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人外だらけの世界に飛ばされた人間様御一行の記録  作者: 南野


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第十七話 どんな関係


 ブレイクは気になっていた。同じやかたで住む事になった、彼らや彼女らの事を。

自分とサフィナ、ノーザイ以外は以前からの知り合いであることは分かっている。

 ブレイクが今の時点で知っているのは、棚部たなべが警部で、棚部たなべめい桜音さくらね姉妹。徳札とくさね白金しろがね高峰たかみねの三人が幼馴染み。そして広岡ひろおかがブラックハットハッカー……つまり犯罪者という事ぐらいである。

 今リビングには全員がそろっていて、晩飯ばんめしを食べながら話している。

今日の晩御飯ばんごはんの料理当番は棚部たなべだった。彼の作った料理は、正直めちゃくちゃ美味しい。お店に出せるレベルの腕前だ。あまりにも美味しくて、食べるのに集中してしまいそうになる。

 だが、今の内に聞いておきたい。ある程度の日数が経った後だと、今頃いまごろそれを聞くのもな……と少し思ってしまう。

ブレイクは意を決して聞いてみることにした。


「あの、みなさんにお聞きしたい事があるんですけど……」

「ん? どうしたの?」


ブレイクの言葉に広岡ひろおかが返事をして、周りのみんなもブレイクを見る。全員の視線がブレイクに向き、ブレイクは少し肩をゆららしておどろくが、すぐに姿勢しせいを正す。


「いえ、大した事じゃないんですけど……俺、あんまりみなさんの事とか、関係性をよく知らないなって。だから、どうなんだろうって……それを聞いてみたかっただけです」

「それ俺も聞きたーい!」


 ノーザイがブレイクの提案に乗るようにして言う。ノーザイもブレイクと同じように、あまり知らない事が多い。特にノーザイは『カコデモニア』という世界で産まれて生きてきたため、尚のこと分からないだろう。


「そう言っても、特に話せる事なんてない気がする。……あ、僕の推しについて聞くか?」


 高峰たかみねはうーんと悩んだ後、頭に電球を出して、キラキラとした目で好きなものについて語ろうとした。


「やめとき。皓利こうりにその話させると長くなるで」

「え?」


白金しろがねに止められた高峰たかみねは、少し悲しそうな顔で「また止められた……」と言葉をこぼして、止まっていた食事を再開する。

 そんな二人を置いてノーザイは手を上げて言う。


「じゃあさ、俺から質問していい?」

「どうぞ」


棚部たなべの返事に、ノーザイは周りのみんなを見渡しながら質問をしていく。


「みんながそれぞれ出会ったのっていつ? いつから知り合いなの? はい、まずは棚部たなべさんから」


 ノーザイに指名された棚部たなべは一旦視線を外して、少し考える素振りをしてから話を始める。


「あー、広岡ひろおかとは十二年前に初めて出会った。第一印象は最悪だったな。道吏どうりたちは九年前ぐらいか? それぐらいで出会った……と言うより広岡ひろおかと一緒に会いに行ったな。百奈ももな百花ももかは産まれた時から知ってる、姉貴の子供だからな。まぁ、今は俺が二人を引き取ってる形だが……」


 姉について話した時、棚部たなべが少しうれいをびた表情になった。

姉の子供二人を棚部たなべが引き取ったということは、おそらく桜音さくらね姉妹の両親は亡くなっているのだろう。

そんな姉妹をブレイクは少し自分と重ねる。ブレイクも十年ほど前に両親が亡くなり、サフィナと二人で残された。しかし、両親の亡くなった理由を覚えていない。何かがあったのだが、その記憶が曖昧あいまいなのだ。

 ブレイクが少し傷心しょうしんひたる中、棚部たなべの回答に続いて広岡ひろおかも話し始める。


「僕の第一印象最悪だったんだね、知ってた。でも僕はキミのこと結構好印象だったよ。……百奈ももなちゃんと百花ももかちゃんは八年前かな? 確かそれぐらいの時期に会いに行った気がする」

