第十三話 後始末
観衆が開けた道をゆっくりと進んで、こちらへ向かってくるのは、ブレイクたちが最初に挨拶をしたサーラだった。
「おや、あたしが出る幕はなかったみたいだね。お茶飲んでゆっくりしてたから、気付くのに遅れちゃったよ」
サーラが現れたことにより、サーラの家まで行こうとしていたマリアは一瞬でサーラの元まで移動し、スライディング土下座を決め込む。
「あっ、サーラちゃん! ごめん! ほんっとにごめん! あの子たちにはキツく言っとくから! それに後日またいろいろ直しに来るわ!」
「あらそう? マリアちゃんがそう言うなら、お願いするわね。ちゃんと元通りに直さないと駄目よ。それと、仏の顔も三度までってことわざがあるの。つまり、次は分かるわね?」
マリアの土下座を気にすることなく、サーラは目を細める。その視線にマリアは冷や汗をダラダラと滴し、青ざめた顔をしながらサーラから目を離さず、しっかりと返答をする。
「分かる! 分かります! もう絶対サーラちゃんに迷惑掛けないわ!」
マリアの声を聞いてサーラはニッコリと笑う。その表情だけ見れば、ただの優しそうなお婆ちゃんだが、圧がとてもすごい。
「ならいいのよ。男の子は元気だものね、でもあまりやり過ぎては駄目よ。あんた達が思っている以上に、意外とみんな “見ている” のだから。それじゃ、明日はよろしくね」
マリアはサーラに敬礼をし、元気の良い声で返事をした。そのままマリアは何度か頭を下げ、突如発生した花吹雪に乗って姿を消した。
その際、ブレイクはマリアと視線が合ったような気がした。ブレイクはマリアが消え、こちらまで飛んで来たピンクの花びらを手に取った。
その姿を見ていた棚部は少し考えるが、そこへサーラがやって来た。棚部は考え事をやめ、サーラに向き合い一礼をする。
「棚部ちゃん、ごめんなさいね。あたしがもっと早く気付ければ良かったんだけど……歳は取るもんじゃないねぇ」
頬に手を当て申し訳なさそうに話したサーラは、すぐに表情を変え笑う。
「安心しておくれ、周りには今回の件をちゃんと私から説明しておくよ。あんた達はただの被害者だからね」
「ありがとうございます。サーラさんには頭が上がりませんね」
「うふふ、いいのよ。棚部ちゃん達もいろいろと大変でしょ? しっかりルールを守っていれば、あたしはいつだって手を差し伸べるわ」
それから少しサーラと会話をしていると、向こうから声がした。それは、棚部を呼んでいるノーザイの声だった。
サーラは振り向くだけで動かない棚部の背中を少し押した。
「ほら、早く行ってあげな。怪我してる子もいるでしょ、怪我が治ったらまたおいでって言っといてね。いつでも歓迎するよ」
「えぇ、ちゃんと伝えておきます。それでは、失礼します」
サーラに一礼をし、棚部はノーザイたちと合流する。
全員しっかりと立っているが、怪我が何ヵ所か見て取れる。
「近くに車が停めてある。そこまで歩けるか?」
「満身創痍ですが、ただの軽症なので問題なく歩けますよ」
徳札の返答に、誰も反論はしない。みんな問題なく歩けるようで、棚部はホッとした。
棚部はまさか初日から戦闘になるとは思わなかった。ましてやサーラがいる『サレイラ』で起こるとは。やはり、ここではいつ何が起こるか分からない。何事も慎重に考えてないといけないな。棚部はひとり反省した。
車までゆっくりと歩いていく。棚部はブレイクが未だに、マリアが消えた際に飛んで来た花を持っていたことに気付く。
「マリアが気になるか?」
「え……まぁ、少し」
ブレイクは少し困ったような表情をした後、持っている花を見てから棚部を見る。
棚部には、ブレイクが何かを懐かしんでるように見えた。
「彼女はマリア・ドンダート。あの三人組の上司みたいなもんだ。彼女は人間に対して好きとか嫌いとかはなく、どっちかと言うと無関心に近い。まぁ、気に障るような事をしなければ、彼女から危害を加えるようなことはしないだろう。問題なのは、あの襲ってきた三人組だからな」
棚部がマリアの説明をするが、ブレイクは何も返さなかった。しかし、何かを考えているようにも見えない。もしかしたら、お節介だったかもしれない。そう棚部は思い、別の言葉を述べた。
「お前がその花を眺めてたから、何か気になることがあったのかと思ったが、お節介だったらすまん」
「いえ、そんなことないですよ。ただ……自分でもよく分からないんですけど、何か懐かしい気がして」
ブレイクの持っていた花びらは、強い風に乗って飛んでいった。その花びらは、途中で光となって消える。
あの声を、あの淡い珊瑚色のふわふわな髪を、あの眼差しを、ブレイクはどこか懐かしく感じる。しかし何も思い出せない。まるで、一部の記憶がごっそり無くなったかのようだ。
花びらが消えた方を向いているブレイクに、棚部は優しく語り書ける。
「……そうか。いつか、その懐かしさの理由が分かるといいな」
「ええ」
眩しい夕陽の中、ブレイクたちは歩いていく。
人間をいい目で見ない人外が多い中、そんな人間に手を差し伸べる人外もいる。今日の出会いは彼らにとって幸となるか、不幸となるか。
それを知る者は、この夕陽を浴びる一行の中にはいない。
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町から少し遠い森の中にある、一際大きく背も高い木の上。そこには、夕陽を浴びる美しい姿をした、黒髪で褐色の女性がしゃがんでいた。
夕陽で分かりにくいからなのか、彼女のふわふわな髪は、うねっている蛇の集まりにも見えた。
「ずいぶん久し振りに来てみたら、なんか人間が増えてるね。しかも向こうには親戚までいる。あいつは全部知ってて “ここ” にいるのかしら……。でもなんか、いつもとちょっと違うような? ま、場合によってはこの世界ごと消してもいいんだけど……もう少し様子見しても良さそうかな」
彼女はそう呟いた後、夕陽の中から忽然と姿を消した。




