしてたんですか? 他の方達は知ってますけど、高峰さんが何をしていた方なのか知らないなって思いまして」
ブレイクはそういえばと思い質問をした。棚部は警部、広岡はハッカー、徳札は骨董屋、白金はなんでも屋、百奈は医療関係、サフィナと百花は高校生と分かっているが、高峰がなんの仕事をしているのかを全く知らなかったのだ。
「僕は普通の公務員だった」
「そ、うなんですね……。徳札さんや白金さんみたいに、会社とかに属してないのかと思ってました」
高峰の意外な回答に、ブレイクは一瞬呆気に取られた。
まさか公務員だったとは思わなかったのだ。棚部と百奈以外は、どこかに属した仕事をしていなかったため、てっきり高峰もそっち側なのかと思っていた。
「安定した収入が必要だったから」
「あぁ、確かにそれなら公務員の方がいいですね」
収入の話をされると、ブレイクは納得するしかない。普通の人が安定した収入を得るなら、まず最初に候補に上がるのが公務員だろう。
高峰は少し表情を固くして話を続ける。
「それに、母さんにあまり負担を掛けたくなかった。いろいろあってさ、僕だけじゃなく道吏や空李の面倒まで見てくれてたんだ。もう亡くなってしまったけど、僕の自慢の母さんだったんだ。父さんを亡くして辛く大変な時期に、身寄りの無くなった道吏や空李を引き取って、僕だけじゃなく全員に愛情を持って接してくれた」
ブレイクはそこまで詳しいわけではないが、高峰たち三人が子供の頃に色々と大変な目に合っていたというのは知っている。だが、まさか全員を高峰の母が引き取っていたとは思わなかった。しかしそう考えると、高峰たち三人が揃った時に感じる、家族の様な雰囲気の正体が分かった。家族の様ではなく、家族なのだ。そしてそこには、高峰の母も含まれているのだろう。
「……強くて優しいお母さんなんですね」
「あぁ。…………いや、なんかすまん。急にめっちゃ自分語りして」
高峰は少し俯きつつ、両手を合わせながら謝る。
確かに、急な母親語りだったかもしれない。それでもブレイクは、高峰の事が少し知れて嬉しい気持ちがある。
それに家族が大好きというのも伝わる。ブレイクも既に両親を亡くしているが、サフィナという大切な家族がいる。
「いえ、俺は特に気にしませんよ。それに、俺も家族のこと大好きなので、高峰さんの気持ちも分かります。なんなら、俺はサフィナを贔屓目に見てしまう所があるので……」
困り眉で微笑みながら言うブレイクに、高峰は優しい眼差しで語りかける。
「それは誰にでもある。関わってきた全ての相手を、全く同じように平等になんて見れない。誰しも誰かを贔屓してる。もちろん僕もそうだ。そしてそれは悪いことではない。ただ、それを仕事に持ち込まなければいいだけの話だ。仕事において重要なのは好みではなく、ちゃんと仕事ができるかどうかだからな」
「はは、そうですよね。そう言われると、ちょっと心が軽くなります。…………あの、話は変わるんですけど……というか本当は貴方とこの話がしたくてですね……た、高峰さんって……」
「ん?」
ブレイクはずっと高峰と、とあることが話したかった。しかし、勇気が出せず別の話で誤魔化そうとしていたが、長引かせても意味はない。
「えーっと、その、お……オタクなんですか?」
「そうだ。それがどうかしたか?」
「あ、いえ、ただ普通に気になって……」
高峰は表情を変えず普通に返した。あまりにも何も気にせずけろりと言うものだから、ブレイクはちょっと尻すぼみになる。
そんなブレイクの様子を察したのか、高峰は少し話題を広げてくれた。
「そうか……それを聞いてきたということは、てっきりオタクトークがしたいのかと思ったが違ったか……。まぁ、お前がそういう話をしたいならいつでも言ってくれ。僕はどんなジャンルでも楽しめる雑食だ」
「あの、すみません。本当は……俺もちょっとオタクでして」