「あんたらって十二年の付き合いなんだ。まぁ、長い付き合いなんだろうな~とは思ってたけど」


棚部たなべ広岡ひろおかの回答に、ノーザイがヘラヘラした笑みで言いながら、残っていたお茶を飲む。

 そしてノーザイと同じようにお茶を飲んでいた広岡ひろおかを、棚部たなべ頬杖ほおづえを付いて見ながら話す。


「あの時は、こいつとこんな長い付き合いになるなんて全く思ってなかったよ。本当にあの事件はいやな思い出だ。そして、その事件を計画した黒幕ナイアーの手を借りてる、今の俺自身にもいやな感情がある」

「んははっ、相変わらず生きづらそうでなにより」

「うるせぇ、複雑なんだよ」


ケラケラと笑いながら棚部たなべ揶揄やゆする広岡ひろおかに、棚部たなべ眉間みけんしわを寄せて言い放つ。

 そんな二人を見てノーザイはうなずいて笑みを浮かべ、そのまま桜音さくらね姉妹へ話題を聞く。


「うんうん、何言ってるのかよく分からんけど、二人は仲が良いってことだね。百奈ももな百花ももかは?」

「私は本貴もときさんや雅埜まさやさんが言った通りですね。徳札とくさねさん、白金しろがねさん、高峰たかみねさんとは六年前……病院で始めて会いましたね」

「私も……出会った時期とか全部、姉さんと一緒だよ」

「病院? 誰か大きな怪我とかした?」


 百奈ももな百花ももかの後に、ノーザイが病院という単語に反応した。

百奈ももな広岡ひろおか白金しろがねを見て、困り眉になりながら説明を始めた。


雅埜まさやさんと白金しろがねさんが重傷を負ってしまって……本貴もときさんや徳札とくさねさん、高峰たかみねさんも軽傷ですが怪我をしたんです。私はくわしく知らないんですけど、大変な事件に巻き込まれたみたいで……」


白金しろがねはけろりとした様子で「あぁ!」と手をポンと叩き、普段と変わらない笑顔だった。そんな白金しろがねと同じように、広岡ひろおかも特に気にした様子はなく、いつもと同じようにニヒルな笑みを浮かべて話す。


「あったあった。あの時もし広岡ひろおかさんがおらんかったら、俺はたぶん死んでたわ」

「あれは本当に危なかった。ほんと、神様は怖いよね~」

「え、あれって神様やったん!? どう見てもバケモノみたいな見た目やったけど?」

「いやー、神様というか邪神じゃしんって感じなんだけどね……」

「その話は長くなるからやめとけ」


 白金しろがね広岡ひろおかの会話を棚部たなべさえぎる。

それに続くように徳札とくさねは困ったような顔で、高峰たかみねは真剣な面持おももちで話していく。


「まぁ、あまり良い思い出ではないですね。大事な家族を一人失うところでした」

「あれは危機一髪ききいっぱつだった。数秒でも遅れてたら……って考えると怖いな」


 そんな徳札とくさねたちの会話を聞きながら、百奈ももなはあの日のことを思い出す。

 財閥ざいばつの長男であり、警察のおえらいさんでもある荒乃射あらのい一也いちやから、棚部たなべ広岡ひろおかが怪我をして病院に運ばれたという連絡を受けた。しかも広岡ひろおかの方は重傷だという。そして、その連絡をくれた荒乃射あらのい一也いちやは病院まで送ってくれた。そのまま急いで百花ももかと一緒に、案内された病室へ向かい扉を開けた。

そしたら、棚部たなべ以外の知らない男子二名がこちらを向いてきたので、ビックリして一瞬固まったのを覚えている。隣にいた百花ももかおどろいて、自分の後ろにスッと隠れた。

