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人外だらけの世界に飛ばされた人間様御一行の記録  作者: 南野


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第三十五話 隠し部屋


 準備をした五人は、ノーザイの家まで来ていた。そこは二階建てで、中世ヨーロッパ風の普通な一軒家だ。玄関にはドアベルがあり、棚部たなべがドアベルから垂れているひもを使って鳴らす。

 数秒も経たない内に、中からニッコニコな表情のノーザイが出てきた。自分の家に仲間をまねけて嬉しいと言った感じに見える。


「いらっしゃ~い!」

「キュッキュ~!」


ノーザイの足元にはクロがおり、クロも歓迎かんげいしているように鳴いた。ノーザイはサフィナと百花ももかを見て、おや? という顔をした。


「……あれ? サフィナと百花ももかはハナミとキララ置いてきたの? 棚部たなべさんはいつも置いていってるからわかるけど……」

「ノーザイさんの家に花を散らすのは申し訳ないので……」

「キュクローがいっぱい居てもお邪魔かな……って思って……」


 二人の言い分は最もで、ハナミはノーザイの家に花びらを散らしまくるであろう事は想像に容易たやすい。そして、今でも結構(せま)く感じるのだから、全員のキュクローも居たらもっとせまくなるかもしれない。百花ももかはそれを考慮してくれたのだ。


「そっかぁ。それじゃ、拓斗たくとさんの隠し部屋まで案内するね」


 ノーザイに案内されるがまま、一階の端の部屋まで案内される。扉を開けて中の様子を見ると、なんの変哲へんてつもない普通の部屋だった。いて言うなら本棚ほんだなが少し多い気がする程度ていどだ。


「ここが拓斗たくとさんの部屋だよ」


ノーザイがそう言うと、広岡ひろおかは誰よりも早く本棚を調べ始めた。そしてそれに続くようにして、棚部たなべも机の下や引き出しを調べ始めた。

 警部である棚部たなべと犯罪者である広岡ひろおかがそういう事をしてても別におかしくはないのだが、あまりにも手慣れた様子で躊躇ちゅうちょなく人の部屋をあさっていく二人の姿に、ブレイクは少し引いた。


「へー……お、日記あるじゃーん」


本棚ほんだなの中から日記を発見した広岡ひろおかは、なんの遠慮えんりょもなく中身を読んでいく。数分ほどペラペラと日記をななめ読みしていた広岡ひろおかは、真剣な眼差して口を開いた。


「…………いやこれめっちゃ普通の日記だ。本当にただの日常を切り取ったよくある日記じゃん。……あぁでも、拓斗たくとさんがノーザイくんをめちゃくちゃ大切にしてたってのは、この日記からよく分かるね」

「えへへ、やっぱり分かる? 俺も拓斗たくとさんに大切にされてた自信がある」


ノーザイは照れながらもキリッと言い放った。その瞳には絶対的な自信が見て取れた。

広岡ひろおかは軽く笑って、ノーザイに笑い掛けながら話す。


「ははっ! それはとてもいい事だね…………うん……」


そう言いながら、どんどん真顔になっていった広岡ひろおかは「洗脳ねぇ……」と、誰にも聞き取れないぐらいの小さな声をこぼして、持っていた日記を閉じて本棚へと仕舞う。


「とりあえず、この日記はまた今度しっかり読むとしよう」


 広岡ひろおかが本棚に日記を戻したのを確認したノーザイは、沢山ある本棚の中でもかなり大きめの赤茶色をした本棚から、とある本を取り出して、背表紙が奥になるようにもう一度仕舞う。すると一番端にあった本棚が動き出し、動いた本棚の下から鉄製の硬い扉が現れた。


「この扉の先に地下があって、その行き止まりに隠し部屋があったんだ」


ノーザイは扉の角にある小さなふたを開ける。そこには何やら厳重げんじゅうそうな装置が現れ、ぜろからきゅうまでのボタンが付いており、何かのパスワードを打てるようになっていた。

ノーザイはその装置をみんなに見えるように指差し、困り眉で笑いながら説明をした。


「実はここのパスワードが全然分からなくてさぁ~。五回間違えると一ヶ月は動かせなくなるんだ。だから、チマチマ当てずっぽうで数字を打ち込んでたんだけど、昨日の夜にようやくくパスワードの数字を当てられたんだ。まぁ、当てずっぽうでやってたから、結構な年数が経っちゃったけどね」

「そのパスワードの数字ってなんだったんだ?」


パスワードについてブレイクから聞かれたノーザイは答えの数字だけでなく、そのヒントも教えてくれた。


「102916110317だよ。これがなんの数字なのかは、拓斗たくとさんの日記のどれかにヒントが書かれてた。確か……『M・M・M・N・T16。M・M・M・N・N・T17』って書いてあった。俺にはさっぱりだから、テキトーに数字を打ち込んでたんだよね」


 ノーザイが言った『M・M・M・N・T16。M・M・M・N・N・T17』が何を意味するのか、ブレイクやサフィナ、百花ももかも分からない。

おそらくそのヒントの更にヒントになるものがあるのだろうと推測すいそくできるが、ノーザイがこれしか提示ていじしないということは、ヒントのヒントは見つかってないか本当に無いのかもしれない。

