第二十三話 ざまぁプランナーによる完全ざまぁ計画
◆ 続ざまぁプランナーという仕事
「まず俺は、そのゴミカスについて徹底的に調べ上げた。経歴、能力、人間関係、戦闘スタイル、弱点、一日の行動パターンとルーチンワーク。ストーカーでもそこまでやらねぇって位に調べて調べて調べ上げて、奴の情報を隅から隅に至るまでしゃぶり尽くしたのさ。ケケケ」
その時の事を嬉々として語るアイズ。
キャリアについての話を聞いているのにうすら寒さを覚えるのは、きっと空調のせいではないはずだ。
「敵を知ったら次はその対策だァ。触れた物を捻じ切る光、確かに強力な代物だよ。だが種さえわかっちまえばそれに特化した対策は作りだせる。似たような魔法で検証し、光波の観点から無効化する手段を作り上げ、最終的には能力の吸収と反射機構を搭載した防護服の完成にこぎつけたのさ」
そこに至るまでどれだけのコストがかかったのか、ティーは想像する事も出来なかった。
アイズは簡単に言っているが、勇者の能力を無効化する防護服など並大抵の発明品ではない。
一個人に特化しているとはいえ対象は神の恩恵。
それを克服した装置の完成ともなれば、どれだけの高値がついてもおかしくはないだろう。
技術力か、人脈か、あるいはその両方か。
彼がそれを創り出す為に使った力の正体まではわからないが、どちらにせよ目の前で煙草を吸っているチンピラが只者ではない事だけはティーにも理解できた。
「まぁ神つってもピンキリだからな。あの程度のゴミしか呼べないような下位神の恩恵なら実は結構簡単に対策出来たりするんだよ。……当然、俺様が天才すぎるって要素も過分に含まれるがな!」
その辺りの話についてもう少し聞きたい金髪エルフであったが、とりあえず今は先の話を聞く事にした。
「それで?」
「分析と対策を終えたら次は駒の準備に入る。敵は恩恵頼みの典型的なチート野郎、なら用意する駒は戦闘のプロに任せればいい。直接制圧系、敏捷&技術特化、拘束魔法の達人に回復役も必要だ。射程外から攻撃できる中遠距離系も配備し、それらをまとめる司令塔とこちらへの連絡係も雇い入れればアラ不思議、対勇者チームの出来上がりってワケよ」
当然防護服は人数分用意したそうだ。
その経済力は一体どこから来ているのだろうか。
「んで、ここまで来れば後は実行に移すだけだ。導入はハニートラップ。こっちで用意した獲物に食いついた勇者に『キャー素敵ー抱いてっ!』と発情する女が現れるっていう寸法よ。鼻の下を伸ばして女について来た勇者が油断してた隙に」
アイズの両手が「パァン」と音を立てて重なり合った。
「ぐしゃりと潰して壊すのさ」
徹底的に分析し、専用の対策用具を作り上げ、複数人のプロに依頼し、習性を利用した罠を仕掛ける。
用意周到なんてレベルじゃない。
まるで男への復讐に命をかけているような入念ぶりだ。
「とまぁ、当初のシナリオではこうやって捕え上げたゴミを丁寧に底辺のオス専用ドグソ肉○○に調教するって寸法だったんだが、ここで依頼人から提案が出た」
“自分も作戦に加えてくれ”と彼女は自ら願い出たそうだ。
「そう珍しい事じゃない。ざまぁってのは自分でやるからこそ面白いもんだからなぁ。ざまぁを愛するものとして、依頼人の気持ちは良く理解できたよ」
だから娘にとても重要な役割を与えたのだとアイズは言った。
「丁度、誘惑する女役を探していた所だったからなぁ、俺は依頼人に媚を売らせる事にした」
相手は勿論、勇者である。
自分の父親の片腕を奪った相手に媚を売る――――それがどれだけの苦痛を伴う者であるかは、恐らく本人でなければわからない。
けれど唯一つ確かな事は、娘がその役を引き受けたという事だ。
「一度顔を合わせているからなぁ。当然、外見は弄らせてもらった。つっても魔法と特殊メイクで誤魔化しただけだがな。まぁ、知人と会っても気づかれない位には上出来な変装さ。後は護身用の防護服を持たせれば完璧だ」
パンパンと愉快そうに手を叩くアイズ。
まるで子供が悪戯を自慢するような調子で悪意にまみれた復讐劇を紡ぎ上げる。
「さぁ、準備は整った。いよいよ楽しいざまぁタイムの幕開けだァ。まず、俺は被害者の娘と組んで騒ぎを起こした。ナンパ男とそれを疎む女。獲物が好む格好のシチュエーションさァ」
行動パターンを完全に解析されていた勇者は、その日運命に導かれるようにして彼らの元へとやって来る。
