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人外だらけの世界に飛ばされた人間様御一行の記録  作者: 南野


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第二話 人間様御一行


 高いところから落とされたような、強い衝撃しょうげきに身体が痛む。そして、周りからも痛みをうったえるような声がする。

 ブレイクたちは、なぜか大樹たいじゅみきの中にいた。木の香りがただよっているみきの中はとても広い。数人の人間が居ても尚、広く感じるほどの大きさだ。

 地面を見ると、うっすらと魔法陣のような模様もようが見えた。しっかり見たわけではないが、意識が落ちる前に見たものとは少し違うように感じた。状況がいまいち読み込めない中、陽気な声が耳に入ってきた。


「おぉー、本当に来た……って多くない!? え、何人いるの? えーと……七人? なんか聞いてた話と違うなぁ。来るのは二人だけって言ってたような……」

「ノ、ノーザイさん、私にも確認させてくださいっ!」

「どうぞどうぞ。あの金髪ロン毛の人とか、あんた似てるよ」

「えっ!」


 そんな声が聞こえてハッとする。男性の方は知らない声だが、彼女の声は知っている。どんな時でも忘れられない、ずっと探していた愛しい妹、サフィナの声だ。痛む身体にむちを打ち、起き上がって声のした方へと目を向ける。

 そこには、一年前から行方不明だったサフィナがいた。

 しかし、ブレイク自身の記憶が正しければ、自分の妹は二本のツノなど生えていないし、白目が黒目だったこともなく、耳も尖っていなかった。だが、目の前で泣きそうになっている少女が、間違いなく妹のサフィナであることは疑いようもない。


「お、お兄ちゃん……? 嘘、本当に?」


 ブレイクは立ち上がって、目にいっぱいの涙を浮かべる彼女を抱き締める。彼女はブレイクを抱き締め返して、大粒おおつぶの涙をこぼす。


「お兄ちゃんっ! お兄ちゃん、会いたかった!急に居なくなってしまって、ごめんなさい! 私……こんな姿になっちゃったけど、でも……!」

「サフィナ。お前がどんな姿になろうと、お前は俺の唯一の妹だ。会えて良かった。ずっと、探してたんだ。サフィナ、会いに来るのが遅くなって悪かった」


ブレイクの言葉にサフィナは更に泣き出し、先程よりも強くブレイクを抱き締めた。


「あー、感動の再会をしている途中で悪いが、とりあえずここから移動したい。あまり良い場所じゃないからな」


 二人が再会を喜んでいる中、低く圧のある声が聞こえた。それは初めて聞く声だったが、その声を聞いた他の人間達は「あ」と声を出していた。

そして、後ろの誰かが大きな声でその名を呼んだ。


本貴もときさん!」


 その声は和装姿をした男の声だった。そして、誰よりも早く彼の元へり、良かった……良かった……とずっとつぶやいている。その後に続くように他の人達も立ち上がり、ブレイクたちが落ちてきた大樹たいじゅみきの中から出てきた。

 ぞろぞろと何かを話ながら出てきた人たちを眺めていたサフィナは、ハッとした表情になりブレイクからバッと離れた。ブレイクは少し名残惜なごりおしくなったが、状況が状況なのでぐっとこらえた。


「あっ! 抱きついたままだと動けないよね! ご、ごめん! 会えたのが嬉しくって、つい……」

「問題ない。俺はいつでも、お前の抱擁ほうようを待っている」


 サフィナが照れつつも焦りながら「うん」と笑顔で答えた。そんなサフィナを愛おしく眺めていると、本貴もときさんと呼ばれた男が、ここにいる全員に聞こえるよう大きめの声で指示を出した。


「とりあえずここから移動するぞ。ここはあまり安全ではないからな」


 彼のその言葉に、周りはぞろぞろと彼の後をついて大樹たいじゅから離れていく。ついていこうと歩き出した時、隣から陽気な声が聞こえた。


「いやー、良かったね。サフィナはずっとお兄さんのこと心配してたし、会いたがってたからなぁ」

「うん、本当に良かったです。もし私がお兄ちゃんの立場だったら、ずっと心配で心配でどうにかなっちゃいそうですし……。大事な家族が何も言わず、突然いなくなるなんてつらい事だと思います。でも、私はそれをお兄ちゃんにしてしまった。だからもう、絶対に心配させないよう頑張るって決めました」


隣でサフィナと会話しているのは、サフィナと共にここへ来た男だ。サフィナは親しそうに彼と会話をしている。

 彼はカラーレンズの丸メガネを掛け、青白い肌をした赤髪の青年だった。確かサフィナからノーザイと呼ばれていた気がする。

ノーザイをパッと見ただけなら、顔色がすぐれない体調の悪そうな人間に思える。しかし、彼が口を開いた時に少し見えた舌の色は真っ青だった。人間ではありえない色だ。

凝視ぎょうししていたせいか、ノーザイと目が合った。ノーザイは頭にハテナを浮かべて、こちらに聞いてきた。


「どうしたん? 俺の顔になんか付いてる?」

「いや、なにもついてないから安心しろ。ただ、口内が珍しい色をしているなと思っただけだ」

「そう? もっとこの世界を見て回れば、俺の舌の色なんて些細ささいなことだった。そう思うようになるよ」


そんな会話をしながら歩き、大樹たいじゅが少し小さく見えてきたところで立ち止まる。

 棚部たなべの前には、とあるものが置いてあった。棚部たなべは目の前の物に少し触れる。そうすれば、中へ入るための扉が現れ開く。それはとても近未来的きんみらいてきだった。


