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それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
獣人の娘と深き闇

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47 俺はどうやって、自由になるんだ?

 王都に戻ると、俺は目隠しをされる。そうしなければいけない理由はないらしい。鎖に繋がれてはいても、目隠しをせずに歩いている奴隷も大勢いるらしい。

全て伝聞である。なにしろ、俺は目隠しをされずに街の中を歩いたことはほとんどない。

 目隠しをされ、足の重りを引きずりながらたずねると、剣闘士というのは特別なのだと言われた。


「特別、待遇が悪いのか?」

「戦う力を持った奴隷、だということだよ。剣闘士の奴隷を連れあくる時、目隠しをしなければ私たちが罰せられる。本人が目隠しを外せば、私たちが責任を持って殺さなくちゃならない」


「厳しいな」

「ああ。だから、そうならないように気をつけておくれ」


 目を隠されているとはいっても、王都に戻れば懐かしくも感じる。

 何もない部屋だったが、闘技場に与えられた部屋に戻って横になりたい衝動にもかられた。

 だが、エスメルたちはそれを許さなかった。


 会話で、宿屋を取ったのがわかった。俺に気づいた者がいることもわかった。その相手が誰かはわからなかった。たぶん、俺を闘技場で見て、俺が見たことが無い相手だ。俺の呼び名は、『ゴブリン王』で統一しているらしい。


 はやく、汚名を返上したいと思う。ダンジョン深く潜り、レベルは勇者9から16になった。期待したほどの劇的な上昇ではなかったが、徐々にレベルが上がりにくくなるのは当然の仕様だ。実際に強くなっていることに期待したい。

 宿屋の二階に連れ込まれると、俺は目隠しを外された。


「目を開けていい」


 なんだかマフィアに連れ込まれた人質のようだと思いながら目を開ける。

 宿屋が目に入った。この世界の一般的な宿屋より、少し高級かもしれない。何より、ここは王都なのだ。街道筋の宿場町より豪華なのは間違いない。ふかふかではないが清潔そうなベッドに、体を洗う水桶まで完備している。俺が知っているビジネスホテルよりだいぶランクが下がるが、できればここに住みたいものだ。


「凄いな……」

「んっ? ああ。宿屋のことか。悪いけど、カロンは外には出せない。出るなら、また目隠しだ。部屋の中で我慢しておくれ。今回の清算をしなくちゃいけないからね。預けてあるものを出しておくれ」

「わかった」


 この場にいたのは、エスメルとシルビスの二人だった。メルとシーフのムーレは、袋詰めのスケルトンとヤモリドラゴンを売りさばくために分かれて闘技場に行っているらしい。

唯一孵化して連れて歩いたヤモリドラゴンは、すぐに馬車に乗せられないほど成長して、途中からは歩かせた。それを連れて行くのが俺の仕事にもなり、俺は道中ドラゴンライダーとなった。空を飛べないドラゴンなので、実質はトカゲライダーでしかないが。


 エスメルに言われた通り、アイテムボックスから解体されたヤモリドラゴンの各部位と卵を取り出す。ヤモリドラゴンの部位だけで、部屋が一杯になってしまった。それに比べれば、卵は1つがこぶし大なので扱いやすい。ただし、数は100以上ある。10個ほど取り出したところで、エスメルが止めた。


「卵は……そうだね。それだけ持っていけばいい。あんまり大量に捌くと、相場が崩れるからね。ドラゴンの体はどれだけ大量に出回っても需要があるけど、卵は少しでいい。アイテムボックスとやらに入れておけば、孵化しないんだろ。なら、そのままにしておくれ。一度売ってみてから、残りをどうするか決めるよ」


「わかった。じゃあ、俺は……ここで寝ていてもいいかい?」

「ああ。疲れているならそうしなよ。まあ……疲れていないはずもないか。宿から出なければいい。食うものも運ばせる」

「……頼む」


 俺は横になった。床の上だ。土の上と違って、とても寝心地がいい。


「カロン、何も遠慮して床で寝ることは……聞いちゃいないか」

「エスメル、はやく行こう」


 僧侶のシルビスに促され、エスメルが出ていった。俺は会話を聞き取る程度には起きていたが、すぐに睡魔に誘われる。床の上はとにかく気持ちがいい。ベッドの上に移動しようかとも思ったが、やはり遠慮しておこう。

