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それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
悪魔族の娘

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98/195

98 カロンさんがいますよ

 洞窟があるかと思ったが、ただの窪地だった。


「ここが、双頭の山犬の寝ぐらです」

「……留守のようだな」


 周囲は木に囲まれていた。うっそうと茂った場所ではないが、周囲の岩場からみると、取り残されたように、大きな屋敷の敷地ほどの大きさに、島状の林がある。


「いえ、いますよ」


 エルフのロマリーニは、こともなげに言った。俺は、凄腕の狩人ズンダに、獲物の見つけ方も教え込まれている。だが、さすがに森の精霊とも呼ばれるエルフには敵わないのだろか。


「ほんとだニャー」

「あっ……気持ち悪い」


 俺のバックパックから声がする。どうやら、見つけていないのは俺だけのようだ。しかも、アリス目線で気持が悪いらしい。


「……どこだ?」

「上だニャ」


 俺が首を上に向けると、木に山犬が生っていた。いや、単にぶらさがっているのだろう。

 尻尾を木の枝に巻きつけ、二つに分かれた頭部をだらりと垂らした山犬が、俺の頭上にいた。

 俺は盆地を寝ぐらと言い、エルフは巣だと言った。どうやら、エルフの方が正しかったらしい。

 木の枝からぶら下がる山犬の数は20を越え、見上げる俺には無数にいるように見える。確かに、気持悪い。その犬たちが、全て頭部が二つにあるのだ。


「……寝ているか?」

「夜行性です。そうでなければ、案内しません」

「……そうか」


 だが、寝ているだけ、ということは、当然起きることはあり得る。

 俺が見つめていた一頭が、突然目を開いた。

「ボヤ」

 山犬が燃える。だが、死なない。やはり、ホライ・ゾンの力の影響が抜け出て、魔法の威力が戻っている。ホライ・ゾンの配下だった時には、山犬ぐらいは一撃で焼け死んだはずだ。


 だが、それが俺の魔法のもともとの仕様だ。レベルが上がっても、魔法の威力は一定で変わらない。そのほうがありがたい。敵対する者をことごとと殺していく殺戮者になりたいわけではない。ほどほどの威力のほうが、使いやすい。ただ、三回喰らえばオオカミが死ぬ程度の火力を、ほどほどとは言わないかもしれない。

 俺の「ボヤ」で炙られた一匹が、木の枝からぶら下がったままの姿勢で吠えた。二つの首が同時に吠えると、それはけたたましいほどに響き渡り、ぶら下がる約20頭の山犬が一斉に目を開けた。


「まあ、こうなるでしょうね」


 エルフのロマリーニが落ち着いて評した。


「何か、対策があるのか?」

「カロンさんがいますよ」

「なに?」

「私を守ってくれるのでしょう? カロンさんが求めるから、ここまで案内したのです。私を見殺しにはしないでしょう。それが、私の対策です」


 山犬たちが落下してきた。尻尾の力を抜いたのだろう。


「人任せだニャ」

「エルフって、だから嫌われるのよ」

「手伝ってくれるのか?」

「ただの家ネコに、山犬の相手は無理だニャ」

「怪我をしたら教えて」


 ララとアリスの言葉は、俺には暖かく響いた。

 俺はアイテムボックスから鉄の剣を取り出し、エルフに怒鳴った。


「伏せていろ!」

「はい、はい」


「タイカ」

 俺の魔法で、地面に降り立った五体が燃え上がる。だが、一撃では死なない。転げ回っているだけだ。

 背後から、風の音が聞こえた。

 振り向きざま、剣を突き出す。

 二つの頭部の間に剣が突き立ち、その一頭は大人しくなった。


 剣を抜こうとした手に、上から降ってきた山犬が食らいついた。

「バン、レベル1」

 山犬の頭部の一つが爆発し、俺の手から離れた。頭部はもう一つある。機敏に距離を取る。

 双頭の山犬は、寝方が不気味なだけではなかった。地上に降りては二つの頭でオオカミ以上に俊敏に動き、俺が地上に気を取られた間を狙って、真上から降ってくる。


 俺は夢中で剣を振り、「ボヤ」を連発した。無傷で戦うという前提がくずれれば、対象の設定に神経を使う「タイカ」より、目の前のものを単純に燃やす「ボヤ」のほうが使いやすい。






