99 俺はこういうケースで、歓迎されたことがない
俺は、エルフのロマリーニ連れられ、その後三つの魔物の巣を襲撃し、殲滅した。
その度に俺の体はボロボロになったが、アリスの回復魔法メディカルの効果は素晴らしかった。
アリスは僧侶のレベル12、ネコのララはシーフレベル9に、俺は勇者レベル24となった。
俺は別にしても、ララとアリスのレベルの上がり方が遅いような気もしたが、パーティーを組んでいるために経験値が三等分されているのかもしれない。何より、2人はただ隠れているだけなので文句は言わなかった。仮にレベル上昇が遅いとしても、そもそも気がつかないだろう。
周辺の魔物を狩り終え、夜になって野営の火に当たっていると、ロマリーニが言った。
「さすがはカロンさんですね。このあたりは、魔王の配下が放った魔物たちがはびこって植物たちも怯えていたのです。それを、わずか1日でこれほど殲滅してしまうとは。まるで、魔将軍のような強さです」
「嫌味にしか聞こえないな。俺は魔将軍の1人、ホライ・ゾンの強さを知っている。力の相性が良かったからたまたま勝てたが……魔法がなければ完全に負けていた。それに……俺は闘技場で龍兵に負けた。今の俺が、龍兵に勝てるかい?」
「……難しいでしょうね。あの時には持っていなかった力もお持ちのようですが……」
俺が闘技場で戦った最後の相手が、ドラゴンを人間型にしたような、龍兵と呼ばれる戦士だった。俺は全力で挑んだが、惨敗だった。その龍兵ですら、魔王には勝てずに潜んでいるという。
その時には、魔法「バン」はなかった。今なら、最高威力のレベル3の「バン」を放てば、勝てる可能性もある。だが、望みは薄いだろう。
「勝てないと思う。それに……あの龍兵なら、この辺りの魔物なんか、かすり傷一つ追わずに殺してしまうだろうな」
「かもしれません。龍兵の肌は、天然のドラゴンの鱗です」
「そんな奴が勝てない魔王に挑むというのは、愚行でしかないのだろう」
「カロンさんは、すぐに魔王に挑むわけではなありません。エルフの森を脅かしているのは、魔将軍火鬼のビリーです。本物の魔将軍であるホライ・ゾンより、単純で戦いやすいと思いますよ」
「だからといって、弱いわけじゃないだろう。エルフたちが束になっても敵わないんだろう?」
「エルフが束になって敵わないというわけではありませんよ。ただ……ビリーを殺せば、他の魔将軍に狙われます。場合によっては、魔王自身が滅ぼしに来るかもしれません。それは御免です」
その言い方に、俺はあることを悟った。
「そのビリーを俺が殺せば、今度は俺が他の魔将軍に狙われるのか?」
「まあ……当然そうなりますね」
エルフは真剣な顔で頷いたが、俺のことを心配しているわけではないだろう。
「初めから、それが目的なんじゃないの?」
俺の頭の上の声が、俺の感情を代弁した。残念なのは、その声はカマキリの言葉なので、エルフには理解できないのだ。
アリスの言葉に反応していると話が脱線するので、俺は聞こえていないふりをして尋ねた。
「ビリーというのは、どんな奴だ?」
「特徴といえば、単純に肉体能力で戦う魔将軍です。配下に魔獣使いのアデルというのがいまして、カロンさんが退治した魔物たち、魔獣ばかりだったでしょう? 全て、アデルが配置した魔獣たちです」
「……つまり、俺はもう、ビリーと……その配下のアデルの恨みを買っているというわけか?」
「……さあ。ビリーが魔獣に対して愛情を感じているかどうかまで、私にはわかりません。全く気にしていないかもしれませんし、場合によっては、一度や二度殺されたぐらいでは済まないかもしれません」
「闘技場の興行主にも言ったことがあるが、俺の命は二つも三つもないと思うぞ」
「……いえ、今まで生きてきたのです。カロンさんの命は、三つばかりではないと思いますよ」
ロマリーニが笑って言った。どうも、エルフに罠にかけられたような気もするが、俺を信頼してのことなのかもしない。と考える俺は、人が良すぎるのだろうか。