 そのまま、俺は意識を失うように眠ってしまった。






 周囲が騒々しいと思って眠りから覚めた。俺が頭を上げるのと、部屋の扉が開くのが同時だった。

 飛び込んで来たのはエスメルだ。背後にシルビスも、メルもムーレも連れている。


「カロン!」

「どうした?」

「よくやった」


 俺は突然、エスメルに抱きつかれた。あからさまに好意を示されるのは珍しい。だが、すぐに相手にするべきではないとわかった。

 酒臭かったのだ。

 見れば、全員が赤い顔をしている。どうやら、換金が終わったようだ。


「儲かったのか?」


 視線があったメルに尋ねる。メルは、俺の上にまたがったことはあっても、俺に心を開いていないような印象があったが、俺が尋ねた瞬間に、にへらと顔が崩れた。


「しばらくは、冒険に出ないで遊んで暮らせる。いや……もう、ずっと危ない冒険になんか、行く必要はないかも」

「そんなに?」

「ああ。ヤモリドラゴンの幼生に、卵だろ。闘技場の興行主に幼生を売りつけて、卵は貴族が買い取った。卵は1つにつき、金貨10枚の値がついた。これだけでひと財産だ」


 シルビスも満足そうだ。俺に抱きついていたエスメルに渡した卵は、全部で10個である。その計算なら、金貨100枚に卵だけでなったはずだ。ヤモリドラゴンも闘技場に売ったというなら、ヤモリドラゴンが殺されるまで定期収入が見込めるはずだし、解体した素材や、スケルトンも売ったはずだ。


「……ははっ。おめでとう」


 この四人の目的は、まずは生活費だったはずだ。そのために、ダンジョンに潜ったのだから。その目的が達成されたのなら、祝わなければならない。いや、俺が祝うまでもなく、自分たちで盛り上がった後のようだ。ならば、水を差さなければいいだろう。


「ありがとう。カロン様々だ」

「他の卵はどうする? まだまだあるぞ」

「それを売るのは、まだ先でいいだろう。カロンに預けておく」

「……いいのか? もし自由になったら、俺が売るかもしれないぞ」


「今もらっても、どうせ孵化しちまう。せっかく金が入ったのに、ヤモリの世話で大忙しなんてゴメンだね。ゴラッソに売ったドラゴンが簡単に殺されなきゃ、しばらくは遊んでいられる。カロンが自由になったってきいたら、受け取りにくるよ」

「ああ。わかった」

「でさ、カロンに土産がある」


 俺は、土産と聞いて真っ先にドディアが戻ったのではないかと想像した。だが、そんなはずはない。ドディアは、街に入ることができない。

 シーフのムーレが持っていた長い包みを俺に差し出した。

 布に包まれた、鋼鉄の剣だった。


「いいのか?」


 俺は、声が震えた。何よりの宝だ。これがあれば、まだ戦える。そう思えるほどのものだった。

 帰りに持ち替えた銅剣は、辟易するほどに弱かったのだ。


「言ったろ。必要経費みたいなもんだよ。ああ……それから……儲かった時には、景気付けに男の性奴隷を買うことにしているんだ。金はあるけど、無駄遣いは良くないって、思うだろ?」


