第二十五話 新たな仲間
全員が揃いキュクローも無事回収した所で、キュクローを探しに行っていたノーザイたちに、彼らが居なかった時の事を説明をした。説明が終わった後、広岡は和凪に話し掛ける。
彼の頭には小さくて白いキュクローが寝ており、仄かに発光しているが、広岡は特にそれを気にしてはいないようだった。
「思ったんだけど、植物や魚じゃ駄目なのかい?」
「へ? 植物と魚?」
「キミは肉以外、植物や魚も食べれるよね?」
「えぇ、お肉以外も食べれますけど、お肉を食べる機会の方が多いかと」
和凪の答えに広岡は少し悩む素振りをし、放り出すように手を和凪へ向けて話す。
「愛しているから食べる。キミは今までもずっとそうしてきた、それをすぐにやめるのはきっと難しい。ジュジュさんと慣れていくまでは、愛情を持って植物や魚を育てて食えばいいんじゃない? 植物なら代替肉にもできるし」
代替肉という単語に、和凪は頭に疑問符を浮かべる。
「だ、代替肉? なんですかそれ」
「大豆とかの植物を使って、肉に近い食べ物を作れるんだよ」
広岡のざっとした説明にサフィナが手をポンと叩き、そういう物があると思い出したようだ。和凪は感心した顔をした。
「あぁ、ありますね。そういうの」
「そんなのがあるんですね」
広岡は続けて和凪に問いかける。
「自分で手塩に掛けて育てないと、愛とはいえない。それは植物や魚にも適応されないの?」
目をパチクリさせた後、悩むというより困惑という表情で和凪は答えた。
「そ、れは、分かりません。考えたこともなかった。自分で一から作って育てるのが当たり前だったから、既にあるものを私が代わりに育てる事はなくて……」
俯いて悩む和凪に対して、ノーザイが軽い声で提案する。
「ダメ元でもやってみたら?」
「そうだね、もし無理そうだったらまた考えればいい。植物や魚でもキミの愛が適応されるならそれでいい。物は試しだよ」
ノーザイの言葉に広岡も肯定する。
そして、ずっと無言だったジュジュが和凪の手を取り、ジュジュは優しい表情で和凪に伝える。
「わたしも賛成です。君はまだ変われます。確かに食事と愛は両立するかもしれません。ですが、食事以外でも愛は両立します。食事の愛は植物や魚へ向けながら、食事以外の愛に慣れていきましょう。わたしは和凪さんと一緒に、食事以外にも沢山表現することができる、いろいろな愛を知っていきたいんです」
私はまだ変われる……。教わった事だけを正解だと、真実だと信じて、他の事実から目を背けてきた。
だって、正しい事だと思ってやってきた事が、全て間違いだった時が怖いから。自分が今までしてきた事の清算を取れる気がしないから。しかし、こうしてまた逃げてたら何も変われない。
ずっと手を握ってくれているジュジュはきっと、傍で私と歩いてくれるのだろう。一人じゃ怖くて何も変われなかった。そんな弱虫な私でも誰かと共に変われるのなら、私は新たな一歩を踏み出せるかもしれない。
和凪はジュジュの手を握り返し、しっかりと目を合わせる。
「ジュジュ。私はまだ変われますよね? ずっと食べて食べられるが、愛の全てだと思ってた。だって、お母様にそう教わったから。でも、違ったんですね」
和凪はキュクローたちを見る。キュクローはそれぞれの命があり、それぞれに考えや思いがあって行動している。
黒いキュクローはノーザイに懐いており、ノーザイもクロと名付けたキュクローを可愛がっている。あのような関係も、愛と呼べるのではないだろうか。
和凪はもう覚悟を決めている。何もしないと変われない。今こそ、始めの一歩を踏み出す時なのだ。
「すぐには変われないでしょうが、私頑張ってみます。私が食べるために作ったキュクローたちが、皆さんの傍で幸せそうにしているのを見ると、きっとこれが本来の在り方なんだろうなって……そう思えてきます」
それぞれのキュクローがそれぞれの相手に近寄って、匂いを嗅いだりじっと見詰めたり、既に体を預けていたりしている。
和凪はそんなキュクローたちの様子を見て、ラボに居た時よりも幸せそうだと感じた。
「キュクローたちはここに置いていきます。今の状態で一緒にいてはいけないと思うので。それに、キュクローも既に馴染んでるみたいですし」
和凪はキュクローたちを愛おしそうに見詰めた。
棚部の足の上には赤色と水色のキュクローがうごうごしており、ソファーに座ったまま動けなくった棚部がそのまま和凪に質問をする。
「キュクローたちは何か食べるのか?」
