第二十四話 特性
複数の足音が近付いてきて、リビングの扉がバンッ! と強く開かれた。そこにいたのは、それぞれキュクローを二匹から三匹ずつ抱えていたノーザイと徳札たちだった。
「ただいまー!」
元気よく帰ってきたことを伝えたノーザイだが、彼の後ろにいる三人の男たちは、服や髪がぐちゃぐちゃでとても疲れている様子だった。
そんな後ろの三人を気にする事なく、ノーザイは笑顔で和凪に向けて声をかける。
「十一匹で全部だったよね? よいしょー」
ノーザイたちが抱えていたキュクローを床へ下ろしていく。
解放されたキュクローたちの内、数匹はそのまま彼らの足元にいるが、残りのキュクローは猫のようにタタタッとリビングのいろんな所へ散らばっていった。
そんな中、最初に出会った黒いキュクローは、ノーザイの腕の中から離れることはなかった。腕の中で動こうとしない黒いキュクローを見て、ノーザイは口を開いた。
「みんなキュクローだから、とりあえずこの黒い子に名前つけていい? 呼ぶ時にちょっと困るんだよね。この子は黒いキュクローだから、分かりやすくクロって名前にしようと思うんだけど、どうかな?」
黒いからクロ。というとても安直な名前をつけたノーザイだが、広岡がそれを肯定する。
「へー、いいんじゃない? その子はキミに懐いているんだし、キミの好きなようにしたらいいと思う」
ノーザイに対してそう言った広岡の頭の上には、遠目だと分かりにくいが、小さくて白いキュクローが既に定位置のような雰囲気で寝ていた。そのキュクローは、仄かに光っているように見える。
全十一匹いるキュクローはどの個体も同じという事はなく、十一匹全てが大きさも色もバラバラだった。
パッと見た感じで分かるのは、黄緑色が中型犬ほどのサイズで一番大きく、白色がハムスターほどのサイズで一番小さいということだ。
それぞれのキュクローがそれぞれの相手に近付いたり、匂いを嗅いだりしている。その姿は、よく知らない初めての家に来た時の猫の姿に重なる。
キュクローにも好みがあるのだろう、それぞれのキュクローが異なる相手にスリスリと頭を擦り付けたり、近くから離れなかったりしている。その中でも特に女性陣は、近付いて来たキュクローをとても可愛がっている様子だった。
現に今、白金は自分の近くでウロウロしていた、普通の猫より少し小さめなサイズをした青いキュクローを眺める。このキュクローは自分から離れる気配がなく、先ほどから一定の距離を保っている。もしかしたら、自分の事を気に入ってくれているのかもしれない、そう思うと少し口がニヤける。
白金はニヤける口をどうにか抑えながら、キュクローたちを遠目で眺めている和凪に聞いた。
「にしても、こうやって見るとキュクローってカラフルやなぁ。大きさもバラバラやし、それぞれ特性とかあったりするんか? ていうか既に、オレンジみたいな匂いするげと……」
白金の問いに、和凪は瓶底メガネをクイッと上げる。
「ありますよ」
「あるんかい」
和凪の即答に、白金は素で返した。
既にいろんな所にいるキュクローを指差しながら、和凪はそれぞれの特性を述べていく。
「白は発光する。黒は気配に敏感。赤は一番暖かい。水色は一番冷たい。青はちょっと湿ってる。黄色は口からビームが出る。橙色は美味しい。黄緑は飛べる。緑は草木が生える。桃色は花が咲く。紫は目からビームが出ます」
全てのキュクローの特性を聞いていた高峰が、黄緑色のキュクローを触りながら和凪に質問する。
「一部いらない特性付いてないか? しかもビーム被ってるし……。橙色に至っては美味しいってなんだ。美味しい以外に何かないのか?」
「オレンジの香りがしますよ」
オレンジの香り。そう聞いた白金は、捕まえた時から香っていたオレンジの匂いは、橙色のキュクローが原因だったのかと納得した。
「違う、そうじゃない」
和凪の美味しい以外はいい香りがするという回答に、高峰は謎のポーズをしながらツッコミをした。黄緑色のキュクローは高峰の横で、パタパタと突然生えた翼で飛んでいた。
そしてその黄緑色のキュクローは突然高峰に頭突きを喰らわせ、高峰は咄嗟にそれを避ける。避けた高峰に、黄緑色のキュクローは構わずまた頭突きを喰らわせようとする。
頭突きを避けている高峰や、白金が和凪と話している所へ、徳札が片手で緑のキュクローを抱えつつ、もう片方の手で髪や服に絡まった枝葉を取りながら聞きに来る。
徳札が枝葉や草にまみれている原因はおそらく……というかどう見ても、彼が抱えている緑のキュクローのせいだろう。
「食べるために作ったという話でしたが、なぜビームを出せたりするんですか?」
そんな徳札の疑問に、和凪は少し微笑みながら答える。
キュクローにそれぞれの特性があるのは、本当に大した理由ではない。それぞれ個性があった方がいいかもしれない、なんとなくそう思っただけだった。でも今はただ、個性を付けたというたったそれだけ、それも一種の愛と呼べるのかもしれないと和凪は考えた。
「ふふ、それは愛だからです」
「……はぁ、なるほど?」
和凪の答えに徳札はよく分かっていない様子のまま、髪に絡まったり服に刺さったりしている、枝葉や草を必死に地道に取っていた。
徳札のそんな姿が少し面白くて、和凪は笑った。