翌日には、鬱蒼とした巨大な森を目前にしていた。
「次の魔物は?」
俺が尋ねると、ロマリーニは穏やかに笑った。
「もう、十分です。その森の際まで、迎えが来ています。上位種族が迎えに来るとは珍しい。カロンさんの魔物退治が、エルフ族にも評価されたようですよ」
「……なら、いいけどな」
樹木が立ち並ぶ地点までが森だとして、森の際までは20メートルほどか。
俺が立ち止まり、ロマリーニは立ち止まらずにそのまま進む。
「ララ、荷物の中から顔を出すなよ。アリス、ララと一緒にいろ。なにがあっても出て来るな」
「……わかったわ」
「エルフが、敵ニャ?」
「わからないが……俺はこういうケースで、歓迎されたことがない」
「大丈夫ですよ。私がこうして同行しているのですから」
エルフは伊達に大きな耳をしているわけではないようだ。実に耳がいい。歩きながら、俺に早く来いと手で示し、振り返る。その表情に悪意は感じられない。
「ああ。わかった」
俺はエルフを追って歩き出す。
エルフは一足先に森に入った。姿が見えなくなる。
俺が森に入ると、目の前に、削られた石の先端が突き出された。
「動くな」
「悪くない歓迎だ」
俺は、目の前に引き絞った弓矢をあてがわれ、笑った。俺に弓を向けていた耳の長い、痩身の男が睨んだ。
「こちらにも事情がある。ここで殺さなければならない」
「ああ。そうだろうな」
「カロンさん……私は……なにも知りま……」
ロマリーニは縛り上げられていた。途中で口を塞がれる。
「わかっている。事情があって俺を殺すのだろう。事前に教えてもらえただけで儲けものだよ。これで、俺は自分の命を守るため、全力で抵抗できるからな」
俺は咄嗟に後方に飛びながら、スキル「オウキュウテアテ」を自分に施した。目の前の弓が放たれ、俺の額に刺さる。
どうやっても避けられない。だから、受けることを前提に動いた。
後方に倒れた俺は、生きていた。額に刺さったはずの矢が抜け、地面に転がっていた。
「潰れるニャ」
「ひどい扱い」
バックパックの中から、ララとアリスが飛び出した。俺が倒れたので、潰されるように出て来てしまったのだろう。さすがにこれは責められない。
「俺の影に」
「ニャ」
「バン、レベル3」
俺を殺すために集まっていたエルフの数は、見えていただけで10人程度だろう。森に隠れたエルフまではわからない。
だが、「バン、レベル3」はMP125を消費する、現在の俺の最大火力だ。俺は体を小さくした。爆発の中心は、10メートルほど前方の森の中だ。
爆発が生じ、俺の頭上をエルフが飛び去っていく。俺は顔を腕で隠して爆風をやり過ごした後、顔を上げた。
見事な破壊力だ。鬱蒼とした木々が、爆発を生じた場所を中心に、半径5メートルほどは大木すらなぎ倒されている。
俺の頭にララとアリスが昇るのを待って立ち上がる。
俺は、周囲を確認した。縛られたロマリーニが転がっている。気絶しているが、爆心地から遠かったため、大きな怪我はしていない。ロマリーニが体の下に敷いているエルフは、打ち所が悪かったらしく、首の骨が完全に破損している。即死だろう。
ロマリーニを起こすとうるさそうだと思った俺は、森に踏み入り、エルフの姿を探った。
動くものはいない。木片や枯葉に埋もれた周辺のエルフの数は、数え切れない。
「どうするニャ? このまま、エルフとやりあうのかニャ?」
「どうしても俺を殺したいというなら、それしかないだろうな。だけど、多分違う。俺を殺そうとしたができなかった、という建前が欲しいだけという場合もある……仕方ない。全員縛り上げて、縛ったやつから回復させよう」
「わかったニャ。縛るのは、シーフに任せるニャ」
この場にいるシーフはララだけだ。
「その手でできるのか?」
「……縛り方を教えるニャ」
俺は、ララを慰めるために顔を撫でてやった。