絡む男はいかにも頭の悪そうなチンピラで、女は勇者好みの清楚系。
格好のカモと絶好の娘。
勇者は微塵も疑うことなく極上の餌へと飛びついた。
“待て! 女の人が嫌がっているんだ。無理強いは駄目だよ”
そうして始まる予定調和の茶番劇。
“どうして自分よりも弱い相手に媚びなくちゃいけないのかな”
“君にもわかりやすく言うとこういう事だチンピラ君。『お前みたいな雑魚じゃ話にならないからすっ込んでろ”
挑発し、逆上させ、相手が先に手を出す状況に誘い込む。
勇者の思惑通りに事は運び、怒り狂ったチンピラが怒声と共に襲いかかる。
「防護服の最終確認は本人から直接受けるのが一番だ。だから俺は奴の恩恵をあえて受け、それを吸収。更に反射機構を作動させ、怪しまれないようにベクトルを操縦して『敵が想定した方向』に吹き飛んでやったよ」
散り際までもが想定通り。
ざまぁに魂を売った悪魔は、嬉々として敵の蹂躙に付き合ったのだ。
「期待した結果が得られなけりゃ、作戦の一時中断も考えたんだがなァ。防護服は無事機能しちまったのよ。流石天才の俺様だ。万に一つの狂いもありゃしない! 威力調節、ベクトル変換、光波操作、恩恵同調に現象固定! 全てが俺の想定通りに動き、やつの恩恵は完全に掌握されたのさ!」
キャキャキャと猿の様に手を叩きながら己のざまぁプランを自賛するアイズ。
そんなイカれたざまぁの化身に、ティーはある気がかりについて尋ねてみた。
「ねぇアイズ、私ずっと気になっていた事があるの」
「言ってみろ」
ティーは一度俯き、やがて覚悟を決めたかのように口を開いて問いかける。
もしかしてとは思っていた。
符合する事実、記憶に新しい出来事。
それらが有機的に彼の話と繋がっていき、否が応でもあの時の光景が蘇る。
「今の話ってさまさか今朝の――――」
言い終える前に、何やらアイズが自身の服をまさぐり出した。
「あったあった」
取り出したのは金属と魔力結晶で作られた透明の板。
ティーも見た事が無いその物体を、アイズは軽快にフリックしながら読み進めていく。
「へぇ、どうやら上手くいったみたいだなァ」
黒い包帯で完全に覆われている筈の双眸で、けれど悪魔は確かに何かを眺めていた。
ニヤニヤと笑うざまぁプランナー。
その板の先に何が書かれているのかを、ティーは何故か問い質す事が出来なかった。
◆新たなるクエストへの足音
「待たせたな旦那」
一通りの話を終えたアイズは、アラガミに頭を下げた。
「構わない。必要な時間だった」
霊長類最強の男は、いつもの調子で首肯する。
視線はそのまま流れるように隣の金髪エルフへ。
「どうだった?」
単刀直入な質問である。
アラガミらしいといえばアラガミらしいが、ちょっと質問範囲が広過ぎた。
「何とも言えないけど」と前置きするティー。
「ざまぁプランナーっていう仕事を全面的に支持する事は出来ないわ」
当然と言えば当然の反応である。
銀髪チンピラの所業はどう言い繕っても堅気の仕事ではない。
全うに冒険者をしている金髪エルフがある種の拒絶感を抱くのも致し方のない事であった。
「善悪とか、倫理とかそういうものを持ち出すつもりはない。私だって勇者教会の奴らは嫌いだし、権力に肥え太った外れ勇者なんて死ねばいいと思ってる」
外れ勇者。
本来担うべき職務から外れ、勇者の権力を振りかざす外道の通称である。
一つの社会問題としても扱われている彼らの横暴を、ティーは世間の民意と同じく白い目で見ていた。
「でも、悪い事をした奴になら何をしても構わないって考え方は好きじゃない。アンタのやり方を全面的に支持するっていうのはそういう事でしょ?」
「違いねぇ」
「ケケケ」と歯列をギラつかせながら肯定するアイズ。
その顔は愉悦の感情に塗れていた。
そう。この男に善悪などない。
彼は『ざまぁ』に正しさや救いなど微塵も求めておらず、ただ楽しいからという理由でざまぁプランナー等という仕事についているのだ。
その事を直感的に察知したティーは、故に釘を刺すつもりで自身の意見をぶつけていく。
「だから私は個人的な復讐の手伝いならやらない。リンチみたいな事も嫌。でも誰かを困らせる奴がいて、そいつがアンタの言う『ざまぁ』っていう手段じゃないと止められない権力豚野郎だっていうなら手伝いぐらいはしてあげる。それが私の妥協ラインよ」
