表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人外だらけの世界に飛ばされた人間様御一行の記録  作者: 南野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/57

第三十話 不安


 和凪かずなぎとジュジュを先頭に、ラボの玄関である大きな鉄製の扉の前まで来た。

そこには既に似明にあけが待っており、ウェンシーが言っていた緑色の本を持っていた。似明にあけはその本を棚部たなべに渡す。


「……それ、預けときます。分厚いんで、読むのに時間掛かりそうですし」

「あぁ、助かる。読み終わったらちゃんと返却へんきゃくしに来るよ」


そんなやり取りをしてる棚部たなべの後ろから、ノーザイがひょっこりと出てきて似明にあけに話し掛けた。


「あ、似明にあけさん。聞くの忘れてたんだけどさ、あの時……ウェンシーさんが俺たちの時間を止めたように見えたアレってなに?」

「……それは、僕もまだ分からないんですよ。人外化したことで得た能力なのか、はたまた別の何かなのか……これはのち(のち)調べるつもりです」


 あの時とは、和凪かずなぎに呼ばれて急いで松儀しょうぎやウェンシーのいる部屋へ行った時のことだろう。確かにあの時、一瞬だが時が止まったような、体だけが動けなくなったような、なんとも言えない経験をした。

しかし似明にあけもそれがなんなのか分からないという。ウェンシー自身が分かっているのかどうかも気になってくるが、今からそれをするのは少し時間が足りない。

 そんな事を考えていたブレイクは、突然あることを思い出した。それは、松儀しょうぎが呼んでいたとある相手の名前だった。


「あ、そういえば。あの、俺もちょっと聞きたいことを思い出したんですけど……松儀しょうぎさんが俺たちや和凪かずなぎさんの事を、別の相手の名前で呼んでたじゃないですか。その方達かたたちは今もいるんですか?」

「あぁ、えっと……田中、山本、岡崎、丸井、利根とね長海ながうみ守永もりなが、ランレン、ホーネス……ですよね?」


似明にあけ和凪かずなぎが最初に教えてくれた人物たちの名前を上げていく。

 こうして改めて聞くと日本の名前が多い。松儀しょうぎも日本だから日本の知り合いがいても別におかしくはないが、この世界に日本の名前を持つ人物が意外といるという事に少し気になる点があるのだが、何かと言われると困る。何かはよく分からないが、なんとなく気になる。

 ブレイクはモヤモヤを抱えながら、似明にあけの回答をしっかりと聞く。


「この名前はみんな松儀しょうぎくんと仲の良かった人達の名前なんですよ。でも、ほとんどがもう亡くなってる。僕が生存確認できてたのは、田中くんとホーネスくん、あとは利根とねくんの子供ぐらいですかね」


あごに手を当てながら思い出すようにして答える似明にあけに対し、棚部たなべが質問をするが、その問いに答えたのは似明にあけではなくノーザイだった。


「もしかして、田中ってあの爺さんの事か?」

「……あぁ! 俺が少し前に棚部たなべさんに紹介した人間のお爺ちゃん。確かに彼の名前も田中さんだね」


似明にあけが名前を呼んだ田中という人物に、棚部たなべとノーザイは心当たりがあるらしい。

 ノーザイが紹介して棚部たなべは知っているが、ブレイクたちは知らない。つまり、それはブレイクたちが来る前の話なのだろう。


「たぶんその田中であってると思いますよ。田中くんは松儀しょうぎくんよりも、かなり年上のお爺さんだった記憶があるので」

「そうか……。時間があったら、またあの爺さんに会いに行ってみてもいいかもしれんな」


棚部たなべがその田中に会いに行くさいは、自分も付いていこうとブレイクは思った。

 一方サフィナは、名前を上げられた人物のほとんどが亡くなっていることに心を痛めていた。


「……ほとんどのかたが亡くなってるんですね」

「全員、松儀しょうぎくんと同じ町に住んでましたから……逃げ切れなかったんだと思う。田中くんとホーネスくん、それと利根くんの子供がこの町へ逃げて来た所までは記憶してますが、その後は僕も分からないんです。田中くんは先程さきほどお二人が合ってたみたいですけど……。ホーネスくんと利根とねくんの子供も、もしかしたらいつか会えるかもしれませんね。この町から出てなければ居ると思うので」

「そう、ですよね……」


 棚部たなべたちが田中というお爺さんに出会っているので、似明にあけが言うように、意外とホーネスや利根とねの子供とはこの町に居れば会えるかもしれない。

 サフィナは少し複雑そうにしながらも、微笑んで返事をした。


「……もう聞きたい事とかないか? まぁ、あったとしても明日にしろ。今日はもう帰らないと夜になっちまうからな」


 そう言いながら棚部たなべは腕時計を確認する。もう夕方が過ぎようとしていた。地下にあるラボから家の中へと戻り、そのまま外に出れば夕陽がしずみ始めていた。ブレイクたちは思っていたより長い時間ラボにいたらしい。