軽症だった棚部たなべ徳札とくさね高峰たかみねが、重傷でベッドの上にいた広岡ひろおか白金しろがねの周りに居たのだ。

そしてそのまま、病室内で自己紹介をして、自分たちはそこから三人と関わる事が増えた。

広岡ひろおか白金しろがねの怪我は、入院して安静あんせいにしていれば、あとは残るが完治かんちするもので、とても安心したのを覚えている。

 特に、あの日自分を助けてくれた広岡ひろおかには、自分のように不自由にはなって欲しくないと思っていた。

 いったい何があって二人が重傷を負い、他三人も怪我をしたのかは分からない。しかし徳札とくさね高峰たかみねから見ると、白金しろがねが重傷を負って入院していたというのは、あまりいい思い出ではないのだろうと百奈ももなは思う。


「うーん、嫌な思い出なら無理して言わなくてもいいよ? そうだな……えーっと、三人はいつから知り合い?」


 ノーザイはあまり良い顔をしない徳札とくさねたちの反応を見て、申し訳なさそうにしながら話題を変えようとしてくれた。


「確か小学一年ぐらいやったから……七歳で初めましてやな。俺らが今二十二歳やから、十五年の付き合いってことになるで」

「もうそんなに経ってるんですか……時間って早いですね」

「そうだな、僕らも歳を取った」


 白金しろがねの十五年の付き合いという言葉に、徳札とくさね高峰たかみね感慨深かんがいぶかく感じているのが分かる反応をした。

 歳を取ったと言った高峰たかみねに、広岡ひろおかはニヤケづらで話し掛ける。


「キミたちまだ二十代前半じゃん。ここにいる三十路みそじの前でそんなこと言っちゃ駄目だよ……いっ!?」


 棚部たなべを指差ししながら発言した広岡ひろおかの指を、棚部たなべが思い切りつかみ、曲がるはずのない反対側へと曲げようとした。広岡ひろおか痛みの声を上げて、棚部たなべの手から指をいきおいよく抜いた。そして反対に曲げられそうになった指をさすりながら、棚部たなべに「ごめんって」と反省はんせいの色が見えない顔と声で言った。

 そんな二人を無視してノーザイはうんうんと首を縦に振る。


「なるほど……みんなの関係性は大体分かったよ。とりあえず、みんなそれなりに長い付き合いなんだね」


 サフィナは周りを見ながら、少しまゆを下げてつぶやく。それは悲しさではなく、純粋なうらやましさを宿やどした眼差しだった。


「なんか、ちょっとうらやましいです。そんなに長く続く関係性って、あこがれちゃいます。私にはお兄ちゃんしかいなかったから……」


 そんなサフィナの隣に座っていた百花ももかがサフィナの片手を両手でつつむ。

 百花にとってサフィナは、姉以外で深く関わった女性であり同い年で優しい相手なのだ。百花ももかにとって、姉の百奈ももな叔父おじ棚部たなべとはまた違った、ある意味特別な相手とも言える。

 百花ももかはあまり人付き合いが得意ではない。学校(ごと)に仲良くなった相手はいても、学校が変わると離れていきそのまま疎遠そえんになることばかりだった。

 しかし、こんな事態に巻き込まれ、同じやかたに住んで、朝昼晩あさひるばんと同じ食卓しょくたくかこんで、まるで家族のように振る舞う。それに、話す時にどもる自分に対して、他の人と変わらず接してくれる。

 そんなサフィナがうらやましがる関係性を持てる相手、百花ももかはそれになりたいと思っている。百花ももか緊張きんちょうで目をウロウロさせてたが、少ししてサフィナの目をしっかりと見つめ、恥ずかしそうにしながらも思いをぶつけた。


「……サフィナちゃん。えっと、その……あ、あたしはサフィナちゃんと……長く付き合っていきたいと思ってる。あたしは……何度も会いに来てくれるみんなのお陰で、今こうしていられる。そこに、サフィナちゃんも居て欲しいと思ってる。あたしはこれから何年、何十年とサフィナちゃんと……とと、とも、友達で、いたい……」