 少し間があってから、広岡ひろおかがそのヒントの答えを言葉にした。


「…………あぁ、そういうこと。拓斗たくとさんが十六歳の時の十月二十九日に僕たちが始めて出会った。そして、僕たちの二度目の会合かいごうが十一月三日で、拓斗たくとさんはハロウィンで誕生日を迎えたから十七歳ってことかな」

「なるほどな。本貴もとき雅埜まさや六門むもん七美ななみ拓斗たくとでM・M・M・N・Tか。最後の一回だけ登場したNはナイアーってことだな」


広岡ひろおかの言葉に棚部たなべも理解したようで、更に分かりやすく付け加えた。

 つまり、そのヒントは分かる人には分かるように作られたものであり、それがおそらく棚部たなべが上げた人物達なのだろう。二名ほど知らない名前が出てきていたが、それはノーザイも疑問に思ったようで、棚部たなべに対して疑問を投げた。


「ん? ちょっと待って、棚部たなべさんと広岡ひろおかさんとナイアーさんは分かる。六門むもん七美ななみって誰?」

「俺らと同じように十二年前に巻き込まれた百人の内、俺や広岡ひろおか松道まつみちと一緒に完全脱出を決めたやつらだ。ちなみに、二人は七人兄弟の六番目と七番目だ。二人ともこの世界には来てないと思うし、たぶん来ないだろうから気にしなくていいぞ」


棚部たなべが述べた最後の一言を聞いて、広岡ひろおかはニヤニヤしながら発言した。


「二人が来るフラグかい?」

「やめろ、本当にフラグになったらどうする」


ニヤニヤしている広岡ひろおか棚部たなべひじで軽くきながら言った。

 そんな二人を見ながら、ノーザイはムスッとしたような、ねた子供のような反応を見せる。ブレイクはそんなノーザイを初めて見た。


「でもなんかちょっと複雑。パスワードが俺に関わる数字じゃなくて、棚部たなべさんたちに関わる数字だったの……拓斗たくとさんの特別は俺じゃないのかなって不安になる」


ノーザイの反応に棚部たなべ広岡ひろおかは、こいつは何を言っているんだ……という顔を隠さない。ノーザイが松道まつみちにとってどれだけ特別なのか、二人はたん(たん)と話しながらノーザイに軽くる。


「お前は何を言ってんだ? お前が特別じゃないなら、俺らは旧友扱いどころかもっと下……ゴミと同等の扱いになるだろ。松道まつみちは好きなやつはとことん好き、嫌いなやつはとことん嫌いを地で行く男だぞ。ノーザイは松道まつみちに大切にされてたって、絶対的な自信を持って言えるんだろ? なら、つまりそういうことだ」

本貴もときさんの言う通り、拓斗たくとさんがわざわざ日記にあんだけキミの事を書いてたのに、特別じゃない訳がないでしょ。しかも愛弟子まなでしとまで書かれてたんだから、マジで相当大切にされてたと思う。そこまでされてて特別じゃないは無理がある」


二人にられてそう言われたノーザイは、ねた顔からエヘヘという顔に変わり、照れながらも嬉しさが隠しきれないという雰囲気ふんいきかもし出した。


「そう……? でもなんか、二人にそう言われると自身()いてくるなぁ」

「……それはそれでチョロすぎないか?」

「特別かどうかは別として、大切にされてた自信はあるからね」

「そうか、そうだったな……」


 ブレイクはチョロ過ぎると不安になったが、ノーザイが純粋な瞳で言い切るため諦めた。ノーザイの松道まつみちに対するソレは、尊敬や信頼以上に、ある種の洗脳の様にも見える。

 しかし、ノーザイは幸せそうだし特に困った様子もなく、棚部たなべたちから松道まつみちに対する悪い印象いんしょうなども、今のところ聞いた覚えはない。ブレイクは杞憂きゆうだといいが……そう思いながら、隠し部屋まで歩くノーザイの後ろをついて行く。

 数分ほど歩けば、木製の扉が見えてくる。きっと松道まつみちの隠し部屋であろう扉を開けて、全員が入っていく。

 隠し部屋の中は薄暗く、いくつかの小さなライトで照らされているだけだった。そのせいか、ブレイクは広岡ひろおかの頭の上で寝ているひかりが少しまぶしく感じた。

 ブレイクたちは、沢山の本棚とひとつの机と椅子だけで構成された、薄暗い隠し部屋を探索していく。


「わぁ、本当に本がいっぱい。お、やっぱ日記もあるよね」


広岡ひろおかは真っ先に日記を見つけ、ブレイクはノーザイが持ってきた物とはまた違ったアルバムを見つける。


「アルバムもまだ冊数があるのか」


ブレイクが開いたアルバムの中には何も入っていなかった。百花とサフィナはアルバムを見て、何かを話していたため、ブレイクはハズレを引いたらしい。


「あれ、この写真に写ってる人……どこかで見たような……?」


 頭に疑問符を浮かべている百花ももかに、隣のサフィナが「この男の人ですか?」と言いながら、とある一枚の写真を指差す。そこに写っていたのは、七三分けの黒髪で、眼鏡を掛けて煙草たばこを口にくわえた、スーツ姿のエリートみたいな男だった。


