Part6 「ひとりぼっちxひとりぼっちxひとりぼっち」その1
管理者権限を実行。ID検索から指定のプレイヤーを検出し、通信を送る。
「私だ。首尾は?」
「あぁん? 誰だてめーは。名乗らねーと槍振り回す前にぶっ放すぞ」
「どうやら私が誰かわかっているみたいじゃないか」
「礼節の話だよ騎士様」
反骨精神に溢れた気概で噛み付いてきた。精神的には十分戦える雰囲気だが――。
やはり『こちらと同じように』多勢に押されているのだろうか。
「此の期に及んで、まだ礼儀を気にできるとはな。どうやら私は君を過小評価しすぎていたようだ。非礼を詫びよう」
「じゃ、報酬にその分色つけとけや。すぐに片付けて、応援に行ってやる」
「さて、期待はできるかな……?」
「心配するな。5分で片付けてやる」
「――なんだ、それなら私が行ってやる方が早そうだな」
「あぁん?! だったら3分――」
「ふっ」
「――1分! ……くらいで片付けてやる。それまで寝てろ」
「いや、起きていよう。……おまえも、歩いてこい」
通信を切り、ジンは周囲に槍を払った。モンスターとプレイヤーが入り混じった軍団が周囲に円形に厚く広がり続けている。
ぞろぞろと。まるで切れ目がない。風を切っているような感覚だ
しかし――折れるわけにもいかない。
ジンは剣を引き抜いた。
「――済んだか?」
「おう。……別に、止めてくれなくてよかったんだがなぁ」
「通話を悲鳴や破壊音で押しつぶされ、すぐに切断されては……相手も物悲しいじゃないか?」
「そうやって勝った気になってるのはよくないんじゃあないかなぁ? このトーシローがっ!」
「では、再開してもいいかな? まぁハンデだ。お前が攻撃コマンドを打つまで無視しておいてやることにするよ。今まで通りに」
やかましい。そうトーシャは悪態をついた。
ボスの守りは文字通りの鉄壁だった。無茶苦茶硬い。
このボスは【異形】――ジョージと渡り合ったとされるモンスターと比較して、あまりにも無芸だった。
スピードはある。パワーもある。ガードも硬い。それでいてダイナミック。こと対軍という点に関しては無類の強さを誇るが、繊細ではない。硬いが脆い。高速でも連続ではない。
攻撃の正体は突進だ。イノシシ顔負けの直線ダッシュ。それが速く、鋭く、重い。
いかなる装備のアバターをも真正面からでは跳ね返され、吹き飛び、轢き殺す。ひたすら単純化されたマップ兵器だ。
軌道さえ読めれば、突進そのものが知覚が難しいほど高速であっても回避はできる。実際、そうしてトーシャは生き残った。ここまでは。
問題は残っている。あの硬いガードだ。
ただ厚く硬いだけではない。属性攻撃を跳ね返す仕様だ。クィーンの多くが返り討ちにされた理由がこれである。あのボスの移動速度に追い縋れる攻撃が他になかったのだろう。自らの撃った魔法弾を倍返しされて爆散、といったところだ。
例えるなら野球。プレイヤーは魔法弾でボスめがけて打ち込む。ボスは打ち返す。ホームラン性の当たりが空気を焼き、見事ピッチャー返し。ボールはピッチャーの顔面を抉ってスコアボードを叩き割る――そういう感じだ。言っててかなりコミカルな絵面だが。
残る攻撃手段は純粋な物理攻撃。そしてクィーンのメンバーが選択した攻撃は、遠距離からの狙撃だった。
もちろんソレ専門の狙撃手も数多く居るクィーンだが、長距離の攻撃ではそもそも命中率自体がどうしても低くなる。
まして標的は単純な直線運動ながら高速でジグザグに動いている。周りを固めるクィーンのメンバーが流れ弾に当たってしまうことの方が多いようだ。
なにより、速射性・連射性を重視した機関銃ではボスの甲殻を突破できない。甲殻に弾かれた跳弾がまた仲間を襲う。これにはトーシャも既に手足を撃ち抜かれている。おかげで体力ゲージが半分を切った。
このボスに対抗できるプレイヤー――重く、速く、かつ追従可能な移動力を持つキャラクター。
そんなもの、それこそキング・ジョージの独壇場だ。他のプレイヤーにはとても真似できるものではなかった。
仮に型を模倣できたとしても、そんな付け焼き刃が実戦で通用するわけがない。
だからこそジョージは闘技場の主と呼ばれ続けた。