百花ももかさん……私も、百花ももかさんと同じ気持ちです!」


 百花ももかの思いはサフィナにしっかりと伝わっており、サフィナは嬉しそうに、感極まったように百花ももかの名を呼んだ。

 己の妹に新しく友達ができ、長く続けていきたいというちかいを目の前で見ていたブレイクももなは、目を閉じて上を向いていた。


「……ブレイクと百奈ももなに混じって、昇天しょうてんした時みたいな顔してる皓利こうりはなんなんだ?」


 ブレイクと百奈ももなに混じって、高峰たかみねも同じ顔をしていた。棚部たなべはそれについて言及げんきゅうした。それに答えたのは広岡ひろおかだった。


「そういうので助かる人もいるってことだよ」

「そういうのってなんだ」


理解させる気のない広岡ひろおかの雑な説明では、棚部たなべだけでなく、そういうのにくわしくない相手には伝わらないだろう。


本貴もときさんは知らなくていいと思います」


 徳札とくさねは首を横に振って、棚部たなべはそのままで良いと伝える。

 白金しろがねは、逆になぜ広岡ひろおかがそういうのにくわしいのか、ひとつの可能性を打ち出そうとした。


「逆になんで広岡ひろおかさんは分かるん? はっ! もしかして、広岡ひろおかさんも……!?」

「違うよ」

「即答やんけ」


白金しろがね高峰たかみねと同じオタクかもしれないという可能性を言う前に、広岡ひろおかに一瞬で否定された。

 広岡ひろおかは目を閉じて上を向いている高峰たかみねを見ながら話す。


「そういう文化もあるって知ってるだけ。それらに対する感情は、良いも悪いもないかな。何を好きになるかは人それぞれだし。でもあの二人の友情をそういう目で見るのは、ちょっと違うような気がしなくもないけど……」


 広岡ひろおかの発言に、上を向いて目を閉じていた高峰たかみねの顔が、真顔になりながらヌルリと広岡ひろおかほうへ向いて否定する。


「違いますよ広岡ひろおかさん。コンビとして見てるんです。決してそういう方向ほうこうで見ている訳ではありません。断じて。僕がそういう目で見るのは二次元のキャラだけです。どうか勘違かんちがいをなさらないようお願いします。死活問題です」


急に真顔になって見つめてきた高峰たかみねに、広岡ひろおかは少しビックリした表情になったが、すぐにいつもと変わらぬ表情に戻る。


「あ、そうなんだ。ごめん。まぁ、迷惑めいわくけないなら好きにすればいいんじゃない?」

「誰よりも他人に迷惑めいわくけてるやつがなんか言ってやがる……」


 隣にいる広岡ひろおかに聞こえる程度ていどの音量で、棚部たなべがポツリとつぶやく。

もちろんそれは広岡ひろおかにもちゃんと聞こえているが、広岡ひろおかは笑みを浮かべながら完全に無視を決め込んでいる。


「俺はよく分からんけど、幸せそうならいいんじゃない?」


 ノーザイは屈託くったくのない笑顔でそう答え、広岡ひろおかも同じように微笑んで相槌あいづちを打つ。


「そうだね」


 それから、色々とみんなで話しつつ皿洗いを済ませた後、女性陣は三階に上がって行き、ノーザイも自分の家へと帰って行った。


 残されたメンバーを見て、ブレイクはふと思い出す。武器庫で広岡ひろおかに止められた、徳札とくさねたち三人が武器の扱いになれていそうだったという、純粋じゅんすいな疑問だ。ブレイクはソファーで何かを話している徳札とくさねたち三人に、聞いてみることにした。