「これは一応車だ、気にせず乗ってくれ。それと広岡ひろおか、お前は助手席だ。これに乗って俺たちが今住んでる『デルテのやかた』まで行くぞ」

「へー、車とかあるんだ。しかもちょっと近未来的きんみらいてきな車、なんか世界観と合わないね。この車だけ間違えて過去に来ちゃったのかな? いや、逆に取り残されたのか? ……ん? それだとヤバイんじゃ……ま、そうじゃないことをいのるか」


 いつのまにか隣に立っていた広岡ひろおかは、車を見て何かを考えているようだ。

 確かにこの車が気になるのもわかる。自分がよく知る車とは違い、近未来きんみらいを感じるデザインだ。その見た目はこの世界に似合わず、この車だけがこの世界から浮いて見える。車への疑問はあるが、今は状況を把握はあくするのが先だ。ブレイクは頭を切り替えて、これからどうするか考えることにした。

 運転席と助手席以外は、中央の小さな机を囲むように長椅子が配置されている。めれば十人ほど乗れそうな広さだ。

本貴もときさんと呼ばれていた男が運転してくれるらしい。助手席には指名された広岡ひろおかがそそくさと乗っていた。残されたメンバーは後ろの長椅子に座り、小さな机を囲むことになった。

 乗り込んですぐ、ノーザイがみんなに聞こえるよう、大きめの声でひとつ提案をした。


「目的地に着くまでもう少し時間が掛かるから、もうここで自己紹介しようよ。うん、いい提案ていあんだ。よし、俺はノーザイ。ノーザイ・バンプス。俺は人間に対して友好的だから、あんたらに危害きがいを加えたりはしないよ。それに棚部たなべさんの知り合いみたいだし」


ノーザイは口をはさすきを与えずツラツラと述べ、運転している本貴もときへバトンを渡し、そのまま近い席順でそれぞれ自己紹介をすることになった。


「サフィナのお兄さん以外は知ってると思うが、俺は棚部本貴たなべもとき。あっちの世界では警部をしてた」


 棚部本貴たなべもとき。ブレイクは彼の容姿をよく見て、広岡ひろおかが探していた男の特徴と合致することに気付いた。

彼が探していたのは警部さんだったのか。自分以外はみんな知り合いらしいので、もしかしたら一緒に落ちてきた人達の中には、同じように警察関係者がいるのかもしれない。

 そう思ったブレイクの考えは、一瞬で砕け散る。


「僕は広岡雅埜ひろおかまさや。ブラックハットハッカー、つまり犯罪者さ。とは言っても、ここにはインターネット無いみたいだし、怖がらなくていいよ。ここでの僕はネットが使えなくて弱体化した、ただの頭のいい男でしかないからね」


 助手席に座ったままこちらに顔を向けて、自己紹介をした広岡ひろおかに対して「なんだこいつ……」という感想が出そうになったがやめた。

何故そのような男が、警部である棚部たなべを探していたのかはわからない。自ら捕まるためではないだろうし、何かそれ以外の関わりがあるのかもしれない。

 ブレイクが広岡ひろおかを少し怪しんでいると、その広岡ひろおかの言葉に対して、黒縁メガネを掛けた黒髪の男が何かに気付いたように言った。


「……ん? ネットが使えない? ちょっと待ってください、まさかスマホが使えない?」

「連絡手段としてスマホは使えないよ。全部圏外だから、自分のスマホを見てみるといい。まぁ、写真を撮るとかダウンロード済みの音楽を聴くとか、それぐらいならできると思う。あぁでも、ゲームとか検索とかは無理だろうね」