「あぁ……キュクローは肉、魚、草、果物、野菜など、結構なんでも食べます。今度キュクローたちの食べれないリスト持ってきます。そこに記載されてなければ、なんでも食べれるので」
和凪の答えに、近くにいたノーザイがクロと目を合わせながら話しかける。クロも同じようにノーザイを黒く真ん丸な眼で、嬉しそうに見詰める。
「そうなんだ。クロや他のキュクローって、好物とかも違うんだろうなぁ」
「キュ?」
クロの返事にノーザイは笑みを浮かべ、クロを抱えたまま頭を撫でる。クロは可愛らしい声で鳴きながら、ノーザイの手に頭をすりすりと擦り付けた。
ブレイクの頭には欠伸をしている橙色キュクローがおり、高峰の横には黄緑のキュクローが飛びながら高峰に頭突きをかましている。
高峰は一番体の大きい黄緑キュクローの頭突きを、手や腕で防御しながら話していた。
「飛べるの便利そうですね」
「さすがに僕ごと飛ぶのは難しいと思う。あと凄い頭突きしてくる、なにこいつ」
「猫じゃないですけど、猫の頭突きはある種の愛情表現らしいですよ」
「そうなのか……」
高峰は気付いていないようだが、黄緑のキュクローはとても楽しそうに頭突きをしている。ここの相性は悪くないのかもしれない。
そんなことを思いながら、ブレイクは自分の頭にいる橙色のキュクローを持ち上げて下ろす。
「こいつがいると、オレンジとか蜜柑が食べたくなるんですよね……。ちょっと困るかも」
「柑橘類を常備しとかないとな」
二人がそんな会話をしている後ろでは、マトロポスと白金が青いキュクローを囲んでしゃがんでいた。青いキュクローは「キュゥ~……」と何か言っている様子だ。
「湿っててすまぬって言ってる」
マトロポスの言葉に白金は大いに驚いた。
マトロポスは確かに獣耳を持っているが、まさかキュクローの言葉を理解できるとは思わなかったのだ。
「え! 言ってること分かるん!?」
「まぁ、なんとなくだけど」
「便利やなぁ、俺も聞き取れればええんやけど。……君は湿っててもええで、俺は気にせんよ」
白金は青いキュクローをぎゅっと抱き締める。青いキュクローに触れた部分の服が、じわじわ湿っていくが白金は気にしない。
抱き締められた青いキュクローは、ジト目で白金を見たあと、体を白金に思いっきり預けた。
「キュッ……グルグルギュー」
「変なヤツだから、自分が隣にいてやろう。だってさ」
「ほへー、可愛いやっちゃなぁ」
白金は抱えたまま、青いキュクローの頭を撫でる。青いキュクローは嬉しそうに鳴いていた。
その横では枝葉まみれの徳札と頭にたくさん花が付いてるサフィナに対して、少し興奮気味で目をキラキラさせているサントスがいた。
「この葉と花! 手に入れるのがとても難しい、貴重なものですよ! もしよろしければ頂くことは可能でしょうか?」
「え、どうぞ。私はそういうのに詳しくないので」
徳札は頭に付いた枝葉を幾つか取り、そのままサントスへ渡す。
「えっと、たぶん大丈夫だと思います」
そう言いながら、サフィナも散らばった花たちを集めて袋に入れ、徳札と同じようにサントスへ渡す。
サントスは何度も「ありがとうございます」とお礼を言った。二人から頂いたこれらを使った薬ができたら、徳札とサフィナには今後試作品を提供してくれるらしい。
キッチン近くにいる桜音姉妹にコーネダリスが近付いて話し掛ける。
「君たちは戦闘慣れしてないから、ビームがあると少しは安心になるネ。ビームは威嚇としても有効だヨ」
ビームという単語を聞き、百花は抱えている黄色のキュクローの口辺りを揉んでみる。
「ビーム……。どれぐらいの威力があるんだろ……」
百花に揉まれても、黄色のキュクローは特に反応せずされるがままだった。なんとなく眠そうな顔をしている気がする。
「ビームは見てみたいけど、あまり使わないに越したことはないわね」
百奈は足元にいる紫のキュクローを気にしながら、困り眉でそう呟いた。
リビングのソファーでは、座っている棚部を広岡が手前から覗き込むようにして、何かを話していた。
「その子たちは一緒がいいみたいだね。暖かいのと冷たいのだから、隣にいると落ち着くのかも」
「それは構わんが、なぜ俺の足の上で固まって寝るんだ……?」
「本貴さん大きいから、安心感あるんじゃない?」
棚部の太股には赤色と水色のキュクローが、お互い寄り添うようにして佇んでいた。
「ていうか僕の頭にいるこの子、退けていいかな。ノーザイくんたちが連れてきてから、ずっとここにいるんだけど……」