「あ、そういえばもうひとつ聞きたいんですけど。あの時は広岡ひろおかさんに止められて聞けなくて……」

「…………あぁ、そこの幼馴染み三人が武器に手慣てなれてるって話かい?」


リビングから出ようとしていた広岡ひろおかは、ブレイクの言葉に足を止めた。あの武器庫での事を広岡ひろおかも覚えていたようだ。


「えっと、そうです。なんで武器のあついにれてそうだったのかなって、ちょっと気になって……」

「…………」

「…………」

「…………」


 ブレイクの言葉の後、徳札とくさねは無言で煙管きせるを吸い、白金しろがねは何か考えるようにして黙り、高峰たかみねもメガネの位置を直すだけで何も言わなかった。

 一瞬の沈黙ちんもくおとずれ、ブレイクはあせる。

広岡ひろおかの言っていた通り、やはり聞かない方がよかったのかもしれない。そう思うが、既に後の祭りである。


「な、なんで全員黙るんですか?」

「だから聞かない方がいいって言ったのに」


 リビングの扉からブレイクの近くまでやって来た広岡ひろおかは、どうすればいいのか分からず棒立ちのままになったブレイクの背中を優しく叩く。

いつもと変わらない雰囲気ふんいき広岡ひろおかが隣に来たことで、ブレイクは少し息がしやすくなった。

 ブレイクが謝らなくてはと考えていた時、椅子に座ってコーヒーを飲んでいた棚部たなべが口を開く。


「……生きるためだな」

「え?」

「人にはそれぞれ過去がある。幸せな過去もあれば、不幸な過去だってある。生きるために武器を持つしかなかった過去もな」


 棚部たなべの言葉をそのまま受け取るなら、子供の頃から武器を持って誰かを怪我させたり、最悪の場合殺していた過去があの三人にはあったのかと思ってしまう。

とても日本で起きた事とは思えない。ブレイクは少し声が震えた。


「……三人とも日本に住んでたんですよね? ……そんな、ことが……」

「普段は隠れてるだけで、ヤバイやつらは日本にも沢山いるさ。そうだろ、広岡ひろおか


棚部たなべに呼ばれた広岡ひろおかの顔を、ブレイクはチラリと視界に入れる。彼は困り眉で微笑びしょうしながら、いつもの声のトーンで答える。


「なんで僕に振るのさ。僕は子供には優しいよ? 幼い子供を身代わりにして、自分の目的を叶えさせるなんて面白くない。僕はやるなら自分でやる派なんだ。あんなのと一緒にしないでくれ」

「そうか、それは悪かったな。犯罪者同士、通じ合えないか」

「罪を犯すのに、理由はそれぞれだ。それに対して理解できる時もあれば、理解できない時もある。彼らのやりかた、僕は理解できないかな」


 棚部たなべ広岡ひろおかのやり取りを聞くに、余程よほど悪い相手なのだろう。子供を利用して犯罪に巻き込む、その時点で既に最悪だ。ブレイクは顔をしかめた。

 そんなブレイクの横で、広岡ひろおかは人差し指を立てて、棚部たなべにひとつ指摘してきする。


「……あとひとつ言っとくけど、別につながってないからね? 僕は基本的に単独たんどくだよ」

つながってようとつながってなかろうと、お前は一人でもそれなりに脅威きょういなんだよ。しかも、ほぼ確実にナイアーまでくっ付いてくる始末しまつだ。お前とナイアーに引っ張られて、どんだけの人間が巻き込まれたか忘れたのか?」

「それは完全に不可抗力ふかこうりょくなんだよなぁ……。その文句はナイアーに言ってよ」


 二人のやり取りを尻目しりめに、ブレイクは徳札とくさねたちに頭を下げて謝罪する。単なる探求心たんきゅうしんで三人に嫌な事を思い出させてしまった。意図的じゃなくとも、しっかりと謝るべきだ。


「あの……すみません。聞かない方がいいと言われてたのに聞いてしまって。みなさんに嫌な思いをさせてしまった。本当にすみません」


 ブレイクの謝罪に徳札とくさねたちは気を悪くした様子はなく、むしろ申し訳なさそうにしながらブレイクに話し掛ける。


「そう何度も謝らないでもいいですよ。あまり気にしないでください。それに、貴方は知らなくていい世界です。あの二人が言ってた事を聞いた今なら、なんとなく分かるでしょう? 深く知らない方がいこともあるんです」