「終わった……。僕のログインボーナス……。一昨日おとといから始まったイベントが…………」


広岡ひろおかのゲームも出来ないという回答に、黒縁メガネを掛けた黒髪の男性は一粒ひとつぶの涙を流し天をあおいでいた。

 二人のやり取りを聞いて、ブレイクや一緒に飛ばされて来た人たちがスマートフォンを確認するが、上には圏外と表記されていた。

広岡ひろおかが言ったように、スマートフォンを連絡手段として使うのは難しそうだった。

 スマートフォンの確認が終わり、広岡ひろおかがいる助手席の後ろ、そこに座っている眼鏡を掛けた女性が自己紹介を始めた。


「次は私ね。私は桜音百奈さくらねももな本貴もときさんから見てめいっ子に当たります。そして、こっちは私の妹」


 彼女はななめにカットされたボブヘアをし、赤い眼鏡を掛け、パンツスタイルの服装をしている。

そしてその桜音百奈さくらねももなの服装とは対照的に、フリルやリボンなどが付いた可愛らしい服装をした、ツインテールの少女がおずおずと自分の紹介をした。


「あ、あたしは桜音百花さくらねももか。ただの高校生だよ……」


 同じ瑠璃色の髪に、同じ空色の目をした二人組。見た目からして姉妹とは思っていたが、やはり姉妹らしい。そして妹の方は少しシャイなのかもしれない。

 次に順番が回ってきたのは、和装姿で煙管キセルくわえている、前髪以外をパッツンに切りそろえた紫髪の男。


「はぁ……。私は徳札道吏とくさねどうり骨董屋こっとうやを営んでます。ついでに、その骨董屋こっとうやの鍵をかけるのも忘れました。正直めちゃくちゃ焦ってます」


 徳札とくさねと名乗った男の表情は、さっきと変わらず眉間みけんしわを寄せているが、顔中から汗がダラダラと出ており本当に焦っているのがうかがえる。

 そんな徳札とくさね広岡ひろおかが言葉を投げた。その時の広岡ひろおかの顔は、面白くて笑みが止まらないといった表情だった。


「マジでヤバイじゃん。帰ったら骨董品こっとうひんぬすまれてるやつだね」

「うるさい、言われなくても分かってます。貴方に頼むのはしゃくですが、マジでぬすまれてたら助けて下さい」

「それぐらい簡単だからいいよ。でも対価たいかとして、何個か骨董品こっとうひんを貰っていいかな?」

「……物によりますが、いいでしょう」

 

徳札とくさね苦渋くじゅうの決断をしたかのような顔で、先程さきほどの紹介時より低めの声で了承りょうしょうした。

 そんな二人のやり取りを見ていた、長い白髪を低めのサイドでまとめて結び、黒色と金色のオッドアイをした男性が紹介を始めた。


「俺は白金空李しろがねくうり。なんでも屋してんねん、困ったことがあったら是非ぜひ! 俺になんでも相談してな! もちろん、料金はキッチリ頂きますけど」


元気よく笑顔で答えていく中、料金の話になった瞬間、白金しろがねはびっくりするほど一瞬で真顔になった。

 彼はお金にうるさいタイプかもしれない。もし白金しろがねに頼むことがあれば、お金は多めに用意した方がいいだろう。

 白金しろがねの隣に座っている、黒縁メガネに黒い目、黒い髪をセンター分けにした男性が次に紹介する。彼はスマートフォンが使えないことになげいていた男だ。


「……高峰皓利たかみねこうり。名前以外で僕について話すことは特にない」


彼は、それ以外の情報を話さなかった。隣の白金しろがねが「もっと紹介すればええのに」と言うが、高峰たかみねは「特にない」としか答えなかった。彼は本当に話すことがないのかもしれない。

 そして、妹のサフィナに順番が回ってきた。


「私はサフィナ・グレイラル。一年前に何もわからないまま急にここに連れてこられたけど、偶然私と一緒に連れてこられた棚部たなべさんに助けてもらったの」


 サフィナの紹介で驚いたのは、今運転している棚部たなべという男も一緒に巻き込まれていたということだ。巻き込まれた。つまりサフィナは当時、棚部たなべと共にいたということになる。なぜ一緒にいたのか聞きたいが、それは後で聞くことにした。今は自己紹介が先だ。


「俺はブレイク・グレイラル。さっき見てたからわかると思いますけど、サフィナの兄です。サフィナを探してあの公園にいて、地下駐車場から声がしたからそこへ行って、あの謎の生き物に遭遇そうぐうしたらここにいたという感じです」


これで全員の紹介が終わった。

 ブレイクは全員の紹介を聞いて思った。おそらくここにいるほとんどが棚部たなべという男を探していた所で巻き込まれ、サフィナを探していた自分も巻き込まれた。これには何か理由があるのか、それとも偶然かは分からない。

それに、自分たちをここに連れてきたであろう、あの時のバケモノがなんなのかも知らない。しかし、あのバケモノを広岡ひろおかは知っている様子だった。

 ブレイクが悶々《もんもん》と考えていると、ノーザイが屈託くったくのない笑顔で喋り始めた。


「うんうん、これで自己紹介は終わり。みんなの名前しっかり覚えたよ! それに丁度いい時間だね。多分そろそろ着くよ。くわしい話はそこでしようか、あんたらを連れてきた御本人が待ってるだろうし」


 笑顔で言ったノーザイの話の中に、聞き捨てならない言葉があった。ブレイクがそれに言及げんきゅうしようとする前に、高峰たかみねが先にノーザイへ聞いた。


「ちょっと待て。連れてきた御本人ってことはアレか? あのバケモノが待ってるのか? さすがにまたアレを見るのは嫌なんだが」

「え、バケモノ? いやまぁ確かにバケモノ級の力は持ってそうだけど、見た目はめっちゃ良くない? ……あ、もしかして人間の姿になってなかった? あちゃ~、そりゃ嫌だね。でも安心して。多分人間の姿になってると思うから……たぶん」


ノーザイは頭に手を当て、外へ目をらしながら、あはは……と乾いた笑いを溢した。


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