気遣われた気配を感じて、ブレイクは白状する。
ブレイクの言葉に高峰は一瞬だけ豹変したが、すぐにいつもの表情に戻って冷静さを保ちつつ、声はとてもウキウキしていた。
「なにぃ!? そうなのか。何か聞きたい事とか話したい事があるのなら、気にせず僕に話を振ってくれ。この世界で仲間がいるのは嬉しい、とても」
期待の眼差しで見つめられたブレイクは、申し訳なさそうにしながら話す。
漫画も小説もアニメもゲームも好きだが、サフィナが行方不明になったあの日以降、どれも殆ど手を付けられていなかったからだ。
「サフィナがいなくなってから、あまり触れてなかったんで、ここ一年アニメや漫画は見れてないですし、ゲームも全然進められてないんですけど……」
おずおずと話すブレイクに、高峰は安心感を覚えるほど意志の強い声で答えた。ブレイクは目をパチクリさせる。
「構わない。リアルが忙しくて、中々手が付けられない事は僕もよくある。遠慮はいらない、大船に乗ったつもりで話し掛けてくれ」
高峰のメガネ越しにある真っ黒な目がキラキラと輝いており眩しい。
しかし、なんだか頼もしくも感じる。もし自分に兄がいたら、こんな感じなのだろうか……と少し思った。
ブレイクは高峰の言葉を信じて、ベッドの端でじゃれているネロリと舞を見ながら、ずっと聞きたかった事を口にする。
「高峰さんがキュクローに名付けた舞って名前。違ってたら申し訳ないんですけど、もしかして命条月舞ですか?」
ブレイクの質問に高峰の表情が分かりやすく変化した。嬉しい。顔にそう書いてある、そんな表情だった。
「! 知ってるのか! そうだ、命条月舞。僕の嫁だ」
キュクローに自分の嫁と豪語するキャラの名前を付けるのはどうなんだろうかと思わなくもないが、高峰は特に気にしていない様だし、舞と名付けられた黄緑色のキュクローも悪いとは思ってない様子なので、ブレイクは指摘しないことにした。
「つまり、普段はお淑やかなお嬢様だけど、いざという時には長い髪をポニーテールにして誰よりも強気で前に出るギャップがあって、聡明でカリスマ性を持ち合わせたリーダーがタイプってことですか?」
ブレイクは命条月舞に当てはまる特徴を上げた。
それに対して高峰は、大袈裟な動きで命条月舞について語り出した。
「よく分かってるな。そうだ、僕はお淑やかなお嬢様が活発になる瞬間に全てを持っていかれた。ポニーテールはズルいだろ。普段と違う姿と言うのは心に焼き付けられるんだ。初期の頃からの成長も素晴らしい。守られていただけのお嬢様が、仲間のために成長していく過程は何度でも見れる。最初はあまり慕われていなかったのに、彼女の成長につれて慕うキャラが徐々に増えていくのは見ていて気持ちが言い。主人公の巡流も、初期と今では彼女に対する信頼度が桁違いだ。舞というキャラは話が進めば進む事に好感度が上がっていく。最初の時点でだいぶストライクゾーンギリギリだったが、彼女が覚醒するシーンで気付いた時にはもう落ちていた。舞が不安と恐怖に打ち勝ち、武力で解決しようとする敵と仲間の間に入って、威光と言葉だけで交渉に持ち込んだ瞬間は良かった。そして、舞に対してこんな箱入りお嬢様が国のトップになってもな……と悲観的になっていた民を威圧と言葉で奮い立たせて勝利を捥ぎ取って行こうとする姿はまさに美しく気高く……」
終わる気配のない命条月舞に対する熱い語りをする高峰は、かれこれ十分近く言葉を紡いでいた。
内容を知っているブレイクからすれば、舞推しから見た物語が聞けて新鮮だった。そして全部聞いたブレイクがふと思ったのは、あの有名なゲームに登場するヒロインも好きそうだなという考えだった。
「……高峰さんってスモモ姫とかもストライクゾーンに入ってそうですね」
「バレてるか。スモモ姫も好きだ。しかし彼女には相手がいるからな……クッ!」