復讐ではなく、抑止としてならば協力するというティーの言葉をざまぁプランナーは愉快そうに聞いていた。
「ハッ、存外マシな思考をしてるじゃねぇか? 俺はてっきり“そんなひどい事は出来ないわ! どんな理由があっても誰かを傷つけるなんて悪党よ!”とか眠たい意見が飛んでくるモノだとばかり思ってたんだがよぉ?」
「お生憎様。詳しい話も聞かないで依頼を蹴る程潔癖じゃないの。受けるかどうかは依頼の詳細を聞いてから決めさせてもらうわ」
無い胸を張りながら堂々と答える金髪エルフ。
ちょっとドヤ顔なのが微笑ましい。
「ケケケッ。良い返事だ。そんじゃあ遠慮なく依頼の話に移らせてもらうぜぇ」
灰皿に煙草をこすりつけながら、もう片方の腕で懐をまさぐるアイズ。
「これも違う、これも違う。おっ、あったぞ、これだぁ」
ゴミや糸屑で机を散らかしながらざまぁプランナーが取り出したのは、ヨレヨレになった羊皮紙である。
「こいつはシクソン地方の領主様が直々に書いて下さった手配書だ。要約すると娘をたぶらかす悪い男を追い払ってくれっつー内容だ」
「ふむ」
アイズの話を聞きながら羊皮紙の内容を確認するアラガミ。
やたらと仰々しい文章で書かれているが、確かにチンピラの言う要旨と一致していた。
「領主の娘によりつく男の排除か。聞く限りでは俺達の出る幕では無さそうだが」
アラガミの素朴な疑問にアイズは「確かにな」と愉快そうにニヤつく。
「確かにタダの痴情のもつれなら、わざわざ旦那にでてもらうまでもねぇ。だが、もしこの娘が領主代行としてある町を仕切っていたとすればどうだ?」
「その娘自体が権力者という事か」
「あぁ、娘はタダの御令嬢じゃない。若くして領主代行を任された責任ある立場の存在だ。……そんな立派なお方が滅茶苦茶タチの悪い男に引っかかった」
懐から新たなる紙を取り出すアイズ。
そこには、ある人物の詳細な情報が記されていた。
「クズミチ・ユウタ。勇者教会所属の勇者で異世界からの転移者だ。保有する恩恵は『魅了』。異性専用の洗脳能力と思ってくれれば話は早い。んで、このユウタ君だが、現在シクソン領のハムレーっつー町でこの世の春みてぇな生活を満喫してやがる」
それは考えうる限り最悪な組み合わせであった。
権力のある娘が魅了能力を持った勇者に取り込まれた――――それが意味する事は即ち
「すごいらしいぜぇ。町の女達の大半はユウタ君の所有物として扱われ、ブスとババアは人権なし。男に至っては信者か奴隷の二択しか存在しないそうだ」
「……嘘でしょ?」
金髪エルフは耳を疑った。
そんな性根の腐りきったディストピアが存在する等、ティーは今まで聞いた事も無かったのである。
「知らないのも無理はねぇよ。何せ町のトップであらせられる領主代行様が必死になってもみ消してるんのさ。いや、ちょっと違うな。悪ぃ、言い直させてもらうぜ。トップだけじゃねぇのよ。町でまともに暮らしてる連中は全員ユウタ君の信者なんだ。だから隠蔽は町ぐるみで行ってるってのが正しい。加えてバックには勇者教会がついている。尻尾なんてぜってぇ掴ませねぇよ」
アイズの言い分は矛盾していた。
町ぐるみで隠ぺいされているとしたら、何故彼はハムレーの闇を知っているのだろうか。
「そこは俺様のが天才だっつーことで納得してくれたら話が早いんだが、まぁいい。根拠や証言が欲しけりゃ取り寄せてやる」
新たな煙草に火を点けるアイズ。
紫煙を撒き散らしながら一服置き、そして「さて」と心底愉快そうな声で語りかけてきた。
「ここまで聞けば大体察しただろ? 旦那達には、このユウタ君に特大の『ざまぁ』を提供する手伝いをしてもらいたい。勿論、依頼料は弾むぜ? 成功の暁にはシクソン領主からの依頼料と俺個人からの謝礼をタンマリ出す。合計すれば先のクエストで旦那達が稼いだ額の三倍位にはなるはずだ」
「さっ三倍!?」
くわっと見開くティーの瞳。
基本的にこの金髪エルフは現金なのだ。
「あぁ、約束するとも。契約書を書いたっていい。金なんか幾らだってくれてやるさ。ハーレム勇者のユウタ君が『ざまぁ』されるんなら俺はどんな代償だって支払ってやる。あぁ、ざまぁしてぇ、ざまぁしてえよぉ!」
愉悦に震えながらざまぁへの熱情を語るアイズ。
その姿は、傍から見ればタダの変態にしか見えなかった。
少しタイトルを変えさせて頂きました。