「うん。うろ覚えだけど、どこかで……」


百花ももかはアルバムに写っている男に見覚えがあるらしい。サフィナは横で百花ももかと写真を交互こうごに見ている。

 そんな二人の横に、棚部たなべがしゃがむ。そして、その写真に写っている男を見る。


「そいつ、百花ももかは昔会ったことあるんじゃないか? 荒乃射あらのい一也(いちや)さんって分かるか?」


棚部たなべがその男の名前を言うと、百花は欠けていたピースがハマったようで、写真に写っている男の事を思い出したようだ。


「……あ! あ、あの時! 本貴もときさんや雅埜まさやさんが病院に連れていかれた時、あたしやお姉ちゃんに連絡くれて、病院まで連れていってくれた警察のお偉いさん……!」


 百花ももかの言うあの時がどの時なのかは分からないが、二人や徳札とくさねたちが病院送りになった事があるという話を百奈ももながしていた気がする。もしかしたら、その時の話なのかもしれない。サフィナはそう考えた。

 百花ももかの声を聞いた広岡ひろおかが彼女に近付いて、ニコニコしながら百花ももかにとある事を伝える。


「あの人ガチのお偉いさんだし財閥ざいばつの長男だから、恩は売っといた方がいいよ」

「お前は黙っとけ」

「はいはい、ごめんごめん」


棚部たなべの言葉に広岡ひろおか百花ももかたちから離れ、本が積まれている所へ足を進めた。その後を棚部たなべが追うようにして、彼も本が積まれている所へ向かった。

 ブレイクはサフィナや百花ももかたちが何かを楽しそうに話している姿を横目に、ずっと静かなノーザイを見る。ノーザイは何かをじっくりと読んでいるようで、邪魔はしない方がいいだろうと考え、他に何かないか見て回ることにした。


「この本だけダイヤル式の鍵が掛かってるね。開けてみていい?」

「好きにすればいいだろ」


 広岡ひろおかが見つけた本には、六桁のダイヤル式南京錠(なんきんじょう)が付けられていた。わざわざ自分に聞かなくても言いのに、広岡ひろおかはなぜか聞いてきた。この部屋のあるじはもういないし、ノーザイから許可は得ているのだから、好きにすればいいだろうと思う。

 棚部たなべ広岡ひろおかに返事をしてから、一分も経たない内にカチッと音が鳴った。


「……ほい開いた」

「はえーよ」


広岡ひろおかはもう鍵を開けたようだ。あまりの早さに棚部たなべもツッコミを入れてしまった。


「たぶん地下へのパスワードみたいに、僕たちにしか分からないような……つまりノーザイくんに知られたくない物が保管されてるのかなって思って、なんか僕たちに関係のある数字を当てはめたらいけたよ」


そう言いながら、広岡ひろおかは外れたダイヤル式の南京錠なんきんじょうを、棚部たなべへ向かってポイっと投げる。

棚部たなべは受け取った南京錠なんきんじょうのダイヤル部分を見る。


「081819………………あぁ、確かに俺とお前、それとナイアー、一也いちやさん、六門むもん七美ななみには分かる数字だな」


 松道まつみちが十九歳の時の八月十八日。棚部たなべ広岡ひろおか、ナイアー、一也いちや六門むもん七美ななみ、そして松道まつみちそろって巻き込まれた時の日付だ。

棚部たなべ広岡ひろおか松道まつみちとナイアーで巻き込まれる事は多々あったが、六門むもん七美ななみたちもそろうのは本当に久し振りだったのだ。しかも一也いちやまでいるのは珍しい。

 だが、あまりいい思い出ではない。それは広岡ひろおかも同じようだった。


「あれは嫌な事件だったねぇ……。僕あの人のこと結構気に入ってたのにさ。あそこで亡くなるには勿体無い人だったよ」

「……荒乃射あらのい()の執事さんは、あれが仕事だからな」

「そうだけどさぁ……。まぁいいや、思い出にひたってないで日記読まないと」


そう言って、広岡ひろおかは鍵を開けて読めるようになった日記を開き、棚部たなべも一緒に読み始める。


「……『私が巻き込まれたという事は、どうせお前らもいつか絶対に巻き込まれるのだろうな。だから日記を残しておいてやろう、ありがたく思え』か……全くその通りになってて反論ができんな」

拓斗たくとさん流石すぎる。僕たちの事をよく理解してる」


笑いながら言った広岡ひろおか棚部たなべは顔を近付けて、周りには聞こえないようにボソボソと広岡ひろおかへ向けて話し出す。


「それと、注意書きがあるぞ……ノーザイに読ませるなとさ」

「ん? あ、ほんとだ」


 二人は反対側で何かをじっくり読んでいるノーザイを見る。視線は下に向けられたまま、動く気配はない。とりあえずノーザイには見えないだろう位置に移動して、背後から誰かに見られないように、二人は壁を背にして日記の続きを読んでいく。


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