広岡は頭の上で寝ていた、小さくて白いキュクローを右手で持ち上げた。それは、広岡の右手に収まるほどの小ささだった。
「なんかこの子、めっちゃ小さくない?」
広岡がキュクローのいる右手を胸辺りまで下ろしたその瞬間、仄かに発光していただけのキュクローが真っ白に強く発光した。
「うわ眩し!? え、何? とりあえず戻そ……」
広岡が咄嗟に目を閉じて頭の上に戻すと、光は弱まって仄かな光となり、白いキュクローはまた寝始めた。
「サングラスがなかったら直視で死んでたな」
棚部は今、自分がサングラスをしていたことにこれほど感謝したことはないだろう。
あまりの眩しさに周りもビックリしていたようで、全員が広岡の頭にいる、今は仄かな発光をして寝ているキュクローを見ていた。
いろいろなキュクローと親睦を深めているみんなを眺める。これで良かったのだと、和凪はそう思った。
やはりあの子たちは私の所にいるより、ここにいる方が幸せそうだ。
食べられる恐怖を、私はまだ知らない。でも、キュクローのお陰で少し学べた。考えを改めるのも悪くない。すぐには難しいけど、いつかまたキュクローを作っても、食べたくならないようになれば……愛した者と共に歩める未来がくれば、それは成長したと言ってもいいだろう。
そんな考えをしている時、クロと名付けられた黒いキュクローを抱えたノーザイが、和凪に近付いて質問をした。
「そういえば、キュクローたちを探してる時に聞いたんだけど、ラボに人間がいるって本当?」
「えぇ、いますよ。でも彼、正気じゃないのでちゃんと話せるかどうか……」
和凪はラボにいる一人の研究員を思い出す。
彼は人間だが、和凪がラボに研究員として配属した時から、正気ではなかった人間だ。その人間に対してラボの所長は「危害を加えたりはしないから大丈夫」と言うだけだった。
実際、和凪や他の研究員たちも危害を加えられたなどという事はなく、彼はとある一人の女性をお世話しているだけなのだ。
「大丈夫。俺はどんな人間でも気にしない。話すのが難しくても、とりあえず会って話がしてみたい」
ノーザイの強い眼差しに、和凪は折れる。
話は通じないが、別に悪い人ではないし、事前に所長へ伝えておけば問題ないだろう。そう和凪は思い、その人間の名前を教える。
「……彼の名前は松儀来威。ウェンシー・エルランダという寝たきりの女性の面倒を見ています。松儀さんとのまともな会話は難しいですけど、頑張ってください。あ、私のラボまでの地図をお渡しますね」
「お、ありがとう。明日の予定は決まりだね」
地図を貰ったノーザイは、ソファーにいる棚部にニコニコとした顔を向ける。ノーザイの顔を見て、棚部はふっと笑って答える。
「まぁ、正気じゃなくても、人間に会ってみるのはいいかもしれない」
「なら行くメンバー決めようよ、さすがに全員で行くのは邪魔になるだろうし」
ノーザイはリビングに揃っている全員に聞くようにして言った。意外にも最初に返事をしたのは、黄色いキュクローを抱えた百花だった。
「あの、あたしも行っていい? 最近外に出れてないから……」
「いいんじゃない? え、大丈夫だよね? ラボに狂暴で凶悪なバケモノとかいないよね?」
バケモノのジェスチャーをしながら、ノーザイは和凪に聞いた。彼女は真顔のまま平坦な声で答える。
「そんなのいませんよ」
「じゃあ大丈夫だ。俺と百花と……ブレイクとサフィナも来る?」
和凪の答えにニコッと笑い、ノーザイはブレイクとサフィナの方を向く。
突然名指さしされたサフィナはキョトンとした後、少し考えて同行することを選ぶ。
サフィナが行くという事で、ブレイクの頭には行かないという選択肢が消えた。
「え? あぁ、じゃあ行きます」
「サフィナが行くなら俺も行く」
ブレイクの言葉の後に、棚部がノーザイの名前を呼び、念のため自分も一緒について行く事を伝えた。
ノーザイは手を広げて五という数字を和凪に見せる。
「それじゃあ、五人で行くという事で!」
「はい、分かりました。所長にお伝えしておきます。それでは、今日は大変お騒がせしました。いろいろ試してみようと思います。それと……キュクローたちの事、お願いしますね」
和凪はそう言いながら頭を下げた後、同じように軽く会釈をしたジュジュと一緒に、手を繋いで館から出ていく。
そんな二人に、ノーザイが抱えているクロが小さな手を振り「キュッ!」と高い声で鳴いた。それはまるで「またね!」と言っているようだった。