 エスメルは当然だと言いたそうに俺の顔を見つめた。酒に酔ってはいるのだろう。だが、ふざけているわけではない。


「途中でも、して来たじゃないか」

「だから、今日が最後だ。残念だけどね」

「残念だと思うなら……また、雇ってくれ。俺はいつでも……」


 最後まで言い終えることができず、俺は口を塞がれ、そのままベッドに押し倒された。






 翌日、俺は再び目隠しをして闘技場に戻された。買ってもらった鋼鉄の剣はアイテムボックスに保管してある。奴隷が堂々と持っていていいものではない。

 闘技場に戻されると、俺は早速自分の部屋に戻った。

 俺が前回、闘技場で冒険者と戦った日から、40日が経過していた。すでに一回闘技会は出場せずに終わっている。次回は出られるだろうか。


 俺は、久しぶりに戻った自分の部屋で、伸びをして、横になった。

 以前は、ゴブリンの相棒がいた。

 そのゴブリンは、多分死んだ。他のゴブリンと一緒に戦いに出れば、さすがにその個体だけを守ることはできなかった。

 俺が横になってゴブリンのリンを思い出していると、扉が開き、エルフの従業員が礼儀正しく腰を折った。いつものロマリーニだった。


「お戻りになったと聞きまして」

「うん。さっき戻ったばかりだよ。俺に用かい?」

「いえ。直接は。ただ、私達の命運を握るかもしれない戦士です。たくましくなって帰っていらしたかと思いまして」


「見ただけではわからないだろう?」

「そうかもしれませんね」


 ロマリーニはそう言いながら、俺を見て満足そうに頷いた。どうやら、エルフの目には俺が強くなったのがわかるらしい。確かに、かなりレベルアップした自覚はある。この間苦戦した冒険者にも、今ならゴブリンの助けを借りなくても倒せる自信はある。闘技場で魔法を使用するかどうかだけが問題だが。


「ロマリーニに頼んであったことがあるけど、どうだった?」


 俺の、いやカロンの幼馴染ファニーの居場所だ。俺より二年早く奴隷として売られたはずだ。とても綺麗な子で、きっと高く売られた、と思う。俺自身は会ったことがないのだ。


「買い取った人間はわかりました。現在の居場所は、もう少しお待ちください」


 エルフは恭しく頭を下げる。俺も、すぐにわかったところで何もできない。少なくとも、自由になってからでいい。そのつもりで、エルフに対して頷いた。


「次の闘技会まで、正確には何日だい?」

「19日ですね。まさか、出るつもりですか?」

「もちろんだ。どうして、そんなことを聞く?」

「カロンさんが強くなって戻ったのは、見ればわかります。実に喜ばしい。ですが、それは闘技場で戦う為ですか?」


 エルフの言うことはわからない。闘技場で戦う為でなければ、何のために強くなると言うのか。


「他に何がある?」

「エルフの里を救うために魔王を討伐するには、強さが必要です」


 そんなことを言っていたような気がする。確か、ロマリーニの話では、エルフの里が魔王に侵略されて、魔王に対抗できる存在を探して、エルフ族は世界中に散らばったはずだ。


「それはそうだ。だが、その力を闘技場で役立てても、結局は同じだろう?」

「言い方を変えましょう。魔王が表立って人間を支配していないのは、まだ準備が整わないからです。いえ……整ったといえる自信がないからです。人間の力を測りかねているだけです。人間が、魔王に対抗できるだけの強さがないと知れば、魔王は瞬く間に人間を侵略し、人間に変わってこの世界の王となるでしょう。それを防ぐためには、強い力が必要です。そのために、カロンさんは強くなりました」


「魔王の話は置いておけ。どの道、生きて戻れば闘技場には引き出されるんだ。戦わなくちゃならない。強くなることは、生きるための大前提だよ」


 ロマリーニは、しばらく俺を見つめて、エルフ族特有の細いあごを撫でていた。なにか考えているようである。


「確かに、最低限戦いは避けられないでしょう。カロンさんは、剣闘士なのですからね。でも、好き好んで戦いに出る必要はないはずですよ。次の出番を、できるだけ引き伸ばしなさい。強くなるために、毎回命の危険を冒す必要もないでしょう」


「……できるだけ戦いを引き伸ばして、俺はどうやって、自由になるんだ? まだ、死刑囚のままなんだぞ」

「それは、考えないといけないことですね。でも、闘技会に出続けても、自由も、恩赦も得られないと思いませんか?」


 今度は、俺が黙る番だった。確かに、俺に恩赦を与えなかった王の真意がわからない。俺のことが気に入らないなら、初めから呼び出さなければよかったのだ。


「じゃあ、他に方法なんて、あるのか?」

「それを、これから考えるんですよ」

「やめておけ。無駄なことだ。カロンは、戦うしかないんだよ」


 扉を開けては入ってきたのは、巨大な老人、興行主のゴラッソだった。


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