第二十話 器
休憩を挟んだコーネダリスは、ソファーに座って腕と足を組んだまま、人差し指を立てて続きを話し出す。
「違和感っていうのはネ、サフィナちゃんの魔力は元からあるものじゃなくて、何者かによって意図的に増やされた、又は入れられた魔力っぽいんだヨ。そして、おそらくそれに耐えれる体にするために、人外にされたのかもしれない……って思ったのサ。人間より人外の方が貯蓄できる魔力は多いからネ」
「なぜ、サフィナにそんなことをする必要が? 相手の意図が読めないんですけど……」
ブレイクの質問に、コーネダリスは険しい顔をして答える。そんなコーネダリスの顔に、ブレイクは嫌な予感がした。
一人の人間に対してそこまでするのは、確実に何かをやろうとしているという事だ。その何かはきっとろくな物ではない。犯人はサフィナを人外にしてまで何を成し遂げようとしているのか、ブレイクには分からないし分かろうとも思わない。
「今の時点で可能性として上げられるのが、サフィナちゃんは器にされようとしてるんじゃない? って思うのサ」
「器?」
ブレイクからすれば、器と聞いて良い感じはしない。器が大きいとか小さいなど以外で、あまり生きている相手に対して言う言葉ではないからだ。
サフィナは空っぽではない。サフィナという人格があって、ブレイクの大事な妹という唯一無二の女の子だ。そんな彼女を器、つまり入れ物として扱おうとしている相手がいる、それだけで嫌悪感を抱いてしまう。
コーネダリスはブレイクの思いを感じているようだが、気にせず話を進める。
「なんて言うか、サフィナちゃんに近い誰かの魂、それを入れようとした形跡があったのサ。上手く消してたみたいだけど、私の目は誤魔化せないヨ!」
「ちょっと待ってください、それってヤバイ事なんじゃ……」
ブレイクは自分の考えていた最悪の事態が起こっていたことに、冷静ではいられない。
もしかしたら、あの大樹でサフィナと再開した時に、見た目だけがサフィナで中身が別人の相手になっていた可能性があったのだ。
サフィナも少し俯いて、自分の胸に手を当てている。
「そうだネ。これは予想だけど、その魂を入れるために膨大な魔力が必要で、尚且つ適正の高い人物じゃないといけなかった。そしてそれが、サフィナちゃんだった……って感じだと思ってるのサ。あくまでそうかもしれないってだけだから、確定ではないヨ」
「その魂って、誰の魂なのか分かってるんですか?」
「さすがにそこまでは分からなかったヨ。辛うじて分かったのは、サフィナちゃんに近い魂ってことぐらいサ。近いと言っても、ほんの少し気配が似てるってぐらいだヨ」
気配が似てるとはどういう事だろうか。ブレイクは考えてみるが、よく分からない。しかし、近いという事はサフィナと何かしらの関係があるのか、たまたま性格や考え方が似ているのか……考えてみても今のブレイクでは明確な部分は分からない。
そんな中、広岡が疑問を言葉にする。
「それともう一つ気になるのは、なんで本来の世界に帰ると心臓が止まるのかなんだよね。人外にされた際に、サフィナちゃんがこの世界から逃げられないよう、人外化と一緒にそういう呪いもかけてそうな気がする。それか、人外になったサフィナちゃんの種族の問題かな」
広岡の疑問も分かる。
なぜ元の世界に戻っただけで、心臓が止まるのかも謎なのだ。サフィナについて少し分かっても、更に謎が増えていく。堂々巡りになっている情報に、ブレイクは悶々と悩むことになる。
コーネダリスは広岡の最後の言葉を拾う。
「サフィナちゃんは、サントスに近いと思うヨ」
コーネダリスの言葉に、全員の視線がサントスに集まる。サントスは特に気にせず紅茶を飲んでいた。
ブレイクはサントスとサフィナを見比べる。白目が黒くなっているところはサフィナと一緒だ。
しかし、それ以外に何か共通点があるかと言われると、それはない。サフィナにはツノが生えてるがサントスにはなく、二人とも耳は尖っているが形が少し違う。もしかして、似ているのは中身……体質の方なのかもしれないとブレイクは思った。