 双頭の山犬の厄介なところは、真上から突然攻撃を仕掛けてくることと、頭の一つを潰しても、平然としていることだ。二つに分かれた頭の両方を潰さなければ、活動を停止しない。

 幸いにも、ボヤで二つの頭をまとめて燃やすことができた。

 噛みつかれると普通に痛い。かなりの出血があるし、無理に引き剥がせば肉ごと削られる。

 鉄の剣を振り回し、山犬を遠ざけ、魔法を連発し、それでも、俺は身体中を山犬に噛みつかれた。


 山犬たちが動きを停止した時、俺の体を外から見る者がいれば、巨大な毛玉だと思っただろう。体の露出が一切ないほど、大量に噛まれていた。

 痛い。だが、HPの消耗は遅い。噛まれて血が出て、HPは10ほど削られている。


「癒そうか?」


 俺の頭の上で、カマキリのアリスが尋ねた。


「頼む」

「了解」


 アリスの魔法「メディ」による回復を待ち、俺は動きを再開した。

 剣を持つ手を叩きつける。腕に痛みはなく、剣が肉を割く感触がした。

「タイカ」

 俺の視界にいた山犬が一斉に炎につつまれる。

 飛び上がって地面に転がった。


 逃げようとはしない。あくまで向かってくるのは、魔物だからだろうか。

 俺は背後から噛みついていた山犬たちをなぎ殺した。

 山犬たちの死体の山が出来上がる。

 アイテムボックスに入れると、食用の肉と毛皮に見事に分離された。


「……終わった」

「見事でしたよ」


 どこに隠れているのかと思ったら、木の上からエルフが降りてきた。林の中といえば、エルフの庭も同然なのかもしれない。だが、俺が伏せさせたエルフが木の上から降りてきたことには、納得がいかない。


「……ロマリーニの双子か?」

「どうして、そう思うんです?」

「地面に這いつくばらせたはずだからだ」

「いつまでも地面に寝そべっているはずがないじゃないですか。カロンさんが噛まれている間に、木の上に避難しましたよ。山犬の習性を知っていれば、木の上でかち合わないのは割と簡単なのです」

「……そうか。意外と大変だったが……」

「この辺りを縄張りにしているボス連中です。弱くはありませんからね」

「……確かに」


 俺は、警戒しながらその場に座り込む。

 ネコのララはエルフの荷物に入れていた。頭上のアリスに手を伸ばす。アリスが捕まったのを感じ、手のひらに乗せて俺は視線を合わせた。


「どうだ?」

「2レベル上がったわ。僧侶レベル10になった。ステータスもあがっているけど……この数字、信じていいのかしら? 人間に踏み潰されれば、どれだけHPがあっても一撃で死ぬと思うけど」


 アリスは俺の手の上で、もぞもぞと体を見回した。カマキリの姿であるから、いかにも警戒しているように見える。


「ああ……俺も、その点は疑わしいと思う。ステータス通りの能力なら、俺は鎧なしでも敵と戦える体になっているはずだ。鎧はしていないが、おかげでかなり怪我をしている。習得した魔法とスキルは使用できるが、ステータスは信用しないほうがいいかもしれない」

「そうかニャー……僕もシーフレベル6になったけど、強くなった気はしないニャ。シーフノーズっていうスキルを身につけたけど、それだけだと思っておくニャ」


「そういえば、アリスはレベル10だろう。僧侶のスキルは新しく習得していないのか?」

「ええ……メディカルってのを覚えたわね。多分、回復魔法メディ、メディカの強化版ね」

「そうか……使用するMPは?」

「10よ。かなりね」

「そのようだな」


 俺たちが使用する魔法は、あまり消費MPが多くない。だが、それは勇者という職行が低位魔法と超級魔法を取得し、その中間を覚えない職業だからということが大きいのだろう。

 普通は、徐々に強い魔法を覚えていくのだ。


「さあ、独り言が終わったら、次に行きましょうか? いくつかの魔物の集落も潰していくのでしょう?」


 エルフが立ち上がる。俺はずっと、カマキリ相手に独り言をしゃべっている危ない人間に見えていたのだ。

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