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人外だらけの世界に飛ばされた人間様御一行の記録  作者: 南野


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第一話 尋ね人


 カーテンの隙間から射し込むかすかな朝日で、ブレイクは目を覚ます。

自身の長い金髪を雑に結び、ベッド横のサイドテーブルに置かれた写真立てを取って、すがるように今日も祈る。

 サフィナに会いたい、と。

 唯一の家族であった妹のサフィナが行方不明になってから、もう一年が経った。未だ有力な情報は得られず、妹が消えたあの日から毎日、妹が最後に確認された場所へと向かう。

 サフィナが最後に確認された、なんの変哲へんてつもない公園。強いて言うなら、ここの公園には地下駐車場がある。しかし、数年前から地下駐車場は封鎖ふうさされている。

 ここに来たところで、何も情報が落ちていない事はここ一年で分かりきっている。しかし、どうしてもこの公園に来てしまう。何故だか分からないが、ひそかに妹の気配を感じてしまうから。

 上着のポケットからスマートフォンを取り出し、何か新しい情報が出ていないか確認をしようと下を向いた瞬間だった。


「やぁ、こんにちは」


なんの気配もなく、突然背後から話しかけられて肩が上がる。

 咄嗟とっさに後ろを向くと、真っ黒なロングパーカーを着ており、首には赤い飾りが付いた黒いチョーカーをしている、銀髪の青年が立っていた。少しだけ長い襟足えりあしなびかせた男は、ニヒルな笑みを浮かべてこう言った。


「キミはよくここに来てる人だよね? もし知ってたらでいいんだけど……黒髪に白のメッシュが入ったオールバックで、サングラスを掛けた、185cmぐらいあるスーツ姿の男の人を見掛けたりしてない?」

「いや、ほぼ毎日ここに来てますけど……その特徴に当てはまる男の人は見たことないですね」

「うーん、そっかぁ……残念」


そう言った銀髪の男は、それほど残念そうには見えなかった。それよりも、自分は彼をどこかで見たことがあったような気がした。

なんとなく、あまりこの銀髪の男には関わらない方がいい、自分の勘がそう言っている。そそくさとこの場から去ろうとした時、封鎖されているはずの地下駐車場からわずかだが、女性の悲鳴のような声がかすかに聞こえた。

 それは銀髪の男にも聞こえていたようで、楽しそうな「おや?」という声を発した後、なんの躊躇ちゅうちょもなくこちらの腕をつかみ、地下駐車場へと向かおうとした。


「は? え!?」

「もしかしたら、キミの探しモノは地下にあるのかもしれないね。行ってみる価値はあるよ。あとは……そうだな、僕もちょっと確認したいことがあってね」


ブレイクは銀髪の男の言い分に、明確な否定ができなかった。

 妹のサフィナが最後に確認された場所はこの公園で、もしかして地下駐車場のなにかあるのかもしれないと、そう思ったことが何度もあるからだ。この一年で、何度もこの地下駐車場の持ち主に問い合わせても入る許可が降りず、勝手に入ってもこちらが捕まるため何もできずにいた。

今なら、人の悲鳴のような声が聞こえたという大義名分たいぎめいぶんができ、尚且つ自分だけでなく彼にも声は聞こえていた。今行かないと、一生地下駐車場に行けない気がした。

 ブレイクは銀髪の男の手を払い、自分も行くからと伝えた。

銀髪の男は「そっか」とだけ言い、特に気にする様子もなくスタスタと地下駐車場へと歩いて行く。それを追うようにして、ブレイクも薄暗い中を進んでいく。

 ある程度歩けば、女性の声と男性の声が明確に聞こえた。それも、何かを言い争っているような、複数の声だ。

 薄暗く見えづらかった複数の人影が、しっかりと確認できる近さまで来たところで、銀髪の男が口を開いた。


「あぁ、なんだ。やっぱりキミ達か」


 その声に、そこにいた全員が振り向く。

眼鏡を掛けた女性一人とツインテールの女の子一人、そして男性が三人。それぞれが、銀髪の男の顔を見て驚いた顔をした。

三人の男性の内、和装姿で煙管キセルを持った紫髪の男が舌打ちをした後、嫌そうに言った。


「なぜ貴方がここにいるんですか、広岡ひろおかさん?」

「なぜって、聞き覚えのある声……っていうか悲鳴が聞こえたから。もしかしたら、キミたちと一緒に本貴もときさんもいるのかなぁ~って。でも、いないみたいだね」


 広岡ひろおかと呼ばれた銀髪の男の言葉に、眼鏡を掛けた女性が広岡ひろおかに言葉を投げ掛ける。


「さっきの悲鳴は百花ももかのですね。大きめの虫が出てきて驚いちゃったみたいで……。それより雅埜まさやさん。貴方も本貴もときさんの居場所を知らないんですか? てっきり、貴方と一緒にまた何処かへ行ったのかと……。でも、あの人がいなくなってからもう一年が経って、さすがに何かあったんじゃないかと貴方に連絡しようと思っていたんです。けれど中々連絡が着かなくて、詰んでたところなんです……」

「あー……連絡先変えたって言うの忘れてたね。ごめんごめん」


困った顔をした眼鏡の女性に対して、片手を顔の前に持ってきて謝罪する広岡ひろおかは、全く申し訳ないと思ってなさそうであった。

 ブレイクはその女性の近くに居た女の子と目が合った。女の子が何か言おうと口を開いたその時、ゾワッとした気配がした。

ここにいた全員が、何かを感じ取った。男性三人や女性と女の子は、バッと後ろを振り向いた。ブレイクや広岡ひろおかも同じように、向こうにいる何かを凝視ぎょうしする。

その姿をとらえた瞬間、ブレイクには悪寒おかんが走る。

 全員の視界に入ったのは、この世のモノとは思えないバケモノだった。頭から大きくて太い触手のような物が生え、口なのか大きな穴なのか分からないほどの暗黒と赤いひし形の何か、地面についた何本もの触手は今にも襲いかかりそうにうごめいている。

 誰しもがその姿から目を離せず、逃げようと動くこともできなかった。息をするのがやっとで、何も喋れない。目の前の恐怖と逃げられない絶望で冷や汗が止まらない。

 そんな静かな中、先程さきほどと変わらぬ声がブレイクの横から響いた。その声は広岡ひろおかの声だった。


「へぇ、キミが直々《じきじき》に来るんだ。本貴もときさんや彼の妹さんがいる場所まで、キミが親切に連れていってくれるのかい?」


 平然とした態度で言う広岡ひろおかの声に、バケモノの口のような長細い穴のような暗黒が、笑った気がした。

そして何かをつぶやいてる。何をつぶやいているのかまでは分からない。ただ、それが良くないものだということは本能で分かる。しかし、逃げようとしたくても体が動かない。

 何故か意識が朦朧もうろうとしてきた。どうにか意識を保とうとするが、その努力は意味を成さない。

 意識が完全に落ちる前、ブレイクの目に映ったのは、見たこともない魔法陣のような光だった。


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