あの有名な、髭を生やした主人公を思い出しているのだろう、高峰はとても悔しそうな顔をしている。
ブレイクは納得しかなかった。命条月舞の特徴は、スモモ姫の特徴と似ている部分が結構あるからだ。
「あぁ、やっぱり。……ちなみに、俺は夕柳アリアが好みです」
ブレイクは話を戻して、自分の好きなキャラを伝える。
夕柳アリア。典型的なツンデレキャラだが、時折見せる憂いを帯びた表情に脳を焼かれる事態が発生している。そして何より、一途だ。最初からずっと主人公を好いている。しかし、主人公は他のヒロインとの関係性が強く、アリアは負けヒロインとしての地位を物にしそうである。
ブレイクが出した名前を聞いて、高峰は意外だなという顔を隠さなかった。
「ブレイクさんはアリアちゃんが好きなのか。なんか意外だな……優しくて天真爛漫で妹属性を持った、天道愛奈実ちゃんとかが好きかと思ってた」
天道愛奈実は推しである。好みの女はアリアだが、成長を応援しているのは真奈美である。
ブレイクの好みの女と推しの女は微妙に違う。分かりやすく説明すると、応援もするし結婚もしたい相手と、応援はするが結婚したい訳ではない相手と言う感じだろうか。
「まなみんは推しです」
「あ、やっぱそうなんだな。サフィナさんに似てるもんな」
高峰のサフィナと似ているという言葉に、ブレイクは息継ぎ無しで言い訳をする。
確かにサフィナに似ているのは否定しない。サフィナに似てるな……から入り込んで推しになったのは事実だ。しかし、実の妹の面影を追って推しになったなど、場合によっては嫌な気分になる人もいるかもしれない。そんな理由で推しているのか!? などと詰められる前に言わなければならない。確かに推しになる切っ掛けはサフィナだが、サフィナに似ているだけで推しているわけではない。まなみんというキャラクターと、これまでの過程や成長具合で推しになったのだ。これは本当だ。ブレイクは頭の中でそう言いながら、口ではあやふやな言い訳しかできなかった。
「別にサフィナと属性とか性格が似てたから推しになったとかそんなんじゃないですから本当に決してそのようなことではないんですよまさかそんなことあるわけ……」
止まる気配のないブレイクに、高峰が優しく止める。ブレイクはハッとして口を噤む。
高峰はブレイクの肩を優しくポンポンと叩いて、落ち着いたブレイクに視線を合わせてから伝える。
「落ち着け。誰も批難したりしてない。好きになる理由はそれぞれだし、僕はそれを否定するつもりもない。言っただろ、大船に乗ったつもりで来いと。僕は味方だ、心配する必要も遠慮する必要もない」
「高峰さん……」
高峰は一切嘘を付いていない。本当に心の底からそう思っており、オタクとしてブレイクに寄り添おうとしてくれている。
ブレイクは高峰にオタクであることを伝えて良かったと心から思った。ブレイクが個人的に思う、信頼してもいい人物の欄に、高峰がランクインした瞬間だった。
それから結構な時間、二人で楽しく好きな物語やキャラクター、ゲームについて熱く語り合った。
ベッドの端でじゃれていたネロリと舞は疲れたのか、二匹寄り添って眠っていた。
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二人がリビングに降りてくると、ノーザイを挟むようにして椅子に座っていた広岡と棚部が挨拶をしてくれた。
「おはよう、お寝坊さんたち」
「ああ、お前らか。おはよう、遅かったな」
二人の間にいたノーザイも、左右にいる二人の声を聞いて顔を上げる。そしてブレイクと高峰を視界に入れて「おはよ~」と軽く挨拶をし、ノーザイの頭の上にいたクロも「キュッキュ~」と鳴きながら短い前足を振ってくれた。
テーブルにはアルバムと日記が数冊置かれており、ノーザイはそれを見ていたようだ。