それに対して、能力を補いあう凡俗の千騎を有する大型のクラン。それこそがクィーンだ。
その性質上、無勢の雑魚には無類の強さを発揮する。一騎当千のボスクラスに決定打が欠けるのは仕方のないことでもあった。
人海戦法を最も得意とするクィーンが攻めあぐねいているこの状況。――その中で、自力と軍勢、そのどちらも欠けている非力な孤軍。残念なことに、それがトーシャの現実だ。
いくら突っ張ろうが虚栄してみせようが、事実は一向に変わらない。ボスに名指しでシカトを宣言されたあたりでよくわかる。
例えるなら道端のウンコ。そりゃあ排除なんてその気になればすぐにできるが、別に踏まなきゃ害がないし放っておこう(ただし自分から飛んでくる可能性があるならさっさと排除する)。それがボスにとってのトーシャ。
――んなしょっぱい状況からどうしろと。
「…………くっ」
「?」
「――クックックック。くはははははは!! くぁーっはっはっは!! ひゃははははは!! ははははははあああああああああああっ!!!」
トーシャが噛み殺した笑いは、いつの間にか高笑いに変貌した。かと思うと、絶叫になっていた。
ボスが押し黙る。このリソースは処理対象外だと言わんばかりのリアクション。
「――そうだモンスター。答えは笑止! まさに笑止! この俺様が? そこいらの徒党どもより劣っている? 悪い冗談だ。全く笑えない。ユーモアを勉強すべきだ。この俺様が! 世界唯一のアルケミストであるこの俺様が! 不可能なんざぁ――あるわきゃねぇぇだろおおお!!」
「……………………」
再び、ボスは絶句していた。
倦怠と使命のみを課せられ、否応なしに与えられた圧倒的性能差に任せて蹂躙するしかないAIにとって、この虚栄と自尊心に満ちた叫びなど、およそ理解できないはずだ。
そうであろう。そうに違いない。そうだと言え。泣き叫んで降参しても構わんぞ。てか是非そうしろ。トーシャは口端を吊り上げて牙を光らせる。
なにせ、この俺でさえ何言ってんのかちょっとよくわからないからな――!
アイテムボックスから素材を取り出す。トーシャには鍛冶スキルしかない。武器攻撃も魔法弾も、クィーンの連中のものと比べればカス同然の底辺レベルである。この戦場で求められる水準を引き合いに出したなら、もはや地中に埋まっていると認識していい。
しかし――。
このボスにはこの鍛冶スキルが通用しない。
属性攻撃の効果がない。状態異常もだ。突進ルートに種々張りめぐらせたトラップの数々が踏み抜かれ突き破られたあたり、もはや間違いない。
捕縛ネット、爆弾、妨害電波。即席で用意できるトラップの効果は全て真正面から突き破られている。
トラップ効果無効。それはトーシャを無効化したことに他ならない。一見、多彩な――基本爆破・炎上・破砕ばかりだが――バリエーションを持つが、その起点は「鍛冶」であり、手持ちのボロを地雷・機雷・障害物に作り変えて投げ捨てているだけに過ぎない。
彼のボスに通じるのは、そうした搦め手ではない。
爆風などという空気を「かませ」に利用した衝撃伝達手段では、減衰ある手段では、意味を成さない。
ただただ純粋に、高速で走り回る標的に神通無比の原始的で物理現象に依存した攻撃をヒットさせるのだ。
即ち武器攻撃。物理効果。それのみがモノを言う。
言ってしまえば、このボス戦で最も重要なものとは、このゲーム――というより、狩りの基本。『動いている敵を捉え、仕留める』。ただ、それだけのこと。
それを石器時代レベルのローテクのみを駆使して達成せよというわけだ。このおボス様は。
愚痴の一つも言いたい。いや、言って然るべきだ。断固抗議する。
こんなのはフェアじゃない。チートもはなはだしい。あらゆるスキル、あらゆるレベルを蚊帳の外に押しやって、純粋な殴り合いのみを認める戦い。それに対応できるプレイヤーなどどれほどいるのか。
後付けルールが過ぎる。即興で順応できるプレイヤーなど――それこそ、あのキング・ジョージくらいだ。
要するに手詰まりである。
――認めるか。
トーシャが後ずさる。ボスが涼しい顔で――変化のない能面のような顔で――こちらさえ見ず、真正面で仁王立ちをしている。
バカにしやがって。ぜってーイワしてやんぞこの野郎――!!