「……君たちがいた世界を、私は詳しく知らないんだヨ。だから絶対に同じとは言えないけど、一応説明するネ。サントスは魔力で生命を維持してるのサ。つまり、魔力がないと死ぬってことネ。この世界は沢山の魔力が空気中に浮いてる。人間で言うところの酸素みたいなものだヨ。それが無くなる、又は数が減少すると、生命を維持するのが難しくなるネ」
「魔力の問題かぁ……。でも日本にも魔力は浮いてるからなぁ。そりゃまぁ、中東やヨーロッパに比べたら日本は少ないかもしれないけど、だからって一瞬で心臓が止まるのはおかしいよね」
そう言った広岡に、コーネダリスは頷く。
「そうだネ。だから私も君が言ってたお呪い……というより呪いかな。それをかけられた可能性が一番高いと思うヨ」
「呪い……」
呪い。呪いとも読むが、確かに呪いの方が近いかもしれない。
そう思ったブレイクは更にサフィナが心配になる。大事な人に呪いをかけられたと言われ、はいそうですかで済ませることはできない。
しかし、広岡の言葉にブレイクは思考を変える。
「憎悪のある呪いより、ここにいて欲しいっていう呪いに見えるけど、まぁどっちにせよ一緒か……」
ブレイクは広岡が呟いた言葉に少し納得した。もし相手の目的がサフィナに誰かの魂を入れることなら、そう簡単に死なせるような事はしないだろう。
しかし、元の世界に帰られると困る。だからあのようなやり方になった、その可能性もありえなくはない。実際そのせいで、サフィナは今すぐ元の世界に帰る事ができなくなっている。
元の世界に帰らなければ、まずサフィナが死ぬことはないだろう。しかし、帰るためにはサフィナを人間に戻すか、その呪いを解く必要がある。
もっと調べなければいけないこと、これから何をするべきなのか、ブレイクは頭を悩ませる。
「考えないといけない事が沢山あると思うのサ。でも、あんまりネガティブになっちゃ駄目だヨ。心から暗くなると体にまで影響が出るからネ。お兄さんがしょげてちゃ、サフィナちゃんも心配しちゃうのサ」
「……あぁ」
コーネダリスはブレイクに励ましの言葉を投げるが、今のブレイクには答える余裕がない。
しっかりとした返事をしないブレイクをコーネダリスは気にしない。少し彼を心配そうに見つめた後、棚部の方を向いて人差し指を立てる。
「それじゃあ、次は魔法陣にかんしてだネ」
「あの魔法陣について、なんか気になることでもあった?」
コーネダリスの魔法陣という言葉を聞いて、ノーザイは棚部に問うが、それに返答したのは広岡だった。
「僕たちが飛ばされて来た場所で、みんなが再会してワチャワチャしてた時あったでしょ? その後ろでちょっと魔法陣を調べてたんだけど、気になる事があってね」
「ふーん? 俺にはよく分からんけど」
「まぁ大したことじゃないよ。ちょっと確認したいだけだから、大勢で行かなくてもいいかな」
広岡がそう言って席を立つと、棚部も席を立ってコートを羽織る。
「俺と広岡、それとコーネダリスさんで調査に行く。お前らはここで待機しといてくれ」
棚部が調査に行くメンバーを言うと、徳札が胸に手を当て乗り出す。その表情はとても必死に見えた。
「私もついて行っては駄目ですか?」
「悪いな、メンバーは固定だ」
「……分かりました」
誰が見ても分かるほど肩を下げてしょんぼりした徳札に、棚部は「館を頼むぞ」と徳札の肩を優しく叩く。
「マトロポスとサントスはみんなと仲良くしててネ! みんなも二人に聞きたい事とかあったら、いろいろ聞いてみてもいいのサ! それじゃ行ってくるヨ」
コーネダリスは手を振り、マトロポスやサントス、ノーザイや桜音姉妹も手を振り返して見送る。
そんな後ろでは、サフィナの事を考えて俯いているブレイクと、同行を拒否され沈んでいる徳札がおり、そこだけ空気が重くなっていた。
サフィナはブレイクの隣で心配そうに何か話しており、白金と高峰は徳札を慰めていた。しかし、徳札は「館を頼まれたんです。落ち込んでる場合ではありませんね!」と言って、急に元気になっていた。それを白金と高峰は見慣れているのか、気にせず一緒にオーと拳を上げていた。
そんな温度差の激しいリビングの扉を閉じて、コーネダリスは棚部と広岡の後を付いて行く。