高峰も続けて挨拶を返し、ブレイクも挨拶を返す。そしてブレイクは、今起きたのではなくずっと起きていたという事を伝えた。
「おはようございます。起きてました。起きてたけど、降りてこなかっただけです」
「うん、知ってる。キミたちの笑い声が微かに聞こえてきたからね」
「え、そうなんですか」
「笑い声とか、叫んだ時とか、そういう大きな声とかは意外と聞こえるよ」
広岡の発言にブレイクは驚く。つまり、あの笑い声やかなり大きな声で語り合っていた声が、二階のリビングに届いていたということだ。ブレイクはちょっと恥ずかしくなったが、隣にいる高峰は全く気にした様子はない。
ノーザイも首を縦に振りながら、初めて聞く情報を話し始めた。
「うんうん、上の階の大きな音って意外と聞こえるんだよね。両端の部屋……101号室と108号室は防音されてるから、あんま聞こえないんだけどねー」
101号室と108号室。つまり棚部と桜音姉妹が使っている、端っこの大きな二人部屋だ。あそこが防音室になっていたのは知らなかった。
それはブレイクだけでなく、広岡もそうだったらしく、純粋に驚いている様子だった。
「へー、そうなんだ。今度本貴さんの部屋借りよっかな」
「理由によっては貸さんからな」
「えー」
そんな二人のやり取りを見ながら、ブレイクはずっと気になっていたことを聞く。なぜ棚部と広岡はノーザイを挟んで座っているのか。
「というか、棚部さんと広岡さんはノーザイを挟んで何してたんですか?」
アルバムや日記を見るだけなら、わざわざノーザイを挟む必要はないだろう。あの二人に挟まれるのは、いろいろと骨が折れそうだ。
アルバムを人指し指でツンツンしながら、ブレイクの質問に広岡が答える。
「ノーザイくんが拓斗さんについて、いろいろ教えて欲しいって言うから教えてた」
「とは言っても、大した話はしてやれてないがな」
棚部の発言に、日記を見ていたノーザイが顔を上げて口を開く。
「そう? 俺の知らない拓斗さんの一面が知れて良かったよ。拓斗さんが持ってた写真のアルバムとか、俺が見てもいい日記を見ながら教えて貰ったんだ。拓斗さんって見る相手によってはめちゃくちゃ変人なんだなーとか、拓斗さんはスノボー? ってやつが上手いとか、相手の心理を読むのが凄い得意とか……いろいろ聞けて良かった。まだ写真も日記も残ってるから、またお願いするね」
ノーザイが掛けているカラーレンズのメガネ越しでも、眩しく感じる程の笑顔を向けるノーザイに、棚部は自分のサングラスの位置を調整しながら言葉を返す。
「俺らはそこまで松道に詳しいわけじゃないんだがな……」
「でも、拓斗さんの昔を知ってるの二人以外にいないんだもん。それにわざわざ日記に書いてるんだから、詳しくなくても関わった時の話とか聞かせてくれるだけでいいんだよ。ナイアーさんは今いないし、一也さんと六門さんと七美さんはこの世界にいなんでしょ? なら二人に聞くしかないじゃん」
絶対に松道に関する事を二人に聞くぞという意志を見せるノーザイに、広岡はノーザイの頭をポンポンと優しく叩いた後、ワシャワシャと撫でながら答える。
「まぁ、拓斗さんについて教えられる事はちゃんと全部教えるから安心して」
「やった! じゃあまた二人の都合がいい時によろしく!」
「はいはい」
教えてくれるという事で元気になり、顔を近付けてきたノーザイに、広岡は「近いよ」と言いながら体を後ろにしならせていた。
そんなノーザイの姿を見て、高峰が口を開く。
「ノーザイさんは本当に松道さんが好きなんだな」
「……ちょっと怖いぐらいですけどね」
「まぁ、確かに。敬慕してるのは分かるが、なんかそれ以上にちょっと洗脳されてるみたいだ」
高峰とブレイクの話が聞こえていた棚部は、されてるみたいと言うか脆に洗脳されてるんだよな……と思いながらも口にはしなかった。もしノーザイの洗脳が切れて、人間に対する友好的な感情が無くなってしまうと、こちらとしても困るのだ。だから棚部も広岡も、ノーザイの洗脳を解こうとは思っていない。もし洗脳を解くとしても、もう少し後の話になるだろう。