「そうそう、さっきは黙っててごめんな。なんて言えばええのか、考えてたんや。直接的に言うのもアレやし、かといってどうにごして言うべきか、結構悩むで……」

「うん。聞いてていい気分になる話じゃない。それに、僕たちも対応を間違えた。お互い様だ」


 徳札とくさね白金しろがね高峰たかみねが気をつかい、なんとも重苦おもくるしくなるような空気がただよう。

 そんな中、広岡ひろおかが何かを思い出したのか、いつもの声でブレイクたちに明日の事を聞く。


「あ、そうだ。明日の午後、キミたちは地下で訓練するんだっけ?」

「え……あぁ、はい」

「そっか、頑張ってね」


ブレイクの返事に、広岡ひろおかは目を細めて笑みを浮かべて応援を返した。

 そんな広岡ひろおかを見て、ブレイクはふと思う。この人は戦えるのだろうか。

こう言ってはアレだが、広岡ひろおかは隣にいる棚部たなべほど体格たいかくが良いわけでもなく、むしろヒョロヒョロしている印象いんしょうがある。戦っている姿があまり想像できない。


「……広岡ひろおかさんって戦うの得意じゃないんですか?」

「ん? どうしてそう思うの?」

「貴方が地下の練習場に来るの、見たことなかったので……」


 ヴァヴェートたちと戦ってから、ブレイクはほぼ毎日のように地下の練習場に顔をだしているが、今のところ広岡ひろおかが練習場に居るところを見たことがない。ハッカーという事もあって、この人は肉体的な戦闘より情報戦の方が得意なのかもしれない。

 そう考えていたブレイクは、徳札とくさねが発した言葉に少し驚いた。


「この人、短期戦なら普通に強いですよ。明らかに戦い慣れてる動きをします」

「え、そうなんですか?」

「ええ。ですので、長期戦に持ち込むしか、今の私たちに勝ち目はありません」


そう言った徳札とくさねは、煙管きせるかせながら嫌そうな顔をしていた。

 広岡ひろおか徳札とくさねが座っているソファーの背もたれにひじをついて、徳札とくさねの頭を雑にでながら言う。


「そんなに過大評価かだいひょうかされるなんて光栄こうえいだね。まぁ、本貴もときさんとかが相手だと、さすがに勝てないから安心して。戦いにれれば、僕なんてすぐに倒せるようになるよ」


 徳札とくさねは頭を雑にでる広岡ひろおかの手をバシンと振り払い、煙管きせるを持っていない方の指で、後ろにいる広岡ひろおかしながら弱点をペラペラと話していった。


「そうですね。この人、体力ないですしちからも弱いんですよ。なのでますば戦いに慣れて、この人にすきあたえない。そして長期戦に持ち込んで体力を減らし、そのままちからせればたぶんいけます」

「うーん、何も間違ってない」


徳札とくさねに手を振り払われた広岡ひろおかは特に気にする様子もなく、言われた事に否定もしない。おそらく、徳札とくさねの言っていることは事実なのだろう。

 そんな中、高峰たかみねがポツリと言葉をこぼす。それは、既に家へ帰ったノーザイの事だった。


「明日、ノーザイさんもいてくれれば良かったんだけどな」

「ノーザイは人間にはできない戦い方をしてくれるから、とても勉強になるんですよね。水とか氷で攻撃なんて、普通はそう簡単にできないですし」


ブレイクは高峰たかみねの言葉に、とても分かると思いながら話した。

 人外になってしまったサフィナをのぞくと、生まれも育ちも人外であるノーザイのちからは『カコデモニア』という世界に慣れるために一番有効だった。


「ま、ノーザイくんも仕事があるからなぁ。こればっかりはしゃーない。むしろほとんどの時間を俺らについやしてくれてる。俺らはもっと感謝せなあかんわ」


 白金しろがねは頭の後ろで手を組ながら言った。その言葉に、ブレイクは確かにと思った。

 ノーザイは一応仕事をしている。とは言っても、バイトのような感じらしい。『サレイア』にあるお店のお手伝いを色々と掛け持ちしている。しかし、時間があれば何かと『デルテのやかた』に来るため、普段はバイトをしているイメージがあまりない。ノーザイの話によれば、早朝と夜によくバイトを入れているみたいだ。