 しずみ始めている夕陽を見ていた棚部たなべに、似明にあけはとあるカードを渡す。表面は『ニアケラボ』の文字とマークが書かれていた。裏面には何やら数字と英語が書かれており、それは何かのパスワードにも見えた。


「では、こちらをお渡ししときます。これはラボへの扉を開けるのに必要なパスワードと、自由に出入りが許される会員証です。くしたり、誰かに譲渡じょうとしないようお願いしますね。それでは、またいつでもお越しください」


 笑顔で手を振る似明にあけと、お互いに手をつなぎながら空いた方の手を振る和凪かずなぎとジュジュにお見送りしてもらい、ブレイクたちは『ニアケラボ』を後にした。



 ******



 車が置いてある所まで向かう途中、ブレイクはずっと考えていた。もしかしたら、あの二人はいつかの自分たちの未来かもしれないと。

もし自分を犠牲にしてサフィナを生かせるのなら、やはり俺は松儀しょうぎさんと同じ事をするかもしれない。でもやっぱり、残される側の事もちゃんと考えなければいけない。ウェンシーさんは一緒にきたかったと言っていた。その相手の考えによっては、置いていかれるより一緒に死ぬ方が救いになる事もある。しかし、松儀しょうぎさんの相手に生きて欲しいというその願いは、気持ちは痛いほど分かる。

 まだ、その段階ではない。まだ大丈夫。まだ間に合う。まだ、サフィナは生きている。きっといつか、人間として俺とサフィナの二人で、あの日常に戻れる。そう考えていないと、良くない方向へかじを切ってしまいそうになる。

 俺はまだ大丈夫だ。俺はまだ間に合う。俺はまだ、正気でいられる。サフィナが居てくれればもう、それ意外は何も望まない。


「お兄ちゃん。お兄ちゃんは私のために死んじゃ駄目だよ。置いていかないでね。私もお兄ちゃんのこと、もう二度と置いていかないから」


ブレイクの不安が顔に出ていたのか、サフィナはブレイクの手を優しくにぎって笑いかけた。そんなサフィナにブレイクも微笑み返して、サフィナの手をにぎり返した。


「……あぁ、当たり前だ。俺はお前とずっと一緒だからな」


 そんなやり取りをしているブレイクとサフィナの、少し前を歩いているノーザイと棚部たなべは内心ヒヤヒヤしていた。

 なんとなくだが、ブレイクの心情と二人のやり取りの意味が伝わってきた。ノーザイは頭の後ろで手を組ながら、後ろの二人に聞こえない程度ていどの声量でポツリとつぶやく。


「なんか良くない気がするなぁ……」


それは隣にいた棚部たなべにはしっかりと聞こえており、棚部たなべもノーザイと同じようにあまり良くない気がしていた。


「ノーザイ、お前にも分かるか。俺も良くない気がしてならない。不安だ。あの二人を連れて来ない方が良かったかもしれん……」

「うーん……呼んだの俺だけどさ、ちょっと後悔こうかいしてる」


 ノーザイはしょんぼりした顔で「やっちゃたかもなー」とつぶきながら、不安そうな顔のまま歩みを進める。

 棚部たなべはそんなノーザイをしばらながめた後、隣を歩いている百花ももかの名前を呼ぶ。


百花ももか

「……何?」

「お前は、あの二人を参考にしなくていいからな」


 百花ももか棚部たなべを見た後に、少し後ろで手をつなぎながら歩くグレイラル兄妹けいまいを軽く視界に入れる。そして町の方角にも目を向け、棚部たなべに問う。


「あの二人って……どっち? 松儀しょうぎさんとウェンシーさんのこと? それともブレイクさんとサフィナちゃんのこと?」

「あー……どっちもだ」


 棚部たなべの歯切れの悪い返事を聞いて、百花ももか棚部たなべ一瞥いちべつした後、真っ直ぐ前を見据みすえた。

そんな百花ももかの瑠璃色のツインテールが、強い風になびく。彼女は強い風を気にせず、しっかりとした眼差しで先を見つめていた。


「そう、安心して。あたしは誰の命も無駄にしたくないの。最後まで、最善の道をさがしてつかみ取るわ。もちろん、誰の命も失わない方法でね」


百花ももかの言葉には強い意思があった。

 昔に比べて、百花ももかも成長しているのを感じられる。まだ十六歳の子供だが、なんとも頼もしい事を言う。棚部たなべ感慨深かんがいぶかくなりながら、百花ももかの頭を優しくでてポツリとつぶやいた。


「……そうか、頼もしいな」


 突然頭をでられた百花ももかは、なぜでられたのか分かってない顔で棚部たなべを見ながら、頭に疑問符を浮かべていた。

 それぞれがそれぞれの思考をめぐらせる中、しずみ始めていた夕陽が全員の背中を照していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