そんなリビングに、ちょうど席を外していたサフィナが戻ってきた。サフィナはブレイクと高峰を視界に入れると、パァっと明るい顔をして近くまでやって来る。
「あ、お兄ちゃん。朝ごはん、冷蔵庫に入れてあるからね。高峰さんの分も入れてありますよ」
笑顔でそう言ったサフィナに、ブレイクと高峰は感謝の意を伝える。
「ありがとうサフィナ」
「そうか、ありがたい」
この世界に来てからは当たり前になってきた、変わらぬ日々を過ごしているブレイクたちを見て、突然広岡の横に現れたナイアーがため息をつく。
そしてノーザイの頭の上にいたクロが「ギュア!?」と鳴いて、顔を隠して丸まったが、ナイアーは気にせず呟く。
「はぁ……そろそろ面倒事でも起きないかなぁ」
頬杖をついて、つまらなさそうにブレイクたちを見ているナイアーは、とても美しくて絵になる。
そんなナイアーの発言に、棚部は眉間に皺を寄せて呟く。
「そう言われると、そろそろ起きそうで嫌だな……」
「僕は別にいいと思うよ。ま、起きる内容にもよるけど……何も進展がないまま、ダラダラしてても意味ないしね」
広岡は松道のアルバムを見ながら、表情を変えることなくそう言った。
それから程なくして、またリビングの扉が開かれ白金の大きな声が響き渡る。そんな白金に、机の上で寝ていた葵が真っ先に彼の元へと走った。
「帰ったで~!」
「あれ、皆さんお揃いで」
白金と一緒にリビングに入ってきた百奈は、買い物に出掛けた自分たち以外の全員が揃っている事に気付く。
白金もそれに気付いたようで、走ってきていた葵を片手で抱えながら言った。
「なんや皓利、もしかして今降りてきたんか? 相変わらず朝に弱いやっちゃな~」
百奈の言葉に白金もブレイクや高峰が起きている事に気付き、扉の前で止まったまま高峰に話し掛ける。
そんな白金の後ろから徳札が顔を覗かせる。
「ちょっと空李、そこで止まらないでください。私と百花さんが通れません、邪魔ですよ」
「おぉーごめんごめん」
徳札の言葉に白金は平謝りしながら、リビングの中へと入って歩く。
その後ろから徳札と百花も続けてリビングへと入っていき、サフィナが百花たちに笑顔で挨拶をする。
「皆さんお帰りなさい」
「うん、ただいま」
サフィナの言葉に返事をした百花に続いて、徳札と百奈も同様に返事をした。
百花は買ってきた荷物をキッチンに置いて、リビングにいる全員に聞く。
「紅茶、淹れるけど……みんなは他に何か飲む?」
「あ、私も手伝いますよ」
徳札は百花のいるキッチンへと向かい、飲み物の用意を手伝う。
ブレイクと高峰は今から朝に用意されていたご飯を食べるため、断りを入れた。
「俺はお茶を飲むので大丈夫です」
「ああ、俺も今から朝飯を食べるからお茶にするからいい」
そうして、全員がリビングでまったりと過ごすことになった。
ノーザイは棚部と広岡とナイアーから、松道についてまだ色々と聞いたり質問したりしている。桜音姉妹は徳札たち三人と何か楽しそうに会話を弾ませている。キュクローたちも集まってご飯を食べながら何か鳴いており、それはとても楽しそうに見える。
そんな光景を見て、遅い朝飯を食べながらブレイクは少し笑みを溢す。
「どうしたのお兄ちゃん。何だか嬉しそう」
隣で紅茶を飲んでいたサフィナは、ブレイクの顔を不思議そうに見ていた。
ブレイクはキョトンとこちらを見るサフィナの頭を撫でながら、ブレイクにしては珍しい、心からの笑顔を向けて呟く。
「いや……案外、こういうのも悪くないなって思っただけだ」
「?」
サフィナはブレイクがなんの事を言っているのか分からない。しかし、久し振りに見た兄の幸せそうな顔にサフィナも微笑んだ。