ノーザイがこのやかたに来るのが朝の十時ぐらいで、帰るのが夜の九時ぐらいだ。朝の十時より前からバイトをして、夜の九時ぐらいからもバイトをする。彼の寝る時間はとても少ないのではないだろうか……と少し心配になるが、彼は人外なので人間とは違うのかもしれない。

 時間がある時に、ノーザイ本人に聞いてみてもいいかもしれない。ブレイクがノーザイの事を考えていると、椅子に座ってコーヒーを飲んでいた棚部たなべが、いつの間にかブレイクや徳札とくさねたちが集まっているソファーの近くに来ていた。


「明日の練習だが、俺も付き合うぞ」


 棚部たなべのその言葉に誰よりも早く反応し、嬉しそうに目をかがやかせたのは徳札とくさねだ。


「本当ですか!」

「あぁ、ここ数日相手してやれなかったしな」


 目をキラキラさせて、背後から嬉しいオーラを出している徳札とくさねから、棚部たなべまぶしそうに視線を少しらした。

 棚部たなべが参加すると聞いて、徳札とは反対に少し嫌そうにした白金しろがねが「うーん」とうなりながら言った。


本貴もときさん、ほんっと容赦ようしゃないから疲れるんよなぁ~」


 ブレイクも一度だけ棚部たなべと訓練をしたが、白金しろがねの言っていた通り確かに容赦ようしゃはなかった。しかし、あれぐらいまでしてくれるのはありがたい。自分の何が悪いのか、どこを直すべきかが分かりやすくなる。それに、実際の敵は容赦ようしゃなんてしない。すきを見せたら終わりの世界だ。棚部たなべもきっとそれを分かっている。疲れるのは本当にそうなのだが、それ以上に得られるものがある。ブレイクは少し明日が楽しみになった。

 ブレイクの心が少し浮わついた中、うなっている白金しろがねだけでなく、広岡ひろおか以外の四人に対して、棚部たなべはちょっとした激励げきれいの言葉を送った。


「お前らはまだ未熟みじゅくなだけだ。これからどんどん強くなれば、俺なんてすぐにせるさ」

「はい、頑張ります。いつか必ず、貴方のお眼鏡にかなう男になりますよ」

「あ、あぁ……頑張ってくれ……」


 棚部たなべ激励げきれいに、徳札とくさねは誰よりも素早く答える。徳札とくさねの目は、棚部たなべ崇拝すうはいしているように見えた。そんな徳札とくさね眼差まなざしに、棚部たなべは少しぎこちない返事をした。


「……明日にえないとな」


 久し振りに明日は棚部たなべが参加することもあり、高峰たかみねがポツリとつぶいた。

 高峰たかみねつぶやきを聞いて、ブレイクは早めに寝る準備をしようと決めて立ち上がる。そして徳札とくさね白金しろがねも同じ事を思ったのか、早めに寝るらしい。

リビングに残るであろう棚部たなべ広岡ひろおかに一言伝え、四人はリビングから出るため扉へと向かう。


「明日、頑張ってね~。おやすみ」


 他人事のように──実際に他人事なのだが、明日に備えてそれぞれ移動しようとリビングから出ていくブレイクたちに、広岡ひろおかは微笑みながらヒラヒラと軽く手を振って応援とあいさつをした。

 ブレイクたちもおやすみの挨拶あいさつを返し、リビングの扉は閉められた。


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